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youth  作者: 園田美栞
14/24

10-7話 初恋

私達は綾耶さんが一人暮らしをしている家へ向かった。私たちのカフェでの長話と興味本位で終電を逃してしまった。私は親にメールを送信し、綾耶さんの家へ泊ることにした。

「さっき変なものを見せちゃって、それにこんな汚い部屋でごめんね」

とどう見ても綺麗に整頓された部屋へ案内された。

「いえいえ、おじゃまします」

そう言って私たちは持っていたカバンを置き床に座った。綾耶さんは明日学校はないのかと聞いてきたが、明日は祝日で休みだと伝えると「あ、そうよね」と照れ笑いをして見せた。私たちはまずお風呂に入ることにした。「後でゆっくり話がしたい」と綾耶さんが言っていたからだった。お風呂から上がり、借りたパジャマを着て私たちはカーペットのある部屋で寝そべった。

「そういえば、さっき何があったんですか?すごく大きな喧嘩をしていたように見えましたが」

と碧ちゃんはストレートに聞いた。

綾耶さんは今までのいきさつを話してくれた。



 私は大学生になり、高校と同じ女子大学へ通うことにした。私は両親の反対を押し切り一人暮らしをすることにした。最初はやっぱり心配だったようでたくさんメールが来た。でも私は気に入らないという風にそれを無視続けた。それに私はアルバイトをして最初に住んでいたところとは違うところへ引っ越した。学費以外は親に負担かけるつもりなんてなかった。私は自由になりたかった。そう一心でその一年は頑張った。でも私自身、弟の蓮とは違って勉強するのは苦痛だった。なんでもこなせる蓮とは全くの正反対だった。幼い時からなにかと部屋にこもって努力して勉強をしていた。私は努力していることを人に見せるのも嫌だったので、周りからは羨ましがれていた。

(私はそんなんじゃない)

と心の中で言い続けていた。本当は何もかもがつらくなっていたことを誰かに伝えたかった。でも私の変なプライドがそうすることを許さなかった。そんな葛藤を続け、私は大学生になった二年目、一気にやる気をなくした。遊び癖が付いたのかもしれない。私自身、勉強のほかに彼氏を作り休みの日にはどこかへ出かけた。当時は本当に楽しかった。でもそれは三か月で終わってしまう。理由は、相手の浮気がほとんどだった。

「お前といると苦痛」だと分かれるたびに言われた。意味が分からなかった。女としての最低限の努力はしている。付き合いだした最初のころは「お前は自慢になるんだよ、綺麗だから」と言われ、綺麗になる努力をした。毎朝毎晩ストレッチは欠かさず、食事もカロリーを気にし、肌も綺麗になるような努力をし、美脚になるといわれるサプリを飲んだりと考えられることはすべてやった。それなのに「苦痛」だと…。今日まで付き合っていた彼氏にも言われたことだった。

 前々から浮気しているのはもう勘で分かっていた。

(あとは証拠だけ)

そう思いながら私はふらふらと出かけた。懐かしい弟と洸ちゃんに会い、洸ちゃんが教えてくれたパンケーキ屋に向かい、すべて考えをまとめようと食べながら考えていた。

「ねぇ。ここほんとにいいの?」

「みっちゃんが前から食べたいと言っていた店さ、何でも好きなの頼みなよ」

「やだぁ、覚えてくれてたの~?嬉しい」

大して高くもない店でなにイチャコラしてんだと思いながらコーヒーを啜った。ふとさっきのカップルを見ると男に見覚えがあった。後ろ姿で見間違えかなと思ったが横目でチラッと見るとやはり彼氏だった。気づかれないように写真を撮り、そっとビデオを回した。

 カップルが店を出て行った。私はその後をそっとついていった。二人が向かった先はホテルだった。向かいのホテルの入り口が良く見えるカフェへ向かい窓から見下ろした。左腕の時計を確認しながら先ほどとった入っていく二人の写真の時間を眺めた。かなり時間がかかる。日は暮れ、終電間際になった。私は二人を見失ったかと焦った。カフェは閉店時間になり私は店の外へ出た。まだ出てきていないと思った私は入口の陰から待つことにした。

