『秋篠先生の場合』作:すみれ
廊下の奥から荘厳な笙の音色が聴こえ、だんだんと近づいている、
だが2年C組の生徒たちは各々雑談に興じて気づいていなかった。
左手で扉を少し開け、今度は茶道のように右掌に差し替えて扉を開ける白い指が見えた。
秋篠先生であった。
音もたてずに教壇に立つと。穏やかな声で1節づつ区切るように生徒たちに声をかけた。
「ご学友の皆様にあられましては、
いつまでもお戯れ召しませぬよう、
それぞれ各々の御席にご着席願いますことを心よりお願い申し上げます。」
みんなは気づいたと同時に呆気にとられた。何か意味もなくこの教師を敬いたい衝動に駆られた。
「ご起立でございます。」
にこやかな笑顔でゆっくりと生徒たち一人一人に手を振る。
「ご着席でございます。」
「これより、朕は公務がある故、これを持ちまして、本日の授業をお終いにさせていただきます。」
「マジかよ?」そんな小声と同時に、生徒たち全員に教師が訪れた時以上の衝撃が奔った。
しかし廊下の先から荘厳な笙の音色が聴こえてくると、その音色とともに教室をご退室なされた。
勿論、生徒は秋篠先生が教壇から離れ、教室を出るまでの3分間、小さな国旗を振り続けた。
おわり
大すみ漣