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『元気をだして』 作:Cotton




朝からうんざりするようなことがあって2年C組の津島琴音は1時間近く遅刻をして学校に辿り着いた。


担任の千里厳太先生は、遅れてきた琴音がどう理由を言おうか、口を開けたまま言い澱んでいたら

「いいよいいよ、大変だったな」と笑った。


運の悪い日は次々と嫌なことが起こるもので、クラスメートとの間でも、ことごとく裏目に出るような失言を口にしてしまった。


正門で守衛さんに挨拶をして、誘ってきた友達に「今日はごめんね」と掌で遮って、サンセット通り商店街を一人とぼとぼと歩いていたら、何者かにスカートの裾を引っ張られた。


振り向くと茶色い麻袋みたいなシャツを着た3歳くらいの男の子がスカートの裾をつまんでいて、

その男の子の後ろに、黒いミニのワンピースを着た5~6歳の女の子が、

丸くて大きな瞳でこちらを見て、小さな鼻をひくひくさせている。


「なぁに?」と尋ねても何も答えず、ただ人懐こい笑顔で見上げている。


「う?」─


すると今度は立派な髭をたくわえた老人が歩み寄って来て、琴音を「ママっ」と呼んだ。


「へ?お母さんのこと!?お水のママ?」


(眼差しが純真過ぎて怖いよっ!)


心の中で叫んでいたけれど、3人の顔がどこか懐かしくて、今日はこんな日なのかなと苦笑いした。


「わたしはママじゃありませんよっ。それじゃね」


なるべくやんわりと断って、歩きはじめたのだが、3人はにこにこ顔て琴音の後をついてきて、離れようとしなかった。


しかも、

レストランの前に来ると、また男の子がスカートの裾を今度はぎゅっと握って離さず、そのお店のドアを指さしている。


髭の老人までもがおなかを空かした犬のような瞳を潤ませて

「・・・・ごはん」と。


琴音は「運が悪い日は厄落としに誰かに施すのさ」と言っていた祖母の言葉を思い出し、肩を落として3人を伴ってレストランに入った。


メニューを開くと、子供はサラダのところを指さし、老人はスペアリブを指さした。「え?それだけでいいの?ほんとに?甘いものは?ハンバーグは?」


3人は揃って首を横に振った。「ほんとにいいの?遠慮しなくていいのに」 しかし、3人は目を輝かせてメニューの一点を指さしたままだ。


琴音はケーキと紅茶、老人はスペアリブ、子供たちはサラダで食事を済ますと、お店を出て、また隊列を組んで歩きはじめた。 ・


(ひぇぇぇ!まるでブレーメンだよ)


途中、公園の前でまたスカートの裾を握られ歩みを止めると、3人は走って噴水のある池に向かって行って、池の水を飲みはじめた。


「ノォォォォォ!ダメぇ!」


「おなか壊すってば!」 男の子の首をつかんで池から離すと、もうたっぷりと水を飲んだ後のようで、3人とも満足げな笑を浮かべていた。


「ウハハハハハハハ!ギャハハハハハハ!」


あまりの奇抜な行動に琴音をおなかをかかえて大笑いした。


老人がどこから持ってきたのか汚れたサッカーボールを差し出すので、半ば諦めの気持ちで4人一緒にボールを蹴ったり追いかけたりして遊んだ。


ひとしきり遊んだ後 「ちょっとお手洗いに行ってくるね。おじいちゃん鞄見ててね」と言って、琴音が手洗いに行って戻って来ると鞄とサッカーボールだけがベンチに置去りにされて誰もいなかった。


「お~い!おじいちゃーん!」

あれぇ?おかしいなぁ 

「ぼーくー!?」ねいちーん!」

(帰っちゃったのかなぁ)

「チェッ とんだ散財だったよ」 


琴音は落ちているサッカーボールを思いきり蹴ると、公園を後にした。


「まったくぅ」


でも ちょっと可笑しかったな。

自然と笑いがこぼれてきた。


琴音は家に帰ると、2階の自分の部屋に戻って、いつものように2匹のウサギ小屋に声をかけようとした。が、


(あれ?いない)声をかけようと思ったらペットのウサギがいない。


慌てて階段を駆け下りて「お母さん!キナコとアンコがいないよ!」と母親に言うと


「え?おかしいわね。(津島家の老犬)ポンポンもいないのよ」


母親が首を傾げて犬の名前を呼んでも家は静まり返っている。




「外に出て行ちゃったのかなぁ!?」 


琴音が慌てて玄関に駈けて行くと、

ポーチのところに麻袋みたいな色のウサギと、黒いウサギと、

眉毛と髭で顔がぼやけてはっきりわからない老犬がきちんと並んでこちらを見ていました。




おしまい


ことねん


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