10- 2話 初恋
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夕食を伊藤と運び、俺たちは椅子に腰かけた。洸太が俺の方を見てにやにやしていた。
「なんだよ」
俺は洸太を睨みカレーを口に運んだ。
夕食も終わり、俺と洸太は風呂場に向かった。もう先に入っていたかと思ったが一緒に入ろうぜと着いてきた。
「やだよ、なんでおまえなんかと」
そういうと
「じゃあ、珠希ちゃんの方がいいか?」とニヤつきながら聞いてくる。
「バカか?」
「お前、女には興味ないって感じだけど、意外だな」
「目の前で怪我されちゃたまったもんじゃないだろ」
「そんなこと言って、本当は気になってるんじゃない?」
「いちいちめんどくせえやつだな。…そんなことよりお前は何処にいたんだよ」
「邑上に頼まれたんだよ。二人きりさせてやれって。ま、それでいいもん見せてもらったけどな。お似合いだったぜ」
「やめろよ」
口の軽い洸太が言うんだから本当だろう。
俺が実験の結果をまとめていると邑上が、
「それ手伝うから、この重いのを家庭科室にもっていってくれない?なんでこんなとこにあるんだろう」
とミシンを持って現れた、意味が分からないまま言われたとおりにすると一人でジャガイモを眺め、皮を剥こうとしているやつがいた。本来あるべきところにミシンを置き、手を洗いながら「貸して」と声をかけた。
伊藤は初めて見た時からおどおどしているやつだなと思った。スッと整った顔をしていてその中に上品さが隠れているような人だ。髪を二つ縛りにしているところがどこか幼さが残る。そんな子だった。かといって好きかと聞かれても俺にはわからない。
ただ会話しただけで「すきなのか?」と聞かれたらまともに話せなくなるだろう。そういう人ってどうかと思う。
合宿は5日間だった。ただひたすら先生の実験を決まった時間にメモするだけだった。その決まった時間も3時間ごとで、夜は交互に起きることはせず、布団を敷いて寝るそれだけだった。
「ねえ、4人でどこか行かない?」
そう提案してきたのは邑上だった。
♡
それから夏休みは、夏祭りに行った。少しかわいくなろうと頑張って浴衣を着てみた。
あの合宿の日、私だけでは恥ずかしいからと碧ちゃんにもお願いした。
「しかたないね」
とやれやれ顔で頷いてくれた。
「どうせなら皆で浴衣着るのってどう?男子にも頼んでさ」
「え~やってくれるかな~」
「たまがお願いすればあっさりOKしてくれたりして」
私達はそんなことあるかな~?あるよ。と話していた。
「よう、なに話してんだよ」
と竹林君は会話に入ってきた。
「みんなで夏祭り行くって言ったじゃん?」
「ああ、言ったな」
「皆で浴衣着たいねって話していたんよ」
そうよねと私の顔を見て碧ちゃんは言ってきた。その様子を見て竹林くんは
「…おお。わかった。連に言ってみるよ」
とのりのりでどこかへ行ってしまった。
「お前、どこいってたんだよ」
向こうの方で連くんの声がすると私はそっと廊下を見た。竹林君がなにを話しているのかははっきり聞き取れないけれど一生懸命話しているのがこっちにもわかる。
「…は?」
「だからお願い」
首元に手をやりながら「わかったよ」と連くんは言っていた。竹林くんがこちらをむきピースサインをしてくれた。
夏祭り当日
私は早く着すぎてしまった。
「よ」
と紺色の浴衣を着た連くんが私に気づき隣に立った。
「他は?」
私はまだと首を振った。
「そっか」
何か話そうかと思うけれどなにも出てこない。私は巾着の紐を握りしめ、下を向いていた。
何か着信音が鳴り、連くんは持っていたスマホを耳に当てた。
電話を切り、連くんは私に
「なんか向こうは合流して先に行ってるって」
「そうなのね」
「俺たちも行こうか」
と言ってきた。そっと光るスマホを見ると
「がんばって」
と碧ちゃんから来ていた。
祭りは人が多く迷子になりそうだった。先を歩く連くんの後ろを付いている私は自分だけが舞い上がっているみたいでばかばかしく思えた。
「迷子になるなよ」
といくらか人がひいた所で連くんは手を差し出してきた。
「え?」
とした顔をしていると、
「嫌ならいいけど」
と手を下ろしそうになった。私は慌ててその手を握り、隣を歩いた。近くで見たのは何回もあるけど一番ドキドキした。
それからお祭りを楽しみ、最後の花火まで私達は一緒にいた。
私は帰り際に連くんに告白した。ずっと言おうか悩んでいたけれど、モヤモヤするくらいならと思い切っていってみることにした。
彼は片手を顔に当て
「ありがとう」
と言った。
「嬉しいよ、よろしくな」
とにこっと笑って連くんはそう答えた。