一日目 転生憑依が過酷なものだった件について
春、高校生の春休みは中学生よりほんの少し早い。
高校生の春休みは部活もあるし、はっきり言って充実した毎日を送れるわけではないが、もう直ぐ学年が一個上がり、高校二年生になる俺は、クラス会という行事に参加させられることになった。
クラス会と言っても、全員が全員行けるわけではないので、友達会と言った方が正しいような気もする。
と、そんなクラス会も終わり家に帰る。
家に帰れば、母、妹、姉が待っていて母と妹は「おかえり〜。」と言って出迎えてくれる。小学生の妹はとても可愛い。シスコンとかでは無いが可愛い。大学生の姉も中々の美人で、小中高大と立て続けにモテている。その容姿は母から受け継がれているようで、父曰く、母も中々の美人だった.....らしい。
え?じゃあ俺はどうなのかって?
小中高と、一回も告られたことありませんよ。
察してよ、容姿。
俺は「ただいま。」とだけ言い、自分の部屋に戻る。
明日は最悪なことに部活の練習試合。
俺はベッドに倒れこみ、スマートフォン、通称スマホを弄る。
スマホのトークアプリではクラス会の感想などが書かれていて、それを読んでいたが、ふと、お腹が減っているのに気づく俺。
そう言えば、クラス会でほとんど食べてなかったな。
クラス会は盛り上がりすぎたせいか、食事を摂れない人が多かった気がする。第一に俺がその例。食べ放題ということもあったか、自分でトレーを持って取りに行くのが面倒くさく、ずっとスマホをいじっていたような気さえする。
仕方ない、コンビニで何か買うかな。
俺はそう思い、自分のバッグから財布を取りだす。
財布は中学生までは折り畳めるやつだったが、高校生になってようやく長財布を買ってもらった。長財布の色は黒色で、デザインはいたってシンプルだが、中はきちんとカード類などと分けられるようになっている。
俺はその財布をポケットにしまい、自分の部屋のドアを開け、玄関へと向かった。
☆★☆
ガチャ、玄関のドアを開ければ目の前に広がる細い車道。
俺の住む町は都会とも言えず、田舎とも言えない普通の町。そんな普通の町でも、徒歩100m圏内にコンビニの一つや二つはある。
俺はそのうちの近い方のコンビニへと足を運ぶ。
おにぎりでいいかな?
コンビニへ向かう途中、効率よく買い物済ませるため、何を買うかなどを決めていた。
と、そんな時だった。
ファーン!!
突然鳴り響くクラクションの音。
俺が振り向いた時にはもう遅く、目の前には大型トラックの車体が。
最後に聞いたのは、トラックと俺がぶつかる、鈍く、そして重い音だった。
☆★☆
「あれ、ここは?」
眼が覚めると知らない場所にいた。知らない場所と言っても、真っ白な部屋で見たことない、と言うだけかも知れないが。
その真っ白い部屋の中で、俺は一つの椅子に座らされていた。
対面には同様に椅子があり、小さい女の子が座っている。
え?何?幼女じゃん。
そんな事を考えて、俺はその幼女を訝しげに見つめる。
すると、幼女は「コホン」と咳払いをして、話し始めた。
「すまなかったな、お主はまだ死ぬべきじゃなかったのじゃ。」
いや、おじさんが言うならともかく、そんな幼女の声で言われても迫力とか何もないですよ。
「ちょっ、お主、幼女幼女ばっかり言っておって、妾はこれでも1800歳じゃぞ!!」
1800歳?凄いですなぁ。
「信じてないな?」
「そりゃもちろん。」
「即答!?まぁいい、今からお主を転生憑依させてやる。」
転生憑依?
まぁいいか、早めにこの幼女と遊んで、家に帰らなきゃな。
俺はそう思い、ポケットから長財布を取り出す。
いや、取り出そうとした。
ポケットには長財布は無かったのだ。
「おい、ロリ、俺の財布はどこやった?」
「ロリ.....お、お主は死んだんじゃって、ほら、トラックに轢かれたじゃろ?傷はどこに行ったんじゃ?」
そう言えば.....
