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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十一ノ巻
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第百十七話 迎えに来た者

 ついついっ、っと塚本は指で板状の端末の表面をなぞる。

「どれどれ―――、あ、ほんとだ颯希くんからメールの着信があるね」

 一方の悠は冷めたような視線を塚本に向ける。

「そうっすよ」

 などと気の抜けた返事を塚本に返しながら―――。


第百十七話 迎えに来た者


 さわさわさわ―――・・・っと目の前の空間が揺れたような気がしたのだ。塚本と悠のやり取りのその最中のことだ。

「む―――っ」

 その『変化』に気づいた愿造の表情が硬くなる。目の前のなにもない空間―――塚本、悠、そして愿造のすぐ数歩前―――が、まるで池か風呂などの水面がさわさわと波打つように―――ざわめいたのだ。その気配を感じ取った愿造の眼差しに変化が訪れ―――、愿造の剣士としての気配を感じ取った塚本は―――、すぅっ、っと塚本は一歩前へと踏み出す。 

「大丈夫ですよ、愿造さん。彼女颯希くんは僕や悠くんの仲間ですから」

 右手を顔の前に出し、眼鏡を掴むようにして塚本はそれをくいっ、っとを押し上げた。

「ほう・・・。だが、なんかこう―――妖しい気配がしてのう」

「その妖しい気配がするというのは、おそらく愿造さんが『異能』を発動させた『能力者』の気配をその身で感じているからだと思いますよ」

 さわさわさわ・・・ざわざわ―――っ、徐々に空間にできたさざ波の波紋が大きくなっていく。にゅっ―――っとその波紋が頂点に達したとき、なにもない空間の、さざ波立った中心から足が出てきて、足が見えたと思った瞬間―――タンッ。地面を勢いよく踏みしめ、舞い降りる音―――。

「塚本さんっ久しぶりだね・・・っ!!」

 そして一人の少女が勢いよくなにもなかった空間から飛び出した。


 その少女を見る限り、歳の頃はおそらくこの場にいる三条 悠と同じ十代後半から二十代前半だ。行き交う衆人がはっとして思わず二度見してしまうような整った目鼻立ちをしているというわけではないが、その少女の顔立ちは綺麗に整っている。

 彼女はすらっとした体型をしており、背丈は低くはない。かといって塚本や悠より身長は高くない。

 そして、彼女は黒地の女物の黒いスーツを着ている。その髪は腰までは長くはないが、背中まではかかっており、その髪を髪留めで止めずに直毛でおろしている。おそらくこの少女を一目見て一番に目を惹くのはその髪ではないだろうか。彼女の髪の色は幾分か色素が薄い。だが、完璧な銀髪ではない。

「―――」

 愿造は、元気よくこの場に突如現れたこの黒服の少女を観てそのような印象を抱いた。


 塚本はやっ、と軽く、この場に到着した自身の仲間の少女を見て、開いた右手を示し上げる。

「や、颯希くん久しぶり」

「塚本さん・・・っ」

 ダッ、っと間髪入れずにその、塚本に颯希くんと呼ばれた少女は地面を蹴って塚本目がけて―――、その胸に飛び込む。もちろん颯希と呼ばれた少女は自分の両手を大きく開いたまま塚本の胸に飛び込んだのだ。

