10-9話 初恋
蓮をベットに寝かせた。綾耶さんの話だとかなりの複雑骨折らしかった。
「多分後遺症が残るんじゃないかなぁ」
とも言っていた。俺は寝ている蓮を見た。
「お邪魔しました」と俺は挨拶し家を出た。
(後遺症…)
それは何だろうか。歩けなくなるとか?以前も足首を捻りシップで誤魔化していたらしかった。それが今回で大きく出たらしい。俺は相手チームを恨んだ。俺からはよく見えなかったが、チームメイトが
「古川、相手チームに足引っ掛けられて押されてたよな」
という話をしていた。
「そうだったのか?」
「うん、かなり残酷だよな。顧問も顧問で試合に出さないの一点張り。古川は特に何にもしてないのにな。運が悪かったよ」
チームメイトは俯いたままそう言った。
(あれがもし俺だったら…)
そう思うと怖くなった。スポーツマンシップ…という言葉を心の中の自分が囁く。
(今更何を言っているんだ。俺が欠けていたわけじゃない。蓮だってそうだ。相手チームは今頃のほほんと何も考えずに暮らしているのだろうか)
下唇から血の味がした。
(俺の時間まで止めてどうする)
今日も蓮の家に行こう。
毎日蓮の家に行ってはそこで宿題をしていた。奴は授業にも塾にも行っていない癖に頭がいいから俺が分からないことは教科書見ただけで理解し、教えてくれる。出来上がった宿題のノートを蓮のを含めて先生に毎日出した。最初は先生は驚いていた。
やがて、あれから二週間が経って蓮が学校に来るようになった。きっかけは俺もわからない。ただ、その前の日に
「明日学校行こうかな」
と蓮が言っていた。だから俺は
「明日の朝一緒に行こう」
と言った。蓮は嬉しそうに頷いた。
約束通り俺は蓮の家に向かった。松葉杖を突いて玄関から現れた。俺は黙って蓮のサブバックを自分の肩にかけた。
やっと学校に来るようになって俺たちは毎日一緒にいた。何か相談したいことは蓮にだったら何でも話せた。奴からのアドバイスは大してなかったが、話しているだけでも心がすっきりした。
碧に告白され、OK貰ってから何日か経った。俺たちは四人でどこか出かけたり、碧と二人きりになったりと恋人になった日々を楽しんだ。
だけど一つだけ俺にとって不満がある。碧から何もアクションがないことだった。そのことを蓮に話したことがある。
「アクションって例えば?」
「全部受け身なんだよ、嫌がっている様子がないからいいんだけどさ」
「…」
「たまには向こうからのアプローチはないのかなって」
「…」
「変なことを言ってるのは俺もわかる。でも少しぐらい欲しいんだ」
「…」
「なあ、どう思う?」
「…照れているだけなんじゃん?」
やっぱり冷めた声で言う。俺はこんなに真剣に相談しているのに。
「蓮はないのか?悩みとか」
「…」
黙って首を傾げていた。
「そっか、いいな~」
椅子の背もたれに寄りかかり顔を上にあげてそう言った。
~第二章終わり~