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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十ノ巻
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第百十話 そうして、夜が更けていった―――、俺が小学生ぶりに再会した祖父ちゃんとの最初の一日が。

 結論から言うと、祖父ちゃんが風呂に入っている間に、俺が炊事場で洗い物をすることはできなかった。

 なぜかと、言えばこれだ。最初この風呂を見たときにはまじかよっ、って本気でそう思ったんだよ、俺は。この祖父ちゃんの庵の風呂は薪風呂だったんだ。祖父ちゃん曰く、誰かが、外の風呂の焚口で薪をくべたり、また火の勢いを落として、火力を調整しないとちょうどいい湯加減にならないそうだ。

 じゃ、祖父ちゃん一人の時はどうやって風呂に入っているんだろう・・・?


第百十話 そうして、夜が更けていった―――、俺が小学生ぶりに再会した祖父ちゃんとの最初の一日が。


「祖父ちゃん」

 風呂の外―――えっと家の外にある焚口に陣取る俺は顔を上げて、風呂の格子窓(こうしまど)に向かって祖父ちゃんに呼びかけたわけだ。初夏の今は気温が高くてその格子窓から湯気は見えない。

「どうした?健太よ」

 ざばっ。風呂で祖父ちゃんが湯を掛ける音。身体を洗い流しているのかな? また、ざばっ、っと音が聞こえた。

「これさぁ、祖父ちゃんが一人の時はどうしてんの? どうやって風呂に入ってるの?」

 風呂場の中にいる祖父ちゃんに聴こえるように少し大きな声で俺は。

「あぁ?」

 身体に湯を掛けてて聴こえなかったのかな、祖父ちゃん。―――、そうだ。あの窓の下に行けば、祖父ちゃんに聴こえやすいかも。

「―――」

 すっく。俺は立ち上がり、数歩―――頭上の格子窓の真下へと俺は移動した。これで祖父ちゃんが身体を洗っていても聴こえやすいかも。

「これ、祖父ちゃんが一人で風呂に入ってるときはどうやって風呂の湯を沸かしているの?」

「あぁ、そんなことか。先に風呂の湯を沸かしておき、そこから種火にしてちょうどよい湯加減のときに風呂に入っとるんだよ、健太」

 そっか。湯を沸かしてから風呂竈の火を落とし、それから風呂に入るのか。

「ふ~ん」

「それよりも、だ健太」

 それよりも、なんだろう? なんか重要そうなことだけど。祖父ちゃんの声のトーンが少し下がった。その声色で祖父ちゃんが思っている気持ちが、、、真面目なことを話そうとしているのが解る。

「なに?祖父ちゃん」

「お主、格子窓の真下におるな?違うかな、健太よ」

 正解。さすが祖父ちゃん。

「よく分かったね、祖父ちゃん」

「そこに台を置けば、格子窓から風呂の中が見えるのよっ!!」

 どやっ、っと祖父ちゃんは。要するに覗きか?

「え?」

「儂のこの鍛え抜かれた身体を見たければ、見てもよしっ」

 こんなことを言う人だったっけ俺の祖父ちゃん? 俺の子どもの頃、、、俺が覚えている限りはそんなことを言うような人じゃなかったような・・・。

「はぁ・・・」

 『はぁ・・・』俺は気の抜けた返事を。祖父ちゃんの話しはもっと真面目で重要な話だと思ってたよ。

 それに祖父ちゃんの裸を見ようとは思わないってば、俺。アイナがもし風呂に入っていたとしても―――いやいやっ俺はそんな覗きなんてしないってばっ!! どきどきっ。

「―――っ」

「健太よ、もし、、、機会があればもう一度、大きくなったお主と風呂に入りたいものだ・・・」

 しみじみ・・・っと。そんな声が格子窓から聞こえてくるものだから―――

「―――」

 俺の祖父ちゃんはそう、大きくなった俺とまた一緒に風呂に入りたいと、言うものだから。俺だってしみじみと子どもの頃を思い出すじゃねぇか・・・、、、小学生の『僕』は祖父ちゃんの背中を見て、木刀を持って汗を搔き、祖父ちゃんは『僕』をときどき銭湯に連れていってくれたんだったけ・・・、風呂上りに飲む牛乳が・・・ほんとおいしかった。

「ほんに小さい頃の健太はころころとかわいかったのう・・・。今度は大きくなったお主と露天風呂にでも浸かりながらいろいろと語り合いたいものだ」

 そっか。

「・・・うん、そうだね、祖父ちゃん」

「健太よ。風呂から上がったら、今日はもうゆっくりと休みなさい」

「うん・・・」

 そうして、夜が更けていった―――、俺が小学生ぶりに再会した祖父ちゃんとの最初の一日が。


 俺が祖父ちゃんに貰った六畳半ほどの部屋だ。俺の電話の光で部屋の中が薄明るく照らし出されている。電話の画面の上部に視線を持っていけば、今は二十二時を少し回ったところだ。こんな時間に布団の上でごろりっと寝転がっているなんて、前までの俺が元居た日本とかいうか、実家に居たときと比べれば、比べものにならないほど時間が早い。普段じゃ、テスト勉強や課題を(こな)している時間だよ。ほんとに考えられない。

