10- 5話 初恋
~2章~
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「頼む、お願いだ」
俺はなんていう願い事を聞かされているんだ?そう思い思わずため息が出る。
「邑上から好きなタイプを聞けって…」
「だって俺が聞いたら意味ないだろ?」
「?」
竹林が言っている意味が分からず思わず首を傾げた。
「あのな~、…あーもうどうしよう」
目の前で竹林が頭を掻く。
「ストレートに言ったらどうなんだよ」
「おまえ、乙女心が分かってないなあ」
「お前乙女じゃないだろ」
「要するに、俺の心はピュアだからそう言うのは聞けないの」
「あー、はいそうですか」
「あー蓮、流しやがったな」
俺は笑いながら手にしていた箸で弁当の続きを食べた。
帰り道、珠希は俺の横を歩きながら
「ねえ、昨日ね。竹林くんから連絡が来たの。碧ちゃんのことが好きなんだって。でも不安なんだって」
俺はその話を聞きながら、またかと思った。
「今度、碧ちゃんの誕生日があるでしょう?私、そのことをこの間教えてあげたの。そしたらね、一緒にプレゼント選びについてってほしいって。連くんも来てくれない?」
「なんで俺も?」
「なんでって、連くんは嫌じゃないの?自分の彼女が友達でもほかの男子とどこか行くんだよ?」
「あ~そっか…」
何も考えていなかった。珠希は不安そうな目でこちらを見てくる。
「でも私思うのよ」
「まあ、プレゼントって何あげるよりかは、まず気持ちなんじゃないかな。珠希が着いていったら意味ないんじゃないかな」
「そう!私が言いたいのはそのこと!私が例えば選んで「これがいいんじゃない?」っていっても、その物は私が選んだんだから意味ないのよね。どういうのをあげたら喜ぶとか、選びながらその人のことを思っているっていうだけでも十分だと思うのよ」
「……」
珠希はカバンを握りしめながらそう言っていた。以前言われたことが俺の胸に突き刺さる。
あれは珠希の誕生日の時だった。
初めて人にあげるものだったからなにをあげようかかなり悩んだ。だから俺は珠希と仲のいい邑上に珠希の好きなものを聞いた。邑上は「何でもいいんじゃない?」と言っていたが、俺がしつこく聞くもんだから「珠希って財布が壊れたとか言っていたなぁ」と言い出した。それでもどういうのがいいのだとかをあれこれと相談し、決まったものを買いに行った。邑上は今日のことは内緒にしててと俺に強くいった。だが、ウソが下手な俺は顔に出ていたのだろう。「なんで財布ほしいってわかったの?」「私このブランド好きなの!」と言われ何も答えることが出来なかった。珠希は恐らく何かを察した。でもあまり言わないでおいてくれた。俺の為にも、邑上の為にも。
次の日の朝、竹林は自分の席で伏せて寝ていた俺を起こしてきた。
「…なんだよ」
「なあ、聞いてくれよ」
「あ?」
「俺、伊藤に聞いたんだよ。邑上の誕生日がそろそろくるって」
「あ~、そうなんだ」
「でもさ、どうすりゃいっかな」
「なにが?二人で出かけてくればいいじゃんか」
頬杖ついて答える俺に竹林は呆れたようにため息をついた。とにかく俺は眠い…。
「無理だよ、お願い。古川、一生のお願い」
「その一生の願いって何回聞いたんだか」
睡魔に勝てない俺は再び突っ伏した。
「この間助けてやったろ」
「…」
この間、竹林はいつのことを言っているのだろう。まさか…
「一応、写真にとっておいたがな」
「…は?」
何のことかと顔をあげるとニヤリとした竹林の顔の横にスマホの画面が並んでいた。
その画面にはあの日の体育館倉庫の写真だった。
「ちょ…お前…何撮ってんだよ」
慌てて、彼の手からスマホを取ろうとするが手が届かない。
「こん時助けてやったんだからさ、お願いだよ」
「…」
脅迫されているような気分になった。
「わかったから、その写真消せ」
「はいはい」
竹林は笑っている。
「今すぐに消せ」