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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第十ノ巻
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第百五話 しばしの別れとなりますが、、、

 まるで、、、あいつみたいだ。あの廃砦で―――。『イデアル』の剣士・日之国三強の一人『先見のクロノス』と初めて出会ったときのような―――


『俺の日之刀に興味があるのか?少年よ。そうだ、日之刀だ。なるほどそうだったな、お前は魁斗と同じ世界からの『転移者』か。ならば、お前に教えてやろう。この刀は『日之国』の太刀、つまりは『日之太刀』だ、よく覚えておけ』

『いいだろう、なら見せてやる。俺の日之太刀『霧雨』をな』

 ってさ、あいつクロノスは廃砦で俺に、その『霧雨』という日之太刀を。

「―――ッ」

 あれに似た気迫を目の前のうちの祖父ちゃんからも感じ取れる。いや、ううん『視得る』って言ったほうがいいのかもしれない。


第百五話 しばしの別れとなりますが、、、


 それぐらいで―――っ。

「っつ」

 俺を試したつもりか、祖父ちゃん?だが悪ぃな。それぐらいの剱氣を見せつけて俺が尻尾を巻いて逃げるとでも? まさか―――、

 にぃ・・・っ、思わず笑みがこぼれちまうぜ。おもしろい・・・!! 不思議だ、ほんとに不思議だよ、俺。

 あのときは、生ける屍やグランディフェル、クロノスと相対したときには、負の、怖じ気のほうが勝っていて俺の心をそれが支配していたというのに―――今はどうだ?

 俺は『天王黒呪』なんていう黯い氣の異能を使う魁斗と死闘を繰り広げ。あいつがこの五世界では『黯き天王カイト』なんて呼ばれるほどの強者で、―――信じられるかよあの魁斗がそれなんて―――、そんな魁斗と戦ったおかげかな。

 なぁ、魁斗―――今思えばそんなに悪くない戦いだったよな?俺達。無論お前がアイナとアターシャを人質に取ったことはぜってぇ赦さねぇけどな、今でも。もし、魁斗が正々堂々と俺に勝負を挑んできたのなら、魁斗が気持ちのいいやつなら俺は魁斗に勝てたかどうかあやしいよな。もし魁斗がそんな気持ちのいいやつなら、イライラしない。戦っているときっとわくわくするぞ。

 そして、俺の目の前に今、祖父ちゃんという強者がいる。そんな祖父ちゃんと修練とはいえ、刃を交えることができるんだぜ。めちゃくちゃ楽しそうじゃねぇか・・・っ。

 口角をやや吊り上げ、白い歯が空気に触れる。

 俺は、祖父ちゃんの『二言はあるまいな?健太よ。儂は成長したお主には童のときのように甘くはできんぞ?』の問いに―――、

「もちろんだよ、祖父ちゃん。途中で投げ出さないと約束する」

 いっぱい頭の中を過ったことはあったけどさ。俺は祖父ちゃんにそう言い切ったんだ。


//////


 つらつらつらっと―――、俺はそこで我に返る。

「っつ」

 記していて思う。まさか、あんなことになるなんて―――って。

「っ」

 くくく・・・っ思わず口の端に笑みがこぼれちまうぜ。

「!!」

 おっと悪ぃ悪ぃ、―――続きをっと。俺はまたふたたび『剱聖記』の執筆に戻ったんだ―――。


//////


「うむ。相解った、健太よ。儂がお主を次代の剱聖にしてやろう・・・ふふっそれにしても言うようになったのう、我が孫健太よ、ふふっ」

 祖父ちゃんは少し冗談が交じる。俺の答えと態度に満足したのかもしれない。それとも祖父ちゃんに俺が試されているのか?

