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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十二ノ巻
131/460

第百三十一話 理想主義者『執行官』、現る

 一方その頃、愿造は―――。


 どぉんっ―――っと続いてどぉんっ、っと左右前部と後部に二つとなった最後のガンシップが地に墜落ちていく・・・。


第百三十一話 理想主義者『執行官』、現る


 それは十五機のうちの最後一機である。愿造の剱氣を纏う飛ぶ斬撃を横腹にまともに喰らったのだ。

 暗い燻銀の色をした瓦、その日本家屋の瓦屋根の上にて愿造は立つ。

「―――これにて終い」

 左手を鞘に添え、すぅっ、キンっと愿造は腰に差した鞘に『一颯』を納刀する。

「―――」

 愿造は目を(すが)めて、日下部の街を見遣る。あらゆるところで火の手が上がり、それに伴って黒い煙が立ち昇る。

 自分が斬撃で墜落としたガンシップから火の手が上がり、また炎上しなくとも墜落させたガンシップ、自分のせいで街を破壊してしまったことへの後悔の念が愿造の中で湧きあがる。

 もちろん、その全ての原因が愿造自身ではない。四機の戦闘機が放った数多くのミサイル、街の上を、獲物を狙うかのように執拗に徘徊し、銃撃を繰り返し続けた十五機のガンシップ―――それらの所為でもある、日下部の街が破壊されたのは。

「微力ながらこの儂も街の復興にこの手を貸したいものだ。だが、今はまだ―――」

 戦場だ、と愿造は眼下の街へと落としていた視線を水平方向へと戻す。しばし、街を眺め、愿造は口を開く。

「―――あちらこちらで闘氣がぶつかりあっておる・・・」

 『剱聖』という異能に目覚めた愿造にしてみれば、異能の気配や誰かが異能を行使したときの氣を感じ取るということは容易のものとなっていた。

「っ!!」

 愿造の目が驚きに見開かれた。どうやら一際強い異能の氣を感じ取ったようだった。屋根の上に立つ愿造の視線が、右手に流れる。そのまさにそのときだ。愿造の右手、そこは日下部市のグラウンドがある場所だ。そのグラウンドを囲み込むかのような真紅の円筒形の柱が立つ。その高い円柱はまるで街の中に突如発生した異界のようなものだ。紅い光を発し、その色といったら血のように真紅で、とても禍々しい氣を放っている。

「なんと禍々しい紅い氣よ・・・っ!!」

 思わず愿造はそう漏らしてしまう。それほどまでにその紅い氣は血の気を含むような禍々しい氣だったのである。

 愿造はその真紅の円柱に釘付けになりながらも、さらに自身の神経を研ぎ澄まし、深く目を瞑った。

 敵方は―――何処だ?と。すると、その円柱から発せられる紅き禍々しい氣の他にも、鋭いまるで尖ったような氣も感じる。感じ取れたのだ。その鋭い尖った氣は、愿造が思うに自分と同じ剣士のものではないか? そう愿造は思った。それ以外にもう一人の氣。

「―――むぅ」

 きっとそのどの場所でも戦いの場だ。塚本 勝勇は紅い氣の主と。近角 信吾と愛莉は剱氣を持つ者と。三条 悠はもう一人の捉えどころのない氣のその主と。自分の助太刀はどこが適任だろうか、と愿造は考える。

