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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十一ノ巻
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第百十九話 名刀『一颯』がなぜ今、ここにあるのかそれをお主に語ろう―――

 ちょんちょんちょんっ―――っと、俺は電話を右手に持ち、その指で画面に触れていく。通信魔法の操作はメールとほとんど変わらないよ。

『ごめん、アイナ。今日はなんか祖父ちゃんと込み入った話を』

 ん・・・、、、っと、やっぱこの文章はやめだ。ちょいアイナに伝わりにくいかな?


第百十九話 名刀『一颯』がなぜ今、ここにあるのかそれをお主に語ろう―――


「―――」

 もっと具体的に書いたほうがいいかも。俺は打った文章をキャンセルし、、、そうだ―――こうしよう。さっきの祖父ちゃんの気配は、その表情はまるで―――剱術の修練みたいだった、、、。

『電話に出られないかもごめん、アイナ。今から祖父ちゃんと暗夜修練というか、そうなりそうでさ』

 ―――そう小剱の剱技の修練を俺が乞うているときのような祖父ちゃんのその雰囲気に視えたし―――、

『ごめんなアイナ。またあとでその修練が終わったら、通信魔法を送るよ。どんな修練だったかも含めてさ』

 こうアイナに送ってもいいかな。

「・・・」

 送信っと。俺は指で『送信』に触れた。くるくるっ、っと僅かな待機時間のあと―――無事に俺が打って書いた『通信魔法』はアイナに飛んでいったんだ。


 っ・・・。

「っ」

 人の気配―――、襖の向こうからする。戻ってきたみたいだ、俺の祖父ちゃん。

「健太よ、待たせたのう」

 すっ、っと、時を待たずして襖が横滑りした。襖の向こう側、つまり居間を背にして立っているのは、祖父ちゃんだ。

「ううん、大丈夫待ってないよ、祖父ちゃん」

 にこり、っと祖父ちゃんは口角に優しい笑みを灯す。

「ふふっ、そうか」

「・・・」

 あれだ、、、。立つ祖父ちゃんの後ろ、背中側の居間になるんだけど、そこに置かれている長い箱。その長い箱は長持のように体積は大きくないけれど、長さはまるで長持のように長い。いや、もっと長いかもしれないな、その箱。

「・・・」

 祖父ちゃんは無言で屈むと、両腕で、、、まるで誰かに献上するかのような体勢で大事そうに、その長い箱を水平の向きで抱える。祖父ちゃんの胸の前に水平で、その長い箱―――。

「―――」

 一メートルほどか? いや、ううん、もう少し長いような気がする、その箱。やけに大事そうに箱を運ぶよな?祖父ちゃん。

 祖父ちゃんが暗いところからこっちの電気が点いているこの部屋に入ってきたことで、紫色の薄い布で、紫色をした風呂敷でその箱が包まれていることがわかった。

「っ」

 『一颯(いぶき)』だ。そうに違いないよ。直感で解る。

 あれ、、、でも―――ん?

「・・・??」

 でもなんでだ。さっき祖父ちゃんは話の中で『一颯』を失くしたって言ってたよな・・・? そう言わなかったか?祖父ちゃん。確かあの、俺のときもなったけど、白く光る靄の中で祖父ちゃんは『一颯』を落としたのかな?って

