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youth  作者: 園田美栞
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3話 俺に教えてくれた人

読む前に、


手にとってくださりありがとうございます。

この間気付いたのですがこの話は短編ですが繋がっております。もしよろしければ『女の嫉妬』『私の旦那』を読んでからの方が登場人物についてわかるかと思います。ここから読んでもらっても構いませんが、

何卒よろしくお願いします。


それでは、3話をごゆっくりお楽しみくださいませ。


古川(塚田)俊   (22) 健一の死 (16)

     健一     交通事故 (40)

     有紗 (46)

塚田   聡   (46)

柿林 香苗 (31)

青柳   義弘  (34) 

               

                       

 俺の親は俺が5歳の時に離婚した。

 原因は父の方にあった。あいつが浮気をしたからだった。当時の俺には浮気という言葉はわからなかったが、ケンさんから教わったことがあった。いつも家に帰ってきた父に母さんは怒っていた。「帰りが遅い」「何があったの?」そんな言葉が聞こえ、父はその怒鳴り声に対抗するかのようにさらに大声で何かを言っていた。俺は眠れるわけなく、そっとふすまから母さんの顔を見ていた。言い合いが終わると決まって母さんは泣いていた。


「父親は俺たちを捨てた」そう残虐なことを教えてくれたのはケンさんだった。ケンさんは、母さんが離婚した後も、ずっと俺たちと生活していた。

 

 俺は、あれから15年が経ち社会人になった。周りの友達は就職先が決まっていた。

俺はいくつか面接をしたが最後まで行かなかった。大学を卒業した今でも、バイトでお小遣いを稼ぎながら実家で過ごしている。

「あんたねえ、少しぐらいは家の手伝いをしたらどうなの」

寝ながらテレビをみていた俺を母さんは邪魔だという風に掃除機で突っついていた。

「うっせーな」

最近バイトにすら行くのが面倒になり、家でゴロゴロしているか外で遊んでいるかの日々を送っている。


 小うるさく感じてきたので俺は家を出て、フラフラすることにした。行く当ても無く、とりあえず本屋に向かった。昔から俺は本屋にいるのが好きだった。ケンさんとも何回か行ったことがあった。

 ケンさんは俺が16の時に交通事故で亡くなった。道路に飛び出した小さな男の子を助けるために、車道に出た。幸いその男の子は一命を取り留めたが、ケンさんは帰って来なかった。

 いままで、小さい時から俺はケンさんから色々なものを教えてもらっていた。


 本を買い、俺は店を出た。外は日が傾いていた。

イヤホンを耳にかけ、思い出の公園に向かいベンチに座った。

「あの…」

誰かの声が聞こえてきたが、自分ではないだろうと気にしないふりをした。

「あの…」

何回も声がし、片耳を外し声がする方を向いた。俺の顔を覗き込むかのように同じ歳くらいの女の人が立っていた。

「あっ、気づいた」

よかったぁ。と言いながらその女は笑った。

(誰だ?)

前に出会ったかな?と過去の記憶を遡った。

その女はニコッと笑って言った。

「お茶しません?」


知らない男の人を街中で話すのは初めてだった。でも公園で俊がベンチに座っていた時、あまりのかっこよさにこのチャンスを逃しちゃいけないという気持ちになった。

あたしがよく行くカフェに俊を引っ張るようにして私たちは入っていった。

あたしに警戒してるのか、何を聞いても当たり障りのないことばかりだった。

歳はあたしより10も下だった。

数時間だけだったけど、今日はいい思い出になったと私はウキウキして家に帰った。

あたしが誘ったんだから奢るよ?と言っても、彼は「自分の飲んだものくらいは」と1000円を置いて出ていってしまった。


もう会えないのかな?と思っていた。

連絡先さえ交換していなかった。


そう諦めかけていた時、ふと前を見ると見覚えのある男の人が末廣病院の待合室の椅子に座っていた。

(見たことある光景に見たことある人…)

