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My DAYS  作者: 木野晴香
3/3

8月6日

 今朝もセミたちが鳴く。

 目覚ましに流れているテレビのニュースが聞き取れないくらい。

 雨が降れば静かな朝なのにと、リモコンでボリュームを上げながら思う。

 彼らは土中から這い出して鳴き始め、

 今日一日でまたたくさんの、何年後かのこの騒がしさを産み付ける。

 昨日の夜、話し掛けられたけど眠くて無下にしてしまった。

 さみしそうな「おやすみなさい」だった。

 読みたい本があったけど寝てしまった。

 明日読めばいいと思った。

 昼食の弁当のため、朝から米を炊いた。

 Tシャツにアイロンをかけた。

 シャンプーが残り少ないらしく、ポンプが空気を吐いた。

 メダカの水をかえてやった。

 アナカリスが茂って卵がいっぱいくっついている。

 睡蓮の花は白い。

 植えた年には二輪だったが、ことしはもう九輪咲いた。

 洗濯物が物干し竿にぶら下がる。

 隣の子どもが叱られている。

 明日は燃えないゴミの日なので、後で片付けものをしよう。

 ロースハムとボンレスハム、どちらを開封しようか迷っている。

 あとで2つ目に遠いスーパーまで、おいしい麺を買いに行こう。

 冷麺には何のせる?

 きゅうり、トマト、焼き豚。

 そうだ卵をゆでておこう。

 半熟と硬茹で。

 半熟は朝食に。スプーンですくって。

 コーヒーをたくさん淹れて冷やしておく。

 子どものラジオ体操のカードはスタンプでいっぱい。

 月末まで続けると、文房具がもらえる。

 髪のセットをしていたので、いってらっしゃいと声だけで言った。

 ドアが閉まる音がした。

 彼はいつものように玄関を振り向いてみただろうか。

 セミは鳴きつづけている。

 今でなければ鳴けないかのように。

 道路に通勤の車が増え始めた。

 もう少しで盆休みがくるから、今日もだるいからだを引きずり仕事に向かう。

 誰が「明日」を保証してくれたんだ?

 「明日」が必ず来るって誰が約束したんだ?

 何も無くて人と一緒で、おとといも昨日も暑いだけで、

 今日もきっと暑くて、振り返ったって取り立てて自慢話もない。

 黒い機影が上空に見えても

 平凡な今日の予定をこなすため右足と左足が順に前に進み、

 目は時刻表を追い、台所からは茶碗を洗う音が聞こえ、

 誰もが今日を持っていた。

 誰もが明日を持っていた。



 誰もが持っているはずの平凡でも大切なものを

 突然奪われた人たちの悲しみと無念さ。

 

 黙祷





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