10-8話 初恋
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まさか碧がOKしてくれるとは思っていなかった。そのことを蓮に話せば
「あぁ、よかったじゃん」
としか言わない。こいつ…。
昔から何かと冷めている奴だなと思っていた。でも俺はあの日からこいつは変わったんだと知っていた。
あれは練習試合だった。他中との試合で蓮はボールを蹴っていた。周りに敵に囲まれ俺はパス回ししろと手を挙げた。その時だった。蓮が変な風によろめき倒れた。俺はすかさず蓮の元へ走った。片手で足首をおさえ反対の手で頭をおさえていた。
「大丈夫か?」
「つっ…」
おさえている足首は紫色に大きく腫れていた。それでも試合は止まらなかった。ただ一人が転んだだけに見られていた。俺はどうしたらいいのかわからず焦った。顧問を呼ぼうとしたが蓮に「やめろ」と言われた。俺たちの顧問は怪我をしたやつは絶対に試合に出さないという偏屈な奴だった。俺はそっと蓮に肩を貸して歩いて保健室へ向かった。歩くたびに痛がる蓮を俺は見てやれなかった。「おぶろうか?」と提案したが「やだ」と返された。
保健室で擦りむいた腕などを消毒してもらい、俺たちは蓮の親が迎えに来るのを待った。
「ごめんな」
と蓮は言った。彼の細い足首が大きく腫れて痛そうで俺は顔を背けた。
その次の日、蓮は学校に来なくなった。心配になって今日の宿題などを伝えに俺は家に向かった。ピンポンする勇気がなぜか出ずウロウロしていると「どうしたの?」と同じ制服を着た人が立っていた。蓮のお姉さんだった。綾耶さんは
「蓮のお友達かな?」
と聞くとカギを開けてくれた。俺は恥ずかしくて綾耶さんに今日のプリントを渡して走っていった。
その次の日も俺は蓮の家に向かった。何日かそのことを繰り返していると綾耶さんに部屋を案内された。部屋にはベットを背もたれにしてギプスをした足を延ばしてボーっとしている蓮がいた。
「…よぉ」
俺が片手をあげ挨拶をすると口元がニコっと笑った。
「日頃何してるんだ?」
「趣味とか何もないし、寝てるだけ」
「ご飯は?」
「食欲がない」
「食べないと早く治んないぞ」
「まぁそうだけど…」
俺は蓮の隣に座った。話すことが思いつかなかった。綾耶さんがオレンジジュースを持ってきてくれた。俺たちはそのジュースを黙って飲んだ。
「今日はどうしたん?」
「今日は宿題ないってさ」
「…そっか」
「うん」
(無いのになんで俺は来たんだろう…。)
今になって気付いた。連は「帰れ」とは言わなかった。
「まだ足痛むのか?」
「…」
俺の質問に返事はなかった。肩に何かが当たった。
蓮が目を閉じて俺に寄りかかり寝ていた。