表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夢幻

作者: CLIP

見るからに『床屋』と言う感じの店のイスに座り、

首には真っ白なカットクロスが巻かれていた。

後ろに立った白衣を着たオジサン…手にはバリカンを持っている。

「本当に良いの?坊主にしちゃっても…?」

オジサンが美和にそう聞いて、美和はこくんと頷く。

「じゃあ、思い切ってやっちゃうよ」

前髪に、オジサンの手が触れる、そしてその根本にバリカンが近づいてきた。

『ジジジ…』髪が刈られる音、刈られた髪がカットクロスをつたい、床に滑り落ちていく音。

バリカンは、額から真っ直ぐ後ろに向かって進んでいき、その部分の髪を落としていった。

刈った後は、地肌が青白く見える程になっている。

オジサンの持ったバリカンは、トップを刈り終えて、横の髪に移っていった。

その時、ドアが開き、誰かが店に入ってきた。

「いらっしゃい、こちらのお客さんが終ったら、やりますのでしばらく待って下さいますか?」

オジサンは手を止めて振り返りながら、入ってきたお客さんに言う。

「あ、良いよ、別に急がないから…」

そう答えたお客さんは、頭を半分刈られている美和をジーっと見ている。

そんなに見なくても良いじゃない、って思うほど、

じかに、そして鏡に写る美和の顔を見ている。

「勇気あるでしょ?くりくりに刈っちゃってくれってさ」

お客さんの視線に気が付いたオジサンが、バリカンを動かしながら言う。

お客さんが、へえ~と言うように頷いて、

まるで、見て良い権利を貰ったかのように

更にじーっと見つめている。その目の前で髪を刈られている美和…

バリカンはうなじに当たり、後ろの髪を勢い良く刈り上げていく。

「あっ…」ついそんな声を出してしまった。


目が覚めた。

今のは夢だったんだ…それにしては感触も、気持ちも、何だかリアルだったなあ。

美和は、起きてまず一番最初に髪に触れた…良かった、ちゃんと長いままだ。

夢の中で刈られたはずの髪は、

ちゃんと肩下まであって、少し汗ばんでしっとりしていた。

『変な夢だったなあ~ほんと…』


次の日の夢は、こんなだった。

どこら知らない倉庫のような場所で、美和は手足をイスに縛られている。

身動き出来ない状態で、男が近づいて来て、美和の首にカットクロスを巻き付ける。

抵抗しようにも出来ない美和…

男の手にはバリカンが握られていて、そのスイッチが入れられる。

「どうされるかわかるね?覚悟は良いか?」

男の言葉に、美和は首を振るが、

すぐに頭を押さえ付けられてバリカンが近づいてくる

「やめて~」

大きな声を出して叫ぼうとするけど、上手く声が出ない。

バリカンはこめかみの辺りから入り込み、呆気ないほど簡単に髪を刈っていく

「ほ~ら、こんなに短く刈っちゃったよ…」男がねっとりした声で囁く

「いや~っ、やめて~」

声にならない声で美和は叫んだけれど、

そんな事はお構い無しに、どんどん髪が刈られていった。

何度も何度も同じ所にバリカンが入り、執拗に刈り続けている。

「気持ち良いだろう?こんなにされちゃって…」

美和は自分の叫び声で目を覚ました。


そしてその次の日は…

イスに座って、またカットクロスを巻かれている。

でも…そこは店でも、どこかの室内でもなく、外だった、それも街角…

横を見ると、同じようにイスに座り、カットクロスを巻かれた女性達が並んでいる。

良く見ると、その女性達も、そして後ろに立って待っている人達も、みんな外人で

美和だけが日本人のようだった。

「え?こんな所で何をするの?」そう思っていると、隣の女性の髪が刈られ始めた。

惚れ惚れするようなキレイなブロンドの髪が、

惜しげもなく刈り落とされていく。

通行人や、観光客らしい人達が、カメラを向けたり、口笛を吹いて騒いでいた。

何やら英語で話しかけられたかと思うと、

美和の後ろでもバリカンの音が響いた。

「こんな皆の前で…」

恥ずかしさに、下を向きたくなったけど、美和の髪を刈っている男が、まるで

『しっかり前を向いて』と言わんばかりに、

下を向こうとする美和のアゴを手で上げる

「すごいねえ~思い切り丸坊主じゃん…」

まわりは外人ばかりのはずなのに、日本語でそんな声が聞こえてくる

髪が地面に落とされていく…その分だけ美和の地肌が外気に晒されていく…

顔を伏せる事も許されずに、美和は大勢の前で、ひたすら髪を刈られていた。


「はあ~何で毎日こんな夢ばかり見るんだろう…」

でも、実は原因はわかっていた。

初めてこう言う夢を見た日…美和は寝る前に、