 でも、どっちにしても冗談を言う気持ちに俺はなれないよ、祖父ちゃん。俺に教えを授ける祖父ちゃんは冗談を言ってもいいと思う。でも、教えを乞う俺のほうは祖父ちゃんに『なぁなぁ』じゃダメだと思うんだ。

 けじめはちゃんとつけないと、いや、俺がけじめをつけたいんだ。親しき中にも礼儀あり。座布団の上で片膝を立てて座っていた俺は足を正す。

「―――」

 正座だ。両手は太腿の上、それからすぅっ、っと首を垂れる。俺が頭を下げる相手はもちろん真向いに座る俺の祖父ちゃんだ。

「よろしくお願いします、愿造師匠―――」

 俺の視界に入るのは、道場の磨きこまれた、光沢のある茶色い木の床だけだ。

「―――よろしい健太よ。儂のほうこそよろしく頼むよ」

「ありがとうございます、愿造師匠」

 俺は首を垂れたまま、そう祖父ちゃんに言ったんだ―――。


//////


 外から光が入る道場の窓を背に、アイナは立つ。アイナのやや後ろにはアターシャも立っていて、その右手をアイナの肩に置いている。

「ケンタ―――では行ってきます、、、。公務をすぐに終わらせてケンタを迎えにきますから・・・その―――・・・っ」

「うん、俺ここで待ってるよ―――、アイナ」

 『公務を頑張ってこいよ、アイナ』―――なんて、『がんばれ』って言ったら却ってアイナの負担になりそうだしな・・・こういうときなんて声を掛ければいいんだろう。

「私こう見えても、意外と寂しがりやなんですよっケンタ」

 あっ、アイナに先に言わせちまった。アイナはちょっと冗談交じりで、そんなことを言った。俺だってアイナに会えないと、これが遠距離恋愛っていうやつか・・・。

「アイナ・・・」

 ゆっくりっと俺は。言葉は少なく俺は一歩、二歩、数歩脚を出してアイナに歩み寄る。ここにはアターシャも祖父ちゃんもいるんだけど、それは関係ないさ。どっちにしてもアターシャも祖父ちゃんも、俺とアイナがお付き合いをしていることを知っているから―――。

 俺は無言でアイナに近づき・・・、ほら、もう腕を上げれば、手を伸ばせば、アイナにその手が届く。そんな距離だ。俺は、右と左の両つの手を同時にアイナに向かって出す。

 俺は無言で―――。

「っ」

 一歩、二歩・・・。ほら、もうアイナの息遣いまで聴こえる。

「ケンタ―――?」

 ぎゅっ。

「っ・・・!!」

 俺はアイナを静かに、でも強くその身体を真正面から抱き締める。突然のことにアイナは驚きにその藍玉のようなきれいな目を見開いて。

「―――」

 アイナを、俺にまるで引き寄せるように、つよく、深く―――でも抱きしめたアイナの身体を、背中を、いやらしくまさぐるようなことはしない。俺の左手も右手もアイナの背中に置いたままだ。

 ふわりっ。

「っ」

 アイナのその腰ほどまで長い黒髪がくすぐったい。ふわふわいい匂い。やわらかい。とても心地がいい。

「―――俺だってアイナと毎日会えないのは、、、アイナのその声が聴けないのはさびしいよ」

「ヶ、ケンタ―――っ/// わ、私もです・・・」

 おずおずっ、っといった様子でアイナの両腕が、そのあたたかい両手が俺の背中にも回される、回ってくる。回してくれる、その両つの腕を。

 俺はアイナより背が高い。背が高いと言っても、アイナと俺は頭一つ分よりも身長に差があるわけじゃない。

 っ、アイナの耳の形ってほんとにきれいだ。向かい合う真正面から横へ、すぅっとゆっくりと俺は顔でアイナの耳元に近づく。だから、俺はアイナの耳元に自分の口を近づけることができる。お互いの頭がごちんっ、ってなったらほんと台無しだぜ。

