夢幻
見るからに『床屋』と言う感じの店のイスに座り、
首には真っ白なカットクロスが巻かれていた。
後ろに立った白衣を着たオジサン…手にはバリカンを持っている。
「本当に良いの?坊主にしちゃっても…?」
オジサンが美和にそう聞いて、美和はこくんと頷く。
「じゃあ、思い切ってやっちゃうよ」
前髪に、オジサンの手が触れる、そしてその根本にバリカンが近づいてきた。
『ジジジ…』髪が刈られる音、刈られた髪がカットクロスをつたい、床に滑り落ちていく音。
バリカンは、額から真っ直ぐ後ろに向かって進んでいき、その部分の髪を落としていった。
刈った後は、地肌が青白く見える程になっている。
オジサンの持ったバリカンは、トップを刈り終えて、横の髪に移っていった。
その時、ドアが開き、誰かが店に入ってきた。
「いらっしゃい、こちらのお客さんが終ったら、やりますのでしばらく待って下さいますか?」
オジサンは手を止めて振り返りながら、入ってきたお客さんに言う。
「あ、良いよ、別に急がないから…」
そう答えたお客さんは、頭を半分刈られている美和をジーっと見ている。
そんなに見なくても良いじゃない、って思うほど、
じかに、そして鏡に写る美和の顔を見ている。
「勇気あるでしょ?くりくりに刈っちゃってくれってさ」
お客さんの視線に気が付いたオジサンが、バリカンを動かしながら言う。
お客さんが、へえ~と言うように頷いて、
まるで、見て良い権利を貰ったかのように
更にじーっと見つめている。その目の前で髪を刈られている美和…
バリカンはうなじに当たり、後ろの髪を勢い良く刈り上げていく。
「あっ…」ついそんな声を出してしまった。
目が覚めた。
今のは夢だったんだ…それにしては感触も、気持ちも、何だかリアルだったなあ。
美和は、起きてまず一番最初に髪に触れた…良かった、ちゃんと長いままだ。
夢の中で刈られたはずの髪は、
ちゃんと肩下まであって、少し汗ばんでしっとりしていた。
『変な夢だったなあ~ほんと…』
次の日の夢は、こんなだった。
どこら知らない倉庫のような場所で、美和は手足をイスに縛られている。
身動き出来ない状態で、男が近づいて来て、美和の首にカットクロスを巻き付ける。
抵抗しようにも出来ない美和…
男の手にはバリカンが握られていて、そのスイッチが入れられる。
「どうされるかわかるね?覚悟は良いか?」
男の言葉に、美和は首を振るが、
すぐに頭を押さえ付けられてバリカンが近づいてくる
「やめて~」
大きな声を出して叫ぼうとするけど、上手く声が出ない。
バリカンはこめかみの辺りから入り込み、呆気ないほど簡単に髪を刈っていく
「ほ~ら、こんなに短く刈っちゃったよ…」男がねっとりした声で囁く
「いや~っ、やめて~」
声にならない声で美和は叫んだけれど、
そんな事はお構い無しに、どんどん髪が刈られていった。
何度も何度も同じ所にバリカンが入り、執拗に刈り続けている。
「気持ち良いだろう?こんなにされちゃって…」
美和は自分の叫び声で目を覚ました。
そしてその次の日は…
イスに座って、またカットクロスを巻かれている。
でも…そこは店でも、どこかの室内でもなく、外だった、それも街角…
横を見ると、同じようにイスに座り、カットクロスを巻かれた女性達が並んでいる。
良く見ると、その女性達も、そして後ろに立って待っている人達も、みんな外人で
美和だけが日本人のようだった。
「え?こんな所で何をするの?」そう思っていると、隣の女性の髪が刈られ始めた。
惚れ惚れするようなキレイなブロンドの髪が、
惜しげもなく刈り落とされていく。
通行人や、観光客らしい人達が、カメラを向けたり、口笛を吹いて騒いでいた。
何やら英語で話しかけられたかと思うと、
美和の後ろでもバリカンの音が響いた。
「こんな皆の前で…」
恥ずかしさに、下を向きたくなったけど、美和の髪を刈っている男が、まるで
『しっかり前を向いて』と言わんばかりに、
下を向こうとする美和のアゴを手で上げる
「すごいねえ~思い切り丸坊主じゃん…」
まわりは外人ばかりのはずなのに、日本語でそんな声が聞こえてくる
髪が地面に落とされていく…その分だけ美和の地肌が外気に晒されていく…
顔を伏せる事も許されずに、美和は大勢の前で、ひたすら髪を刈られていた。