ネットですごい世界に入り込んでしまったんだ。

髪型を変えたいな、と思い、検索サイトで『髪型』と入れて見た。

美容院のサイトから、いろいろな髪型を提案しているサイト

あれこれ見ているうちに、美和は今まで知らなかった世界に辿りついてしまった。

『髪フェチ』

そこは、女性が長い髪をバッサリと切っている画像や、

バリカンで丸坊主にされている画像

掲示板では、男性だか女性だか判らないけど、

そう言う事に付いて語り合っている。

リンクから、他の『髪フェチ』サイトに飛んでみると、やはりそこも同じように

いろいろな断髪シーンが載せられていた。

画像だけではなく、そう言うシーンを撮影したビデオもあるようで、

サンプルの動画が見られる。

「こんな…こんな世界があったんだ…」

何だか見てはいけないものをみてしまったような、

でも、何でこんなにドキドキするのか判らないまま、夜更けまでそう言うサイトを辿っていたのだった。


翌日も、また翌日も夢を見た。

お寺の一室で、着物を着て、髪を剃られている美和。

どこかのスタジオのような場所で、ビデオカメラに撮られながら、髪を刈られている美和。

知らない男のマンションで、ホテルらしい部屋で…

ガラス越しに表通りから良く見える美容院で、思い切りベリーショートにされた。

古臭い床屋さんで、刈り上げの短いおかっぱにされている美和…

目が覚める度に、慌てて髪を触り、ちゃんと長いままだと判るとホッとした。

髪がジョキッと切られる音、バリカンが髪を落としていく感触は、

夢にしては本当に生々しかった。

そして…ホッとすると同時に、美和は自分の身体が火照っている事にも気が付いていた。

「やだ…もう…」

美和はその火照りを静める為に、シャワーを浴びに行った。


「毎晩そんな夢ばかり見ている私は、おかしいんじゃないか?」

美和は、さすがにそう思っていた。でも、誰かに聞くわけにもいかない…

そうだ、ああゆうサイトに行って、掲示板に書き込みしてみようかな

美和はお気に入りに入れておいたサイトの中から、ココだと思う掲示板に書き込みする事にした


************************************************************

初めて書き込みします。

最近、髪を切られたり、丸坊主にされる夢ばかり見ます。

毎晩、いろいろな設定で、坊主にされたりしています。

夢の中で、私は平気な顔をしていたり、泣いていたり、嫌がっていたりしています。

別に、丸坊主にされたいとか思っている訳ではないと思うのですが

私はどこかおかしいのでしょうか?こんな事、恥ずかしくて友達には言えません。

************************************************************


次の日、書き込みした掲示板を見ると、たくさんのレスが付いていた。

『おかしくなんかないですよ。ココはそう言うのが好きな人達の集まりです』

『どんな設定で、どんな風に刈られたのですか?詳しく教えてくれませんか?』

『夢を実現してしまう気持ちはないですか?お手伝いしますよ』

美和はバカ丁寧に、ひとつひとつにレスを付けて、そのレスにまた返事が来て、と

いつしかそのサイトに毎晩通うようになっていった。

その間も、毎晩、髪を切られたり、坊主にされる夢を見ていたので

忘れないようにと、起きたら夢の内容をノートに付けるようにまでなっていた。


掲示板に書き込みしていた『夢物語』が、思いの他反響があり

美和は、そこの管理人から「夢物語の部屋を作りませんか?」と言われた。

確かに、掲示板の書き込みだけでは、全部書ききれないし…

そんな事がきっかけになって、

とうとう『断髪夢物語』のサイトを開設してしまう事になった。

『何でこんな事になっちゃったんだろう?』

良く判らないけど、ネタはまだまだたくさんある。

だって眠れば必ず新しい話が始まるのだから…

美和は、今夜も、枕元に、起きたらすぐに書けるように、と

ノートと鉛筆を置いて眠りに付く。

今夜はどんな設定で刈られるんだろう…

夢の世界に入り込みながら、美和はワクワクしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 本人にとってはふざけてなんていない本当の悩みなのに、掲示板へ書き込んだのを見るとどう見ても、よくある釣り投稿にしか見えないところ。こんな趣向の世界、想像できないし、実在するとはなかなか思え…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