 塚本はあのように飄々とした掴みどころのない男だ、きっと大丈夫。

 悠のところにいる者の氣の強さと大きさは他の二名より若干小さい、『絶対防御』の異能を持つ悠ならば余裕だろう。それにきっと自分が行っても、悠はいい顔はしまい、と。

 最後に近角夫妻。そこにいる敵と思しき者の氣は鋭い、剱氣を纏ったもの。この者の相手ならば、剱士である自分が適任ではないのか、と愿造は自身で納得した。

「そうだのう、では近角くんのところに行こうかのう―――、っ!!」

 どどんっ、っという家屋が倒壊していく大きな音と、ぐらぁっ、っと愿造の足元が大きく揺らぐ。

 それは愿造がこの場を発とうとしたときだ。突然、めりめりめりっ、みしみしみしっ、っと愿造が立っていた屋根の家が前のめりに傾いていく。

 木造の家屋が盛大に倒壊する前に、

「―――っ」

 タッ、っと愿造は難なく軽やかな足取りで屋根を蹴る。しゅたっ、っと、そして愿造は瓦屋根を降り、地面の道に降り立つ。

 めりめりっ、ばきばきばきっ―――と、その直後だ。愿造が屋根の上に立っていた木造の家屋が多量の砂埃を巻き上げ、ばきばき、どどどどっ、っと倒壊していく。

「―――・・・」

 ぐぐ、っと愿造の眉間に皺が寄る。そして、砂埃の向こう側、ぱらぱらっ、と木片や瓦礫が落ちてゆく元・家屋の向こう側にその愿造の憤りの視線は移る。

 茶色い砂埃を通して、その向こう側に一人の人影が見える。人の人影にしてはやたらと大きく見えた。

 すぅっ、っと砂埃が収まると、そこに佇む者の姿がはっきりと愿造には見て取れたのだ。

「―――我は『執行官』である」

 ぽつり、っとその者が低い男の声で呟いた。

「よそ様の家を倒しておいて執行官、だと?よくもぬけぬけと言えたものだわい」

 ふつふつ、と湧きあがる怒りを抑え、愿造はその者をじぃっ、っと見つめつつ、彼の者の言葉を反芻するよりに答えた。愿造が観る限り、その自身を『執行官』と名乗った者は男だろう。彼『執行官』の、身の丈は優に七尺、二メートルはあろうかと思えるほどの巨体だ。その体躯は非常に大きく太く、大型車のタイヤのような大きさと幅だ。その機械じみた装甲を纏う黒鉄の腕は野太く、また脚もがっしりとしていて言い得て妙だが、腕は街路灯のような、脚は電信柱のように太い。彼『執行官』は『総司令官』とは違い超重量級の機人である。

 またその頭には毛は生えておらずスキンヘッドである。体躯にしては頭の大きさは小さく見える。その衣服は迷彩柄の戦闘服を着ている。

「我はNo.6515『執行官』である。『ネオポリス』における生命の超越者有機式機人の一体にして『イデアル十二人会』の一人でもある」

「『イデアル十二人会』・・・だと?」

 ネオポリスなら解る。愿造はこの五世界のことは一通り塚本達から聞いていたのだが、『イデアル』とは?それの言葉は愿造が聞いたことのない言葉だった。

「刀を持つ生身の一人よ。我はお前を脅威と見做(みな)す。故に我はネオポリスの『執行官』として、また『イデアル十二人会』の一員として、その職務を執行しなければならない―――・・・殺機状態へ移行。完了―――」

 キュウゥンっ、っと僅かな音を立て、『執行官』の視覚を司る眼の虹彩が消える。彼の眼の虹彩は先ほどまでは、殺機状態へ移行する前は、確かにその眼の虹彩は在ったのだ。だが、しかし今は、今では『執行官』の眼は、生気のないまるで魚が死んだような虹彩がない瞳であり、さきほど殺機状態へ移行する以前とははっきりと違っているのだ。

 ブンっ、っと呼び動作なしに『執行官』の姿がぶれる―――、後に舞うのはふわっとした土埃だけだ。

「―――っ」

 愿造の目が大きく見開かれた。この体躯の大きさからしては信じがたい速度だ。機人『執行官』には感情を司る機能がないのかもしれない。『執行官』は無表情で無言で愿造に肉薄―――

「―――」

 ぶんっ、っと空気を切り裂いて黒鉄の野太い腕、伝わりやすく言えば、特殊鋼装甲の金属の塊だ。そんな黒鉄の右腕が生身の人間である愿造目がけて薙ぐように振るわれる。

 タッ、タタっ、っと。

「ふぅ、危ないのう。少しは加減をせい」

 だが愿造は僅かに身体を後ろに倒し、紙一重でその右腕の一薙ぎを避け、タタっ、っと後ろ跳び、退いたのだ。

「―――」

 対する『執行官』はその虹彩の失われた瞳で愿造を一瞥―――、ひゅんっ、、、またも予備動作もなく愿造に向かう。ドウッ、っと今度はその右腕から繰り出される突き、速過ぎるその突きは音の壁をも越え、その衝撃で大気が震えるほどだ。

 タンっタタタっ、っと愿造の足運びはそれ上回り、『執行官』のその黒鉄の拳が当たることはない。黒鉄の右腕―――、黒鉄の左拳―――、と執行官は常人の目には留まらぬような拳の連撃を愿造に繰り出していく。

「ほう、いい動きをするのう・・・っ!!」

 愿造の口角に笑いが生じる。

「―――」

 ぴたり、と『執行官』は一度その巨躯の動きを止めた。『執行官』は自身の黒鉄の右手を左手に添えるように持っていく。そして、その右手で左手首を握ると、それをまるで大型コンセントを抜くときと同じ要領で半回転させた。ぱかっ、すると左手首が左腕から外れたのだ。そこに備わっていたものは、一対の黒鉄の銃口だ。その銃口の大きさは先ほどのガンシップが装備していた重機関銃ほどの大きさではないが、それでも電球の口径よりは大きいのではないか、と愿造が思うほどだった。

「ふむ―――・・・」

 ぽつり、と愿造が呟く。だが、愿造のその表情には諦めの感情などなく―――相変わらず厳しいその眼差しで『執行官』を見つめていた。

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