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第9章

 アビシャグさまと会った翌日、悠一くんはハヤテだけを連れ、馬に乗って人肉の森を目指しました。このことについてヤチヨは当然文句を言いましたが、悠一くんがコルディア病院にヤチヨを残してきたことには理由があったのです。と言いますのも、悠一くん、ヤチヨ、ハヤテの三人が病院にいないということになると、「何かあった時」に指示を仰げる人間が誰もいないということになってしまいます。


 その点、ヤチヨは性格的にもリーダーに向いていましたし、病院で働くどんな元ゾンビや現ゾンビとも顔見知りでしたし、また、その中の内の誰もが悠一くんの次くらいにヤチヨのことを頼りにしていたからです。


 朝方コルディア病院を出発し、午前中のうちに人肉の森へ到着しますと、シェロムさんはとても嬉しそうに悠一くんのことを歓待してくれました。とはいえ、ほどなくしてシェロムさんは、彼が沈鬱な顔の表情をしており、(何かあったようだ)ということには気づいていたのですが……。


 丸太小屋の庭のほうに、例の飛空艇の基礎部分が出来つつあるのを見て――悠一くんは驚いていました。と言いますのも、まず設計図のほうを3Dによって再現したのち、その模型を3Dプリンタでシェロムさんは出力し――今度はその十倍にもなる本物の飛空艇を、今度は自分の手で彼は造船しようとしていたからです。


「こうしたものもたぶん、3Dプリンタで出力できるんじゃないかと思うんだけど……」


「ああ、もちろんね。そのことはわかってるよ。それに、大工仕事のうまいゾンビ大工に手伝ってもらう必要もあるんだけど、まあ、これはちょっとどんなものかと思って、造りはじめたものなんだ。ユーイチは……私が前に言ったこと、今も覚えてるかな?」


「はい。確か、飛空艇を造ることが出来たら、雲の上にあるあの城にまで行けるんじゃないかっていうことですよね」


 悠一くんはなるべく嫌な話――リロイ・アームストロングを殺したとの――をしてしまいたかったのですが、夢の第一歩に踏みだしたばかりのシェロムさんはどこか輝いたような目つきをしており、なかなか言い出せませんでした。


「そうなんだ。でも、ゾンビたちの間に伝わる伝説では、東西南北の王や女王の持つ宝物が揃わないとあの城へは辿り着けない……というより、四つの宝物が揃った時に竜が現われてその者のことを雲の上のあの城まで連れていってくれるということだったよね?それで、私個人の考えとしてはね、そんなことしなくてもあそこまで飛べる飛行物体さえ造ってしまえば、四つの宝物なんて必要ないんじゃないかっていうことなんだ。でも今、北の国がつい先だってあった戦争で敗北したことから――もしかしたら本当にそんな竜が姿を現すかもしれないと思いはじめてる。そして、そのことを私が邪魔するのはどうかと思って、もう少し<待つ>ということにしたんだよ。なんだったら、ユーイチのいう3Dプリンタで印刷すれば……何日かかるかはわからないにしても、とにかくそれで完成させることは出来るんだしね」


「つまり、それは東西南北の王と女王の持つ四つの宝物が集まっても、何も起きなかった場合の保険ということですか?」


「まあ、そういうことになるかな。ただ、こちらの世界は流れる時間があまりにも緩やかで長すぎる。人生に目的や適切な暇つぶしでもないことには、私でもちょっと頭がおかしくなってしまうだろう。そこでね、ちょっとした暇潰しに、自分の手で造るとしたらどんなものだろうって試してたところなんだ」


「そうだったんですか……」


 シェロムさんの家ではまず、コーヒーとクラッカーが出ました。ハヤテは、ゾンビであった頃とは違って、今ではコーヒーや水やジュースなども当然飲むことが出来ましたから、シェロムさんは彼にもコーヒーを出してあげました。


 ちなみに、このコーヒーは異邦人の誰かが栽培しているものではありません。旧文明の倉庫街の一角に、冷凍食品が数多く眠る場所がいくつかあり、そこにフリーズドライによって保存されていたものです。普通に考えた場合、賞味期限も消費期限も切れているはずですが、こういうものを食べてお腹を壊したということは、シェロムさんも悠一くんも何故か一度もありませんでした。


「うえっ。なんでござるか、これは。苦いでござる」


 ハヤテが舌を出しているのを見て、悠一くんもシェロムさんも思わず笑ってしまいました。生ける人となったハヤテと初めて会った時にはシェロムさんも面食らったものです。けれども、彼と話しているうちにシェロムさんにわかったのは、ハヤテの性格自体はそのままなため、彼は「無駄にハンサムなイケメン」、「顔だけハンサムなザンネンなイケメン」といった印象だったでしょうか。


「そうだね。元ゾンビの人たちはみんな、まだ携帯エネルギー食ばかり食べてるものな。でも、あれもいずれはなくなってしまうから、今度はみんなで畑を耕して、収穫するっていうことを覚えていかなきゃならない。ただ、この世界にはもう病気にも強い品種改良された野菜の種なんかがたくさんあるから……なんとかなるんじゃないかと、僕は楽観的に考えてはいるんだけど。それに、携帯エネルギー食を作ってた工場が残ってるから、そこで何を原料にすればあれが出来るかもわかってるしね」


「本当に、これからゾンビ世界は百八十度変わっていくんだろうな。私はてっきりあのまま、時が止まったように四王国は膠着状態に陥ったままなのだろうとばかり思ってたけどね。救世主メシアがいつか現われるというゾンビたちの間に伝わる伝説は、本当だったんだ」


「…………………」


 いつも悠一くんはこういう時、『やめてくださいよ、メシアとかなんとか』みたいに必ず言うのでしたが、この時は黙りこんでいました。というのも、ゾンビたちから<救世主さま>と呼ばれすぎて慣れてしまったからですし、それと同時に、自分が本当にメシアかどうかというのとは別に、今はもう自分が本当はメシアでなくても、そうなるしかないのではないかと、悠一くんは思いはじめていたのです。


「さて、私の近況報告は以上といったところかな。忙しいユーイチが私の家にまでやって来たということは、何か大切な話があるっていうことなんだろうからね」


 悠一くんはここで、クラッカーに伸ばしかけた手を引っこめ、ごくりと喉を鳴らしてから、シェロムさんにこう告げました。


「……実は僕、殺してしまったんです。リロイのことを」


 シェロムさんは一瞬黙りこみましたが、それはあくまで本当に一瞬のことでした。普段から彼は表情がある程度一定で、そう感情に大きな上下のない冷静な人なのですが、この時は本当に、眉一筋動かさなかったといって良かったでしょう。


「それで、死体のほうはどうしたの?」


「病院の、遺体安置室にある冷凍保存のできる装置に保存してあります。その、僕……ついカッとして、リロイの後頭部を何度も殴ってしまって。これがもし脳以外の体の部位だったら、新しくバイオプリンタで印刷すればいいわけですけど、脳っていうのはそういうわけにもいかないでしょう?複製自体は可能ですが、その中のリロイ個人の記憶とか思い出とか――そういうものは今の彼の死体の中にしか存在しないものだから」


 シェロムさんは「何故」とは聞きませんでした。というのも、彼にはわかっていたのです。リロイは陽気な、基本的にいい人間ではあったでしょう。と、同時に軽薄なラテン気質というのでしょうか。何かそうした気まぐれでいい加減なところがありましたから、悠一くんのような人が彼を「殺した」からには、それ相応の理由があったに違いないと、シェロムさんとしてはそう理解するのみでした。


「じゃあ、何?今度は殺したリロイを生き返らせる方法について、病院の本なんかを調べまくって、自分の殺人という罪を消したいってことなのかい?」


「いえ、それが……そうすることこそが自分の義務とわかっていながら、実は僕はそこまでのことをリロイにしたいと思ってません。どうしてなのかはわからないけど、殺した彼のことを甦らせたくないし、甦ってきて欲しくない。でも、彼は数少ない異邦人の仲間だし、他の誰よりコンピューターといったことに関しては知識があった。だから――道義的に見て、そうしたくなくてもそうすることが人としての道だと、シェロムさんや二コラが言うなら、僕は贖罪として、リロイを生き返らせる方法はないかどうか、捜すことにしようと思って……今日は、そのことの相談をシェロムさんにしたかったんです」


 この時、悠一くんは、アビシャグさまに同じ話をした時と同じく、目を伏せていました。手は震えていませんでしたが、それでもリロイのことを思いだす時にはいつでも、苦い後悔の念がこみあげてきます。


「たぶん、よほどのことがあったんだろうね。もしかして、元ゾンビの可愛い娘にでも手を出したといったところかな?」


 この時、悠一くんは弾かれたように顔を上げていました。シェロムさんと目と目が合います。けれど、彼は何か深い慈悲を湛えたような、優しい眼差しをしているだけでした。そこには、悠一くんの罪を責めようとするような色は一切認められません。


「どうしてそれを……」


 悠一くんがそうつぶやくと、隣の椅子に座っていたハヤテが言いました。


「あんなの、リロイとかいう奴が悪いのでござる。まったく、ひどい奴でござるよ。ヤチヨから聞いた話では、女性の被害者は三十人以上もいたのでござる。ユーイチはあんな奴、殺してやって当然でござるよ。ただ、ユーイチはメシアとして当然のことをしたにすぎないのでござるからして」


