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プロローグ

王道ファンタジー(自称)を書いてみたかったのです。

 リッシュは悩んでいた。

 勇者の息子として王様に呼び出されたのだ。

 生まれてこの方17年、城に遊びに行くことはしょっちゅうだったがそんな肩書で呼ばれたのは初めてだった。

 かつてこの国を救った英雄、勇者ゼルガの息子として頼みたいことがある。

 王様からの伝言を伝えてくれた兵士はそれだけ伝えるとさっさと帰ってしまった。

 勇者の息子としてか……ちっ、こっちの気も知らずにのんきな顔をしやがって。

 八つ当たりと自覚しながらもリッシュは伝言係への愚痴をこぼした。

 しばらく何か策はないかと考えていたが、結局何も思いつかず、遅れたことで手遅れになったら違う意味で問題だと、とりあえず王様のもとへ行くことにした。


「おぉリッシュ。よく来てくれた」

 玉座に座っている王様。いつも王冠をかぶっていて辛くないのかと跪いたリッシュはたまに思っているが、いまだ口に出せたことはない。

「何か御用でしょうか、王様」

「リッシュ、わしらの仲じゃ。そのような態度はいらぬのではないか」

 王様は跪いたリッシュに怪訝な顔をした。

「今日は勇者の息子として呼ばれておりますので」

「そうか……おぬしがそういうのであればよいか」

 勇者の息子として呼ばれている以上何かよからぬことが起きたに違いない。この後少しでも断りやすくするための空気作りだった。

 そのことには気づかず、王様は本題を切り出した。

「実は昨晩、姫がドラゴンにさらわれた。おぬしに助け出してほしい」

「なっ!ド、ドラゴンですか……?」

「うむ。東の山の、年に一回街を襲撃してくるあのドラゴンだ」

 この国は基本的に平和だが、兵団を持っている。その理由がドラゴンだ。

 季節が関係あるのか、年に一回街を襲撃してくる。兵団が迅速に撃退してくれるので大きな被害が出たことはなかった。それがなぜ。

「なぜ……ドラゴンが……姫を?」

 当然の疑問だった。毎年の襲撃は先月終わったばかりのはず。そもそもその襲撃も作物を狙ったものだと言われていたのに、なぜ突然姫がさらわれたのか。

「そ、それはわかっておらん……」

 王様が申し訳なさそうに顔をうつむけた。知らないのが当然だろう。むしろ知っていたらおかしい。リッシュは当然のことを聞いてしまったことを詫び、別の疑問を口にした。

「しかしそれであれば、すぐにでも兵団を差し向けるべきでは?」

「それなのだがな。東の山の奥地にドラゴンの住処がある。道幅が狭すぎて兵団は通ることができないのだ」

 兵団の役割があくまで襲撃されたときの撃退にとどまっている理由の一つがこれだった。

 兵団が出陣できないということは一切の援護がないまま姫を救出しなければいけないということだ。リッシュの顔が徐々に青ざめていく。

「し、しかし、ドラゴンから姫を救出するのに私一人では……」

「勇者の息子なのだから、ドラゴンくらいどうってことないじゃろう?」

 これまでのツケが回ってきた、ということだろう。リッシュは勇者の息子としてこの国ではかなり優遇された生活を送ってきた。それはこの時のための投資と言い換えることができる。

 リッシュはそのことも分かったうえでなおも渋っていた。

「で、ですが王様。東の山には何頭のドラゴンがいるのか……」

「姫をさらったときは一頭だけだったそうじゃ。それにおぬしの父はたった一人で国を救ったのじゃから、ドラゴン数頭くらい大丈夫じゃろう」

 満面の笑み。何の疑いも持たない、期待のまなざし。

 勇者の息子だから。父がこうだったから。リッシュが今までたくさん見てきた大人たちの無責任な表情だ。

「…わかりました。行ってまいります」

 結局断り切れず、というか姫の安否もあるので明確に断りの言葉を出すことはできず、王様の笑顔に押し切られた。

 無責任な表情に憤りも感じていたが、結局リッシュはその表情を裏切ることができなかった。今も、今までも。もっと早く裏切ることができたらリッシュはこんなに頭を悩ませることはなかっただろう。

 王様の返事も聞かないまま立ち上がり、背を向けて走り出すリッシュ。

 ドラゴンから助け出すなんて……絶対無理だ……というか……!!

 城から出るや否や彼は心の底から叫んだ。

「なんで俺なんだぁぁぁあああああああ!!!!!!!」

 かつて国を救った勇者ゼルガの息子、リッシュ。

 彼の悩みは、勇者としての才能を父から一切受け継がなかったことだった。

4話くらいでひとまず区切りがつく予定です。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。

些細なことでもコメント大歓迎です!

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