7話 芸術家
中島 祐樹
趣味:カメラ 将来カメラマンになるのが夢
濱町芸術学校
沢田 浩司
中島の友人 末廣大学に通う 祐樹の友達
松田 沙織
緑華学園末廣大学に通う亮介と付き合っている
小林 千絵
宮本 夏鈴
祐樹と同じ学校に通う
桜がそろそろ咲くころ私はレストランに向かっていた。
「こんにちは」
そう私の前で挨拶した人物はとてもハンサムとは言えない人だった。話を聞けば夢に向かって一生懸命突き進む人で、あの頃の夢なんてなかった私には光り輝いて見えていたのかもしれない。彼の名前は中島祐樹。趣味は写真を撮ることなのだそうだ。
私たちはこの合コンがきっかけで付き合うことになった。毎日のように学校が終われば彼と一緒に帰っていた。路線は違うけど二人とも上西本町に住んでいた。蔵町で待ち合わせをしてそこから一緒に帰る。朝も時間が合えば蔵町まで一緒に登校していた。そこから彼は北上していく黒北線に乗り7個目の濱町駅で降りる。そこにある濱町芸術学校に通うもうすぐ2年生だった。私は蔵町駅から東に行く東海線の緑華大学だ。蔵町はこの地域の中で一番大きな駅だ。たまにの休みの日には彼と蔵町に行くこともしばしばあった。
ゴールデンウィークには彼がどうしても趣味の写真を撮りたいと神社や雰囲気のある歴史的建造物や西洋をイメージして作られた建物がある場所へ行った。私は彼が一生懸命撮っているその姿がとてもかっこよく見えた。オシャレには興味がないのかいつも真っ黒い服を着て首からカメラを提げたまにいいスポットがあればカメラを構える。その一つ一つの動きが私には芸術に見えた。勿論私には芸術ってものがわからない。ごちゃごちゃに描かれた絵を芸術だという人をみて「どこが?」と思ってしまう部類に私はいた。
彼が撮っているときは私は暇だった。でも、彼の大好きなものを応援してあげようと思っていたから退屈には思えなかった。
そんなある日、彼が一人の男を連れてきたことがあった。その日は二人とも終わる時間がお昼前だったのでいつもの蔵町でお昼を食べようということだった。
「あ、紹介するね。こいつ、俺の友人の沢田浩司。今は末廣大学に通っているんだけど、中学まで俺たちは一緒だったんだ」
沢田さんはぺこりとおじぎをして「どうも」と言った。そして彼に
「俺が来ちゃって本当に大丈夫だった?」
話を聞けば、沢田さんが「お昼一緒にどうだ?」と帰りの電車でたまたまあった為聞いたところ「彼女いるけど一緒に食おうぜ」と言い、それを聞き遠慮した沢田さんを強引に連れてきたらしい。
「まあ、人数多い方が楽しいし。お前も嫌じゃないだろう?」
気まずくて黙っている私たちに彼は言った。
「なんだよお前ら、暗いぞ」
「あ…。そうね。私は小林千絵です。今は、緑華大学に通う2年生です」
「…どうも。…千絵さんは専攻は何です?」
「…えっと…英文学です」
「俺も!え?イギリスですか?アメリカとかですか?」
私は沢田さんと文学の話で盛り上がった。気が付くと祐樹を置いてけぼりにしていた。
「じゃあ、今度『カンタベリー物語』貸してやるよ。上中下ってあるからまずは上でいいよな」
「うん、読んでみたかったから嬉しい。ありがとう」
沢田さんはチラッと祐樹を見ると、
「祐樹に渡しとくよ。お前もその方がいいだろ」
「…あぁ、そうだな」
そのうち沢田さんは「ありがとうな」と言って店を出て行った。私たち二人が残され祐樹が
「そんなに楽しかったか?」
と聞いてきた。
「なにが?」
と答えると
「いや…別に」と話を濁してしまった。
「なに?嫉妬~?」
にやにやして聞く私に「うるせえ」とそっぽを向いてしまった。
後日、祐樹を伝って沢田さんから本が届いた。家に帰って中を開くと
《この間は、デートの邪魔しちゃってごめんな。本を読んだら感想を聞かせて》
と小さな付箋がついていた。思わず口元がにやけてしまう。
それから私のおすすめの本を送ったり、向こうからのおすすめが来たりそういう日が続いた。勿論付箋でのやり取りは欠かせなかった。もともと祐樹が私の携帯のチェックをするときがあったのでLINEは交換できなかったが本に挟んだ手紙のやり取りだけで十分だった。