 ハヤテはそんなふうにブチブチ言いながら、クラッカーを何枚か食べていました。コーヒーは苦くて飲めないので、手押しポンプを押して水を出し、それをコップに注ぐということにします。


「そうか……やっぱりね。じゃあ、彼が何かそうした行為をしている時にでも、ユーイチは殴るか何かしたってことなのかな。で、打ちどころが悪かったのかどうか、リロイはそのまま死んでしまったと」


「どうしてですか。そんな……まるで見てきたみたいに」


 この時悠一くんは、神さまから心を覗きこまれているような気持ちにさえなりました。けれども、シェロムさんにしてみれば、むしろ他に理由のようなものが思いあたりませんでした。バイオプリンタを巡って利権のようなものが生じたにしても、殺人に至る理由になるとまでは思えませんでしたから。


「ほら、前にユーイチに話したことがあっただろ?この人肉の森で起きた、忌まわしい殺人事件のことをさ。ごめん、ユーイチ。実は私はあの時、君に嘘をついた。ミシェルが医者のダニエレと両想いになったらしいと知った時、そのことを私はスミスやトマスやバリーに告げたんだ。その後、彼らは怒り狂ってミシェルをレイプした……私はたぶん、その時わかっていた気がする。彼らの性格からいって、そうするんじゃないかとは、なんとなく予感していたはずなのに、今にして思えばどうしてあんなことをしたんだろうと思うよ。つまりね、彼女が自殺したのは私のせいだったといっていい。彼女の父親が死ぬことになったのも結局はわたしのせいだ。それに、スミスたちがミシェルのことを閉じ込めたと聞いて、嬉しくなりさえしたんだ。彼女が医者のダ二エレだけのものになるよりは、そのほうがずっと良かった。レオンだけは唯一、スミスたちのように衝動的でもなければ、私のようにねじくれた心根を隠し持ってもいなかった。だが、性格的に一番純粋でまともだった彼が病気で死ななければならなかったとは……不思議な気がしないかい?だけど、あとになってから私にもわかったよ。ある意味、死とは――死ねるということは神の祝福なのだと」


 シェロムさんは一度そこで言葉を切ると、遠い昔の記憶を懐かしむように、少し遠くのほうを見ていました。あれから七十年以上もの歳月が流れたとは、とても信じられませんでした。そして、実際のところ自分は悠一くんに話したように記憶を改竄して生きてきたのだ、といったようにもシェロムさんは思っていました。何故なら、スミスやトマスやバリーと自分が同格とは彼はどうしても認めたくなかったからです。けれど、結局のところ自分も同じ穴のムジナなのだということは、彼にもよくわかっていました。


「アビシャグさまから聞いた話では、スミスたちは北の国で厚遇されており、まだ生きているらしい。ユーイチ、私は君に、レオンに感じたのと同じ、純粋さや優しさを感じている。その君がリロイを殺さなくてはならなかったというのだから……それは仕方のないことだよ。人は誰しも綺麗ごとだけでは生きていけない。それに、あの手のことというのは、やめられないものだ。ユーイチが仮にコルディア病院からリロイのことを追い出していたとしても、彼はまた別のところで君に隠れてそうしたことを行なったろう。そして起きることといえば、ミシェルの時と同じようなことだよ。美しくて若い娘たちを何人か閉じ込めて飼う……何分、相手は元ゾンビだから、心にそう罪悪感が生じるということもなかったろう。つまりはそういうことだよ」


「…………………」


 このシェロムさんの意見に、悠一くんはどう答えていいかわかりませんでした。けれども、シェロムさんの話し方の印象として、実際に邪悪な行為を行なった三人の男たちよりも、自分のほうが罪深いといったように彼が思っているように感じ、悠一くんはそれは少し違うのではないかと感じていました。第一、医者のダ二エレとミシェルのことは、いずれみんなの前でその関係性が明かされたでしょうし、何もシェロムさんが先に言っても言わなくても結末は同じだったかもしれないのです。


(そうだ。もちろん彼は<そのこともよくわかってる>んだ。そして、シェロムさんが今もこの人肉の森を離れることがないのは……つまりは、そういうことなんじゃないだろうか)


 せめてもの贖罪、というのだろうか。あるいは、自分の罪を忘れないようにとの、戒めとして。けれど、そんな生活は苦しくないはずがなかったろう。スミスやトマスやバリーのようにここから一番遠い北まで逃げて、そんな忌まわしい事件など本当は起きなかったという振りをして生きたほうが、楽でさえあるかもしれないのに……。


 この時悠一くんは、森の中の、少し開けた美しい場所に、ミシェルさんと彼女の父親のジョン、それにレオンさんのお墓が並んでいたのを思い出していました。質素ながらとても綺麗なお墓で、まわりには花の植え込みまでありました。


「シェロムさんはここにいて、つらいと思ったことはないんですか?それとも、そのくらい、そのミシェルさんという女性を愛していたとか……」


「まあ、そりゃあね。私だって人間だから、そんなふうに思うことはある。だが、普通の人間以上に死んだゾンビっていうのは善良だっていうこともわかってるし、彼らはこっちを襲ってきたり強盗を働くといったこともない。そう考えたらね、少なくともそうした部分では自分はラッキーだったのかもしれないと思ったりもしたんだ。もっと訳のわからない、いつ死ぬかもわからず、隣人を狼のように考えて用心しなければならない生活よりは、ここのほうがまだしも安心して一人で過ごせるからね。そして時々、人間のぬくりもりが恋しくなったり、誰かと話したくなった時には、南の国へ行ったり、二コラやヨハンに会いにいったり……あとは、旧文明の発達した科学技術について学んだりとか、そんなことに集中しているうちに、いつの間にやら七十年も経ってしまったんだろうな」


 シェロムさんは過去を懐かしむような眼差しのまま、そう語っていました。


「ミシェルのことを愛していたかといえば、それは私にもわからない。確かに、綺麗な女性だったし、性格も優しかった。でも、この世界に女性は彼女しかもう存在しないかもわからないという状況だったから……それでスミスやトマスや他のみんなもちょっとおかしくなったっていうところもあったからね。ミシェルが私たちの中の誰かひとりだけのものになるっていうのは、どうにも承知しがたいっていう意味では、彼女が誰を選ぼうと似た結果を生んでいたに違いない。つまり、ミシェルがトマス以外の誰か、たとえば私を選んでもレオンを選んでも、彼女が選んだ男というのは殺され、おそらくミシェルは自分が選んだのでない男にレイプされていたろう。ただ、私には本当にわからないんだ。このことについては何度も何度も考えた。ミシェルも、彼女の父親も、他の誰も死なずにいるためには、何をどうすれば良かったのか……そういう意味ではね、ユーイチ。君ももしかしたら今、リロイを殺さずにいるためにはどうしたら良かったのか、他に方法はなかったのかって考えてるかもしれない。だけど、答えなんかないんだよ。それに、リロイのことは甦らせないほうがいいと思う。何故といって、生き返ったとしても、おそらく彼は我々の間で今度は厄介者になるだけだからだよ。ユーイチが苦労して彼を甦らせたところで、リロイは自分のしたことを恥かしいとも思わず、むしろ罪悪感に働きかけることさえして、やりたい放題のことをするかもしれない。そしたら、早晩ユーイチ以外の誰かが今度は彼を殺すことになる。たとえば、彼に陵辱されそうになった女性のうちの誰か、とかね。ユーイチ、君はそんなことになる前に、リロイのことをそう出来て良かったんだ。じゃなかったら、君が今感じてる罪悪感を他の誰かが感じることになっていたろうからね」


「それでも僕……二コラや、あとはヨハンさんや、僕がまだ会ったことのない異邦人の人々に、自分の罪を告白しなくちゃいけない気がしてるんです。彼らの中にはリロイと親しい人もいたでしょうし、やっぱり、消えた彼のことを探しはじめる人だっているかもしれませんから……」


 この時、シェロムさんは厳しい顔つきをして首を左右に振っていました。


「いいかい、ユーイチ。よく聞くんだ。何故といって、君がしようとしていることは意味のないことだからね。それに、そんな話をされてもみんな、嫌な思いをして困り果てるっていうそれだけだよ。そのくらいだったらリロイは、いつの間にか姿が見えなくなって行方不明になったってことにしたほうがいい。彼は僕と同じく一匹オオカミで、旧文明の超科学について調べることに夢中になってた。そんな彼のことをどうにかして捜索しようというくらい親しい人はいないはずだし、いなくなったらいなくなったでみんな、どうしたんだろうと心配はしても、捜すことまではしないだろう。もちろん、ユーイチがこのことで自分を公正に扱って、出来れば罰されたいと思ってる気持ちはわかるよ。だけど、女性を三十名以上もレイプしていて、そのことをユーイチが止めようとして殺すつもりではなかったのにそうなったと聞いたら……誰だって同じことを言うよ。それは仕方なかったって。でも、そんなことをいちいち知らせないでくれていたほうが、彼らはもっと感謝するだろうって、私はそう言ってるんだ」


「…………………」


 シェロムさんはこの夜、丸太小屋に残っていた食料品、他に庭から収穫したものなどを取りまぜて、ユーイチくんとハヤテのためにご馳走を作ってくれました。夕食の間にした話はといえば、リロイのことではなく、今後のゾンビ世界の発展のことでした。


