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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十一ノ巻
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第百十二話 よし訊いてみよう―――

「え?でもちょっと水、少なくない?」

 ちなみにその竹筒。祖父ちゃんは最後に俺が造った青竹の竹筒の綺麗な緑色の表面を上手に鉈で切れ込みを入れ、まるで器のように(こしら)えたんだ。その竹筒の器に洗った米一合を入れ、今は水も入れたところだ。

「ふむ。青竹の水分を考慮してあるでな、ちょうどこのくらいの水でいいんだよ健太」

 っ、そっか。竹の中の水分が。

「なるほど」

 納得。俺も祖父ちゃんに(なら)ってちょろちょろと流しに水を落としてその量を少し減らした。かぱっ、っと最後に竹筒を切りぬいてできた蓋をはめ込めて、竹筒に蓋をしたんだ。


第百十二話 よし訊いてみよう―――


「―――っ」

 ふつふつふつっ・・・、もう沸騰してるっ。ふつふつと竹筒の蓋の切れ目からごはんの白い泡と、青竹からもじわじわと泡がふき出す。大きくなって消えて、また竹筒から小さな白い泡ができ、大きくなって真っ赤な火が燃える竈の下にの燃える薪に落ちて、、、ジュージューっと蒸発していく・・・。匂いも香ばしくていい匂いだ―――、じゅるりごくりっ。

「―――♪」

 俺はじわりと滲み出してきた唾液を嚥下した。

「っ」

 すげーっ、まじでサバイバルみたいだぜ。

「ほれ、健太。ちょっと火勢が強すぎだ。じぃっと見ていないで、竹筒を金網の横へ避けてくれんか?」

 っ。しまったっ!! ついつい見惚れてたぜ。竹筒の様子と、その竈の橙赤色の火がきれいで、さ。

「丸焦げのごはんを健太も食いたくはないであろう?」

 確かに、丸焦げの黒焦げご飯はちょっとな。さすがにそれはちょっと食べたくない。

「ごっごめん祖父ちゃん・・・っ(あせあせっ)」

 俺は竈に立てかけていた火ばさみを手に取ってその竹筒を中心から金網の、、、そうだな、この左上と右上がいいかな。―――俺は火ばさみを使って竹筒二本を直火の届かない端へと避けた。

「ふむ」

 にこりっ。それを見た祖父ちゃんはすこし笑みを浮かべて、ふたたびおかず作りへと戻っていったんだ。


「いただきます」

 祖父ちゃんは手と手を合わせて座ったまま軽くお辞儀。

「いただきます」

 俺も手を合わせる。ぺこりっ、っと俺も祖父ちゃんを倣うように軽く頭を下げた。視線の先を、食卓を見れば、今日の食事は・・・まずは青竹の竹筒飯―――その外側はもうすでに竈の炎で焼け焦げて、こげ茶色になってるけどな―――、それと川魚の煮つけ、里芋の煮っ転がし、それに祖父ちゃんが作った味噌汁とすでに定番となっている葉物野菜の緑色のおひたしと、あの味が濃い漬菜だ。

 それと、、、あれ・・・って俺がよく、その元居た日本の実家で見慣れたやつ。小腹が空いたときに俺はそれをよく食べていた。

「・・・?」

 ん?でもそれ、なんでこんな和風の庵に場違いなレトルトカレーのパックがあるんだろう? この二週間祖父ちゃんって庵を留守にして街なんか行っていたかな? 少なくとも俺にそんな覚えはないんだけど?

