『笑激怪人、その男、用務員 春猿!part 1』 作:エロにゃん
「今日からこの学園に配属された用務員の市川春猿さんです」
週に一度の月曜日に、全学年が集う朝礼が体育館で開催される中、校長から、挨拶を指名されると、檀上脇から現れた男。
歌舞伎独特の柏木で甲高い音がすると、どこからか「いよぉっ!」と掛声がかかった。
体育館の照明が落とされる中、身長180はあろうか。
スリムな女形役者宜しくという様。
華麗に舞い歩く用務員の姿が浮かび上がった。
「ア〜イ〜それは愛………ッ」
歌舞伎には似合わず、絶対に宝塚然とした口調と、ゆっくり歩く姿は人々の注目を一身に集めるのに十分過ぎた。
「……只今… 御紹介に預かりました、私… 市川……… 市川春猿に候……。嗚呼、王妃さまっ!フェルゼンで御座いますっ……」
唖然とする教師と在校生を尻目に第二幕。フランス革命前夜が行われようとしている。
自己紹介にはまだまだ時間がかかりそうな予感らしい。
一体何者なのか。本当に用務員なのだろうか。
舞台上に登壇した春猿目指して光線上の光りが頭上から充てられる。
「 …何故 今頃になって私の前に現れたのか… 貴女は美しすぎます… その美貌が私を虜にして離さないならば王妃さま… 此の叶わぬ恋… 実らぬ愛… 貴女を愛してしまった代償は天より高く… 海より深く…」
低音でじっくりと 伸びと張りのある声音は宝塚と同じで体育館全体を深閑させてゆく…。
「すみれのハ~ナ〜咲く頃〜」
台詞と台詞の合間に合唱が入る。
居並ぶ生徒達を虜にするには十分過ぎるはずだった。
その時だ。
想定外にも何故か校内放送が鳴り響いた。
「 ……今週の掃除当番は2年C組です。先週も、うさぴょん(兎の名前)が脱走したので気を付けて下さい。
尚、カメキチ(亀の名前)が産気づいてますので静かに見守りましょう。」
「……なぁ あのオカマにやらせちゃえよ用務係なんだしさ… 」
「オカマってよりホモじゃん あれ。ちょーキモイんだけど ギャハハハ!」
「 …ぁ、やべ…… ……ぉいオンマイクだよっ!全校集会中だぞ消せ消せ!」
ブチッと放送が途切れると我に返ったのか進行役の教師が 「あ、ありがとうございました とても声が綺麗で…… 」
其処まで言いながら盗み見る感じで春猿を見ると薔薇を咥えたままの状態で頬は微かに引き攣っていた。放送委員の運命は 放課後である…。
【to be continued】