あたしがもう一度逢いたい人、その人だった。

思わずあたしは彼のもとに入っていった。

「古川くんよね?あたし、覚えてる?」

勤務中だと分かっていても話さずにはいられなかった。

「はい」

「今日はどうしたの?」

俊は鋭い目であたしの顔を見ていた。

「…看護師だったんだ」

そうぽつりと言った。

 あたしはあれから俊との時間をつなぎとめようと必死になっていた。彼の携帯番号やLINEを教えてもらい、色々と会話をした。俊も初めは素っ気なく敬語を使っていたが、次第に話す内容が増えてきた。

 そうして、二回目のデート

 俊にいい女を見せようと張り切って準備をしているうちに、待ち合わせの時間に遅れそうになった。

 『蔵町駅の中で待ち合わせでいいですか?近くに来たら連絡おねがいします』 

昨日デートの約束をしていた時のラインを開く。

蔵町は私が住んでいる街だった。

(そこに彼が来てくれる)

走って待ち合わせ場所に向かうと、俊が立っていた。思わず遠くから彼の姿を見たくなった。

(かっこいい)

冬だったこともあり、俊はダッフルコートに細身の黒いズボンを履いていた。

私はずっと見とれていたが、慌ててメッセージを送った。

『駅についたよ』




 イヤホンで音楽を流していたスマホが別の音を鳴らした。ポケットに入れていたスマホを開き、メッセージを見ると近くまで来たと連絡があった。あたりを見渡し、香苗さんを探すと、手を振りながら走ってきた。

「おまたせ~」

短い距離なのに息を切らせながら到着した。

「ごめんね~。支度をしていたら遅れちゃって」

胸の前で小さく手を合わせる。

「いや、俺も今来たところです」

あ!そうなの。という風な顔を見せ、

「あそこにいいカフェあるんだけどどう?」

香苗さんは俺の腕をつかみ、おすすめだというカフェに連れて行った。

 二人でコーヒーを頼み、この間のように香苗さんは自分のことを話していた。

仕事のこと、友人関係、この間行った旅行の話、ここのお店の話など、次から次へと話題をコロコロ変え、面白かった。

「ねえ、俊はないの?」

急に話題を振られ「え?」という顔になってしまった。

「だから~、旅行とか。学生のうちは色々時間あったからどこか行ったんじゃないの~」

「そうですね~」

大人の女性というものはこういうものなのか。俺はそう思いながら友人と北海道に行った話をした。

「それで?」

「あ~、そこいいよね。私も行ったことあるよ。うんうん」

俺が何を話しても大げさっていうくらいなリアクションで話を盛り上げてくれた。


時間があっという間に過ぎた。時計を見ればカフェに入ってから3時間になっていた。

「そろそろ出よっか」

香苗さんは伝票をヒョイっと持ち上げ、レジに向かった。

俺が出しますよと言っても頑なに断ってきた。


「そうだ!今度の連休空いてる?」

帰り際に香苗さんは俺に聞いてきた。

「空いてますけど」

「じゃあ~、どこかお泊り行こうか」

「…」

「あのね、どうしても俊と行きたいところがあって、そこに一緒に行きたいんだけど」

いいかな?と上目づかいで俺をみる。

(まあ、暇だし)「いいですよ」

俺がそういうと嬉しそうな顔で喜んだ。




 私はもう31だ。そろそろ結婚をしなくては遅れてしまう。

周りの友達はもう結婚をし、子供もいる。たまに私の家に友人が集まり女子会を開くときも必ずって言っていいほど子供をつれてくる。

「ごめんね~、うちのマイを一人家に置いておくのが心配で」

とか言いながら子供たちを隣の部屋で遊ばせながら、私たちは女子会をしている。

この中で結婚できていないのは私だけだった。

 いつも旦那の話や家族で何処どこ行った話など私には当分縁の無さそうな話で盛り上がる。

「ねえ、香苗にはいないの?」

「ん?なにが~?」

人数分のお茶を用意していた私の手伝いをしに、紗季が聞いてきた。

「だからあ、候補になる人よ。あんたそろそろ考えた方がいいよ。出ないと出遅れちゃうよ」

「え~やだあ」

(候補なんているわけないじゃない、私はこの人たちとは違っていい恋がしたいの)