「でも、それは別で―――俺、アイナの公務の成功をここで祈っているから」

「・・・は、い。ケンタ―――」

「うん」

 ゆっくりと―――、俺はアイナの背中に回した自分の手の力を抜く。背中に回した手をぱっと離すようなことはできないよ、俺だってさびしいもん。

「―――、、、」 

 それを認めたアイナも、ゆっくりと、ほんとうにゆっくりとだけど、俺の背中に回した両腕の力を抜いていく。

 ふたたびアイナの顔を真正面から見えるようになったときだ。

「・・・?」

 ふるふる・・・、アイナのその藍玉のような目が揺れる、ように視えていて、、、

「、、、―――。ッ!!」

 それが何かを決意したかのように視線を落とし、強い視線で一点を見つめる。

「アイナ?」

「ケンタっ・・・!!」

 はっ、っとアイナはそのままの眼差しで顔を上げる。

「そ、それでは、一日に必ず一度、ケンタのそのお電話に、電話をかけてもよろしいですかっ」

 ふっ、っと思わず頬が緩む。なんだ、そんなことか。

「うん、いいよ、アイナ。たぶん時間はあるだろうし、俺。ま、アターシャがいいって言ったらいいんじゃないかな?」

「アターシャが、ですか?」

「うん」

 俺は一応、アイナのその背後に佇むアターシャにも視線を送る。

「―――」

 そんなアターシャは目を閉じて俺に軽く一礼で返してくれた。

 だって、アターシャってば、ずっとアイナの公務のことに心を砕いていたみたいだし、俺にもアイナに進言してほしいって言ってきたもんな。アイナが大切に想う自身の従姉のアターシャにだって俺は。俺はアターシャだって無碍にはしたくない。アイナはくるりと背後を振り返る。

「アターシャ、どうでしょう?公務の中で必ずケンタにお電話をする時間を作りますから」

 あとはアイナが俺に電話をすることを、アターシャが許可してくれることだけか・・・。

「はい、アイナ様。それでしたら、公務に差し障るほどの長電話ではない限り、どうぞケンタ様とお話くださいませ」

 ぱぁっ、っとアイナの顔に花が咲く。そのアイナの横顔が見えた。

「アターシャ・・・っ♪ ありがとうございます、従姉さん・・・っ」

「いいえ、アイナ様」

「ケンタ―――」

 くるっ、っとまたアイナは俺に見返り、俺はそんなアイナを見返す。じぃっ、っと俺達は見つめ合う。

「アイナ・・・」

「しばしの別れとなりますが、、、ケンタ・・・。では、行って参ります、、、」

「っ」

 っ。別れ、、、か。気持ちが離れてアイナと別れるわけでも、数年も会えないわけでもないのに、、、なんだろ―――。アイナの口からしばしの『別れ』と言われて、、、なんか物悲しくなるというか・・・、さびしくなるのは―――。

 歪む。(さざなみ)が立つ、空間に。アイナがその『空間転移』を発動させたんだ・・・っ。アイナが行ってしまうっ!! 

「っ!!」

 さっ、っと俺は反射的にアイナに右手を伸ばす。そんな俺にアイナは安らかな笑顔で、ぎゅっと伸ばした俺の手を、あたたかいその右手で掴んでくれた。

「ケンタ―――、すぐに、、、できるだけ早く公務を終わらせて戻ってきますから・・・そのようなお顔をしないでください・・・っ」

「―――、、、」

 きみこそ、アイナ。アイナだって、さ。

「―――」

 すぅっ、っとアイナとその背後のアターシャの姿が薄らいで、、、二人の姿が薄れるように消えてゆく。俺の右手の、アイナのその手のぬくもりが完全に消えたとき、アイナとアターシャの、、、二人のその姿は完全にこの祖父ちゃんの道場から霞が消えるのと同じように掻き消えた・・・。

「っ―――・・・」

 本当になんだろう、この物寂しさは。アイナと気持ちが離れて別れるというわけじゃないし、周囲に交際を反対されてもう会えないというわけでもないのに、、、。っつ、俺は―――

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