秘書の定時上がり
『アミール村へようこそ、新しい冒険者さん!まずは、あそこの冒険者組合に行ってみてください!基本動作やお金の稼ぎ方色々と学べるので!』
「ありがとう。行ってみますね」
敦也は村娘NPCに軽く会釈して、指定された建物へと向かう。
村はとても賑わっていた。けもみみ獣人に、骸骨戦士、勿論、人間だって。
そしてそのほとんどが、敦也と同じような初期装備を着けていた。
そしてその全員が、顔、身長、毛色、体格などが違うかったのだ。
「見た目は初期設定じゃないのか?まぁ冒険者組合で聞けばいいか…」
そして目的地に辿り着く。
村の中で一際大きな建物で、他の家々は木造のなか、唯一石造りだった。
中は、プレイヤーでごった返していた。
回りを見回した敦也は看板を見つける。
『新規冒険者様はこちら』
敦也はその看板から延びている10名くらいの列に並ぶ。
後ろから見ていると、
どうやら新規冒険者はまず、何かの証のようなものを渡され、奥の右側の部屋へと案内されているようだった。
『次の方どうぞ~』
数分して、敦也の順番が回ってきた。
敦也は受付嬢の前まで移動する。
『それでは、プレイヤーネームを教えてください』
「【あ2や】です」
『【あ2や】様ですね…それではこちらのビギナークラスの証を持って奥の左側の部屋にお進みください』
「え?右側じゃないんですか?」
あっ。敦也は言ってから理解した。右側の部屋の定員が一杯になったのだと。だから次は左側の部屋に入れていく…普通のことではないかと。
と言ってもそんな彼の理解は直ぐに誤解だったと、彼自信が理解することになるのだが…
『ようこそ【あ2や】様。先程ぶりでございます』
扉を開けた先には、闘技場のような開けたスペースになっており、その中央にはNPC?のアリスがいた。
「待て待て!プレイガイドだろ?新規プレイヤーの初期設定画面に戻れよ!」
『あぁ!そうでしたね、アリスたんが可愛すぎてついつい意地悪なことを言ってしまう【あ2や】様は知りませんもんね。私。アリスは、つい先程からアミール村の冒険者組合に配属になったんですよ』
「NPCが転勤ってなんだよ…そして僕は小6男子じゃない!と言うことはあれか?もうあの扉からは誰も入ってこないんだろ?」
『左様でございます……そんな…こんなに可愛いアリスたんと密室で二人きりだからって興奮しないでください【あ2や】様』
「早織さんがこんなキャラだったなんて、僕は悲しいですね」
『宗敦様の命には逆らえませんので』
「本当に?結構ノリノリじゃない?
いやそんなことより、聞きたいんだけど。見た目の初期設定はいつやるの?」
『勿論。初期設定画面でございます。ただ【あ2や】様に関しましては、あーたんは見た目も最高だから、そのままの姿の方がいいよねー!ということで特別に現実世界と同じ見た目にさしていただきました。おめでとうございます。』
「なんもありがたくないけどね!」
『それではまず基本動作からですが…まぁ分かりますよね。村のなかを歩いてここまで来られたんですから、それと一緒です。こうしようと体を動かせば、ステータスや装備に依存した可能範囲までは好きに動かせます』
「なるほどね…それでちょっと動いてみていいのかな?」
『次にアイテムですが。アイテムを手に持ち、仕舞いたいと思えば勝手に仕舞えます。出したいときは、アイテムを思い描いて出したいと思ってください。使いたいときも同じですね。ただ注意点は、バッグには容量がございますので、容量以上のものは入れられませんので、他アイテムと交換するか。大きいバッグをご購入ください』
「ええっと…アリスさん?」
『次にショップの説明ですが。村などの雑貨屋で回復アイテムや補助アイテムを購入でき、武器やでは武器……ですね。また、バッグの中に固定で入っています、【専用SHOPアイテム一覧】を使えば、何でも買える増す。ここでステータスやスキルポイントなども買えます。ただ全ての商品が高いので注意ですね。あと、【あ2や】様は唯一【あーたん専用SHOPアイテム一覧】もございますので。使い方は一緒ですね』
じゅげむでも唱えるように、アリスは説明を終えるとふぅと少し息を吐く。
『天才【あ2や】様なら、先程の説明でこのゲームのすべてを理解したと言っても過言ではないですよね。それでは私は17時になったので失礼させていただきます。
こちらがチュートリアル突破記念の【10万エン】になります。あとこの部屋は終日【あ2や】様の貸し切りですので、好きにお使いくださいませ。』
それだけ言うと、アリスは影も形もなくなっていた。
これがログアウトだろうか?というか一応、NPCを名乗っているキャラがログアウトしていいのだろうか?
「いや!そこじゃない!絶対退社時間迫ってやっつけ仕事にしただろ!」
そんな敦也の心からの突っ込みも、突っ込まれる側はその仕事を放棄してしまっているので、ただただ虚しく。一人だけの部屋に木霊するだけだった。
「まぁ仕方ないか…取り敢えず詳しいことは明日聞くとして、どんなのが売っているか見てみるか…」
数分して、漸くこのボケ不在の突っ込みの無意味さを理解した敦也は、頭で思い描く【あーたん専用SHOPアイテム一覧】と……
すると目の前にスマホサイズのウィンドウが展開される。
「なるほど…」
敦也は、急に目の前に現れた宙に浮かぶスマホが漂わせるSF感に素直に感心しながら、そのアイテム一覧を見る。
【購入可能アイテム】∶価格∶説明
ミニットバフ∶10万円∶使用時に10~100万までチャージ可能で、チャージ額一万につき全ステータスが1上がる
根性ポッキー∶50万円∶このアイテムは、歯で固定されている時のみ、HP が1以下になることはない
ラストショット∶100万円∶使用後最初の攻撃に追加ダメージを付与する。この追加ダメージは自分のHPが少ないほど上昇する。
「高い……というか強いか強くないのかまず分からない…」
敦也は、そう言いながらとりあえず一番安いリミットバフだけを購入し、少し前に入ってきた扉の方へ向かう。
「とりあえず村でも見て回るか……ツボあるかな…」
そんなことを呟きながら、漸く始まるであろう冒険に期待を膨らませていくのだった。