「健太よ、これでまだ足りぬときはこのカレーを食べなさい」

 祖父ちゃんは里芋の煮っ転がしをつつきながら、視線をそのちゃぶ台の隅に置かれている四角い箱のレトルトカレーに持っていく。

「あ、うん・・・分かった」

 美味そうだよなぁ・・・そのカレーの外箱の画像、、、じわっ、っといけね、唾液が。レトルトカレーか、俺はカレーは嫌いじゃない。ごはんを食べ終えてまだお腹が空いていたら、そのカレーを頂戴しよう。

 まぁ、そのレトルトカレーの話は置いておいて、、、。

「―――、―――、」

 ぱくぱく、ぱくぱく―――葉物野菜に、川魚の煮つけを口の中に放り込みながら俺は、・・・やっぱ訊いてみよう祖父ちゃんに。そう、祖父ちゃんは街に出てなにか食べ物を買い出しするということもなかったし、そもそも俺がこの庵にきて二週間、祖父ちゃんはこの庵でずっと俺の剱術の指南役をしていてくれたわけだし―――、、、いつこのレトルトカレーを手に入れたんだろう。あと、それと米櫃(こめびつ)にいっぱい入ってある米もどこから仕入れてきてるんだろう、祖父ちゃん。

「―――、健太よ、健太」

 っ!! ハッとして俺は我に返る。どうやら俺は祖父ちゃんに呼ばれていたみたいだ。

「っ、、、ごめん祖父ちゃん。ちょっと考え事をしてた」

 祖父ちゃんは、ふっ、っと優しい顔になる。

「ふむ、そうか。あまり根を詰めんようにな」

「・・・うん」

 で、祖父ちゃんってばいったい俺に何の用だったんだろう?

「ところで健太、醤油を取ってくれんか?」

 醤油か、、、祖父ちゃん。

「―――」

 俺はいつものとおりに祖父ちゃんが塩分を摂り過ぎにならないように、くくっ、っと醤油のとっくりを傾け、そのお猪口の半分まで醤油を入れた。

「はい、祖父ちゃん」

 俺は右手でお猪口を摘まむように持ち、祖父ちゃんへと―――、祖父ちゃんの視線がお猪口へと移る。

「、、、おふぅ・・・」

 しょぼーん。祖父ちゃんしょぼーん。そんな悲しそうな顔をしないでよ・・・っ。

「分かったっ分かったってばっ祖父ちゃんっ」

 俺はふたたびとっくりを傾け、よしもう少し、惜しいもうちょっと―――、ちょっとだけ八分目まで醤油を増やしてあげるか。次もし買い出しがあるなら、減塩醤油を祖父ちゃんに買ってあげよう。あれ?そういえばそれを買うお金ってどこにあるんだろう?

 そういえば、俺そういうことを全然知らないや・・・。

「うむ・・・っ」

 にかっ、っと祖父ちゃんは、俺が差し出した醤油が入ったお猪口を嬉しそうに受け取ってくれた。

 よし訊いてみよう。

「ところでさ、祖父ちゃん」

 祖父ちゃんの、お猪口の中の醤油をかける手が止まる。そっか葉物野菜のおひたしに醤油をかけたかったのか、祖父ちゃん。

「ん、なにかな?健太よ」

「そのレトルトカレーってどこで売ってるの?」

「、、、」

 ん・・・っというか、声なき声というかそんな祖父ちゃんの声だ。

「いずれ健太には話そうと思うておったが、ほほっ―――」

 え? 俺に話そうと思っていたこと、だって?

「・・・祖父ちゃん?」

 祖父ちゃんは嬉しそうな笑みをこぼす。そのほほっ、っとの笑みはさっきの醤油のときの、にかっ、っとしたような笑みとはちょっと陰影が違う気がする。

「ちょうどよい機会かもしれんな。まぁ、よいか、まずは夕餉(ゆうげ)を食べてからだな、健太よ」


//////


「健太よ―――」

 照明はランプ色の落ち着いた光。それは白色蛍光灯やLEDの光のようなはっきりとした明るい白光を放っているわけじゃない。そんな畳張りの和室で、、、俺と祖父ちゃんは向かい合って座っていた。もちろんただ畳の上に座っているわけじゃなくて、足が痛くなるから座布団は敷いてある。