 たとえば、旧文明世界に残っている工場などはまだ稼動しますし、そうなれば当然、自分の働く担当の工場近くに住む必要が出てくるでしょう。旧文明世界には空になっている高層マンションがたくさんありますから、おそらく生ける人となったゾンビたちは、自分の気に入ったそうした住まいに徐々に移動するということになっていくに違いありません。


「不思議だよね。まさか私はこの不毛の世界が、いつかこの世界の中のもののいっさいを生かすために動きだすようになるとは……この死んだような都市がもう一度生命を得るようになるだなんて、一度も想像してみたことはなかったよ。だけど、私たちが元いた世界の科学がある程度発達し、こちらの文明の残したものをどう活かしたらいいのかわかる人間がやって来て、まさかゾンビたちがもう一度生ける人として甦るだなんてね。いいかい、ユーイチ。どうかこのことも覚えていて欲しい。こちらのコンピューターを復活させたりといった、そうした知識ならリロイにもあったろう。でも彼はゾンビたちが美しい体を得たから、女性に限定して興味を持ったのであって……ゾンビに対して愛情なんていうものはカケラもなかったんじゃないかな。そういう意味でも、メシアというのはおそらく、こちらの技術を生かせるというだけでは駄目で、ユーイチ、君みたいにね、親身になって彼らの面倒を見てあげることの出来る人間こそが、おそらく真にメシアとなるに相応しかったっていうことなんだよ」


「でも、僕はやっぱりわからないんです。もしかしたら自分がこちら側の世界に来たのはこのためだったのかもしれないと思って、バイオプリンタを使ってゾンビたちを生ける人とすることに成功はしたけれど……もしかしたら彼らは、今は喜んでいるけれど、死んでる時よりも当然生きてる今のほうが肉体を維持し続けるっていうのは大変なことだから、いつかこんなことをした僕のことを憎むようにさえなるかもしれない。でも、かといってもう後戻りすることも出来ませんし、そしたらどうしたらいいのかとか……」


 この質問に答えたのは、シェロムさんではなくて、実はハヤテでした。


「そんな心配は無用でござるよ、ユーイチ。拙者たちのうちで、またゾンビに戻りたいとか、ゾンビだった頃のほうが良かったと思ってる者はいないのでござるからして……確かに喉は渇くし腹も減る。でも、拙者らは水があってあの携帯エネルギー食というのを一日分食べれば十分満足ですしな。特に拙者はあの中の、メロン味というのが好みでござる」


「そっか。じゃあ、今度いつか……メロンを栽培して、ハヤテに食べさせてあげるよ。ヤチヨはイチゴ味が好きだって言ってたけど、イチゴを栽培する方法なんていうのも、たぶん食糧倉庫街のどこかを調べれば、出てきそうだしな」


「その件は、私が今度ゴールディングさんたちに会った時に聞いておくよ。ゾンビが人になって一番困る件は、実は私は食糧関係のことなんじゃないかと思ってたんだ。でも、これから人となったゾンビたちが畑を耕して収穫することを学ぶなら、きっとなんとかなるだろう」


 夕食の品は、大麦パンに、ジャガイモとマカロニのチーズグラタン、それに人参とレタスのサラダに豆のスープといったところでしたが、これでもこちらの世界では十分ご馳走なのです。


「僕も、食糧倉庫街の中では、まず携帯エネルギー食の工場を動かそうと思ってるんです。それと、その素材になるものをまずは得ることさえ出来れば、あとのことはなんとかなると思ってて」


「このゾンビ世界はきっと今、夜明けを迎えたんじゃないかって、私はそう思ってるんだよ、ユーイチ。あとは、北の国のドルトムントがどう出るかっていうことだけど……」


 ここで、シェロムさんは心配そうに悠一くんのことを見つめ返しました。ハヤテは最初、初めて口にするものが多かったので、こわごわ食事していましたが、途中からは「うまいでござる!」と言って、ムシャムシャ夢中になって食べていたものです。


「その、僕……これから北へ行くつもりでいるんです。コルディア病院のほうはヤチヨがリーダーとしていれば大抵のことは回っていきますし、それで、バイオプリンタを一台、ドルトムント王に献上しようと思っていて」


「ええっ!?」


 この時、シェロムさんは彼にしては珍しく、目を大きく見開くほど驚いていました。けれど、アビシャグさまがちょうどそうであったように、頭の回転の速い彼は「ああ、なるほど、そうか」と、すぐにその意味を理解していたのでした。


「アビシャグさまやゴロツキング王は、ゾンビ民がみな人となってのち、自分もそうなろう……みたいな考えだって聞いたけど、ドルトムント王ならもしかしたら、ゾンビのうちひとりかふたり試して安全なことがわかったら――自らそれを試そうとするかもしれないな。そしたら、北の王を暗殺することも容易くなるかもしれない。もちろん、これは私の腹が黒いから思いつく案だけど、ユーイチくんは違う目的で北へ乗りこもうというんだろう?北の国でゾンビから人になる者が増えたとしたら、その流れはもう王が止めようとしても止められるようなものじゃない。ドルトムント王を王座から引きずり下ろしてでも、生ける人となったゾンビ民たちは今度こそ真の自由を手に入れようとするだろう」


「このことも、僕には正しいかどうかって実はよくわかんないんです」


 そう言って、悠一くんは今日一体何度目になるかわからない溜息を着いていました。


「第一、僕は今も自分がメシアだなんて全然思えませんし、ただ、みんなに『そんなふうに呼ばないでくれ』って言ってもそう呼ぶんですから、これはもう逃れられない運命みたいなものなのかなって思ったんです。メシアとは思わないけど、みんながそう呼ぶ以上は仕方のないことですし、また、メシアと呼ばれる以上は、それに相応しい責務を果たさなきゃいけないっていうことなんだなと思って。でも、リロイのことが起きるまでは……」


 ここで悠一くんは、やはり言葉を淀ませました。自分がもっと早くにこの決断をしていれば、彼のことを殺さずに済んだかもれないとも思いましたが、もし病院を留守中、あの件が露見していたとすれば――おそらくヤチヨがリロイを殺していたかもしれません。そう考えた場合、これで良かったのだと何度自分に言い聞かせようとしても納得しきれないこと――それが胸に刺さった棘のように、ユーイチくんのことを苦しめるのでした。


「僕はこのことを決断できませんでした。メシアなんて呼ばれるのは気が重いけど、それでも僕はコルディア病院にいるのが居心地よかったですし、人になったゾンビたちのためにこれからしたいと思ってる計画もたくさんあって……病院を留守にするわけにもいかないと思ってました。でも、それだって全部、北の脅威がなくなってからでないと、実行に移すというのは先ゆきが不透明な部分がありますから」


「つまり、メシアとしての自覚がユーイチにも生まれたっていうことなんだね?」


 シェロムさんは茶化すようにそう言いましたが、悠一くんはかなり本格的な溜息を着いていました。きのう、「もっとメシアとしての自覚を持ってくれ!」とヤチヨに言われたのを思いだしていたそのせいでもあります。


「自覚というか……とにかく、リロイを殺してしまったことで、コルディア病院から離れたいと思ったことは確かです。それで、ちょっと自暴自棄な気持ちもあって、それなら北にでも行くしかないなって思った時に、そのことを思いついたっていうか」


「まったく策士だなあ、ユーイチは」


 シェロムさんはアビシャグさまとまったく同じことを言っていましたが、悠一くんとしてはまるでそう思えず、ここでもまた溜息を着きたくなりましたが、やめました。


「でも、いくらドルトムント王が異邦人を重用するといっても、北の国が危険であることに変わりはないよ。ユーイチ、くれぐれも注意して……」


 ここで、ハヤテが「ウォッホン!」と咳き込んで言います。


「ユーイチの御身は、拙者がこの命にかえてもお守りするのでござるからして、なーんにも心配はいりませぬ!どーんと大きな翼に乗ったつもりでいて欲しいでござる!!」


「あ、ダメだよ。ハヤテは。もう人間になったんだから、コルディア病院でヤチヨのことを手伝ってやってくれ」


「ええっ!?とはいえ、拙者の仕事はユーイチのことを守ることでござるよ。アビシャグさまから直々にそう御命令を受けているのでござる。拙者もヤチヨも、ユーイチのいるところならば、たとえ火の中、水の中……」


 悠一くんもシェロムさんも、ハヤテが火や水の中へ飛び込むジェスチャーをしてみせたので、お互いに笑いました。彼は見た目は美しい青年なのですが、その本性はただのおっさんのようにしか思われません。


「ありがとう、ハヤテ。おまえのその気持ちだけで僕はもう十分幸せだよ」


「いやあ、なんのなんの!!」


 ハヤテは話がわかっているのかいないのか、力こぶを作ってニコニコしています。こうしたハヤテの屈託のなさは、今でも悠一くんの心の救いでした。他の(元)ゾンビたちもみなそうですが、こうした心の純粋さや穢れのなさを示してくれるたび、悠一くんは彼らのためになんでもしてあげようという気持ちになるのです。


 こののち、一週間ほど悠一くんはシェロムさんの丸太小屋に滞在し、アビシャグさまからの急使(今回はハトでした)が届いてから、南の王宮のほうへ戻ったのですが、別れ際、悠一くんがシェロムさんに心から感謝したことは言うまでもありません。