「―――」

 祖父ちゃんは無言で俺の真正面に、、、まずその紫色の風呂敷で包まれた長い箱を置く。

「っ」

 使わないさ、俺の『選眼』の異能の一つ『透視眼』をその箱に行使するなんて。そんな野暮なことはしない。それから祖父ちゃんはまた同じように俺の真正面に腰を下ろす。

 じぃ―――っ、、、祖父ちゃんは俺を見つめる。

「健太よ―――」

 本気だ。祖父ちゃんのその目を、雰囲気を見れば解るさ。座布団の上で正座、俺は脚を戻した。

「はい」

「―――よろしい」

 まずは結び目を解き、それからはらりはらりっ、っと祖父ちゃんは交互に手を動かして、その長い箱を覆う紫色の風呂敷を解いていく。

 木の箱・・・っ。当然と言えば当然だけどな。その紫色の風呂敷の下から出てきたのは、木の箱だ。まるで、素麺が入っているかのような白い木調の箱だ。

「・・・っ」

 ごくりっ、っと俺は口の中で溜まる唾液を嚥下した。

「ほほほっ、健太よ。そのように緊張せずともよいぞ」

「い、いやだってさ、祖父ちゃんっ」

「うむ、分からんではないがな・・・。儂も今のお主と同じ年頃であったなら、そうかもしれぬな、ふふっ」

 そんな祖父ちゃん。

「っ」

 そのような雰囲気の祖父ちゃんは、最後に長い木の箱を十字に括る紐を解く。あれよあれよと見れば、もうあとは木の箱の蓋を外すだけだ、そうなっていた。

 すぅ、っと祖父ちゃんは身体を前に屈めてその両腕を前に出す。

「よく見ておくのだぞ、健太。これが小剱家に代々伝わる家宝の品だ」

 くっ、いよいよか・・・っ。いよいよ御開帳だぜっ。

「っつ」

 祖父ちゃんは両手で『一颯』が収まっている箱の両端を持ち、、、すぅっ、っとその箱を上へと持ち上げる。

 ごくりっ・・・。

「っつ」

 すぅっ、っと祖父ちゃんは蓋を持ち上げて、徐々に白木の蓋が上がっていく。そして、ことんっと祖父ちゃんはその白木の蓋を脇に置く。

「・・・あ」

 その刀を見紛うはずなんてないよ、俺。実家の道場の神棚にあった小剱の名刀だ。その鞘の暗色。その柄、柄巻の仕様―――、目線を先のほうに。刀身の長さは二尺三寸ちょい、、、いや鞘の、だからそれを入れるともう少し長いか。

「―――」

 この刀は絶対に『一颯』だよ。

「健太よ、、、お主も察していると思うが、この一振りは小剱の名刀『一颯』だよ」

 やっぱり。やっぱ俺の見立てに間違いはなかった。

「う、うん・・・そうだよね」

 眠っている。白木の箱の中に敷き詰められた白い綿の上でまるで寝ているかのように、納められている一振りの日本刀、、、小剱家に代々伝わる名刀の『一颯』だ。

「健太よ。なぜ儂が失くしていたと思うておったこの小剱の名刀『一颯』がなぜ今、ここにあるのかそれを健太お主に語ろう―――」

「はい、祖父ちゃん」

 そして、祖父ちゃんは再び口を開き、再び六年前の昔語りを始めたんだ。


―――ANOTHER VIEW―――


 そこは日下部にあるかつて北西戦争で使われた旧・日下軍の司令部だ。この場には塚本も愿造もいない。その屋内の一室で銀髪の男いや近角 信吾は己の目を疑った。北西戦争終結より一年と三か月、敵軍の日下侵攻に対して、日之国政府から召集命令の出た近角 信吾と愛莉。日下府侵攻に際して迎撃に向かった彼は、戦争終結後未だにその気を緩めることはなく、今も日下部に難を逃れた北西戦争の生き残り達は常に交代で日下部の街の周囲の状況を探っているのだ。

「こ、これは―――っ、、、この反応―――」

 信吾は全ての言葉を吐き出す前に、バッとズボンのポケットに手を入れそこから自身の端末を取り出した。指ですぐに画面を認証―――一足飛びで誰かの番号を呼び出し、電話を掛けた。

『もしもし信吾?』

 彼が電話をかけた相手は愛妻である愛莉だ。彼女の旧姓は羽坂(はさか)

