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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十一ノ巻
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第百十八話 日下第二の都市、古都日下部にて

「塚本くん、、、この街並みも雰囲気もどこかとてもなつかしいものだよ」

「くくっ―――そうですか」

 塚本のその『くくっ』の笑いは屈託のない笑みだ。決して気色悪いような部類に入る笑みではない。

「うむ。まるで儂の国に在った古都のようだよ、塚本くん」

「お気に召されましたか?」

「ふふ―――っ」

 にやりっ、愿造は口角をわずかに吊り上げる。


第百十八話 日下第二の都市、古都日下部にて


「うむ、素晴らしい都だ、ここは―――」

 愿造は再び周りの景色を見遣(みや)る。

「お褒めいただきありがとうございます、愿造さん。いやぁお世辞でも嬉しいですよ、僕は」

「いや、世辞ではないよ、塚本くん。―――ふむ?」

 からんっころんっからんっころんっ、っとそこへ下駄特有の音を立てながら、、、愿造、塚本、そして颯希と悠に近づいてくる男が一人いる。からんっ、ころんっ・・・ざり―――、その男は歩みを止めた。男が立ち止まった所は愿造達のもう目と鼻の先だ。

勝勇(かつとし)、今帰ってきたのか?悠も颯希も」

「「「っ」」」

 この場にやって来た男は、気さくに愿造以外のその三人に声をかけた。その男に声を掛けられた三人。それぞれ皆が振り向いたのだ。

「やっ信吾(しんご)

 塚本は、開いた右手を軽く、やっ、と挨拶。

「おうっ勝勇」

「信吾さんっ」

 一方、悠はと言えば、ぱぁっ、っとその顔に花が咲く。その喜んだ笑顔といったら、塚本や愿造と話をしているときとは段違いの()い笑みだ。

「良かった。悠はちゃんと勝勇と、入れ違いにならなかったんだな」

「はい信吾さんっ。ちゃんと塚本さんに会えたっす」

「そうか。それは良かっ―――」

 たんっ―――

「やっほー信ちゃん・・・っ」

 ―――元気よく足音を立てたのは颯希である。

「うおっ颯希っ信吾さんは俺と話してんだってばっ!!」

 そんな悠の非難めいた態度も言葉に我関せずに颯希は信吾と呼ばれた男に突撃だ。

「信ちゃんっ♪ 久しぶりっ」

 ダッシュっぴょんぴょんっ♪

「おっと颯希・・・―――久しぶりってもう君が帰ってきたときにやらなかったか?これ」

「うんっ。でも信ちゃんは、私と悠のおにーちゃんだもんっ」

「はははは、おにーちゃん以上に年は少し離れてるけどな、颯希っ」


「―――ふっ」

 そんな三人はじゃれ合いつつ、その様子を塚本はあたたかい眼差しで見つめていた。

 その信吾という男の歳の頃は、塚本と同じ三十代半ばだろうか。彼の一際目立つところはやはりその髪の色だ。新雪と同じ色の白銀のうつくしい髪をしている。その彼、信吾の背丈は塚本や愿造より少し高い。体格は中肉でやや背の高い雰囲気は温和の好青年だ。