「ねぇちゃん、こんなとこでどうしたん?」

と変な男どもを振り払いながら待っていると、ようやくあのカップルは出てきた。しつこく伸びてくる手を捻り曲げ、私はそのカップルの後を追った。

「じゃあね」

「後で連絡する」

とあの公園で二人は別れて行った。

(なぜ公園なんだろう)

女は道路をスタスタと歩く。男は手を振りながらその女の後姿を見送っていた。


「わ、びっくりした」

黙って立つ私に男は驚いたように見せた。

「なにしてるの?」

冷たい声が夜の中を流れた。


 私は一通り話し終わった。黙って聞いてくれていた、蓮の彼女さん(名前を憶えていない)は涙を流した。

「酷いですよ」

その友達は怒っていた。

「綾耶さんはスタイル良くてきれいな人だから多分男が引け目を感じていたんですよ。だからと言ってその人に合わせなくていいと思います」

「周りからさんざん言われたのよ…私自信無くしちゃって」

「私も、気にしなくていいと思います」

泣いてくれていた蓮の彼女さんは赤べこのようにうなずきながら言った。



 「やっぱりそうよね、彼氏って彼女のために何か特別にしてくれる人のことを言うのかもしてないわね」

長く話していた最後に綾耶さんはそう言った。

(何か特別にしてくれること)

あいつにあっただろうか。今日告白してくれた。あたしは綾耶さんの話を聞いてそんな人とは関わりたくないと思った。竹林がそんなやつとは限らない。

「碧ちゃん?」

考え込んでいるあたしを心配している。綾耶さんもきょとんとした顔をしているけど「大丈夫?」と聞いてきた。

「あ…すみません、考え事をしちゃって」

「考え事?…あ!恋の悩みかな?」

綾耶さんはニコっと笑って聞いてきた。

「でも…」

「私のことは全然気にしなくていいから、ぜひ聞かせてほしいな」

と笑う綾耶さんはやっぱり綺麗だった。

 あたしは今日合ったことを簡単に話した。

「へぇ、あの洸ちゃんがね~」

「あ!碧ちゃん、綾耶さんに竹林くんがどんな子だか聞いてみたら?」

目をキラキラさせてあたしに提案してきた。

「洸ちゃん?余り知らないけど…」

あたしたちはなんて話すのか前のめりになった。

「いい子だったよ。優しい子かな」

「へぇ」

「中学の時だけどね、蓮と洸ちゃんって確か同じ部活じゃなかったかしら?蓮ったら学校生活にあまり今日もない風にしてたけど、洸ちゃんの話はよく聞いたわ」

綾耶さんから聞かされる少年の時の二人の様子が今じゃ考えが付かなかった。特に古川の方だった。

「蓮ったら、洸ちゃんと一緒に練習していたんだけどね、[俺の方があいつよりもうまいんだ]って自慢していたわ。だけどね、蓮が怪我でできなくなったことがあったの。足首を骨折して、あの子サッカー好きだから何日か休んでいたわね。その間ずっとプリントを持ってきてくれたり、何かと毎日来てくれたのが洸ちゃんだったわね。蓮も洸ちゃんのおかげで学校行くようになって、その後の部活にも出たけど様子を見ていたら何かと蓮に気にかけているのがわかったわ」

何年か前の二人の様子が頭の中に映し出される。確かに竹林はああ見えていいところもある。

「でも、竹林くんってみんなに優しいわけでもなさそうなんだよね」

たまがぽそっと呟いた。

「今日ね、四人で出かけようってなったけど最終的には碧ちゃんと二人になりたいって言っていたんだよ」

「そうなの?」

あたしたちの会話を笑顔で黙って綾耶さんは聞いている。やがて「ちょっとお茶入れてくるわね」と席を立ってしまった。

「竹林君は碧ちゃんのことを大事にしてくれそう」

「たまもそう思う?」

「うん!」

「…そっか」

話が落ち着いた頃を見計らって綾耶さんはポットとティーパックを持ってきた。

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