10- 1話 初恋
古川 蓮 16 ★
綾耶 18 ♪
竹林 洸太 16
伊藤 珠希 16 ♡
邑上 碧
★
中三の夏休み。高校選びをどこにするのかと母親に言われ、行きたいところも何もなくやりたいことが見つからなかった俺はただレベルで県内の高校に通うんでいいんじゃないか?と答えておいた。姉が通っているところは避けようかと思ったが、よくよく考えれば(考えなくてもいいが)女子高だったので俺は馬鹿げていると高校案内を放り投げた。
友達は塾を増やしたり、夏期講習だとか言って夏休みは忙しそうにしている。行けるならどこでもいいと思っているのは俺ぐらいだと取り残された気分になる。それでも勉強をしようとは思わない。なんせ好きでもないものをわざわざやろうとは思わなかった。
それから秋の行事が終わり、周りは本格的に受験勉強を始めた。俺もさすがにまずいかと思ったが何処に行こうかすら決めていないから過去問すら解けない。そろそろまずいと思い、担任に相談してみることにした。
「古川は何でもできるから何処でもいいんじゃないか?」
(こいつ…)
生徒の未来に興味はないのかと睨んだが、担任はさっと違う生徒の相談にのっていた。
実際自分はほとんど勉強しなくてもなぜか成績だけはよかった。部活はサッカーに入っていたが、好きでやっているよりかは運動不足解消に近い考えだった。プロになると言って本腰入れてパワフルに走り回っている友人を横目にそいつのパス回しをしていた。
家に帰ってきた父さんに相談した。
「なんだ、まだ決めていなかったのか」
と驚かれたが、やりたいこともないと言えば「まあ、俺もそうだったな」と頷いていた。
結局決めたところは県内の私立高校だった。勉強するのもめんどくさくなり、私立一本に絞った。
そして春、俺は歩いて校門に向かうと後ろから「よ!」と飛んできたやつがいた。
そいつは中学の同じ部だったやつであのパワフルな男だった。名は竹林洸太。クラスも同じだった。
「蓮、お前もサッカー部に入るか?」
「あ~」
俺はやめとくと断ろうとしたが、洸太は俺の手を引き、走った。
「ちょ…お前どこ行くんだよ…」
たどり着いたところはサッカー場だった。先輩たちが場内を走り回っている。
「だから俺はやらないって」
そう言ったが「またまた~、興味がないふりをして」と笑っている。
「じゃあ、連は何部に入るんだ?」
「のんびりと文化部でいいよ」
「サッカー出来るのに?」
もったいない、それにお前はおじいちゃんかよ。という表情をされた。
お前が興味を持ったところに俺も入るわとなぜか洸太もついてきた。吹奏楽、美術、英語に演劇色んな所を回ってきたがどれも興味がわかなかった。
「これで決まんなかったらマジでサッカーやろうぜ」
隣を歩く洸太はずっとそう言っていた。夏に汗ダラダラ掻きながら走るのはカッコ悪いだろとどうでもいいことを言いながら校内歩き回った。
「…それにしてもさ~、お前気づいてないのか?」
校内マップを見ながら歩く俺に洸太は言った。
「なにが?」
「さっきから女子の視線だよ」
「は?」
「…やっぱりか。まあ、連のそのそっけない態度も悪くないな」
「言ってる意味が分かんないんだけど」
「周りの女子、お前見てキャーキャー言ってるぜ。お前はやっぱり気づかないか。なんでそんな鈍感なんかな~」
「気のせいじゃないか?」
「んなわけあるか!」と大きな手で俺の頭を叩いた。
♡
私は高校に入っても友達がなかなか出来なかった。唯一の友達が小学校から一緒の碧ちゃんだけだった。私は今日碧ちゃんと科学部の見学に来ていた。
「いって、なにすんだよ」
「わりぃ」
ワイワイ言いながら男子学生が二人教室に入ってきた。一人はクールな男の子とその隣の少し身長の高いちゃらけた男の子だった。
「見学?」
先輩が二人に声をかけ、二人はうなずいた。
「じゃあ、ここに座って」と先輩は私たちの隣のパイプ椅子を勧めた。私の隣にはクールな男の子が座った。余り緊張しないようにと思っていても緊張しちゃう。私はちらっとその人を見た。
(かっこいいなあ)
私はそう思ってしまい余計に意識して見れなくなってしまった。そんな私を隣に座っていた碧ちゃんは
「どうしたの~?」
とにやにやして笑っていた。
説明会が終わり、私はペンを置いた。
(あの人たちも天文部に入るのかな…?)