 アイナからなにか着信はあるかな・・・。

「――――――」

 通信魔法・・・はっ、と。『通信魔法/メール』の四角いアイコンをちょんと指先で触る。その画面を開いて、やや。すると、新着のメール、、、じゃなかった通信魔法が一件入っていた。受信の時間から察するに、さっきちょうど俺が風呂に入っていたときぐらいか。

「アイナ・・・っ」

 アイナから通信魔法が着てるじゃねぇかっ。わくわく♪ いったいどんな内容かなぁ・・・。なんて、俺はそんなことを思いながら俺は開く。

『ケンタ・・・。その、、、日之国の日宇にいる貴方の名前を呼んでみただけ、です』

 そこでアイナの通信魔法は終わりだ。でも、なんか少ない文章だけど―――なんだろグッとくるぜ・・・。

「っ」

 よし俺も、っと、っ―――その前にもう一回アイナにお礼を言いたいよな。じゃ、こうしよう『アイナ、改めてありがとな。俺を祖父ちゃんに逢わせてくれてさ。愛してるぜっアイナ・・・!!』

 ―――いや、待てよ。俺は『送信』に指をかけたまま―――

「やっぱこうしよう」

 さすがに『愛してるぜ』は直球過ぎるよな。

『アイナ、改めてありがとな。俺を祖父ちゃんに逢わせてくれてさ。俺はいつも『愛な』してるぜっアイナ・・・!!』

 よし、送信っと。ちょんっと俺は指でタップし、、、すぐに返信はないだろ。ぱたっ、っと俺は手帳を閉じるときと同じ要領で電話を閉じた。

「っ」

 ぶぶぶぶ―――。え、もう? マナーモードにしていた俺の電話が震える。電話の画面を閉じてまだ三十秒も経っていないよな?

 アイナってば、もう文章を打ったの?

『わ、私だっていつも『ケンタ』していますよ。ね、ケンタ―――、落ち着けば、、、その―――』

「その―――、なにを言いたかったんだろ?アイナ」

 その? ここで文章は切れていて―――、よし続きを訊いてみますか。

『その―――?って。俺に教えてほしいな、アイナ』

 ちょんちょんっと指で叩いて、俺は文章を打ち込み―――、、、送信っと。

『え、えっとですね、ケンタ。その、私の公務がひと段落つきましたら、、、日之国でいうところの・・・そのおでかけなど、、、それをしませんか?』

 ふぉっ―――!! いわゆるこれはデートですかっ!?アイナさんっ。いい。しちゃう、アイナとおでかけしたいぜ。

 アイナと遊びに行く場所か・・・―――そうだっ!!

「っつ」

 あの、アンモナイトを食べた昼食のときのアイナの発言・・・。『先ほど貴方の口から出た『すでに絶滅した』という言葉に私は心底驚いたわけですよ。ですから私はこの鏃イカと巻角タコ、ならびに同じような種の一角貝に対して漁獲制限を設けようか、とそう思いまして―――』って、アイナは良いことを思いついたように嬉しそうに言っていた。

「―――」

 それに、俺に見せてくれた電話で撮ったあの始祖鳥の写真―――、あの写真はどう見ても、動植物園での写真だったし・・・。アイナに訊いてみよ。

『もちろんっ。俺もアイナといろいろ遊びたいぜ。そういえば、アイナって動物とか好きだったりするの?』

 アイナと一緒に、もし動物園や水族館がこのイニーフィネという異世界にもあれば、だけど。アイナと二人きりでそこに行ってみたい。ひょっとしたら、地球じゃとっくの昔に絶滅した恐竜なんて普通にいたりして。

『はい。もふもふもこもこな子、かわいいですよねっ。ほかにもつぶらな瞳のたとえば亀や海竜なども・・・♪ おとなの海竜はちょっとこわいですけど、子どもの海竜はちっちゃくてぱたぱた泳いで寄ってきて、手から魚を食べてくれるんですよっケンタっ♪』

 やっぱりいるんだ海竜・・・。俺の想像だとアイナの言う海竜はモササウルスかイルカ型の海竜だ。モササウルスはさすがに怖すぎ。昔、小学生の頃だったかな?幼馴染達とやった共同自由研究で古生物を調べて発表したっけ?

「―――」

『へぇ・・・、海竜ってイルカみたいなやつ? それともワニみたいな?』

 ワニみたいな、はモササウルスで通じるかな、アイナに。ま、いっか、たぶん通じるだろ。

 そんな感じで、俺とアイナのやり取りは、アターシャに『ケンタ様、アイナ様がにやにやして公務に身を入れてくれません。どうか、どうか日をお改めください―――』と(イニーフィネ皇国と日之国では少し時差があるみたい)言われるまで夜遅くまで続いたんだ―――。


『イニーフィネファンタジア-剱聖記-「天雷編-第十ノ巻」』―――完。


 そして、次はついに『十一ノ巻』か・・・。

「ふむ・・・―――」

 かつて、祖父愿造が俺に話してくれたことを思い出す。俺はこの先、祖父から聞いた昔語りをこの『剱聖記』で記さなければならない―――。

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