 何より、シェロムさんが過去の罪を告白してくれたことで……気持ちが少しだけ軽くなったことが、悠一くんの暗い気持ちにほんの微かな明るい陽射しを与えてくれていました。これでもし北の国で何かあって最悪死ぬことになったとしても後悔はないと、悠一くんはそのようにさえ思うことが出来ていたのです。


 こうして、悠一くんがハヤテを連れて南の王宮へ向かってみますと、そこにはゾンビ忍者十一人衆がヤチヨとゴエモン、それにハンゾーを除いて七人揃っていました。すなわち、カゲマル、ヤジロベエ、コジロー、アカネ、モモチ、ダンゾー、サイゾーの八人です。


 南の王宮の会議室には、上座にアビシャグさまが、そして左右に順に忍者十一人衆らが座しており、悠一くんは足を踏み入れた瞬間、気圧されるあまり、思わず足を止めていたほどでした。


「どうしたでござるか、ユーイチ?」


 ユーイチの後ろにいたハヤテは、不思議に思い、いつものガニ股でひょいと中へ入っていきます。途端、いつもは冷静沈着なゾンビ忍者たちの間に、大きなどよめきが走りました。


「だだだ、誰だ、おまえっ!?」と、椅子から立ち上がってサイゾー。


「おおお、オマエなんかもう、ぞぞ、ゾンビじゃないっ。そんなイケメンがゾンビなわけあるかっ!!おおうっ!?」と、激昂したようにダンゾー。


「噂には聞いていたでやんすが、人になるとはそーゆうことなのでやんすかーっ!!マイガーッ!!」と、頭を抱えてカゲマル。


「やっだあ。あんたほんとにあのハヤテ!?あのやぼったくて、あたしたち忍者十一人衆の中でも一番パッとしなくて、忍者カレッジでもみんなから軽くあしらわれてたあのハヤテなのおぉぉっ!?」


 最後にニューハーフ忍者モモチがムンクの『叫び』の絵のようなポーズで、そう叫んでいました。流石にハヤテもいたたまれなかったのでしょう。彼はみんなにこう反論しました。


「みんな、うるさいでござるよ。もしこれから北の国と北の王とが滅びたとすれば、みんなも拙者のようになれるでござる。それに、拙者はパッとしないんじゃなくて控え目なのでござる。ま、モモチは女性の体として甦らせていただけばよろしかろうよ」


「やっだあっ。あんた、それマッジー!?」


 アビシャグさまは忍者十一人衆、いえ、この場合は忍者九人衆でしょうか。彼らの騒ぎを微笑ましい思いで眺めておられました。普通ならば、(頭が痛い)といったところでしょうが、こう見えて彼らは忍者としての腕は一流なのです。


「それよりも、こちらにおわすお方が噂の救世主さまでござるぞ!みなの者、控えおろう!!あ、もちろんアビシャグさまを除いて、でござるが」


 えっへん!と威張りながら、ハヤテがそう締まりのないことを言うのと同時に、ハヤテの隣にいた悠一くんにみなの視線が集中しました。彼らの虚空の中の眼差しは、眼球がないにも関わらず、まるでビームのように鋭く悠一くんのことを射たものです。


「みなの者、あらためて紹介しよう」


 ここでようやく、アビシャグさまが立ち上がって仰せられました。


「今、ハヤテも言ったように、彼が我々ゾンビ世界を救う救世主メシアのユーイチ・ナカムラだ。しかもユーイチは我々ゾンビを生ける人として甦らせただけでなく、これから北へ向かい、かの国を視察してきたいと自ら申しでた、誠に勇敢な御仁でもある……では、そろそろ真面目に会議するぞ。コジロー、北の状勢について、今一度あらためて報告せよ」


「は、はいっ!」


 みなの驚く様子を見て楽しんでいたコジローですが、この時ばかりは流石に着物の帯を締め直して、シャキッ!!として報告をはじめていました。


「ハンゾーのおっさんの話によると……ドルトムントの奴は相当ご立腹なようですぜ。おそらく、奴さんが生きた人間なら、今ごろコメカミのあたりからピューッと血が出て脳溢血か何かでブッ倒れていたこってしょうね。アビシャグさまもご存じのとおり、北の国には四天王と呼ばれる存在がいるんスよ。というのも、ドルトムント王がいずれ東西南北の国を統一したら、それぞれの国を部下に治めさせるのに、そんなふうに呼んでるんスよね。で、西の国を滅ぼしたあと、西の国の領地を治めるのは四天王のひとりのエメリッヒだってことで、奴が第一の軍として出陣したんスよ。まあ、今回の失態はすべて奴さんのせいだってことで、次にまた失敗したら――エメリッヒの奴はゴキ風呂行きかもしれないっス。他の四天王はクックドゥとドーンとゾーンという奴なんですが、こいつらもまた、猜疑心の強いドルトムント王が有能なゾンビをゴキ風呂行きにした結果……まあ、こんな低脳な奴らしか残らなかったという感じの奴らっス。そんでですね、ハンゾーの旦那の話によると、今暫くは兵の立て直しのために出撃してくるってことはないようだってことらしいっス」


 他の忍者十一人衆は、このコジローの報告をしきりとうんうん頷いたり、腕組みをしたまま聞いていました。そして、最後にアビシャグさまが悠一くんに「と、いうことだそうだ」と、言葉のパスを回します。


「つまり、ユーイチが北へ乗り込むには、これが絶好の機会だということだ。何故かといえば、次に西へ攻め込むにしても、ヤジロベエのゴーレムみたいのが出てきたら、今度は壊滅的な被害が出るかもしれないと恐れるだろう。北の王のドルトムントはプライドが高く面子といったものを気にする王だからな。そう考えた場合、これで暫くの間、北が攻めてくることはないと見ていいだろう。そこへユーイチがバイオプリンタを手にして行った場合、ドルトムントはそのことを諸手を上げて喜ぶのではないか?無論、実際にどう転ぶかはわからない。もしかしたら、わたしの息のかかった間者と思われ、最悪処刑……ゴキブリ風呂行きという可能性もあるか、コジロー?」


「どうっスかね。ドルトムント王はゾンビのことは人間と思ってないんスけど、生きた人間のことは無条件で受け入れるところがありやすから……よほどのことでもなければ、ゴキ風呂行きってことはないでしょうが、まあ、これはオレ個人の意見なんスけどね、メシアさまが北の国へ来てくださるというだけでも、おそらくなんらかの変化が起きるんじゃねえかと思ってたりするんスよ。そのあたり、どーっすかね?」


 ゾンビ忍者たちは、悠一くんに対し『若くて頼りなさそうだな』とか『こんな奴が本当にメシアさまなのか?』と感じるでもなく、ただ悠一くんがメシアだと聞いただけで、厳かな恐れの気持ちを抱いたようでした。ですから、ハヤテがモモチの隣に座り、悠一くんがヤジロベエの隣に座って会議に参加すると――なんとも言えない畏敬の気持ちに打たれた様子をしていたものです。


「じゃあ僕、バイオプリンタを持って北へ向かおうと思うんですが……北の国の南門というのは、ただその前に立って門を訪ねれば開けてもらえるものなんですか?」


「ハハハッ。メシアさまも随分肝の据わったお方でやんすね」と、カゲマル。「オイラ、すっかり気に入ったでやんすよ。まあ、オイラたちは忍術を使って壁抜けをするんでやんすが、そう考えた場合、どうしたもんでやんすかね。まあ、今ドルトムントの元にいる生きた人間たちもみんな、正面きって普通に「王にお会いしたい」といったように謁見を求めて中へ入ったんでしょうから……それが正攻法と言えるでやんすかね?」


「そうだな。おそらく、ユーイチひとりで乗りこんでいっても、突然縛られて牢屋へ入れられたり、何か危害を加えられるということはないだろうが、それでも一応はお供の者がいたほうがいいだろうな。さて、誰がいいか……」


 ここで、ハヤテの隣のモモチが「はいはーい!ももちん、メシアさまと北の国へ行ってもいいでーす!」と挙手してすぐに立候補しました。


「おまえの場合、どう考えても動機が不純だろうが!アビシャグさま、ここはひとつこのダンゾーめがこの命にかえてもかの地にてメシアさまの命をお守りしましょうぞっ」


 ダンゾーは岩のような大男で、鎖カタビラを編みこんだ忍者服に包まれていない皮膚の部分は、どこもかしこもギザギザの傷跡がたくさんついていました。また、顔のほうも同様で、なかなかいかつい雰囲気のゾンビです。とはいえ、ボディガードとしては、確かに彼は適任かもしれませんでした。


「ええっ、そんなのずっるーいっ!!アビシャグさま、このアカネめをどうか、メシアさまの付き人兼ボディガードにお命じくださいっ。第一、ボディガードのうちひとりは必ずくの一の付くのが平等ってもんですっ。それで、ヤチヨはすでに生ける人となったわけですから、ニューハーフのももちんよりもDNA的により純粋なくの一であるわたしをば、是非っ!」


 モモチは「何よ、それー。もうゾンビになったら男も女もあったもんじゃないじゃなーい?」と膨れていましたが、アカネのほうではどこ吹く風といった様子です。


「俺はまたすぐ東の国へ取って帰らねばならんからな。せっかくメシアさまにお会い出来たのに、とんぼ帰りせねばならんとは、実に残念だ」


 サイゾーは実にがっかりしたというように、溜息を着いていました。あくまでもこれは悠一くん基準で見た場合ということですが……悠一くんの目には、彼がアビシャグさまに次いで一番まともそうに見えたものです。