俺はトラックが直撃した腹部を見つめる。が、そこに傷は付いておらず、血も何も零れ落ちていない。トラックの運転手は幼女では無かったし、幼女の言ってることは.....認めたくないが、本当らしい。
俺は諦めをついて、スッと幼女の方を見据える。
が、幼女は下を向いて何かをブツブツと呟いていた。
「ロリ.....ロリは酷いぞよ。今年は言われないと思ったのに.....ロリ、そんな若くないし。」
「おーい、神様ー、戻ってこーい。」
俺はその幼女の目前に手をかざす。
幼女は「はっ」と言って、顔を上げると胸を張って言った。
「そうじゃ、妾は神様じゃ、ロリなどではないのじゃ!!」
一通り幼女の機嫌が戻ったので、俺は転生憑依とやらについて聞く。
「で、転生憑依って何?もうこの体じゃ戻れないの?」
「.....そうじゃ、お主の肉体はもうバラバラになってしまったからな、肉体がなければ、霊体は肉体に入る事はできぬ。
それで、転生憑依と言うのはじゃな、その霊体の状態で、誰か一人に憑依するのじゃ、普通はやっちゃいけない事なのじゃが、今回は妾達神様のミスなので、仕方無く承諾を得れたのじゃ。無論、いつそれを止めるのかはお主次第じゃ。このまま地獄に行って、今までやってきた罪を償うのもありぞよ。」
地獄行く前提なのかよ.....俺、そんなに重い罪したか?
ただ、もう死んだんだよな?なら、本当に残っていた余命分は、転生して遊ばせてもらおうかな。
「それじゃ、転生憑依よろしく。」
「お、お主もう決めたのか?」
「あぁ、もちろんね。」
嘘だよ。決めてないよ。
このまま転生憑依したら誰に転生憑依するのか、気になってやって見ただけ。それで困る幼女の顔とか見て見たいしね。
「そ、それじゃ転生憑依させるぞよ。」
「おう、どんと来い。」
幼女は俺の目の前に手をかざすと、何やら呪文らしきものを唱え始める。
「汝、この者に転生の意を与えよ、汝、この者に、憑依の意を与えよ......」
それから数分後、やっと呪文らしきものを唱え終わったのか、幼女は「フ〜。」と深いため息を吐くと、「はっ!!」と言って、両手を俺の方へとかざす。
その瞬間、俺の体はどんどん薄くなり、体全体が透けているのを身を以て実感していた。
そして最後、幼女は驚くべき事を言い放った。
「あ、お主、二つ言い忘れておったが、転生先を考えてないならランダムになるし、転生憑依は一ヶ月はその肉体で居なきゃいけないぞよ。」
え?待て待て、ランダムにしてしまいましたよ。しかも一ヶ月って何?ねぇ、一ヶ月って長くない?
どんどん見えなくなる自身の体を見ながら、俺は叫んだ。
「ちょっ、待ってぇぇぇ!!リセットさせてぇぇぇぇ!!」
俺の意識はその瞬間、何処かへと飛んだ。
☆★☆
眼が覚めると、目の前には見覚えのある木製の天井。
子供の頃よく見ていたような気がする。
「ここ、は?」
俺は布団からゆっくりと起き上がると、目の前の壁に掛けられた時計を確認する。
やはりその時計も見たことがあって、俺は少しだけ目を細めて、時計を確認する。時刻は0時過ぎ。
俺はもしかして.....と重い、自分の体を確認するため、本来の記憶ならある鏡を探す。その部屋には予想通り、と言ったところか鏡があり、俺はそこに顔を近づけた。
そこに映っていたのは、いつも見ていた人、いつも俺を支えてくれた人、いつも俺にご飯を振舞ってくれた人。
そう、母だった。
「う、嘘だろぉぉぉぉぉ!?」
俺の叫びは、部屋中に響き渡り、外から聞こえる救急車のサイレンでさえも搔き消すほどだった。