『広能文太先生(英語科)の場合』 作:すみれ
どこからか映画『仁義なき戦いの』テーマ曲が聴こえてきた。
生徒たちは恐怖に蒼ざめて震え上がった。
「わしゃーのぅ。今日から、ここで英語教えることになった義。
よろしゅうのぅ。
じゃあ、教科書1ページ目『What is your name?』これの。
訳は…『ありゃ、何者かいの?』
次、『Where is your class?』 これはの。
『どこの組の者かいの?』 じゃの。
次、『Who is your brother?』 これの。
『兄弟はどこの筋のもんかいの?』だの。
で、今日の最後じゃが、
『Would you have a drink with me?』 これの。
『あんたと盃を交わそうと思うんじゃがの。』だの。
次は、『太郎、芋を引く』のとこじゃけん、ちゃーんと予習しとかんと、弾はまだ残っちゃるがの。」
広能文太はミラーのサングラスを少し下げてウィンクをすると、
肩で風を切りながら教室を出て行った。
学生達は全員!Σ( ̄□ ̄;)←この顔だった。
「。・゜゜(ノД`)英語こわひ!」と泣きだす男子もいた。
琴音が叫んだ。「入場のテーマがもうやだよ!(#`皿´)」
学生達の緊張がやっと解けて脱力している時、
広能文太は正門の守衛に「1968年の広島に戻るきに。お願いします」と言い直角に頭を下げた。
まるで、西洋の宮殿のような門扉の前で、
袖を通さず肩に掛けたジャケットを翻し、
広能文太は校舎を眩し気な目で仰ぎ見た。
そして、
「大学中退せんでよかったわぁ、兄弟」と呟いた。
おわり
すみれ
(2015/8/6 08:24:01)