10-11話 初恋
洸太ではないことはすぐにわかった。後ろを向くと数人の男が立っていた。
「…誰?」眉を寄せる俺に真ん中にいた男が近寄ってきた。この感じ…。高校の時の嫌な記憶が蘇る。散々な思いをしたあの日。(洸太…)自分でも気づかないうちに洸太を呼んでいた。自分の弱さに胸が痛んだ。
「よう、久しぶりだな」と真ん中の男はそう言った。
「は?」記憶を辿ったが誰だかさっぱりわからなかった。
「古川蓮、お前と竹林洸太は結構昔から有名だよな」
ゆっくりと近づいてくる。俺はゆっくりと後ろに下がる。後ろにいる学生に小さく
「ここから離れろ」と言った。急に現れた奴らにおびえているらしく動けずにいた。「逃げろ」もう一度俺はそう言った。パタパタと離れていく足音を背に俺はキッと近づいてくるやつを睨んだ。全然誰だかわからない。
「二人のことは中学から知っているよ。特に古川、お前にはむかついているよ」全然知らないやつから反感を買うこともいくらかあった。
「まあ、あん時お前に怪我負わせたの俺なんだけどな。最高に笑ったよ」
「…」周りのやつも笑っていた。
「あん時のマネージャーは俺の彼女だったんだ。それなのに、お前に興味持ったって言われたときは無性に腹が立ったよ」
「は?」
「その顔がむかつくんだよ」
「…」
「なぁ、いい加減にしてくれよ。さっきだって俺のタイプの女だったんだぜ?」
「…知らねえよ」そういう俺にそいつは俺の顔面を殴った。反動で飛ばされ椅子に背中を強打した。
「なぁ、なんでなんだよ。前ので懲りたんじゃねぇのかよ」
更にゆっくりと近づいてきた。
「弱っちいな」俺の胸倉を掴みこぶしを振り上げた。何発も殴られる。笑い声が聞こえる。俺はギュッと目を閉じ俺は顔を背けた。ドンっと音がし恐る恐る目を開けると洸太が立っていた。
「洸太…」
「あれから部活退部になったんだ…。お前のせいなんだよ」
「いい加減にしろよ」洸太は大声をあげた。
「大人数でこんなことする奴がかっこいいわけねぇだろ」そう言って大人数をなぎ倒していった。洸太の背後から棒を振り上げたリーダー格の男が襲ってきた。
「洸太!」俺は慌てて中に割って入った。
ガツンと目の前に星が飛んだ。俺は膝から崩れ落ちた。
「蓮!」その声を聞いて俺は意識を失った。
救急車に乗った俺は自分を憎んだ。なぜあの時早めに気づかなかったんだろう。俺は奴らが食堂に入っていくのを見ていたのに。どこかで見覚えがあると思っていた。それなのに。
病院での検査が終わり、俺は病室のベットで眠る蓮の傍にいた。
後ろから黒沢が襲ってきて俺が振り返った途端蓮が横から俺を庇うように飛んできたのだった。弾き飛ばされた俺は慌てて蓮の方を向いた。黒沢は振り下ろした鉄の棒をもう一度振り上げた。「蓮!」俺が叫んだのと同時に蓮の頭に直撃した。カラン…と金属音が響いた。黒沢の手は震え、倒れる蓮を見下ろしていた。
「ざまぁ見ろだ。てめえなんかな」
そう言って足をあげた。すかさず俺は蹴りをいれそれを阻止した。
「これ以上蓮に手を出すな」
そう言うと怯みながら去っていった。
(もし蓮が死んだら…)
そう思うと心が痛む。眠っている蓮の手を握った。もゾッと手が動いたのに気づき顔をあげた。包帯をしていない方の目がうっすらと開けた。
あれから数日が経った。頭にはまだ包帯をしたままだが意識は戻り、順調だった。
「よ!」
ベットの上で本を読んでいた蓮に声をかけた。
「もう大丈夫そうだな」
にこっと笑って頷いて見せた。俺はそれを見て安心した。
「…なぁ」
「ん?」
俺が持ってきた和菓子を食べながら蓮が話し始めた。
「あれからあいつの言ってたことを考えたんだ」
「…あぁ、黒沢か?」
「うん。もしかしたら俺嵌められたんかなって思ってさ」
「……どういうことだ?」
「…都合よく黒沢が来るなんてないだろ」
「……」
確かにそれは言えてる。あの日、蓮に話しかけた女を調べてみる必要があるのかもしれない。
「わかった。確かに言えてるかもな」
「…」
「俺も薄々気になってはいたんだ。調べてみよっか」
「気をつけろよ」
「お前こそ、ここで入院していることくらい黒沢は知っているはずだ。出来ればここから離れたくはないんだが…」
「…何言ってるんだよ」
蓮は笑っているが嫌な予感がする。頭を叩かれ血を流しても尚黒沢は止めを刺さんとばかりに殺気立っていた。
(いったいお前は何をしたんだよ)
「洸太…俺は大丈夫だから、調べてくれないか?」
「……」
「……」
「分かった。すぐ戻るわ」
「…」
とは言ったものの、どう調べたらいいのか全く分からない。あの女に聞いてみるか?直接行くべきか?それとも何日間か観察した方が。でも…。学校に向かいながら色々なことを考えた。取り敢えず探すか…。名前も知らない人を探すのには手間がかかる。蓮に聞けばいいのだがあいつさえ覚えていなかった。
授業が終わり俺は早速探し始めた。ふと廊下を歩いているとこの間の女の友人らしき人がこちらに向かって歩いてきた。
「あの…」
と声をかけ呼び止める。一瞬警戒されたが、誰だかわかったらしく
「あぁ~、古川君のお友達ですよね」
と言われた。
(どんだけあいつ有名なんだよ)
と思ったが、あの時の女はどこにいるのかを尋ねた。
「瑞子ならさっきまで一緒だったよ。なんか用事思い出したってどこか行っちゃったけど。何かあったの?」俺は先日合ったことなどを話し、
「その瑞子がかかわっているのでは?」と話した。友人は驚き顔を真っ赤にして
「そんなことない、そもそも黒沢って誰よ。私は前から恋愛相談追っていたのよ。瑞子が好きな男の子にそんなことをするはずがない」とキレた。
「ごめん、だが何かがおかしいんだ」
と小さな声で言っていると後ろから足音が聞こえた。