「紗季はなんでその人にしたの?あんなに嫌がっていたじゃん」

「ん~、現実を見たってことかな」

ふふっと笑いながら紗季はトレーにカップを置き、テーブルに持って行った。


 現実を見る…。私がしたい恋はそういうものではない。

「あんたのしたい恋っていつもの、出会いだの一目ぼれだのってやつ?」

「うん」

「王子様が来てくれるってやつ?」

「そう」

馬鹿じゃないの?というかのような目で紗季は私を見てきた。

「私だって、できることならそういうの憧れるよ。でも現実を見なきゃならない時が来るものよ。私の男はこの程度か、そう納得したものから結婚していくの。いつまでも夢なんて追いかけたら乗り遅れるのよ」

紗季は飲んでいたカップを置いた。

「現実かあ」

ふと私は昨日お茶をしに行った俊のことを思い浮かべた。彼は私よりも若い。でもこのまま彼と交際を続けていけばいずれ結婚っていう形になるのだろうか。

紗季たちに話してみようかな。俊のこと。彼との出会いのこと。

 私はそう決めて、紗季たちに話すことにした。初めは驚いていたが、次第に頑張ってと言ってもらえた。

「どんな子なの?」

と聞かれ、あの日ひそかに待ち合わせ場所に立っていた俊を撮った写真を見せた。

「今度、どこか行こうと思って」

友人に応援されたこともあって、私は楽しみになった。

紗季たちが帰った後、私は旅行プランをたてた。

(温泉?ババくさいかな…。でもなあ~)

自然と私の口は緩みっぱなしだ。

『伊豆に行くのはどう? 最近寒くなってきたから温泉いこ!』

 あの子、警戒するだろうか…。でも、少しはガッツかなきゃ。

そう自分に言い聞かせ、送信ボタンを押す。


 2時間たっても俊からの返事は来なかった。

(どうしたんだろう)

やっぱり痛い女だと思われた?それとも、ただ返事が出来ないだけ?

それから暫くして、私がお風呂から出るとタイミングよくスマホが鳴った。

私は飛びつくように濡れた髪のまま、大して服も着ずにスマホを開く。

『いいですよ』

(え?それだけ?)

やっぱり私がただ単に盛り上がっているだけなんだろうか。本当は俊は行きたいわけではないのでは?でも、嫌なら『いいですよ』と返事を送らないじゃないか。

私たちは待ち合わせの時間を決め、私がホテルを決めることにした。


(20代と言っても、男の子には変わりない。ということは…)

一人で恥ずかしくなり、ベットにあった枕に顔をうずめた。


 伊豆の旅行は楽しかった。色んなお店をまわり、美味しいものを食べた。それに俊のことを知ることもできた。

でも、彼と話しているうちに彼が無職なことを知った。

生活は親に頼り、四六時中ゲームしていたりテレビを見たりと自由気ままに過ごしていると聞いたときは驚いた。

「働かないの?」

と聞いても

「働いて何になるんですか?」

といった返事が返ってくるだけだった。


 それなのに私は彼を放っておくことなんかは出来なかった。

(私なら何かしてあげられる)