「愛莉かっ!!」

『ど、どうしたの?信吾くんっ。すっごい慌てているみたいだけど・・・』

『大変だ。大変なことになってるっ・・・!! 今すぐ司令部にきてくれ・・・っ勝勇や悠も他のみんなも連れて・・・早く!!』

『うん、解った信吾くん・・・っ』


 時を置かずして、しばらく―――このかつては日下軍の司令塔だった普通の、日下の伝統家屋を装った司令部にぞろぞろと人が集まってくる。この司令塔の家屋は外壁だけは普通の、日之国の家屋を装っているが、中身は別物である。鉄筋コンクリート造りで屋根は空対地ミサイル防御機構を備えた仕様になっており、さらには対アニムス装甲の繊維が組み込まれた瓦屋根だ。外壁と屋根、さらに床に氣導回路が組み込まれており、アニムスを通わすことで、あらゆる異能種の攻撃にも耐えうる構造となっている。

 その中で、塚本は壁の前に設置された埋め込み式の液晶画面を凝視する。液晶画面に旧・日下国の地図がアップされ、南東方向からこちら日下に向かってくる機影群が赤のプロットで表示されている。

「信吾っきっとこれは、、、方角的には考えたくはないけれど―――日府からこちら日下にやって来るなんらかの航空機群だ、、、きっと・・・!!」

 珍しく・・・いつもはゆうゆうと余裕の言動の塚本にもこのときばかりは焦りの色が見えている。

「・・・だよな、、、勝勇―――」

「信吾さん、塚本さん―――俺はなにをすればいい」

 ぎゅっ、っと悠は自身の両つの拳を握り締める。

「悠、、、これは、この機影に―――、この赤い反応」

 そんな悠に信吾が言った。

「うん、信吾さん」

「信吾、悠くん―――、僕が話そう」

 ちゃっ、っと今度は塚本がその右手で眼鏡の両端を持つようにして、その眼鏡を押し上げる。

「悠くん、颯希くん、、、日下部のみんな聞いてほしい。―――この有事に当たり、僕らは動ける者で班編成をする。まずは非戦闘員の避難から。最初に子ども達を地下水道に退避させる。そして、その次に非戦闘員も地下水道に退避させる」

 塚本はぱぱっと思いつくことを、この司令塔に集う面々に話していく。その面々とは、信吾、愛莉、悠、颯希などをはじめとする北西戦争の生き残りと、日下部の街の有力者達、そして、北西戦争の際に隣国日之国に亡命・避難することがなく、第二の都市日下部に住み着いた一部の日下府の住民達だ。

 ざわざわ―――、塚本の話に一部の者達がざわめく―――、そのような中、、、三条 悠が一歩前に進み出る。

「解った、塚本さん」

「もう一度言うよ、先ずは誘導班。悠くん、颯希くん、そして笠鍋(かさなべ)片楚(かたそ)―――きみ達が誘導班を指揮し、地下水道へ子ども達非戦闘員を避難させてくれ」

 その塚本の指示を当惑しながら聞いて者もいる。そのうちの一人が口を開く。

「えっえっと私も?塚本さん」

 口を開いた者は九十歩(くじゅうぶ) 颯希だ。颯希はおずおずと当惑の表情を塚本に隠すことはせずに、塚本に訊いたのだ。

「うん。今回はきみに前線を任せることはできない」

 今の颯希はあの黒いスーツを着ていない。潜入先から密かに里帰りしてきた颯希は、さっさと黒服を脱いで着替え、今は本当にラフな、年相応の普段着だ。

「え・・・?」

「颯希くんきみという存在は『僕達』の『要』だ。絶対に表に出たらダメだよ。きみの面が(あちら)さんに割れる可能性がある」

「―――・・・っつ」

 はぁ―――っ、っという颯希の声なき声とその驚きそして合点がいった顔―――。

「そうさ―――おそらく『彼ら』だよ」

 にぃ―――っ、っと塚本の口角が哂みに歪む。

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