10-3 初恋
私たちはそれから色々な所へ遊びに行った。時には碧ちゃんや竹林君の四人で遊んだりと楽しい夏休みを送った。意外にも碧ちゃんは竹林君のことが気になっているみたいで、私たちに何かアドバイスが欲しいと言ってきた。
夏休みが過ぎ、私たちは一緒に学校へ向かった。休み時間になれば連くんと話がしたかった。だけれどそれが出来ずにいた。
夏休み終わりの初日、私が何気にA組の前を通ると女子の塊が出来ていた。何事かとみていると教室にいた碧ちゃんが廊下に出てきた。
「古川目当てでバカみたいに集まってるんだよ。あんたも彼女なんだからきをつけなよ」
「そうなの?…結構モテモテだね」
「バカ…そんな考えでいたら取られるよ」
「…それで、連くんは?」
「…あれ?さっきまでいたんだけどなあ」
碧ちゃんは廊下をきょろきょろと見渡した。私も何処にいるのかと周りを見てみた。
すると、向こうの方から泣きながらこちらに向かってくる子がいた。その子は泣きながら集まっている女子のグループの輪の中に入って大きな声で「さっき振られちゃった」と言い出した。私たちは顔を見合わせてそっと廊下からそのグループの会話を聞いてみた。
「あ!古川」
碧ちゃんはいつの間にか私の後ろに現れた連くんに声をかけた。
「見つかったか…」
振り返った私に照れ笑いしながらそう言った。
「どこいってたのよ」
そう問い詰める碧ちゃんに「まあ、ちょっとな」と言いながら私の背中から手をまわした。
「さっき古川君に振られちゃったの~、それに彼女がいるって」
「え?なんて子?」
「しらないよ」
と教室の方から声がする。
「え?」と私は頭に顎を乗せてきている連くんに聞いた。
「結構めんどくせえな」とやれやれといった風に連くんはそう言った。
学年が上がり、連くんのファンクラブとなるものが出来ているのを私は薄々気付いていた。
散々いろんな女の子から告白され、すべて断っている連くんは私が恋人なことを言っているらしかった。嬉しかったが、周りの女子からの目が痛かった。それにそのメンバーに私は嫌われていた。それも連くんは知っていた。だから私が何かとそのメンバーからいじめられていると、助けてくれた。
「何かあったら、言えよ」
いつもそう言ってくれる彼に私は頷いた。
体育館の掃除を終え、俺は最後の倉庫のカギ閉めをしていた。かけ終わり後ろを振り返った途端、何かを顔で覆われた。そして俺はそのまま気を失った。
目を覚ますと閉めたはずの体育館の倉庫に俺はいた。
(なんで?)
俺は立ち上がろうとすると腕に激痛が走った。俺の両腕は柱にロープで結ばれており、口は何かで塞がれていた。
(…は?)
訳が分からず取り敢えずこの拘束を外そうと必死になった。外から誰かがやってくる。何時だかわからない薄暗みのなかでジタバタ暴れる俺を面白そうに見ている人物が入口に立っていた。
(…珠希…珠希は無事なのか?)
入口にいる人物から彼女のことが心配になった。
「連くん、やっと起きてくれた」
その人物は俺の口を塞いでいるものを外してそう言った。
「お前…なぜ」
それはあのグループのリーダーのやつだった。
「私はあなたに愛されればそれでいいの。好きと言って」
「珠希は?」
「…自分の立場が分かってないみたいね。…蓮、いくらあなたが彼氏だとしても私達には叶わない。もし伊藤さんに被害を合わせたくないならば、私のいうことを聞いて」
俺が答えないうちに誰かがまた入ってきた。珠希だった。
「連くん!」
「来ちゃだめだ」
俺はそう言ったが、もう遅かった。
「ねえ、連にかかわらないでよ」
リーダーのやつは彼女の方に向かってそう言った。
「…でも、わたし」
「彼女だからって調子こいてんじゃねーよ」
見たくないような光景を目の当たりした。彼女を助けたい。そう必死に手首の拘束を外そうとするがなかなか外れない。
「いい加減にしなさいよ」
また新たな人物がやってきた。邑上だった。彼女はリーダーのその女に廻し蹴りを決めあっさり倒してしまった。
「大丈夫か?」いつの間にかやってきた竹林が俺の手首のロープや足首のもナイフで切ってくれた。
「ありがとう」
「いいや、あれから連が帰ってこないから不思議に思ってたんだ」
「そうか、悪いな」
リーダーの女やメンバーたちは逃げて行った。皮がむけた手首を眺め俺の心には守れなかった罪悪感が残った。
それから、申し訳なさで珠希といることが出来なかった。先生にも報告され、そのグループはなくなったが、俺は彼女を避け続けた。
それでも彼女は俺の周りについてきてくれた。