俊と出会ってから半年が経った。

そんなある日、私が務めている病院の医院長からお見合いを紹介された。相手は、その人の知り合いなのだそうだ。

「彼氏がいるので」

と一度断ったが、「まあ、一度会うくらいは」と更に勧められた。


 実際に行ってみると、相手は私より3っつ年が離れていたが、知的で優しい人だった。食事をしている最中でも俊の事が頭をよぎったが、私はなぜか比べてしまった。

「休日は何をしていらっしゃるのですか?」

「趣味とかはあるのですか?」

などど、平凡な会話だったが、あの子の時よりも自分の話をさらけ出すようなことはなく、相手の情報も知れた。

 名前は青柳義弘。職業は医者。彼の父親が開業医でいづれ後を継ぐのだそうだ。趣味はマラソン。彼の顔立ちはとてもハンサムで、色は日に焼けていた。


 その日から、彼に誘われ私はごはんに行ったり、映画を見に行ったりとお互いの交流を深めていった。


 1年が経ったある日、義弘とのデートの準備をしている時携帯が鳴りだした。

「誰だろう」

そう思いながら、画面を開くと俊からだった。

「もしもし…」

いつの間にか放置するように会わなくなっていた人からの電話で私は緊張した。




 いつも週末になると香苗さんから「どこかいかない?」という連絡が来ていた。

あの日、一日だけ泊まりで伊豆に行った。香苗さんが小さい時に暮らしていた街だった為、かなり張り切って案内をしてくれた。

 俺はいつも目の前にあるものをただただ受け入れるだけの生活をしてきた。香苗さんから連絡が来れば遊びに行くし、そのほかは家でゲームや動画を見たりと自由気ままだった。


 いつの間にか、香苗さんからの連絡が来ないことに気付き、俺は一度だけLINEを自分から送った。

「今週は忙しいですか?」

しかし、彼女からの連絡は来なかった。俺は、なにが原因で会わなくなったのか必死に答えを探った。結局行きついた答えが

(俺がニートだから)

 あの日自分のことを話した途端、香苗さんの顔色が変わったことを見逃さなかった。

(もう一度香苗さんに会いたい)

 いつの間にか俺の気持ちがそうなっていた。会っていた当初はそんなつもりが全く無かったが、失ったと思うと手に入れたい欲望が沸いて、日に日に大きくなる。 

(ならどうすれば?)

自問自答を繰り返す日々が流れていく。

 それから月日が流れ親戚のコネだったが一つの会社に就職することが来まった。

母親に

「就職しようか悩んでる」

と夕食に時に話してみたら喜んでくれた。

それからは驚くほどの速さで淡々と決まってしまった。

 俺は春からケンさんが勤めていたような会社で働くことになる。今初めてケンさんが空から見ている。そんな気分になった。

 それから俺は報告しようと香苗さんに電話を掛けてみた。

「もしもし…」

警戒したような声が聞こえてきた。

「お久しぶりです、覚えてますか?」

勢いで掛けてしまったが、何を話すつもりだったのかが全て吹き飛んでしまった。

「俊ね、うん。覚えてるよ」

「あの…」

人に電話を掛けたことなど余りなく頭の中が真っ白になる。

「もう、連絡はしてこないで」

何を言おうか悩んでいたとき、香苗さんから言い出してきた。

「え?」

「私ね、結婚するの」

「…」

うまい返しが出てこない。

「知り合いの紹介でね、今度式も開くの。身内だけで行うから呼べないけど、一応報告。だから誤解とかは困っちゃうから、もう掛けてこないでね」

「…おめでとうございます」

香苗さんは「ふふっ」と笑いながら、ありがとう。と言った。

「じゃあね」

「…あ!俺も…その…報告が」

「…」

「その…。就職先決まりました。香苗さんのおかげなんです。一歩前に進もうって思えたのも、このままではだめだって思ったのも全て香苗さんのおかげなんです」

「…」

「ありがとうございました」


電話を切り、俺はベットにあおむけで倒れた。天井がうっすらとぼやけて見えた。



 数年後

 俺はだんだんと仕事に慣れ、今はもう後輩もいる。

学生の頃、無職だったころを思い返せば何もかもが「若かった」でまとめられてしまう。

でも、あの年は一番大きなイベントがあった年だったと思う。


 それに俺にも妻ができて家庭もある。

守りたいものが出来た時の責任を決して忘れたくない。





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