「そういえば、この間のデートはどうだったのよ」
食堂でお弁当を食べていると友人の沙織が聞いてきた。
「まあまあ?」
「よく千絵ってそういう人と付き合えるねって思っていたけど、案外お似合いなんかもね」
「やめてよ~」
沙織は末廣大学に通う男の人とつきあっている。
「でもね、またあの人写真に夢中で私が着いていかないとほんとに置いてがれそうになるんだから」
「それって眼中にないだけじゃない?」
「…そうかな~。それに、‹この写真とこれどっちがいい?›って聞かれたんだけどどれも一緒に見えちゃって迷って適当に‹最初の?›って答えたらさ、‹え?これこれはなになにがいいけど、アレアレはなになにのピントが合ってないからっどうの›って。じゃあ、私の意見いる?って思ったわ」
「あ~、オタクの典型的なパターン?」
「夢に向かって進むのはいいと思うけどさ、それを私に押し付けんなよとも思うんよ。ってか、デートしてる意味あるんか!って突っ込みたくなるわ」
「…つまり、それ話が合わないんじゃないの?千絵が無理やり合わせてるだけでしょ?」
「…そうなんかな~」
その時、私の隣にあった一冊の本が誰かか私たちのテーブルにかさって落ちた。落ちた拍子に一枚の紙が落ちた。
「あ~ぁ」
私よりも先に沙織が拾う。
「これって男の字じゃない?」
小さな紙も見られた。
「あっちょっと返して」
私が伸ばした右手を沙織は払った。
「《千絵のおすすめの本面白かったよ。まだ途中だけど》って書いてあるけど、《浩司》ってあんたの彼氏じゃないのね?」
キラキラした目で私を見た。
「そんなんじゃないよ。ただ、祐樹の友達でこの間知り合ってから話が合ってやり取りが続いているだけ」
「…ふーん」
にやにやした目でこちらをまだ見ている
「なによ」
「いや、別にぃ~」
そんなある日、私は祐樹の学校のブログを見ていた。
「なにこれ…」
そこには男女が仲良く映っており、男の方が女にボディータッチしていた。
「…」
男はどう見ても祐樹だった。
(この女誰よ…)
その女はカエルのように目が離れていて出っ歯だった。それでも一見かわいく見えるのが不思議だ。そのうえ巨乳の女だった。
私は急いで祐樹に電話をした。
「ねえ、祐樹は学校で何をやってるの?遊んでるんじゃないの?」
「そんなことないよ」
祐樹の言い訳を聞きながらさらにその学校に通う人のTwitterを見てみれば、大学専用のカレカノというものが存在するらしかった。
(大学専用?なにそれ)
聞いたことないわそんなの。と思いながら色々探ってみると、カエル女の名前が分かった。名前が宮本夏鈴。周りから探ってみると面白いものがたくさん見えてきた。
(人にはあれこれ私の携帯をチェックしているくせに、自分は何よ)
怒りを感じ、
「分かれましょ、私たち。前からあんたと話が合わないって思っていたし」
「……………………」
長い沈黙が続いた。そして
「うん、分かった。俺もそう思っていたんだ。お前みたいに芸術のセンスがない奴と話しているよりは夏鈴と話していた方が楽しいし」
初めてヤツの口から女の名前を聞いた。私はまだ何も言っていないのに。
「それに俺は知っていたよ。浩司と連絡を取り合っているくらいはよ。本を貸し合いっこしながら、本に紙挟んでるだろ。この間見たよ。お前も人のこと言えないよな」
「私は感想を言い合っていただけよ」
「俺もだよ、作品の相談をお互いしていただけだよ」
「…」
「でも結局は一緒なんだよ、俺たち」
「あんたと一緒にしないで、私は直接会っていたりなんかしてないんだから」
頭にきて電話を切った。
「で、分かれちゃったのか…」
「うん」
「まあ、そうなるだろうとは思った~」
次の休みの日、私は沙織に報告をした。
「この間の話から、何も愛なんてものがなかったのよね。どうして二人って付き合ってるんだろうとも思っていたし」
「なんで早くいってくれなかったの?」
「それは自分で答えをさがすもんかな~」
と言いながら沙織はコーヒーを啜った。