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第3話 本当の再会

「君には本当に申し訳ないことをした。何と言っていいか……」


 頭を下げるおっちゃん。罪を認めないと思って苛立っていたようだが、痴漢の疑いが晴れると一転。平謝りに平謝りを重ねてきた。


「いや、もういいですってば。罪は晴れたんですし。今日は入学式なので、もう失礼します」


 そう言って、そそくさと事務所を退出する。

 そこには、先ほどから心配そうに俺のことを見つめていたゆっちゃんの姿。

 

 嵐山あらしやまゆかり。

 俺の幼馴染で、今日再会を夢見ていた女の子。

 少し垂れ目なところが可愛い。

 茶味がかった、ストレートヘア―が肩までかかっている。

 身長は155cm(本人談)。

 腕も足もほっそりしている。

 ついでにいうと、胸も……少しはある。いや、そういうのは気にしないが。


「みっくん……」

「ゆっちゃん……」


 お互いに同じ時を過ごしていたら、呼び名も変わっていたのだろうか。


「その、ほんとうにごめんなさい。どう償えばいいのかな……」


 ぽろぽろと涙を流しながら、つらそうな顔で、そう謝ってくる。

 考えてみれば、勘違いとはいえ、痴漢冤罪に陥れかけたのだ。そして、その相手は俺と来ている。

 それだけ、謝罪も本気になるのかもしれない。

 でも、何はともあれ、疑いは晴れたし、何よりも好きな子がこんな顔をしているのを見たくない。


「そのさ。ゆっちゃんは悪くないから。運が悪かっただけだから。だから、泣くな」

「でも、私のせいで……」


 ひたすら、涙を流し続けるゆっちゃん。

 そんな姿にいつかの思い出が重なる。


「え?」

「ゆっちゃんは悪くないから。だから、泣くな。な?」


 気が付けば、彼女を抱きしめていた。

 普通に再会していたら、こんなことはできなかっただろうけど。

 今は、彼女の涙を止めたい一心でそうしていたのだった。


「ね。みっくん。どう償えばいいかな」

「いや、だから、償いとかいいから、な?」


 抱きしめながら、そんな会話を交わす。


「いいから。何かさせて」


 ゆっちゃんは頑なに譲らない。

 そういえば、こんな風に意思の強いところもあったか。


「じゃあ、隠し事はしない。とかどうだ?」


 ちょっと冗談めかして、そう言ってみた。


「うん。それくらいでいいなら、喜んで」


 納得してくれたらしい。良かった。


 泣き止んだ様子なので、腕を放すと、彼女はそうお礼を言ったのだった。


「あのね、みっくん」


 少し無理やりな微笑みのゆっちゃん。


「なに?ゆっちゃん」


 問い返す俺。


「ほんとに久しぶり。それと……おかえりなさい」

「こっちこそ。それと……ただいま」


 そうして、俺たちは本当の再会を終えたのだった。


 あれ?何かを忘れている気がしてならない。

 今日は4月8日。入学式の日だ。そして、時刻はもう9時。

 途端に血の気が引いていくのがわかった。


「あのさ、ゆっちゃん」

「なに?みっくん」


 すっかり立ち直った様子で、微笑んでくるゆっちゃん。

 この微笑みを曇らせなければいけないかと思うと心が痛い。


「えーとさ、今日、入学式だろ」

「うん。それが?」


 不思議そうな顔で聞き返してくる。

 まだ混乱から立ち直っていないのだろうか。


「だから、時間」


 そう言って、スマホを指す。


「あ」


 ゆっちゃんの顔が青ざめていくのがわかる。


「私たち、ち、遅刻。入学式に」

「とりあえず、ダッシュだ。行けるか?」

「う、うん」


 そうして、俺たちは、ダッシュで駅を飛び出したのだった。

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