「はあ~何で毎日こんな夢ばかり見るんだろう…」
でも、実は原因はわかっていた。
初めてこう言う夢を見た日…美和は寝る前に、
ネットですごい世界に入り込んでしまったんだ。
髪型を変えたいな、と思い、検索サイトで『髪型』と入れて見た。
美容院のサイトから、いろいろな髪型を提案しているサイト
あれこれ見ているうちに、美和は今まで知らなかった世界に辿りついてしまった。
『髪フェチ』
そこは、女性が長い髪をバッサリと切っている画像や、
バリカンで丸坊主にされている画像
掲示板では、男性だか女性だか判らないけど、
そう言う事に付いて語り合っている。
リンクから、他の『髪フェチ』サイトに飛んでみると、やはりそこも同じように
いろいろな断髪シーンが載せられていた。
画像だけではなく、そう言うシーンを撮影したビデオもあるようで、
サンプルの動画が見られる。
「こんな…こんな世界があったんだ…」
何だか見てはいけないものをみてしまったような、
でも、何でこんなにドキドキするのか判らないまま、夜更けまでそう言うサイトを辿っていたのだった。
翌日も、また翌日も夢を見た。
お寺の一室で、着物を着て、髪を剃られている美和。
どこかのスタジオのような場所で、ビデオカメラに撮られながら、髪を刈られている美和。
知らない男のマンションで、ホテルらしい部屋で…
ガラス越しに表通りから良く見える美容院で、思い切りベリーショートにされた。
古臭い床屋さんで、刈り上げの短いおかっぱにされている美和…
目が覚める度に、慌てて髪を触り、ちゃんと長いままだと判るとホッとした。
髪がジョキッと切られる音、バリカンが髪を落としていく感触は、
夢にしては本当に生々しかった。
そして…ホッとすると同時に、美和は自分の身体が火照っている事にも気が付いていた。
「やだ…もう…」
美和はその火照りを静める為に、シャワーを浴びに行った。
「毎晩そんな夢ばかり見ている私は、おかしいんじゃないか?」
美和は、さすがにそう思っていた。でも、誰かに聞くわけにもいかない…
そうだ、ああゆうサイトに行って、掲示板に書き込みしてみようかな
美和はお気に入りに入れておいたサイトの中から、ココだと思う掲示板に書き込みする事にした
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初めて書き込みします。
最近、髪を切られたり、丸坊主にされる夢ばかり見ます。
毎晩、いろいろな設定で、坊主にされたりしています。
夢の中で、私は平気な顔をしていたり、泣いていたり、嫌がっていたりしています。
別に、丸坊主にされたいとか思っている訳ではないと思うのですが
私はどこかおかしいのでしょうか?こんな事、恥ずかしくて友達には言えません。
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次の日、書き込みした掲示板を見ると、たくさんのレスが付いていた。
『おかしくなんかないですよ。ココはそう言うのが好きな人達の集まりです』
『どんな設定で、どんな風に刈られたのですか?詳しく教えてくれませんか?』
『夢を実現してしまう気持ちはないですか?お手伝いしますよ』
美和はバカ丁寧に、ひとつひとつにレスを付けて、そのレスにまた返事が来て、と
いつしかそのサイトに毎晩通うようになっていった。
その間も、毎晩、髪を切られたり、坊主にされる夢を見ていたので
忘れないようにと、起きたら夢の内容をノートに付けるようにまでなっていた。
掲示板に書き込みしていた『夢物語』が、思いの他反響があり
美和は、そこの管理人から「夢物語の部屋を作りませんか?」と言われた。
確かに、掲示板の書き込みだけでは、全部書ききれないし…
そんな事がきっかけになって、
とうとう『断髪夢物語』のサイトを開設してしまう事になった。
『何でこんな事になっちゃったんだろう?』
良く判らないけど、ネタはまだまだたくさんある。
だって眠れば必ず新しい話が始まるのだから…
美和は、今夜も、枕元に、起きたらすぐに書けるように、と
ノートと鉛筆を置いて眠りに付く。
今夜はどんな設定で刈られるんだろう…
夢の世界に入り込みながら、美和はワクワクしていた。