第8話「実験その1」
ずいぶんと適当な天帝様と地帝様の夢のお告げから1週間が経とうとしていた。
俺は自分の能力を確かめるため庭で実験を繰り返していた。
あの二人からの説明を聞く分には片眼につきそれぞれ5個ずつ、合計10個の能力が俺に備わっていることだけはわかった。
とりあえず、鑑定の能力はこれまでに知っているものと同じだった。
しかし、さすがは「天帝の」とつくだけあり、通常の「鑑定の魔眼」とは一線を画す情報の正確さだった。
通常の鑑定の魔眼は、名前と性別、大体のぼんやりとしたステータスが見れるくらいなのだが、「天帝の」鑑定の魔眼は名前性別はもちろん、具体的なステータスの数字、そしてこの世界に存在することを初めて知った「レベル」も視ることができた。
試しに自分の手を見ながら「鑑定」とつぶやくと、視界の左上に
名前:ルース=オルノア:ハーフエルフ
年齢:3歳
レベル:1
性別:男
体力:35
筋力:72
魔力:7800
敏捷性:66
精神力:2300
耐久:62
抗力:4900
特殊:天帝の神眼、地帝の魔眼
と文字が現れた。
確かに魔力総量がすごい。おそらくこのステータスは、筋力・敏捷性・耐久が体術面、魔力・精神力・抗力が魔術面の、それぞれの強さを表しているのだろう。今のところ比較対象がないのでなんとも言えないが、少なくとも魔術関連に適性があることはわかった。
比較対象を求めて、庭で俺のことを見ていた母さんに鑑定をかけてみる。
名前:ルミノ=オルノア:エルフ
年齢:86歳
レベル:56
性別:女
体力:160
筋力:72
魔力:215
敏捷性:169
精神力:192
耐久:96
抗力:280
特殊:天弓
86という年齢にびっくりしてしまったが、エルフは長命と聞くしおかしくはないのだろう。能力はレベルに対してあまり強くように感じる。俺が生まれるまで何をしていたのか知らないのでなんとも言えない。
次に近くにいたユフィンを見てみることにする。「鑑定」と唱えると
名前:ユフィン:サキュバス
年齢:27歳
レベル:31
性別:女
体力:120
筋力:46
魔力:52
敏捷性:77
精神力:34
耐久:66
抗力:76
特殊:魅了
隷属:フース=オルノア|(一級)
サ、サキュバスだと…この世界には本当にサキュバスがいるのか。勇者をしていた頃は、噂を聞いたことはあったが実際に存在していたとは。能力値だが、ユフィンを見てわかったがおそらくこの値が一般人のものなのだろう。つまり、かあさんは何かしら戦闘経験があるのだろう。さらに、隷属として雇い主の名もわかるというのはとても便利だと思った。
この二人を見て思ったが確かに自分のステータスの強さがよくわかった。レベル1でこのステータスは十分すぎる。これはもしや、「チート」ってやつか?とウキウキしていると父さんが帰ってきたようだ。せっかくだから父さんのステータスを見てみよう。
「鑑定」と唱えてみて、唖然としてしまった。
名前:フース=オルノア:ゴッフ族
年齢:22歳
レベル:64
性別:男
体力:1280
筋力:6277
魔力:126
敏捷性:4145
精神力:768
耐久:1782
抗力:760
特殊:猛将の武威、武の探求者
奴隷:ユフィン|(一級)
6277だと…。やっぱりこの人は呂布の生まれ変わりに違いない。魔力総量こそ低いがそれを補ってあまりある体術ステータスだ。これは強い。レベルも高く申し分ない能力だ。
父さんの恐ろしいステータスを見たことで、自分のステータスに酔っていた自分から目が覚めた。魔力総量があってもつきこなせなければ意味はない。早く他の魔眼の能力を確認しなければ。
推測だがおそらく神速も普通の「加速の魔眼」の上位互換ってところだろう。応援、創造、強力は大体のイメージができる。応援は仲間の能力上昇、創造はアイテム製造だろう。強力は自己強化、といったところか。
わかりにくいのは、観察だ。鑑定との違いがいまいちわからない。他の能力も実験してみることにした。
まず、吸収からだ。とりあえず何もないところで「吸収」と唱えてみる。
目の前にぼんやりと魔法陣が現れる。
自分で触るのは恐ろしいので庭に落ちていた小石を投げ込んでみる。すると石は溶けるように消えていった。しかしそれ以上は何もなかった。
…………これは後日要検証だ。
次に、遠隔を試してみる。これは名前からして何かを操作するものだろう。実験する対象を探す。
草むらの中のバッタっぽい虫を見つけた。背中側を指でつまみ「遠隔」と唱えてみる。バッタ(仮)に3メートル先の木まで行って帰ってくるように話しかけたり、心の中で念じたりしてみたが、何度やっても上手くいかない。バッタではダメのようだ。
悩んでこれも後日に回そうかと思っていると何かの入ったカゴを手に持ったユフィンが庭に出てきた。
「ユフィンさん、それは何?」
「これはルノーラントマウスですよ。キッチンに忍び込んでいたので、今から野良犬の餌にでもしようかと思っていたところです。ルース様。」
ユフィンは、俺のことを好奇心旺盛な子供だと思っているからか、どんな質問にもバカにしたりせず知っている限りは答えてくれる。本当に優しい。
しかしマウスか、転生前の世界ではよく実験動物として扱われていたはずだ。いまやっている遠隔の実験にもちょうどいいかもしれない。
「そのネズミ、僕にちょうだい。だめかな?」
最大限あざとさを発揮し、断りにくいよう言ってみる。
ユフィンは困ったような顔をして、
「別に構いませんが、逃す時は家の遠くでお願いしますね。このルノーラントマウスは食べ物をかじってしまってとても困るんですよ。」
やっぱりネズミはどこでもネズミか、と思いながらカゴを受け取ると中には15cmほどのくすんだ金色をしたげっ歯類がいた。
憎たらしい顔をしている。某夢の国になぞらえて名付けようと思ったが、あの国はそういう問題はやたら厳しいと聞いていたのを思い出し、マッキーと名付けた。
ユフィンに別れを告げ、庭のハジまで行きマッキーを掴みカゴから取り出す。
暴れるかと思ったが、剛毅なのか鼻をヒクヒクと動かす以外はあまり動かない。
とりあえず、遠隔の実験を始めよう。