 ちなみにサイゾーは、先にあった戦争後、東の国でどのように状勢が動いたか、その報告のために一時南の国へ帰国していたのでした。


「ユーイチ、今まで通りハヤテとヤチヨを連れていってもいいのだぞ。病院のほうは、わたし自らが出向して指揮しても構わんしな。まあ、この中でユーイチが連れていきたい者を選んでくれ」


 アビシャグさまにそう促され、悠一くんは迷いました。何故かというと、ヤチヨとハヤテを連れていく気はありませんでしたから、他のゾンビをと言われても誰を選んだらいいのか正直わかりません。


「その……北の国へは、僕ひとりで行こうかなって思います。というより、むしろそのほうが警戒されないでしょう。それに、北の国にはコジローさんやハンゾーさんもいらっしゃるんでしょうから……きっとなんとかなると思います」


「ええっ!?何を言ってるでござるか、ユーイチ。拙者はユーイチについて北の国のほうへ行くでござるよ。まあ、ヤチヨは病院にいたほうがいいかもしれぬので、もう一人くらい誰か警護人を選べば、それでよくはござらんか」


 ハヤテは自分は選ばれているものと思いこんでおりましたので、一緒について行けないことがわかるなり、カクッと体をこけさせていました。


「いや……ゾンビであった頃に比べて、ハヤテの体は今随分脆弱になっているはずだよ。それに、今の体での戦闘にもまだ慣れてないはずだ。それなのに、いつ襲われてどんな目に遭うかもわからない敵地に、おまえやヤチヨのことは連れていけない。それに、北のドルトムント王が生きた人間を重用するというなら、最低でも命くらいは守られていると僕も思うからね。それで、敵地のほうを視察して、噂で聞くとおり北のゾンビ民が王の圧政に苦しんでいるというのなら、僕は彼らのことも助けたい。それで、北の国のゾンビも東の国のゾンビも、国境なく行き来が出来て、互いに仲良く協力しあえるのが一番だと思うんだ。今はまだ、ただの理想論かもしれないけど……」


 この悠一くんのスピーチには、忍者十一人衆の全員が、感銘を受けたようでした。自然、盛大な拍手までが生まれ、アビシャグさまもまた、同じようにされました。悠一くんはといえば、照れたようにただ自分の頭をかくばかりでしたが。


「とはいえ、女王としてのわたしとしてはやはり不安だ。ユーイチのほうで選べないなら、カゲマルとアカネ、おまえたちがユーイチの影となってメシアさまのことを守ってほしい」


 アカネとカゲマルは互いに顔を見合わせると、(やった!!)と心の中で快哉を叫んで喜びました。もっともこの時、悠一くんはまだ少し不安だったのですが……。


「でも、大丈夫なんですか?もし向こうで何かあったら、こっちへ帰って来れない可能性だってあるわけですし……」


「心配には及ばないでやんすよ、メシアさま。オイラとアカネとは、壁抜けという忍術が使えやすからね。牢獄行きにされたって、どうにか逃げられまさあ」


 そう言って、カゲマルは明るく笑っていましたし、アカネもまた何度も頷いていました。彼女の場合は、あまりに恐れおおくて、メシアさまに何か申し上げるようなことも出来なかったのですが。


「そっか。じゃあ、大丈夫なのかな……」


 他の忍者十一人衆にはわからなかったでしょうが、アビシャグさまには、悠一くんがどこか心あらずなのがわかっていました。近く、北の国という恐ろしい――もしかしたら死ぬよりひどい目に会う可能性もある――場所へ行くというのに、悠一くんはどこかそれを他人事のように捉えているように見えたからです。


 それで、会議のほうが一応終わると、アビシャグさまは悠一くんのことを呼びとめ、忍者十一人衆のいなくなった会議室で少し話をすることにしたのです。


「準備が出来次第北へ向かうということは……もうほんの何日か後ということだろう?ユーイチ、おまえ、本当に大丈夫なのか?」


「ええ。毎日、携帯エネルギー食を必ず食べてますし、栄養のほうは十分足りてます。北へ行くことにも、実は今はあまり恐怖感を感じてません。もしリロイのことがなかったら、もっと緊張して怖かったでしょうが……アビシャグさまの目には今の僕って、なんだか元気がなくて暗い感じだと思うんですけど、実は今はこのくらいのほうがいいと思ってるんです。気持ちが底辺よりちょっと上のところで安定していて、変に気分が上がったり下がったりしない分、落ち着いて色々なことを考えられますから」


「そうか。それならいいが……何かわたしに出来ることがあるならなんなりと言え。なんでも叶えてやろう」


 実をいうと、悠一くんが北の国へ行くということは、アビシャグさまにとっても漠とした不安を感じることでした。たとえていうなら、南の国から栄光が去って、北の国へと移動していく……といったような。もちろん、悠一くんは南と西の連合国の使節として(そう名乗らなかったとしても)北へ行くようなものなのですし、そんな心配をするのはおかしなことであったとはいえ。


「いえ、アビシャグさまには十分よくしていただきました。北へ行ったら暫く戻れないかもしれませんが、コルディア病院やヤチヨやハヤテのこと、どうかよろしくお願いします」


 この時、アビシャグさまは少しやつれたような悠一くんの顔を見て、(メシアというのも大変なものだ)とあらためて感じたかもしれません。たとえばアビシャグさまやヤチヨなら、女性に乱暴、狼藉を働いたリロイという男を殺したとしてもミジンコばかりも良心が痛まなかったことでしょう。


 けれども、悠一くんは違いました。そして、そんな優しく繊細な性格をした悠一くんだからこそ、ゾンビという醜い生き物にさえも同情し、何かと手を尽くしてくれたのだと思うと……アビシャグさまとしてもあらためて胸に熱いものがこみ上げてきました。


「すまないな、ユーイチ。もともと、ゾンビたちのために何か色々してくれたところで、おまえになんの得があるというわけでもないのに……」


 この時、悠一くんは不思議と、突然最初に会った頃のような、純真な顔つきを取り戻していたかもしれません。


「まさか。そんな……僕は、ゾンビたちのお陰で随分得をしました。しかもそれは、今の僕から誰かが取り上げようとしても、そう出来ないくらいのものなんです。アビシャグさまには、前にもこの話はしたような気がするのですが……僕が前にいた生きた人間世界より、こちらの世界のゾンビのほうが、よほど人間として格が上です。ただ、その生きた人間側の世界からやって来た僕たちの仲間が……ああした恥ずべきことを行なったということで、リロイにレイプされた女性たちのことを思うと胸が痛みますし、正直、僕はリロイを殺したことを後悔していながらも、ああしてやって当然だったと思う気持ちもあるんです。でも、それでも殺人は殺人ですからね……そんな人間がメシアなどと呼ばれていていいはずがないとか、やっぱり気づいたらつい、同じことを繰り返し考えてしまうんですよ」


「そうか。ユーイチ、わたしもおまえと出会ってから、随分色々と考え方が変わったと思う。それにあのスリーピング装置のお陰でな……こう見えても、煙管を吸う量も減った。それに、東西南北の四国は永遠にこの膠着状態を続けるとばかり思っていたのに――その状況すら変わったんだ。ユーイチ、おまえのお陰でな」


「いえ、それだってべつに僕が何かしたってわけじゃありません。僕が軍を率いて北の国と戦ったというわけでもありませんし、あの、生ける人となるための科学技術も……のちのち災いを生まなければいいと思い、僕は毎日祈るような気持ちでいるくらいですから」


 ――こうして、悠一くんはこの二日後、カゲマルとアカネのふたりを護衛に連れて、シェロムさんにホバークラフトを運転してもらい、北の国の南門前まで行きました。ちなみにこの時、コジローもホバークラフトに乗っていました。そして、コジロー自身は悠一くんやカゲマルやアカネがホバークラフトを下り、南門前を守る衛兵が門を開くのを見届けてから……別の人目につかない場所から、北の国の内部へ入りこむつもりでいたのです。


 ここで、時間は少し戻りますが、北の国へ向かう前日、悠一くんは自分の部屋にしている研究棟の仮眠室で、ヤチヨに怒りをぶつけられていました。と言いますのも、悠一くん自身から直接何か聞かされるでもなく、彼女は忍者仲間のアカネやカゲマルから北の国へ向かうことを聞かされていたからです。


「ユーイチ。北の国へはわたしも行くっ。おまえが止めようとどうしようと、わたしはおまえと一緒に行くぞ。病院のほうは部署ごとにリーダーもいるし、本当に困った事態が生じたとしたら、それはアビシャグさまにお尋ね申し上げればいいことだからなっ!!」


 悠一くんはこの時、ヤチヨの来訪を予期していました。けれども、どちらかというと、自分が出発するまでの間怒って口も聞いてもらえない……というほうが気楽な気もして、それで自分からは何も言わずにいたのです。


「僕は……ヤチヨのことを連れていく気はないよ。それに、ハヤテもだ。もしヤチヨとハヤテがゾンビのままでいたとしたら、僕だって、おまえたちについてきて欲しかった。でも、生きた人間というのは死んでいるゾンビ以上に脆弱だからね。それに、僕はまあ、容貌的にちょっとパッとしないというか、そんな感じだけど、ヤチヨとハヤテは目立ちすぎるよ。北の国っていうのがどんなところなのか、僕にはさっぱりわからないし、もしかしたらちょっと人とすれ違うだけでも石を投げられるとか、そんなことがあったら僕も責任持てないもの。いいかい、ヤチヨ。僕はおまえとハヤテのことを大事だと思うからこそ置いていくんだ。そのことはわかるだろう?」