 悠と颯希ときゃいきゃいじゃれ合う信吾。塚本はそんな信吾に一歩近づきながら、その口を開く。

「ところで信吾、なんで下駄を履いているんだい?」

 くるっ、っと信吾は塚本に振り向いて、ひょいっと右脚だけを曲げて、下駄の底を上に示す。

「あぁ、これか?」

「うん」

「なんかな、愛莉(あいり)が履いてみたくなったんだって、下駄。だから俺も付き合って履いている感じ―――?」

 塚本は思わず吹き出しように笑う。

「ふっ、なんで下駄を履いている信吾が疑問符なんだ?」

 ん?っ、っと塚本のその質問に信吾は首を傾げる。

「さぁ? ま、もう少ししたら愛莉達、買い出しから帰ってくるから訊いてみたらいいんじゃないかな?勝勇・・・、、、―――」

 そこですぅっ、っと信吾の視線が横へ移動していく。そして『そこ』で信吾の目が留まった。

「―――ところで勝勇。さっきから気にはなっていたんだけど、そこの道着姿の、、、客人は?」

 愿造は塚本を見て、信吾にその視線に移す。

「儂かね?」

 ざりっ、っと愿造は信吾という銀髪の男に一歩脚を踏み出した。

「あ、はい」

 対する信吾はというと、警戒感ほどのはっきりとした意思表示はないものの、どことなくそれに似た雰囲気だ。

「儂は小剱 愿造―――という一介の剱士だよ。あの廃墟の街を彷徨うていたら、この―――」

 愿造は塚本にその視線を送る。

「―――塚本くんに拾うてもらっての」

「拾ったなんて愿造さん。『貴方のような方』が困っていたら助けるのは同然ですよ」

「へぇ、、、勝勇が」

「うん、まぁね、信吾」

「であるから、以後よろしく頼むよ―――」

 愿造は、塚本にやったのと同じように信吾にも首を垂れる。

「あっすいませんっ俺は近角(ちかかど) 信吾って言います。俺のほうこそよろしくお願いします、その小剱さん」

「あ、いや儂のことは愿造でよいよ。その代わりお主のことも近角くんと呼んでいいかな?」

 ふぅっと信吾の警戒感が溶けたように、彼の表情は明るいものとなる。

「いやいや僕だけが『愿造さん』でそっちは『近角くん』ですか? なんか俺だけが馴れ馴れしいな、、、はは・・・」

 信吾と愿造の会話が終わるのを待ちわびていたかのような悠だ。

「それで信吾さんっ」

「ん?悠」

「なんか塚本さんがこのおっさんのことを『転移者』って言うんすよ?マジか?って思わないっすか、信吾さん」

 ぎょっ、っと彼信吾は驚いて目を見開く。

「てっ『転移者』だってっ!? それほんとか勝勇!?」

 くるりっ悠のほうを向いていた信吾が今度は塚本を向いた。

「うん。愿造さんの話を聞いて僕は全てが分かったよ、彼 小剱 愿造さんは『転移者』だよ」

「―――っ、、、」

 信吾ははぁっという息を呑むような声なき声を発した。でも、ほんの少しだけの時間開けて信吾は、

「・・・ま、勝勇が言うんなら、本当なんだろうなぁ」

 ぽつり、信吾はそう零すように言ったのだった。

「ま、とにかくだよ」

 そこで塚本は愿造に向き直る。

「愿造さん。僕達の拠点―――日下第二の街日下部(くさかべ)へようこそ」

「儂のほうこそよろしく頼むよ」


 日下国首都日下府―――昨夏北西戦争の最中正体不明の同心円状に膨れ上がる巨大な紅蓮の火の玉によって焼き尽くされた日下府。今は廃都市と、まことしやかにうわさされ、日府では都市伝説化したこの廃都市で生き残った人は、日之国政府にその『存在』が消されようとも、この日下第二の都市古都日下部で(たくま)しく生きているのだ。


ANOTHER VIEW―――END.


「―――」

 祖父ちゃんの話を聞く限り、その人達は大丈夫だったみたいだな。大丈夫っていうのは、信用できるという意味だ。

「儂はの、眼鏡の御仁に連れられてその日下部という街にしばらく身を寄せたのよ」

「ふぅん・・・で、どうだったの? 楽しかった」

 あれ?楽しくなかったのかな?その日下部という街の生活は。すぅっ、っと祖父ちゃんの表情から感情から抜け落ちた、、、というか―――暗い表情になったんだよ、俺の祖父ちゃん。

「―――、、、」

「祖父ちゃん?」

「いや―――」

 祖父ちゃんはゆっくりと左右に頭を振る。

「楽しかったのかのう。いんや楽しかったよ、健太。儂は一軒家を借りてのう、、、。そこで儂は日下部の街の子ども達に剣術を教えておったのよ」

 へぇ・・・、

「へぇ・・・」

 俺としてはそれのほうが・・・意外でもないか、祖父ちゃんなら。恩返しと言ってその街の人達になにかをしてあげそうだもん。

「だが、それも長くは―――。―――」

 祖父ちゃんは口を一文字に、してそこで話を切ったんだ。祖父ちゃんは少し俯き―――、

「祖父ちゃん?」

 なにか深く考えてそう、祖父ちゃん。なにをそんなに考えてるんだろ、、、そんな難しい顔をしてさ。祖父ちゃんの眉間に少し皺が寄ってるんだもん。そう思うよな。

「―――。健太よ、ここで少し待っておれ―――」

 すっく。祖父ちゃんはこの場でも、まるで剣客の立ち居振る舞いで音もなく立ち上がったんだ。

「どこに行くの?」

 そして、すたすたと、数歩襖まで歩いていくと、すっ、っと襖を音も静かに横滑りさせた。くるり―――、

「いや、ちょっとな。ま、―――すぐ戻るのでな、健太」

 あれ?言葉を濁された? 祖父ちゃんは俺の言葉に答えてくれなかった。

「う、うん祖父ちゃん」

 祖父ちゃんはゆるりと振り返って、すぐに戻ってくるからだってさ、祖父ちゃん。そして、すっ、っとまた襖を閉めてその気配が遠ざかっていったんだ。

 ふぅ・・・なんかちょっと緊張した。まるで稽古を授かっているときの祖父ちゃんと同じような気配でさ。

「っ」

 ぴりぴりじんじんっ―――、ちょっと足が痺れてきた。脚を崩すか・・・。俺は正座の脚を崩し、その両脚を前へと伸ばす。

 まだ戻って来ない。遅いな、祖父ちゃん。

「・・・」

 今は何時だろう。俺は道着の袴の衣嚢(ポケット)に右手を入れ―――あったあった。あの手になじむ長方形の少しだけ重さを感じるやつだ。俺はそれ、電話を掴むと、衣嚢からその電話を取り出して画面を点けた。

 今は、、、二十一時二十七分か・・・。そろそろアイナから電話がかかってくる時間だよな。この時間、俺とアイナは毎日必ず一度は電話をする。二週間ほどで俺達の絆は切れねぇよ・・・なぁんてな。くつくつ・・・俺は込み上げてくる笑いをそのままに―――、一応通信魔法を送っておこ。たぶん、と言うか、ちゃんとアイナに確認を取ったことはないけれど、たぶんこの時間にいつもアイナから電話がかかってくるのは、イニーフィネ皇国と日之国との間にある時差じゃないかな?なんて俺は思ってるんだけどな。いつもアイナは昼の休息?の時間の頃に電話をかけているみたいだし、アイナからの電話があるときは、俺はだいたい寝間の上でごろっとしているんだよなぁ。

 ちょんちょんちょんっ―――っと、俺は電話を右手に持ち、その指で画面に触れていく。通信魔法の操作はメールとほとんど変わらないよ。

『ごめん、アイナ。今日はなんか祖父ちゃんと込み入った話を』

 ん・・・、、、っと、やっぱこの文章はやめだ。ちょいアイナに伝わりにくいかな?

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