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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十二ノ巻
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第百二十八話 劫火の竜蛇

「っ、な、ぜ―――私に、、、攻撃が当たる・・・っ!?」

 ぼとぼとっ、っと顔面出血しながらエシャールは、その彼の紅い血がグラウンドの地面に落ち、そこを紅く染めた。

「相手の攻撃は『曲がって』僕には当たらない、確かにそうだ。でも、僕からの攻撃は『曲がらず』相手には当たるんだよ―――くくっ」

 にぃ―――っ、塚本は哂う。くつくつ、くくくっ、っとその怖いまでの凄惨な哂みをその顔に張り付けて。


第百二十八話 劫火の竜蛇


「ばっ、ばかな・・・っ『哂い眼鏡』・・・っ!!」

 ぽたぽたっ、エシャールは自身の右手で鼻を覆うものの、その流血は中々止まらないようだ。

「きみエシャールさんは確か―――僕の親友達を、、、そして僕の彼女侑那を殺すって言ったよね? なぁ、言ったよなさっき―――だったらここで僕がきみの息の根を止めるしかないね・・・っ」

 ひゅんっ、っと塚本の姿がぶれる。あまりの速さにぶれたように見えただけだ。

「くっ・・・!!」

 エシャールは塚本を迎撃しようと、その自身の血で紅く染まった右手で氣導具を握り、先ほどの真紅の短剣を造り出す。しゅっ、っとエシャールは短剣を突き出すようにして刺突を試みるが―――ぐにゃりっ。

「ばかなっ私の腕まで曲げるとは!!」

 もちろんエシャールの右腕が物理的に折れ曲がっているわけではなく、『曲がる』という概念づけた塚本の領域、『曲がる』という塚本の異能の力場により彼エシャールの右腕が曲がったのだ。

「そらっエシャールさんっ―――お腹ががら空きだよ・・・っ」

 ぐぼっ、塚本の右腕が下から上へと撓る。

「ごは・・・っ!!」

 塚本の右拳がエシャールの鳩尾を捉えた。塚本は右手の手首の位置までをもエシャールの鳩尾に捻じ込ませるように右腕を捻りながら食い込ませる。その瞬間にエシャールの身体がくの字に曲がる。塚本は無言で腕を抜き、今度は―――ぶわっ、っと彼塚本の右脚が突如としてせり上がる!!

「―――あ゛ぁっ!!」

 塚本の怒声、ボグっと鈍い音。右膝の一撃。

「ぬ゛は―――っ・・・!!」

 エシャールの苦悶の声。どんっ、っと塚本の右膝がさきほどの拳が入った同じ位置、鳩尾を捉えたのだ。さらに同時にくの字のエシャール背中側から挟み込むように、塚本の左手が唸りを上げる。塚本のまるで鑓の鋩のような彼の左肘の衝撃が背中からエシャールに見舞う。ゴス―――ッ!!

「ぐべっ、ごはっ、げほっごほっ―――!!」

 ぐしゃっ、、、どさっ・・・、エシャールは咳き込み、そのまま地面に倒れ伏せる。

「―――・・・」

 塚本は追撃をせずに、憮然とした面持ちでそんなエシャールを上から見下ろす。

「がはっ、ごほっ―――えヴぉっ・・・ぜぇぜぇ・・・おげぇ―――、―――、」

 エシャールはごほごほばしゃばしゃと胃の中の内容物を、その血交じりの状態で吐き出す。ようやくそれが落ち着いたとき、

「はぁ、はぁ、はぁ―――っ」

 ―――よろよろふらふら、っとエシャールはその場に蒼い顔をしてふらつきながら立ち上がる。だが、そのエシャールの紅い瞳はまだ死んではいない。今もまだ皓々(こうこう)爛々(らんらん)と輝き塚本を見据えていた。

「―――やるではないか、、、ひ弱なエアリス人にしては」

 塚本は右手を自身の顔に前に持ってきて、くいっ、っと眼鏡を押し上げる。

「そいつはどうも・・・―――」

「ふむ、ではこれはどうかね、、、哂い眼鏡―――」

 ばっ、っとその場にエシャールは右手を伸ばし高く、空に向けて掲げる。

「イニーフィネ皇国近衛異能団団長エシャール・ヌン=ハイマリュンが命じる―――」

「―――え?」

 塚本の眼が驚きに見開かれた。それは普通では考えられない光景―――エシャールが掲げる右手が光り輝いたからだ。

「―――マナよ、我が力に応え焔となりたまえ―――っ、『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』・・・!! 」

 キュオォオオオォ―――っ、っとエシャール自身の紅い氣が彼の右腕で集束するような光を放つ。

 エシャールの空へと掲げるその右腕の袖が燃え去り、彼の右腕を巻いて回るかのように赤き炎(パフール)竜蛇(イルヤンカ)の姿が浮かび上がる!! それは竜というよりは、尾の長い蛇にその姿が近い。そして炎の竜蛇のその頭の部分には二対の伸びた角が生えている。あまりの高温に熱風が吹きすさぶ。その中でもエシャールは苦しい顔一つせず、エシャールの右腕を巻いて回っていた竜蛇の姿の焔は、ず―――っ、とその右腕を離れる。おぉぉぉぉぉ―――っとまるでエシャールを守護するように頭上高く舞い上がり―――、熱気を纏い、放ちエシャールの頭上でのたうつ。

 どうかね?と、塚本に訊くようにエシャールの口角が満足げに吊り上がる。

「消炭となりたまえよ―――っ!!」

 エシャールが炎氣に満ちるその右腕で、その真上、ぶわっ、っと空に掲げていた右腕を勢いよく眼前の塚本に振り下ろす・・・!!