「…………………っ!!」


 大事だと思うからこそ、という言葉に気持ちがぐらついて、ヤチヨはそれ以上何も言えなくなりました。それでも、ゾンビでなくなったからこそユーイチのことを守れなくなったのだと思うと、ヤチヨは自分が情けなくて堪りませんでした。


「わたしも、アビシャグさまと同じように、もっとあとに……もうこれでゾンビ世界は何も問題もないという頃に、ゾンビから生ける人になればよかった。そしたら、北の国にも行けたし、おまえも態度が変に冷たくなったりもしなかったろうしな」


 絞りだすような声でそう言って、ヤチヨは悠一くんが体をもたせかけているベッドサイドに座りました。悠一くんは病院の研究職員が仮眠室としていた場所を自分の部屋にしているのですが、そこにいた研究職員は相当雑な性格をしていたようで、部屋のほうは最初からかなり散らかっていました。けれど、悠一くんも何かと忙しく、片付ける暇もなく今日まで来ていたのでした。


「僕は……べつにヤチヨに対して冷たくなったわけじゃないよ。おまえもハヤテも、僕にとっては何よりかけがえのない存在だ。でも、病院のほうは四六時中忙しいし、ゾンビたちは基本的に疲れ知らずだけど、人間になった今はヤチヨもハヤテも睡眠が必要だし……いや、そういうことでもないか。僕は生ける人となったゾンビのことを見ていると、色々考える。これが彼らにとって本当にいい選択だったのかどうか、そういう責任の全部が自分にあると思うと、なんかつらいんだ。いや、みんなが毎日笑顔でニコニコ働いてたりするのは嬉しいよ。だけど、リロイのことがあったみたいにね、生ける人となるっていうのは、そういいことばかりでもないんだ。そのうち、彼らもそのことに気づく時がやって来るだろう……」


 悠一くんが、アビシャグさまが煙管の煙を吐く時のように……フーッと重い溜息を着くのを見て、この時、ヤチヨは何か、それまでわからなかったことが初めてわかったような気がしました。ヤチヨはここのところ、悠一くんの顔を見れば、病院のあれはどうすればいいかとか、こうするのはどうだろうとか、そんな話ばかりしてきました。ヤチヨにとっては、メシアである悠一くんの片腕としてコルディア病院の仕事に従事するというのは、やり甲斐のある素晴らしいことでしたし、そうすることで悠一くんの役にも立っているはずだと思いこんでいたのです。


(でも、そうじゃないんだな。ユーイチが欲しかったのはむしろ、そういう仕事から解放された時に気安く話せる仲間だったり、何かそうした安らぎがユーイチには必要だったんだ。たぶん、わたしはその逆のことをずっとして来たんだろうな……でも、ユーイチもわたしに悪気があるわけじゃないとわかっていたから黙っていたんだ……)


「ユーイチ、すまなかった。こんなに近くにいながら、おまえの本心にも気づけなくて……北へは、本当に明日行くのか?」


「うん。今、北ではこの間の戦争で負けたってことで、暫くはもうこちらへ攻めてこないだろうってことだったし、北の国の内情が本当はどうなのかって、噂で聞いてるだけじゃわからないからね。自分の目で直接確かめる必要があると思ってるんだ」


 アカネとカゲマルから、バイオプリンタを一台、北の王のドルトムントに献上する予定だとは、ヤチヨも聞いていました。最初聞いた時には、「何を考えてるんだ、ユーイチはっ!?」と思い、病院の壁を殴ってヒビを入れていたのですが……その真意を聞かされると、ヤチヨもようやく納得しました。


 もちろん、違う世界からやって来たというそのせいもあるのでしょうが、もともと悠一くんにはヤチヨの理解できないところがありました。そしてヤチヨは、それは自分がゾンビであって生きた人間ではないからだと思い……自分も彼と同じ生ける人となればユーイチのことがもっとわかるようになるのではないかと考えていたのです。けれども、同じ生きた人となった今も、ヤチヨには悠一くんのことがわかりませんでした。でも今――少しだけわかった気がします。彼は自分たちよりも、少し……いえ、もしかしたらもっとかもしれませんが、彼がずっと遠くを見ていることがわかったのです。


「そうか。わたしが直接ユーイチのことを守ってやれないのはなんとも歯痒いが……まあ、アカネもカゲマルも腕のほうは確かだからな。忍者カレッジ時代、アカネはわたしに次いでくの一としては優秀な成績だったし、カゲマルも、腕のほうはハヤテより数段上だ。そうした点では何も問題あるまい」


 それよりもヤチヨは、アカネが「メシアさまって素敵な方ねえ~」と言って、うっとりするような仕種をしていたのが気になりました。そうなのです。今までは自分が……自分とハヤテが一番悠一くんのそばにいたのに、これからはそれが変わっていってしまうであろうこと――それはヤチヨにとって、任務うんぬんといったことを越えて、実は何より受け容れ難いことだったのです。


「うん……本当はね、カゲマルやアカネにもついて来てもらうのはどうかと思ってるんだ。ドルトムント王は生きた人間のことは重用するってことだったし、そう考えた場合、命の危険ってことはないと思う。でも、カゲマルとアカネは南の国のゾンビだし、もし何かあって捕まって最悪処刑とかさ、そうしたらどうしたらいいかわからない。たとえば、彼らだけなら忍術を使って逃げられるにしても、僕がいるせいで逃げることも出来ないとか、そんなことにでもなったらさ」


「相変わらず心配性だな、ユーイチは。アカネもカゲマルもそのくらいの覚悟は出来ているさ。それに、そんなことになる可能性は、おそらくとても低い。というのも、北にはコジローとハンゾーがいるからな。忍者十一人衆が四人もいて、仲間を助けることも出来ないなんていうことだけはないさ」


「そっか。ヤチヨとハヤテがいた時みたいに、僕はどーんと大船にでも乗った気持ちでいればいいってことだね」


「そういうことだ」


 一応、大体のところ話のほうはこれで終わりなはずでした。けれども、明日悠一くんが北へ行ってしまえば、暫くの間は会えないと思うと……ヤチヨにしては珍しく、この時えもいわれず立ち去り難いような、切ない気持ちに襲われていたのです。


「コルディア病院のことは、ヤチヨ、すべておまえに頼むよ。僕がいない間は、ヤチヨに全権を託すっていうか、僕がそう言って北へ行ったということにしておいてくれ」


「冷たいな、ユーイチは」と、ヤチヨは少しだけ皮肉をこめて言いました。「みんな、あんなにおまえのことを慕っているのに、何も言わずに北へ行くとはな」


「仕方ないだろ。そんなこと言ったら大騒ぎになるし、どうせ北へ行くなら何も言わずにいなくなったほうがいいさ」


「ユーイチ……」


 ヤチヨは何か言いかけて、やはりやめました。彼はメシアなのですから、必ず北の国でも――西や南の国でちょうどそうだったように、きっとうまくやっていくでしょう。それでも、ヤチヨはもう随分長く悠一くんと一緒にいましたし、これからもそうあれるものと信じて疑っていなかっただけに……この突然の別れに戸惑っていたのです。


「その、こんなこと言ったら、なんだか今生の別れみたいでわたしも嫌なんだが……わたしは、ユーイチに会えて本当によかった。それに、おまえの手で生きる人間にしてもらえたことも、わたしには嬉しいことだった。あの瞬間のことはたぶんこれからもずっと……わたしが忘れることは絶対にない」


「それは、僕だって一緒だよ。だって、ヤチヨは僕が初めて手術して生き返らせた、初めての人なんだから……」


 ヤチヨは、悠一くんとかつてあったのと同じ繋がりが戻ってくるのをこの時感じました。そして、この絆さえあれば、遠く離れていても、きっと何かを耐え忍べると、そんなふうに思ったのです。


 こうして、翌日病院の裏手にある救急外来のところで別れるという時……ヤチヨは取り乱すでもなく、いつも通り冷静でいることが出来ました。もっともそのかわり、ハヤテは泣きに泣いていて、ヤチヨはそんな彼のことを小突くことになったのですが。「旅立ちの日に泣くのは縁起が良くない」と、そう言って……。


 ここで再び、話のほうは北の南門前でのことに戻りますが、ホバークラフトが南門から少し離れた場所に着陸しますと、最後にシェロムさんは悠一くんにこんなことを言っていました。


「ユーイチ、君の勇気には感服する。だけど、一応少し離れた場所から見送らせてもらうよ。それで、何かあった時のために……このマシンガンで門前の兵士には狙いをつけさせてもらおうと思う」


「ありがとう、シェロムさん」


 悠一くんは最後、シェロムさんと抱きあってから、ホバークラフトを降りていました。人肉の森で過ごした丸太小屋での最後の時間は、悠一くんにとってもかけがえのないものでしたが、それはシェロムさんにしてもそうでした。


 殺人、罪、思いだしたくもない過ち……人間は愚かな生き物ですが、そこから多くのことを学び、また同時に愚かな罪を犯した者同士、互いに思いやりながら生きていくということも出来るのです。


