『犬とユウレイ』 作:Cotton
或る日のサンセットパーク。
芝生の上で1匹の老犬が海を見つめていた。
「最近、歳なんですかねぇ?体調がすぐれないなぁ」
老犬の名はポンポン。既に生まれて13年経っていた。
「大旦那様ーー!」
周りの人間には吠えてるだけに見えるけれど、飼い主を呼んでみた。
すると、老人の幽霊が突然現れて田中邦衛の声色を真似た。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジューン!」
老犬は、息をハァハァさせて、尻尾をプロペラのようにブンブン回した。
「わぁぉ!大旦那様!」
「おー!ポンポン元気でやってるかーい?」
老人の幽霊は、ベンチに腰かけると愛おしそうに老犬の頭を撫でた。
「嗚呼!大旦那様の撫で方は相変わらず絶妙ですね!」
「おまへは、あい変わらずヨイショが上手いねぇ」
そう言うとポケットから骨ッコを取り出して老犬に差し出した。
老犬はパクっと口に入れるとカッカッカッと音を立てて嚙み砕き、たちまち飲みこんでしまった。
そして「さすが元板前さんです!お味も絶妙です!」と、おべんちゃらを言った。
「バカ言っちゃいけないよぉ。板前が骨ッコなんてもの作るかいっ!ハッハッハッ」
渇いた笑い声がするのが、通りすがりの女子高生沼すみれの耳に聴こえた。
すみれは、あたりをキョロキョロした後「疲れてるのかな?」と独り言を呟いて通りすぎた。
「大旦那さまぁ、最近あたしも歳なのか、昔みたいに散歩も楽しくなくて、なんのために生まれたのかなぁとかネガティヴなこと考えちゃうんですよね」
老人の幽霊は腕組みすると「おまへ、それはあれだよ、おまえは頭が良すぎるんだな。いいか?花が咲いてる理由考えるか?死ぬまで生きりゃいいのよ」
老人の幽霊と老犬は静かに海を見つめて、
何か今現在がとてつもなく懐かしい過去のような錯覚に陥っていた。
「大旦那様?なんだかいま、一瞬ですけれど、生きてるのが懐かしい気がしました」
「あ~~?俺もだよ(笑)俺は死んでるから格別だなぁ」
そういうと快活な笑い声を上げた。
老犬は息が荒かったのが、だんだんと呼吸が落ち着いてきていた。
老人はそれを見て「案外とこちらはいいぞ」と静かに声をかけた。
「若旦那様やことねんが心配でして」か細い声で老犬が呟いた。
「ハハハハハハ…!おまへ!琴音だけ呼び捨てなんだな!」老人が又笑った。
その笑い声を聞きながら、老犬は安らかに眠り、3分の間、返事がなかったが、肉体から魂が離れて、それがすっくと立ち上がった。
「あれ?大旦那様?」
老人が老人を見上げた。
「うん。おまへは今日から俺の仲間だなwどうだ?海の上でも散歩するか?」
「そんなことができるんですか!?」
「自由だよ!」
2人は顔を見合わせた後、
まるで、悪巧みしている男の子のようにニヤニヤしながら歩きはじめた。
「大旦那様!波の上を散歩する前に、斉藤さんちのマリーちゃんのしどけない寝姿を見ときたいです」
「おー、いいね。もう噛まれる心配もないからなぁ」
二人?が公園を去った後、図書館帰りの沼すみれが本を読みながら歩いてきて、老犬の亡骸を発見した。
老犬の亡骸が、津島琴音の家の犬だと気づいたすみれは、
カバンからスマートフォンを取り出すと、つぶらな瞳に涙を溜めたまま、琴音に電話をかけた。
「ことねん?・・・・・
うんうん・・・・・
あのね、ことねんとこのポンポンがね・・・・・」
完は未完の『完』
(2015/12/13 14:11:12)