「おっと―――!!」

「同じ日府にいるのに全然会えないから・・・私達っ」

 ひしっ・・・。

「よしよし。そうだね・・・僕らは、ね、颯希くん」

 二人のその様子はまるで恋人同士のようだ。そこで、愿造はじぃっと―――そしてにやっ、っとした笑みを浮かべた。

「さて塚本くん」

「はい。愿造さん。ちょっと離れようかな?颯希くん」

「・・・むぅ」

 愿造の問いかけと塚本が愿造の言葉に応じたことで、颯希という少女は抱き着いていた塚本から名残惜しそうに離れる。

「その、塚本くんとそちらの御嬢さんは()い仲なのかな?」

 愿造は塚本と颯希の二人に言葉で、はっきりと恋人同士なのか、とは訊かなかった。

「「――――――」」

 じぃ―――っ。愿造の問いかけに二人して、、、塚本も颯希も愿造を見つめたまま黙したのだ。

 愿造が二人を見たところの印象では、塚本は若く見積もっても三十代前半には見えず、対するこの颯希という少女は十代後半から二十代前半に見えたのだ。

「ぷっふふ―――っ」

 先に沈黙を破ったのは颯希だ。かわいく笑う。

「あれ?僕達はそのような関係に見えますか、愿造さん―――」

 そして、遅れて塚本も口を開く。

「うむ」

「塚本さんと私は、ううん悠も―――」

 そこで颯希は悠にも視線を送る。それから颯希は、ふたたび愿造に視線を戻した。

「―――悠も含めてみんなが『家族』って感じなんです、私達」

 颯希は右手を折り曲げて、その手を開いたまま、自分の頸元から胸より上に持っていった。

「・・・颯希くん」

「颯希―――」

 塚本も悠もその陰りのできた表情でやや視線を落とした。彼彼女らの胸中に去来する思いを知るのは彼彼女らしかいないのだ。

 ゆるゆる、と颯希は自身の頸元に持っていったその右手を体側に沿って下しながら、、、

「それに・・・その、塚本さんには―――、、、カノジョさんがいるそうですし。ははっ」

 颯希は屈託のない満面の笑みを浮かべたのだ。

「そうか・・・」

 ぽつり、と愿造は呟いた。

「・・・、、、えっと私、愿造さんと呼んでも?」

 颯希は本人にその名を確かめるように愿造の目を見ながら訊いた。

「うむ。儂の名だよ。儂は小剱 愿造という」

「はい・・・愿造さんっ」

 先ほど出会った悠と比べれば、はるかに人懐っこい性分らしいようだ、この颯希という人物は。少なくとも愿造はこの颯希という若い女性にそのような印象を受けた。

「以後よろしく頼むよ、・・・えっと御嬢さん」

「あっ、私は九十歩(くじゅうぶ) 颯希(さつき)といいます、私のほうこそよろしくですっ、愿造さん」

 ぺこりっ、っと颯希は愿造に挨拶をしたのだ。

「おおぅ、颯希さんはなんと礼儀正しい御嬢さんだ」

「そうですか?私」

「・・・ほほほっ」

 愿造はにこりと顔をほっこりとさせるのだった―――。


ANOTHER VIEW―――END.