先に教室を出て行った二人のことを考えていた。
その日の帰り、碧ちゃんと学校の近くのカフェに寄った。
「たま(私の名前は珠希)、さっきの男子気になるの?」
ドーナツを咥える私を面白そうに見ながら碧ちゃんは聞いてきた。
「ほら、誰だっけ?…うちのクラスの男子だった気がする…」
そう言って碧ちゃんはスマホを開いた。
「あったあった、古川だ」
「…そんなんじゃないって」
あ~、赤くなったとにやにやしながら私を指さす。
「でも、クラスの女子にも人気だったな~」
碧ちゃんは頬杖を突きながら私の反応を見て笑っていた。
次の日の放課後、私は科学部の教室に向かった。
「お前、マジでここに興味持ったの?」
そう話してるのは昨日の男子たちだった。
(来てくれた)
古川君がいると内心喜んだ。
「ここなら落ち着いてできるかなって」
「まあ、そうだよな…」
楽しそうに話している二人をみて私はなんだか嬉しく思った。
「入部者は自己紹介をお願いね。趣味とかなんでも」
と先輩はそう言った。一番手前に座っていた私たちから始めた。
「1年A組、邑上碧です」
淡々と話す碧ちゃんを見上げ、何を話そうか考えていた。碧ちゃんが席に座り、私は慌てて立ち上がった。
「えっと…1年B組の伊藤珠希です…」
緊張で頭の中が真っ白になる…。何とか言い終わり私は椅子に座った。
「A組、古川蓮です…」
自己紹介を聞きながらやっぱりかっこいいなと思ってしまう。小顔で少し長めの髪にキリっとした切れ長の目をしていた。背は高く細身でそれに肩幅が広かった。
「なに、やっぱ見とれてる?」
蓮くんが座った途端、碧ちゃんが私の耳元でそう囁いた。
「やめてよ」と小さく返した途端、
「はい!」
と元気な声がした。見れば蓮くんの隣にいる男子だった。
「同じくA組の竹林洸太っす!」
と威勢のいい声を発したその人物は、連くんよりも長身の男子だった。筋肉質でいかにも体育会系の風でもあり、短髪で明るめの男子だった。
「ほぼクラス一緒だったんすね」
と洸太くんは笑ってそう言った。
「え~気付かなかったの~?」
と碧ちゃんは笑ってそう言った。
「私とたまは小学校から一緒なんだよ」
「へえ、そうなんすね。俺たちも中学から一緒なんだよな」
「…あぁ。そうだな」
4人で話しているうちに竹林くんの話しが面白く笑って聞いていた。気になっていた連くんとはなかなか話せなかったけれどこの4人は楽しい人たちだなと思った。
夏休みになって私たちは合宿があった。先輩は元々三年生だけだったが受験があると合宿には来なかった。それで学校に集まったのは一年生の私たち4人だった。
「今日はスライムを作るか」
と顧問の先生は言っていた。私たちはワイワイと遊びながら実験だのご飯のための料理を作った。
「たま、何を今日作る?」
と碧ちゃんは私に聞いてきた。手には料理本が握られている。
「え~、本格的なのを作るの?」
と私は聞いたが、料理本で腕を叩かれた。
「なに呑気なことを言ってるの、古川と仲良くなるチャンスじゃん」
「…でも私じゃ…」
「何言ってるの。…周りから人気高いけどまだ告白してるのいないんだって。だから今決めないとどうするのよ」
碧ちゃんはにやにやしている。
「ねえ、竹林もそう思うでしょ」
と碧ちゃんは竹林くんにも言い出した。
「…ん?何の話?」
「女子トーク、たまたま竹林がいたから言ってみただけ」
「なんだよ、恋の話か?どうせそうだろ」
「…まあね」
竹林くんはズイズイ聞いてきた。
「もしかして、連のことか?…あいつな~」
「なにかあるの?」
「…いや、俺も知らない」
と笑ってどこかへ行ってしまった。
「使いもんになんないなあ、あいつ」
と碧ちゃんはため息をついた。私は夕食をなに作ろうかと料理本を開いた。
結局私たちが選んだのはカレーだった。あんなに悩んだ挙句にどれも難しくない?と私たちは断念した。
「まあ、ジャガイモが入っていた方がいいのかもね」
と私たちは話し合い、そうすることにした。いざ料理をしてみようかと思ったが私は野菜を切ったことなどなかった。どう切ったらいいんだろうと洗ったばかりのジャガイモを眺めていると
「貸して」
と横から声がした。え?と振り向けば連くんが横に立っていた。包丁とジャガイモを手渡し私は彼の動作に見とれた。手際が良く、手慣れた手つきで皮を向くその動作いちいちかっこいいと思った。
「なにみてんだよ」
と睨まれ、私は慌てて他の作業に取り掛かった。本当は連くんのために作るはずだったカレーを二人で作ることになった。いつの間にか碧ちゃんと竹林くんはいなくなっていた。カレーのルーを入れ煮込む。私は隣で包丁などを洗っている連くんに「後は私がやるよ」と言ったが「大丈夫」と返されてしまった。
「あの…一つ聞いてもいい?」
私は思い切って連くんに聞いてみたいことを聞いてみた。
「ん?」と手を止めずに返事をした彼に「好きな食べ物とか、嫌いな食べ物とかあるの?」と聞いてみた。
「…まあ、何でも好きかな。嫌いなものは…パクチーくらい?」
「それ皆嫌いよ」
と私が突っこむと彼はにこっと笑ってくれた。素っ気なく怖い感じがした彼が笑うのを初めて見て嬉しく思った。彼が洗ってくれるものを私は布巾で拭きながら
「さっきはありがとうね」
とお礼を言った。
「危なっかしかったからね」
「そんなことないよ。…でも古川くんは料理はうまいの?」
「…姉さんにいつもやれって言われんだよ」
「古川くん、お姉さんいたのね」
黙って頷く彼をみてなんか新鮮な感じがして、心が躍った。
「あ!」
鍋から泡が出ていた。私たちは顔を見合わせて笑った。