「はい、祖父ちゃん」

 俺は祖父ちゃんの部屋で、、、まずは祖父ちゃんの部屋の位置だけど、その場所は俺の部屋とは反対なんだ。炊事場と直で繋がっているのが、ちゃぶ台が置かれている居間だ。その居間の左隣、襖で仕切られている俺の部屋。一方、祖父ちゃんの部屋は俺の部屋とは反対側の間取りで、襖で仕切られたその向こうだ。部屋の広さは俺の部屋とほとんど変わらない。

「まずは―――」

 とんっ、とんっ、っと祖父ちゃんは、自分の部屋にある小さなちゃぶ台の上に湯呑を置く。俺の湯呑と自身の湯呑の二つだ。

「―――まぁ、お茶を飲みながら、だな、健太よ」

 まさか、今回も話を切られたり、はぐらかすようにされたりはしないよな? アターシャの身内だという『つきやま』の誰かのときとか、祖父ちゃんがこの異世界でやってきて世話になったという人達・・・、あのとき、祖父ちゃんに訊いたときのことが頭をよぎる。

 あんなにもあからさまに俺の切り出した話をはぐらかしてくるから、―――俺もてっきり、、、触れちゃいけない話題なのか、と密かに思ってたんだ・・・。

「・・・はい」

 祖父ちゃんは、さっき夕飯のときにもあったガラス製の水差しをくくっ、っと傾け、まずは俺の湯呑に、そしてそのあとは自分自身の湯呑にお茶を注いだ。

「・・・やはり、、、まずは順番に話していこうかの―――」

 順番に―――、それだったらまずは祖父ちゃんが突然失踪したときから知りたいかな、俺。

「・・・」

「あのカレーだが、健太よ、実はだな」

 はぁ?

「カレー?」

 あ、なんか俺が思ってた話と違うんだけど?カレーの話って。

「うむ。あのカレーは実は貰い物なのだよ、健太」

 あのカレーは貰い物・・・?

「いやいやいやいや・・・っ。祖父ちゃんもっと真面目に話してよ」

「??」

 きょとん、っと俺の祖父ちゃんは。

「いっつも俺の話をはぐらかしてない?」

「ふむ。まぁ、健太よ、急くでない。急いては仕損じるというであろう?まずは儂の話を最後まで聞きなさい。夜は長いのだ」

 そっか、そうだよな。まずは祖父ちゃんの話を全部聞いた上で、疑問をぶつけてみるか・・・。

「・・・うん。なんかごめん祖父ちゃん」

「うむ。・・・で、どこまで話したかのう?健太よ」

 え・・・、祖父ちゃん。大丈夫かな・・・? それともわざとやってんのかな?

「その、、、レトルトのカレーの話・・・だってば祖父ちゃん」

 夕飯のときに祖父ちゃんが、小腹が空いた用に俺に勧めてきたあのレトルトカレーな。

「おぉ、そうだった、そうだった。儂は、カレーは好きだが、健太も子どもの頃からカレーは好きだったな、ほっほっほっ」

 祖父ちゃんにこにこ。

「う、うん。今も好きだけど・・・っ」

 焦るな、焦るな。また祖父ちゃんにペースを乱されるってば―――、

 あ・・・ッ!!まさか・・・っつ。

「・・・ッ」

 試合と一緒だ・・・ッ!! ひょっとして―――、まさか・・・な。これが、この祖父ちゃんののらりくらりとした言い方って、祖父ちゃん小剱 愿造という腕が立つ剣客が刀を揮う戦いの序盤、今がその小手調べだったりして―――、まさか、な・・・。

「儂はとくにあいつが、、、儂の嫁さんが子ども達のために作ってくれたカレーが好きだったよ、健太。あいつの料理は美味かったのう・・・」

 祖母ちゃんのことか、、、祖母ちゃんの名前を言うのを恥ずかしいのかな、祖父ちゃん。わざわざ『儂の嫁さん』とか『あいつ』って言ったりしてさ。

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