 その互いの絆のことを確かめあうように握手して、悠一くんはシェロムさんと別れました。それからシェロムさんは北国の南門に向けてマシンガンを構え、コジローもまたいつでも出撃できるよう、注意深くそちらのほうを見守るということになります。


 そして、悠一くんがゾンビ忍者のアカネとカゲマルを従え、北の国の南門のほうへ向かいますと――門扉の左右に立って門を守っていたゾンビ衛兵ふたりは、鋭く槍を構え、警戒の体勢を取っていました。


「何奴っ!?ここが北の国の南門ということはもちろんわかっていような!?」


「その上で用向きがあるのならば、申してみよ!!」


 ゾンビ衛兵は黒い甲冑を身に纏っており、死の虚空の眼差しでじっと悠一くんのことを見つめてきました。普通の生きた人間であったとすれば、この恐ろしくも不気味なまなこで見られただけで、ゾッとおぞけだったに違いありません。


 けれども、この時悠一くんの心の中にあったのは、恐ろしさではなく……むしろ深い哀れみでした。ゾンビとして気の遠くなるような時間生きて来、さらにはこれからもそのような意味があるのかないのかわからない時の中で、彼らはこの南門の前に立っていなくてはならないのでしょう。そう思うと、彼らの死のように暗い眼差しも、悠一くんにとっては今では十分に<理解できる>ものだったのです。


「僕は……北の国の王のドルトムントさまに会いに来ました。一応、献上すべき品物も荷車の中に積んであります。どうか、お通し願えないでしょうか?」


 幌付きの荷車のほうは、カゲマルが引いていました。そちらのほうの中身をあらためると、ふたりの衛兵は何か話しあい、ひとりのゾンビが門の内側に入っていきました。「しばし、ここで待たれよ」と悠一くんに返事をしたあとで。


 おそらく、自分たちの上官にでもお伺いを立てに行ったのでしょう。ゾンビ衛兵Aは再び戻ってくると、もうひとりのゾンビ衛兵Bとともに、大きく門を開きました。


「どうぞ、お通りになられよ!!」


 こうして悠一くんは、アカネと荷車を引くカゲマルと一緒に、五十メートルばかりもある塀の、開かれた扉を通って北の国の中へ初めて入りました。おそらく、この間あった戦争の時のように、軍備を整えここから出陣するためでしょう。門から入ってすぐのところは大きく開けた広場になっていました。


 悠一くんとアカネとカゲマルが中に入ると、門扉のほうはひどく軋んだ恐ろしげな音とともに閉まり、最後にはドォン……!!という物凄い音が風圧とともにあったくらいでした。


 門扉の内側すぐのところに警備兵たちの詰所があり、そこから表の衛兵らよりも身分の高そうな雰囲気の背の高いゾンビがやって来ます。悠一くんがこの時思ったのは、この警備隊長からなんの感情をも一切感じなかったということでしょうか。


 それでも、この警備隊長はとても礼儀正しく悠一くんのことを案内してくれました。そしてそのうちに悠一くんは、この警備隊長のことが<少しわかる>ような気がしたかもしれません。彼はひどく堅苦しく、真面目な人物で、むしろ不器用なほどなのではないか、ということに……。


 警備隊長は荷馬車のあるところまで悠一くんたちを案内すると、カゲマルがカバーのかかったバイオプリンタとその材料などをそちらに移すのを手伝ってさえくれました。そして、部下の御者にそのまま王宮まで行くように伝え、自分もまた馬に跨ると、すぐに走りだしていました。おそらく、先に王宮のほうへ、生きた人間とゾンビが二人来るということを伝えに自ら早馬となったものと思われます。


 とはいえ、王宮へ辿り着くまでには結構な距離がありました。おそらく、最低でも南の国の王宮から人肉の森くらいまでの距離はあったように悠一くんは感じました。また、警備隊長が幌馬車に悠一くんたちのことを乗せたのは、バイオプリンタという献上品があったためと思われますが、どうやらそれだけではなかったようでした。


 アカネとカゲマルも北の国へ来るのはこれが初めてです。そこで、幌馬車の後ろの幌を少しだけめくると、街の大通りの様子をちらと眺めるということにしました。向こうから少しでも姿が見えた場合、ゾンビたちに騒がれる可能性もありましたが、悠一くんも外の様子を見ずにはおれませんでした。


 悠一くんが幌を少しだけめくって外の様子を見てみますと、通りを歩いているゾンビたちは、その多くが体の一部がなかったり、包帯を巻いていたりしました。中にはただ死んだように通りの家屋の前に蹲っているだけのゾンビもたくさんいます。


 確かに、生きている人間と違ってゾンビというのは立派な家屋に住む必要はなかったかもしれません。それでも、もうずっと昔に建てられてそのままといったような古い木造家屋が通りには並んでおり……これは悠一くんがあとから知ったことですが、南が砂漠地帯、西が砂漠から続く山岳地帯であるのに対し、北はそちら側に比べて土地が肥沃で素晴らしい森林地帯に囲まれていました。また、領土の一部が海と接しているため、王宮からはその森林地帯の先に紺碧の海を望むことが出来ます。けれども、北の国の城下町がそのような景観美に恵まれているのに対し、こちらの粗末な長屋のような家屋が並ぶ一帯は、まさしく最下層に位置する<死の町>といったような様相を呈していたのです。


 ゾンビたちにはもはや、食欲もなければ、何か口に物を入れるために働く必要もありませんでしたから、彼らが<貧乏>であると表現するのはなんとも奇妙なことでしたが……悠一くんが一見して北の国の町に抱いた第一印象は、間違いなくこの<貧乏>ということだったかもしれません。


 どう表現したものか、悠一くん自身にも難しかったのですが、「精神的に貧しい」というのでしょうか。また、精神的に豊かになりたいと思っても、それを阻む色々なことがあって、彼らはただ何もせず黙っているしかないように見えました。そのくらい、あたりを無気力な暗い雰囲気が包みこんでいたといっていいでしょう。


(失敗したな……こんなことなら、コルディア病院から医療品や医薬品を色々持ってきたら良かった。でも、そういうものなら、北の国の国内にある旧文明の都市にだってあるはずだし……)


 悠一くんは、コルディア病院で働くゾンビ、あるいは生ける人となった元ゾンビたちのことを思いだし、この時奇妙な感慨に襲われていたかもしれません。思えば、初めてライダースーツゾンビや彼の仲間の暴走族ゾンビたちに出会った時――悠一くんはゾンビに対する映画のイメージが強く、ただひたすら彼らを恐怖していたとはいえ……それでも、その後彼らから最初に感じたイメージは<自由>でした。決して彼らゾンビたちに対し、<精神的に貧しい>といったようには感じませんでしたし、それはその後、ゾンビ・ホスピタルでも、西の国のゾンビたちに出会った時にも――むしろ、『ゾンビなのに感情的になんて豊かなんだろう』と感じたような覚えがあります。


 もっとも、もっと親しく接してみなければ、北の国のゾンビたちの実情は見えてこなかったかもしれません。ですが、悠一くんがこの時北のゾンビ民に対し、一番最初に感じたのは次のようなことでした。


(彼らだって、西の国へ行ってお笑いを見ればきっと大笑いするだろし、南の国でフラダンスを楽しんだり……中立地帯のゾンビたちに踊りを教えてもらって一緒に踊ることだって出来るんだ。もし、この北の国から自由に外へ出ることさえ出来れば――彼らだって生きる希望を持って、死んでるけど楽しく生きることだって出来るんだ。それに、生ける人として甦ることだって……)


 やがて馬車が進み、だんだんに王宮近く――つまりは城下町ということですが――までやって来ると、そこは北の国に特有の文化が感じられる、素晴らしく贅を凝らした建物が建ち並んでいました。木造建築とモルタルを組み合わせたような、ヨーロッパの田舎町にある伝統的な家屋にそれらは似ており、こうした街並みを悠一くんはテレビ、あるいは旅行のガイドブックなどで見たような記憶があります。


(僕の中の記憶じゃ、ドイツとかスイスとかチェコスロバキアとか……そういうところの伝統家屋がこんな感じじゃなかったかなって気がする。北の国では、城下町以外の街ってさっきのような町ばかりというか、比率として、豊かな街と貧しいように感じられる町と、どっちが多いんだろう……)


 また、城下町に入ってから、道のほうも石畳になり、馬の蹄の音のほうが軽やかになりました。そのパカパカいう軽妙な音を聞いているうちに、カゲマルが「♪ぱからっ、ぱからっ」とその音真似をはじめます。


「メシアさま、北は名馬の産地として有名なんですよ。そしてそれが、北の軍隊を強くもしてるんです」


「そうなんだ……それは初めて聞いたな」


(アカネの奴、ほんとになんか悪いものでも食ったでやんすかね)


 カゲマルはこの北への旅がはじまってから、アカネの変調を少し心配していました。不必要なところで妙にクネクネしたり、いかにもおしとやかな女の子であるかのように振る舞ったり……もっとも、カゲマルが純粋に心配して「下痢にでもなったでやんすか?」と聞いても、彼はその返答として殴られただけだったのですが。


 そして、悠一くんが「アカネは物識りなんだね」と褒めますと、アカネが「やだー、メシアさまったらー」などと、また妙にクネクネしだすもので、カゲマルとしては首をひねるばかりだったと言えます。