 アイナのときもそうだったけど、、、その女の子にもか。祖父ちゃんって―――、、、いやいやごめん祖父ちゃん、すけべじじーって思っちゃったよ、俺。

「・・・それから、祖父ちゃんはその三人のアジトに行ったんだよね?」

 さっき俺が言った言葉『祖父ちゃんを信じて良かったよ』の余韻が、まだ残っているのかな、祖父ちゃん。

「っ。う、うむ、そうだよ、健太」

 祖父ちゃんはちょっと恥ずかしそうに咳払いしてから肯いた。


 やっぱりそうなんだ、その三人についていったんだ祖父ちゃん。

「―――」

 まぁ、今ここに、俺の目の前にちゃんと祖父ちゃんがいるってことは、大丈夫だったんだろうけど・・・。

「・・・その大丈夫だったの?祖父ちゃん。その人達のアジトって?」

 ん、、、でもアジトって祖父ちゃんは。祖父ちゃんからそんなアジトなんて不穏当な言葉を聞いたら、、、やっぱどきどきはらはらはするかな・・・。

「そうだのう・・・意外と街らしかったというか、、、―――くくくっ」

 くつくつ、と祖父ちゃんは笑う。思い出し笑いかな。

「祖父ちゃん?」

「うむ。では儂の話の続きといこうかの、健太よ」

「うん、祖父ちゃん」

 そして、一息ついた祖父ちゃんはまた再び口を開く。



―――ANOTHER VIEW―――


「ん。颯希」

 三条 悠は少しぶっきらぼうに開いた右手を九十歩 颯希に差し出す。

「うん、悠」

 颯希はにこっと微笑んで、差し出された悠のその右手を取った。悠は剣を用いた戦いが得意なため、その手の平には豆ができている。

「塚本さんも」

 すぅっ、っと塚本は身を翻すと―――すたっ、っとそんな颯希の背中側に回った。

「ありがとう、颯希くん」

 颯希は首を左右に振る。

「ううん、気にしないで」

「じゃ失礼するよ、颯希くん」

「うん」

 そんな塚本はゆるゆると、左腕を上げると、その左手を颯希の右肩に乗せる。

「―――・・・」

 愿造は自分から彼女颯希に声をかけていいのか、逡巡(しゅんじゅん)している。相手は自分の半分以下の歳の女性なのだ。自分は、しかも颯希のほうからしたら初めて会ったばかりの、どのような相手かも分からない男なのだ。

 すこしぶっきらぼうに、顔にも態度にも悠はそれを隠すことはない。

「ほらよ、おっさん」

 そんな愿造に悠は自身の空いた左手を差し出したのだ。

「かたじけない、三条殿。―――」

「そ、そんなのいらねぇよ。普通でいい」

 愿造がお礼を言おうと、悠に首を垂れようとしたときだ。

「? 普通とはどういうことかな?」

 愿造は半ば垂れていた頭を元の位置に戻した。

「いやだから、その三条殿じゃなくて、悠でいいってことだよ」

「ふふ、相解ったよ、悠くん」

「っつ」

 悠は何か言いたげなきつい眼差しを愿造に向けたが、ぷいっとすぐにそっぽ向く。一方、颯希は三人の準備が整ったことを見止めた。

「行くよ、みんな私を離さないでね」

 颯希のその眼差しが強くなると同時に―――さわさわさわ、ざわざわざわっ、っと目の前の空間が、まるで水面に波紋を見ているようにさざ波立つ―――。振るえて揺らいで―――、、、。颯希が自身の異能を行使させたからだ。そして彼彼女ら四人は長大な空間を越えたのだった。


「―――」

 愿造は己の周りの光景を見ている。


「おっさんもういいぜ、俺の手を離しても」

 はたっ。

「っつ!! う、うむ。すまぬ、悠殿」

「・・・、ま、いいけどよ」

 悠のその声にハッとして悠の左手を取っていた自身の左手を離す。

「―――それにしてもここは」

 愿造はふたたび顔を上げ、視線を街へと戻した。日本のどこかで見たような光景だ。と言っても大都会のビル群の光景でもなく、郊外のニュータウンのような一軒家が軒を連ね、マンション群が立ち並ぶのような、そのような光景でもない。

「―――っつ」

 どこか懐かしい気分にさせてくれる瓦葺で木造の伝統的な建物がまるで碁盤目のように建ち並んでいるような、そんな日本では『伝統的』とされるそのような光景だ。

 そのような街の道の真ん中、瓦葺の建物と建物の間の道に、愿造は立っている。他にも塚本も悠もそして颯希までいて、、、四人してくっつくようにその道の真ん中に立つ。

 その四人の中で愿造だけが顔を上げ、辺りの建物やその他の何某(なにがし)かに見とれている。

「愿造さん?」

「塚本くん、、、この街並みも雰囲気もどこかとてもなつかしいものだよ」

「くくっ―――そうですか」

 塚本のその『くくっ』の笑いは屈託のない笑みだ。決して気色悪いような部類に入る笑みではない。

「うむ。まるで儂の国に在った古都のようだよ、塚本くん」

「お気に召されましたか?」

「ふふ―――っ」

 にやりっ、愿造は口角をわずかに吊り上げる。

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