10-6話 初恋
その週の日曜日、俺たちは弁財天の像の前にいた。
「おっそいね~」
たまに背伸びをしながら遠くを見る珠希がかわいくて仕方がない。その動作一つ一つが愛おしい。
「あら?」
俺の背後から女の声が聞こえた。俺たちはその声の方へ振り返った。
「あ、蓮じゃん」
♡
蓮くんに声をかけた女性はスタスタと私たちのところへ向かってきた。
「なんだよ…」
「まっさかれんがここにいるとはね~」
とその女性は蓮くんと話をしている。
(誰…?)
私はそう思ったが怖くて聞くことが出来ず、二人が話している会話の中にも入れずただただじっとしていた。
「お待たせ!」
そう言って私の肩を叩くものがいた。
「碧ちゃん」
「ごめんね。電車が遅れてて…」
碧ちゃんもその女の人に気づいて黙った。その女の人は碧ちゃんの後ろにいた竹林君に気づき「えっと、洸ちゃんだっけ?久しぶりね~」とあいさつをしていた。
「そうっすね」と三人での会話が始まり、益々私たちは取り残されている感が強くなった。
「誰?」と碧ちゃんは小声で私に聞いてきた。
「私だって知らないよ」
と答える私に碧ちゃんはため息をついた。
「ねえ、竹林」
と碧ちゃんは聞き出そうとした。
「ん?あぁ、あの人ただ蓮のお姉さんだよ。今一人暮らししてるんだってさ」
「「ええ~!!」」
驚いて大きな声を出した私たちに蓮くんとお姉さんはびっくりしてこっちを向いた。
「…えっと…」
ちょっと引き気味にお姉さんは私たちの方を見て言った。
「あぁ、俺の彼女の珠希だよ」
「とその友達の邑上碧です」
蓮くんが紹介してくれた後に碧ちゃんはペコっと挨拶をしてお辞儀をした。私も慌てて頭を下げた。
「珠希ちゃんと碧ちゃんね。こんにちは、蓮の姉の綾耶です」
綾耶さんは笑顔でそう答えた。
「へえ、蓮に彼女いたのね~」
と私の横を歩く綾耶さんはそう言った。綾耶さんはモデルのように身長が高くスタイルがすごくいい人だ。小顔で凛としたその顔はまるで一匹狼のようにかっこよく見えた。それに蓮くんと歩いているとモデル姉弟が歩いているようでキラキラして見える。
「…まあ…。って姉さんはいつまでついてくるんだよ」
「えっと…方面がこっちだから?」
ふふっと笑う綾耶さんはとても綺麗だった。
「どこ行く予定なんだよ」
「うーん、何も考えていないかな。…ねえ、蓮はどこかいいお店知らない?最近イライラしちゃって甘いもの食べたいんだよね~」
「…」
「はいはい!知ってます!」
知らないというように首を振る蓮君の隣で竹林君は「あそこにいい店がある」と私たちが行く方と逆の方を指さして教えていた。
「あそこのパンケーキがめっちゃうまいって有名なんすよ」
「そうなのね、じゃあ、邪魔しちゃ悪いしそこいこうかしら」
と綾耶さんはひらひらと手を振って竹林くんが指さす方へ向かっていった。
「お姉さんって綺麗な人だね」
と別れた後に蓮くんにそう言うと
「まぁ」
という返事が返ってきた。
「あの人モテそうだけど結構男に振られてんだよな」
と竹林君はしみじみと言った。
「え?あんなにきれいな人なのに?」
と碧ちゃんも驚いてる。
私も不思議でたまらなかった。
その日のダブルデートは面白おかしく終わった。
帰り道、私と碧ちゃんは二人で並んで帰ることにした。竹林くんからの告白があり
「ちょっと考えさせて」と碧ちゃんは答えたらしかった。蓮くんは引きつった笑いの竹林くんを連れて帰っていった。私もその方がいいと思い、碧ちゃんに一緒の帰ろと提案した。
「びっくりしたな~」
と、碧ちゃんはドーナツを咥えながらそう言った。
「OKできそう?」
と私が聞くと
「うーん、わっかんないなあ。そんな好きっていう風に思ったことないし、第一、竹林だよ?あんなお調子者、あれが告白なんだかわっかんないよ」
「それもそうかもね」
「なにがおかしいのさ」
笑う私に口をとがらして碧ちゃんか食いついてきた。
「古川とはもうギクシャクしたのは消えたみたいね」
「うん!」
「そっか」
喜んで答える私に碧ちゃんは笑っていた。
すっかり暗くなり、人通りもあまりなくなった頃私たちは時計を見て慌てて帰ろうとお店の外へ出た。
「結構話しちゃったね」
「時間忘れちゃったよ」と暗い道を歩いていると目の前から声が聞こえた。
「いったいどういうつもりよ…」
私たちは顔を見合わせ、興味本位でその声がする方へ走って行った。電柱の陰から見ればそこには綾耶さんが知らない男の人と言い合いをしていた。綾耶さんが男の人の横っ面を叩き、走って公園を出て行った。公園の出口に私たちがいたので、綾耶さんは
「わ、びっくりした~」と私たちに驚いた顔を見せた。
「…どうしたんですか?」
と碧ちゃんは聞いた。
その声で綾耶さんはわーと両手で顔を覆って泣き出した。私は黙って言い合いをしていた男の人を見た。目が合うと慌てどこかへいなくなってしまった。