「それにしても、北の国の城下町っていうのは立派なもんでやんすねー。西や南の城下町も立派でやんすが、ここまでキチキチッとまではしてないでやんすからね」


「そうだね。西の国や南の国の王城は、いい意味で結構ゆとりみたいなものがある立派さだけど、この北の国の城下町は何かこう……<間>のようなものがないんだね。あちこち、細かいところまで装飾がしてあったりして、とても素晴らしい景観ではあるけど、なんかちょっと窮屈っていうか……」


「そうですよねー」


 と、アカネがすかさず悠一くんに相槌を打ちます。


「何かこの街並みの景観を損なうようなことをしたら、即刻牢屋とかにぶっこまれそうー」


(流石にそこまでのことはないんじゃないかな)と、悠一くんは思っていましたが、実はアカネの言うとおりでした。城下町に住むゾンビたちは、この景観を美しく保つのが毎日の仕事のようなもので、毎日窓を磨いたり、家のまわりにゴミでも落ちていないかと、しょっちゅう見てまわります。何故といって、憲兵隊が定期的に見回りをしており、その時たまたま家の前にゴミでも落ちていようものなら――その場で体の一部を失いかねませんでしたから。


 やがて、だんだんに石畳の道は傾斜に差し掛かり、馬の歩みも少し緩やかになりました。悠一くんたちに見えるのは、過ぎゆく後ろの道だけでしたから、前方に聳える城の全貌については、馬車を下りてから初めて知るということになります。


「うわあ……」


 最初にそう驚きの声を発したのは、アカネでした。カゲマルもまた、「こりゃ、すごいでやんすね」と驚いています。


(ノイシュヴァンシュタイン城みたいだな……)


 王城の門前で、悠一くんたちは馬車を下りるということになったのですが、悠一くんは雪のように白い壁に青灰色のスレート葺きのお城を見て、そんなふうに感じていました。一番簡単にいうとすれば、北の王城はディズニーランドのシンデレラ城によく似ていたと言えます。


 そして、御者のゾンビが門番に用向きを伝えますと、門番は悠一くんたちに対していくつか質問をしてきました。


「警備隊長からおまえたちのことはすでに聞いている。それで、ドルトムント王にお会いしたいということだったが……一体どのような用向きなのだ?」


 門番は甲冑で正装しており、南門の前にいた衛兵ゾンビたちよりも、いかにも階級が上といったように感じられました。


「ドルトムントさまに、お見せしたいものがあるのです。わたしは異邦人のユーイチ・ナカムラ、そしてこちらはゾンビのアカネとカゲマルと申す者です。わたしたちは南の国より参りました」


「南の国とな……?そんな場所からはるばるよく旅をなさってきたものだ。それで、そちらの馬車の中にある物は何かね?」


 もうひとりの門番が馬車の後ろをあらためて、丁寧に梱包されたバイオプリンターを検閲しました。けれども、彼らはそれが何かわからず、戸惑った様子をしています。けれども、とりあえずドルトムント王を暗殺するための道具ではあるまい……とは判断していたのでした。


「ゾンビの体を治療するための、画期的な機械です。おそらく、こちらの旧文明都市にある病院を調べれば、同じものがあるはずなのですが……その使い方について、少しばかりアドバイスさせていただければと思いまして」


 まるで、王に何かの押し売りでもしに来たかのように、悠一くんの言葉は淀みなく流暢でした。そこで、門番はふたりとも暫くの間首をひねり――そのあと、片方の門番がこう言ったのでした。


「ドルトムント王は、南門を生きた人間が叩いた場合は、必ず自分に連絡するよう部下の全兵士に通達している。だが、それが本当にゾンビの体を治療するものなのかどうか、我々にはわからない。そこで、ドクター・コーディルをお呼びしようと思うので、しばしの間待たれよ」


(ドクター・コーディル……!!)


 悠一くんは、思わぬ人の名前を耳にして、驚きました。また、シェロムさんにも『もしエルヴィン・コーディルに会うことがあったら、シェロムがよろしく言っていたと伝えておいてくれ』と言われていたのですが――まさかこんなに早く彼と出会えるとは、悠一くんも思っていなかったのです。


 その後、悠一くんたちは随分長く待たされたのですが、悠一くんはその待つ間もそれほど苦ではなかったかもしれません。二コラも『エルヴィンはとてもいい医者だったのよ。わたしの癌を治してくれただけじゃなく、ゾンビたちの傷を縫う時にも、その手業ときたらとても見事なものだったわ』と、そう言っていたのを思いだし、もしかしたら自分が今までコルディア病院でしてきたことについて、彼に何かアドバイスを求められるのではないかと思い――心が高鳴っていたのです。


 ところが、やがてドクター・コーディルが門の外までやって来ると、彼はバイオプリンタを見るなり、突然怒りだしていました。


「これは、画期的な医療装置なんかじゃない!!おそらく、彼らは南の国のスパイだ。目的が何かはわからんが、とにかくこの者たちをひとまず牢へ入れろ!今回のことは私からドルトムント王に話すので、君たちは何も心配しなくていい」


「ははっ!!」


 城門の内側から衛兵が駆けつけると、アカネとカゲマルの手に縄をかけ、少し戸惑ったのち、悠一くんにも同じようにしました。彼らが悠一くんに縄をかける時だけ戸惑ったことには理由があります。何故といって、ドルトムント王は異邦人を大切にしますから、何かあった場合、処罰の対象にされたくなかったのです。


 アカネとカゲマルは衛兵に銃剣を突きつけられ、引き立てられるようにして歩かされましたが、悠一くんは少しばかり丁寧に縄を引かれ、衛兵たちに従うということになったといえます。


 悠一くんは今後自分の身がどうなるかわかりませんでしたが、ただ、アカネとカゲマルは今回のような事態になってもまるで恐れていないことだけはわかっていました。つまり、その点だけは安心していいということです。しかも、彼らは王城の地下牢の一室に悠一くんたちを監禁したのですが、一人ずつ別々にではなく、三人一緒に同じ牢へ入れたのでした。


 ただし、薄暗い地下牢の前にはゾンビの番兵がいましたし、もともとゾンビ用の牢屋なのでしょう。アカネとカゲマルにとってはともかく、悠一くんにとってそこはひどい悪臭の漂う場所でした。


「ゴホッ、ゴホッ!!」


 牢屋に入れられて一時間としないうちに悠一くんは咳き込みはじめ、そのうちにそれだけじゃなく、体があちこち痒くなってきました。おそらく、ノミか何か、そうした虫がいたものと思われます。


「ど、どうしよう……っ!!ユーイチさま、しっかりなさってください、しっかり!!」


 アカネは悠一くんの背中を撫でさすっていましたが、実際のところ、悠一くんは段々に具合が悪くなりはじめていました。この牢屋には何かゾンビの腐った死体から生じた目に見えない菌がいるようでした。悠一くんがこれまで他のゾンビたちといて平気だったのは――彼らがある程度自分の体を保つのに衛生管理をしていたそのせいだったのです。けれども、ここの牢へ放りこまれた数えきれないほどの囚人たちはそうではなく、中には体がどんどんぐじゅぐじゅと腐り果てるがまま、放っておかれた者もたくさんいたに違いありません。


「おい、看守さんや!メ……じゃない。生きた人間さまが苦しみだしてるでやんす。ドルトムント王に何か報告がされる前に、生きた人間さまになんかあったら、首と胴体を斬り離されるのは看守のあんただって、こっちは親切にも教えてやってるんでやんすよ!!」


「ヤンスヤンスうっせえ野郎だなあ。南の国の連中ってのは、そんな変な言葉でみんなしゃべりやがるのかい?」


 番兵はいかにもおっくうそうに、耳の穴をかっぽじってそう言いました。小指に蛆虫がついてきて、彼はそれを床に放ると、足の裏で踏み潰しています。


「オイラはど根性ガエルと親友……じゃない!とにかく、生きた人間さまが苦しんでるでやんすよ。あんた、とにかく早くどうにかするでやんす!!」


「わかったザマスよ」と、番兵はふざけて言いました。「そんじゃあっしはちょっくら、上官さまにお伺いを立ててくるザマス。ふっふっふ……ザマス!!」


 そして、このザマス看守が地下牢を出て、別の階から看守長を連れてきますと、悠一くんが顔を真っ赤にして咳ついているもので、この看守長はすっかり縮み上がりました。おそらく心の中では、『トムとジェリー』のトムが驚いた時のように、床から一メートルばかりもすっ飛んでいたものと思われます。


「た、大変だ……この生きた人間さまだけでも、とりあえず、別の階へ移そう。それで、医師の中の誰かを呼んでくるのだ。もしこの方に何かあれば、我々全員の首が飛ぶぞ!!」


 こうして悠一くんはすぐさま牢屋から出されましたが、アカネとカゲマルはそのまま牢屋に入れられたままでした。もちろんふたりとも、こんな場所から逃げだすのはとても簡単なことです。ですが、今暫くは事態がどうなるのか、事のなりゆきを見守る必要がありました。


「大丈夫かなあ。メ……じゃなくて、ユーイチさま」


「たぶんきっと大丈夫でやんすよ。何しろユーイチさまはメ……じゃなくて、メなんとかなんでやんすから!!」


 アカネもカゲマルもユーイチくんのことが心配でしたが、それでも彼をメシアさまと信じていましたので、いずれきっと彼はドルトムント王とも会い、何かが良いほうへ変わっていくはずだと、そう信じていたのです。





 >>続く。






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