 エシャールの火炎魔法―――『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』は、炎氣を纏う彼エシャールの右腕を連動しており、エシャールが眼前の塚本に向かって振り下ろしたことで、『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』はその牙の生えた口を大いに開く。

 ゴアぁああっ、っと焔の竜蛇は大口を開けて塚本へと頭上へと喰らいつくのだ。

「―――っ!!」

 最後に塚本が驚き目を見開く姿は―――、エシャールには見えなかった。なぜならば、塚本は『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』の焼け付くような熱気とその炎光の中に消えたからだ。

 『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』は塚本を巻いて回るようにまるで、彼塚本を締め付けているかのような動きで塚本を中心に螺旋を描く。

「ふふっふはははははは―――っ!! 『エアリス三強』の一角、『四天王』の一人『哂い眼鏡』、我このイニーフィネ皇国近衛異能団団長エシャール・ヌン=ハイマリュンの前に敗れたりっ―――!! ふはははははっ!!」

 ぐぐっ、っと最後に鎌首を(もた)げた『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』のその巨大な炎の頭が蜷局(とぐろ)を巻く胴体より持ち上がる。

「ふはははははははは―――っ!! ふはハハハハハッ!!」

 エシャールは笑う。笑う。笑う。勝利を確信したエシャールは腹を抱えて笑う。鎌首を擡げた『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』はその二対の牙の生えた大口を開き、最後に自身が蜷局を巻くその中心へと咬みつくように頭を、まるで戦斧のように振り下ろすのだ。

 ごわ―――っ、っと『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』はその炎牙の生えた大口で、塚本を咥えて、咬み焼き殺そうと―――だが炎を、蜷局の上でピタリっ、っとその頭の動きを止めた。

「むっ、私の火炎魔法『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』が止まった―――?? いったいこれは―――」

 エシャールは自身の理解の及ばないことが起こり、首を傾げた。ふるふる、っと『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』がこれ以上の侵攻はできず、とばかりにふるふるとその頭部が震える。

 そうエシャールの火炎魔法『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』はまるで何かの抗う力により、その侵攻を無理矢理抑えられているのかのようだった。

「そんなに笑ってなにか楽しいことでもあったのかな?エシャールさん」

 その余裕の声色は塚本のものである。そんな中、火炎魔法『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』に巻かれ、普通ならば燃え尽き、すでに骨すら残っていないであろう、塚本のその声がしたのだ。

「バ、バカな―――っ。哂い眼鏡・・・!!」

 エシャールに戦慄が走る。自身の最大最強の火炎魔法攻撃である。その中で、塚本は涼しげな声でエシャールに話しかけてきたのだ。常人ならば、とっくに骨すら残らず焼き尽くされている。現に、エシャールにとっては今までこの火炎魔法を浴びた敵達はそうだったのである。

「きみは『バカな』しか僕に言えないのかい?ま、いいか。さぁ返してあげよう」

 『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』は再度鎌首を擡げてその炎の胴体の蜷局を解いて塚本の頭上高く舞う。のたうつように、くゆらすように『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』は空を舞う。

 その下で塚本は涼しげに哂う。その衣服にも髪にも焼けたような傷は一つも見当たらない。

「なっ!!私の火炎魔法がっ!! 哂い眼鏡よ、貴殿は私の魔法になにをした―――っ!!」

 一歩塚本が踏み出せば、今度はざりっとエシャールが後ずさりする。

「エシャールさんきみが僕に向けて放ったこの無慈悲の『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』を、僕は『曲がり曲げて』僕はそれをきみに返そうと思うんだ―――」

 くつくつ、とした哂いをその言葉に籠めて塚本は言う。言い終えたあと、塚本は右手を挙げた。手の平を開き、その手掌の五本指を合わせたその指先で、まるで手刀のような手指の格好だ。

 グラウンドの上で塚本はそんな右手を頭に沿うように曲げて、頭を中心に弧を描くように、指先を左側に向ける。

 塚本はそんな恰好で右手を頭上に掲げ、―――その上でのたうつよう、くゆらすよう滞空していた『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』の動きがぴたり、っと。まるで塚本の右手と連動しているかのようにその動きを止める。

 それは、私の火炎魔法であったはずなのに、と驚愕の顔でエシャールは目を見開く。

「バっバカな―――私の、、、『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』をっ!!」

「―――『曲折』」

 ぽつり、、、塚本は呟く。その呟きと同時に彼塚本は勢いよく、袈裟懸けに、その右の手腕を斜めに切るように揮った。

 ごあッ―――!! っと橙赤色に燃ゆる火炎魔法『劫火の竜蛇(パフーリルヤンカ)』は本来の術者であるはずのエシャール目がけて斜め下にまるで獲物を見つけた蛇のように飛んでいく。その炎牙を(いか)らせように口を開け、主エシャールを喰い焼くのだ。

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