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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十二ノ巻
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第百二十七話 『曲がるもの』、『曲がらないもの』

「―――っ」

 そして、『氣導具』は次の形状に、それは銃だ。塚本が懐に隠し持っていた拳銃ほどの大きさの銃ではなく、やや大きな銃だ。その色は先ほどの三叉鑓と同じく、綺麗なまるで紅玉を加工して作ったような真紅の色をした銃だ。エシャールの持つ『氣導具』は真紅の氣導銃になったのだ。


第百二十七話 『曲がるもの』、『曲がらないもの』


 彼自慢の、柄状の氣導具は短剣、楯、三叉鑓―――確かに彼エシャールの思い通りに、頭の中で思い描いた通りの武器にその形状を変えることができる。

 これならば、と自信満々でエシャールは右手にその銃を持ち、その綺麗な紅い銃口を塚本に向ける。もうその顔には怯えも悲壮感も、負の感情といったものは現れていない。塚本の哂みではないが、エシャールはその顔に余裕の笑みを浮かべる。

「氣導銃ならばどうかね?曲げられるか『哂い眼鏡』よ」

 キュイイイィ―――、なにかが集束するような電子音のような音。氣導銃となった氣導具はエシャールの紅い氣を吸い取り、氣を氣弾化して撃つ銃だ。

 エシャールの右手に持つ氣導銃の銃口が真紅に染まった瞬間に―――キュンっ―――通常の銃の発砲音ではない。氣導銃から撃ち放たれたエシャールの真紅の氣弾は紅い残光の尾を引き、塚本を真っ直ぐ射抜く軌道で被弾させるべく命中―――、

 にぃっ―――、っと、だが、塚本は哂うその口角を吊り上げて。

「・・・―――っ」

 確かに塚本の胸を射抜く軌道だったのだ、その真紅の氣弾は。だが、塚本は被弾していない。それはおろか塚本の身体には掠りもしなかった。

 くそっ、と―――、エシャールは信じがたい光景を目の当たりに悔しそうだった。

「・・・ばかなっ私の氣弾が当たらないはずはない・・・!!」

 エシャールはその塚本の無傷の様子を見て続けて―――キュンっ、キュンっ、っと二発その紅い氣導銃から氣弾を撃った。

 ひゅっ、っとエシャールの氣弾は音速をも超える発射速度で塚本に向かって真っすぐに飛んでいく―――。

 塚本が哂う、その口角を三日月のように吊り上げて。

「―――くくっ」

 エシャールがその真紅の氣導銃から打ち出した二発の真紅の氣弾はあっという間に塚本に到達、、、―――だが、塚本の手前、つまり塚本の間合いに入った瞬間にどちらも二発とも左と右に逸れて塚本の身体には当たらず、明後日の方向へ逸れていく―――。

 エシャールは塚本の異能を見極めるべく、今度は冷静に動揺せずさらに四度氣導銃に自身の紅い氣を籠める。

「―――っ」

 キュンっ、キュンっ、キュンっ、キュンっ、っと―――四発の真紅の氣弾がエシャールの手により発射された。その氣弾の軌道はどれもが塚本の胸に命中するものだ。

 ひゅっ、っとまずは一発目の真紅の氣弾は塚本の身体より先、半径一メートルほどに入ったところで上へと逸れるように軌道を変え、塚本に命中することはなかった。二発目も同様に、だが今度は左に逸れた。三発目、その真紅の氣弾は右に逸れて命中せず。四発目はなんと塚本の半径数メートルほどに入った瞬間に、その直線の軌道が外へと逸れるかたちで揺らぎ始めて塚本を、まるで太陽を長大な楕円軌道で周回する彗星と同じような軌道になり、塚本を中心に置いて彼を一周―――真紅の氣弾はあさってのほうへと飛び去っていったのだ。

「見えたかいエシャールさん?四発目の氣弾は」

「―――っ」

 一瞬―――エシャールは戸惑ったような顔をさせて、、、だが、やはり、それしかないというようにエシャールは目を細めた。

「―――『哂い眼鏡』・・・そうか。貴殿はクルシュの兵隊の弾幕をもろともせず、そして実体のない姿と不可視の姿―――、それと今の私の氣弾の動き・・・、」

 エシャールは言葉を選ぶように、そしてやっと得心のいった声色とその顔で、塚本の異能を当てにかかる。

「前者は『光』、後者は『氣弾』―――ともに『曲げた』のだな、『哂い眼鏡』。ツカモト=カツトシ貴殿の異能は対象を『曲げる』ことで合っておるな?」

 にやりっ、塚本は薄く笑う。

「ご明察―――、僕の異能を少し見ただけで解くなんてさ。さすがはイニーフィネ皇国の近衛異能団団長ってことはあるね、エシャールさん」

「ふっふふっ―――ふはははははっ」

 塚本がそんな高笑いをするエシャールを見て怪訝(けげん)そうに目を細める。

「そんなに自慢げに笑ってなにがおかしいんだい、エシャールさん」

「貴殿の『曲げる』異能は、『蜃気楼のように光を曲げ』、また『近づくものを曲げ逸らす』防御に特化した異能だ。つまりはそうであろう、『哂い眼鏡』?」

「僕になにが言いたいのかな?きみは」

「貴殿は異能を発動させた状態だと、自分の攻撃も曲がり、相手に当たらないのではないのかね?」

 しんっ、っと、塚本は図星を指されて狼狽(ろうばい)している心を必死に隠しているかのように見える。図星だ、エシャールに急所を言い当てられた、とばかりに塚本は無表情になる。

「―――っ」

「図星かね。私の攻撃も逸れ、貴殿も私に攻撃はできない、だとすると本当に興醒めだよ『哂い眼鏡』。貴殿はその曲がる異能を発動させたままここに案山子(かかし)のように突っ立っていたまえ―――道化のように笑いながら、ね」

 塚本は無言でエシャールを見つめている。

「―――」

 そんな塚本をエシャールは最後に一瞥―――、それから、すぅっ、っとエシャールは踵を返す、返そうとしたときだった。くるりっ、っとエシャールは振り返る。

「あぁ、貴殿がここで案山子をしている間にエアリス三強の一角『四天王』貴殿以外の三人『銀髪』『雷姫』―――それと日府にいるあのスワ=ユキナとかいう女―――全てこの私エシャール・ヌン=ハイマリュンが血祭りに上げておくよ」

 エシャールの捨て台詞。それを言い終えるとエシャールは踵を返し、塚本と戦っていた日下部のグラウンドを後にしようと、塚本に背を向けて一歩外へと踏み出したときだ。

 端的にいうと、エシャールは自らがこの塚本の友人二人と、婚約者であり恋人の諏訪侑那を殺しておくと、彼塚本勝勇に宣言したのである。諏訪侑那は現在、日府にある警備局の本局に勤めている。彼女侑那は彼塚本の裏の顔と、愛莉や信吾がここ日下で生きているなど全くもって知らない。北西戦争―――もう、親友の愛莉とその彼信吾は自分のもとには帰ってこないのだろう、と―――侑那は半ば諦めている。

 塚本の心の内にそんな彼女侑那の当時の様子が、振る舞いが、当時日之国政府から伝えられた近角 信吾、愛莉夫妻が行方不明、死亡推定の報せにより、取り乱し泣き崩れ、そして気丈に振る舞う自身の婚約者諏訪 侑那のそのときの様子と振る舞いを、そのときの塚本自身の感情をも思い出し、思い起こす。

「―――ッ・・・ツ」

 ぐぐ、っと塚本の眉間に青筋が浮き上がり、その双眸が怒りのあまり捻じ曲がる。このときエシャールは自分で墓穴を掘ってしまったことに気づかなかったのだ。おまけに塚本に背を向けたため、今の塚本の表情を観ることさえできなかった。

「くく―――ふふっ―――フハハハハハッ―――!!」

 塚本は、初めは肩を震わせて感情を押し殺すように笑っていたが、終いにはお腹を抱えて大げさに高らかに哂いだす。さすがにその塚本の言動を見て触れてエシャールは振り返った。

「酷い顔だ。あまりの衝撃に気でも触れたのかね、『哂い眼鏡』」

 塚本が哂う。

「くくくっ―――」

 塚本はくつくつとした哂みを浮かべて自身の上着に手を掛ける。その羽織るような上着は先ほどの『真紅の三叉鑓』により一直線に切り裂かれている。

 ばっ、っと塚本は格好よくそのジャケットを脱ぎ、ぽいっ、っと端へ投げる。しゅたっ、っと塚本は軽い足取りで、グラウンドの地面を蹴る。タンっ、タンっ―――タンっと軽い足捌きで塚本はその身体を左右に(くゆ)らすようにしながら―――、ひゅんっ、っとエシャールに肉薄していく。その動きは明らかに何らかの武道熟練者の動きである。

「私の視界の邪魔だ。無駄なことはやめたまえ、案山子は笑って鳥避けにでもなっているのが良いと思うがね、私は」

 自身を小馬鹿にするような、エシャールのその言葉はとっておけとばかりに。さっ、っと塚本はその左手と右手を身体の前で構える。いわゆるファイティングポーズに近い格好だ。

「フ―――っ」

 塚本は、自身の腕の長さにエシャールが入る位置にまで、つまり自分の間合いに入るまでにエシャールに肉薄し、その右腕はしなる。右腕が(しな)り、うねり、まるで鑓のような一撃を―――、そして塚本の握り締められた堅い右拳は今やまるで鑓の鋩のように鋭い動きで、

「―――おっと案山子とは失礼だったかな、『哂―――』へぶ―――っ!!」

 ぼぐっ―――っとエシャールの顔にクリーンヒット。怒りを乗せた塚本の右拳の会心の一撃は、エシャールのその形のいい高い鼻をへし折り、真っ白い上前歯を数本ほど奪う。ぱぱぱっ、っとエシャールの紅い血飛沫が散る。

「僕がきみに攻撃できないだって?」

 ごろごろっ、っと会心の一撃で殴られたエシャールはグラウンドを何回か転げて、、、ややあって、よろよろっとようやくエシャールはその場に立ち上がった。

「っ、な、ぜ―――私に、、、攻撃が当たる・・・っ!?」

 ぼとぼとっ、っと顔面出血しながらエシャールは、その彼の紅い血がグラウンドの地面に落ち、そこを紅く染めた。

「相手の攻撃は『曲がって』僕には当たらない、確かにそうだ。でも、僕からの攻撃は『曲がらず』相手には当たるんだよ―――くくっ」

 にぃ―――っ、塚本は哂う。くつくつ、くくくっ、っとその怖いまでの凄惨な哂みをその顔に張り付けて。

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