第6話「奴隷」
「えっ、ユフィンさんは奴隷なの?」
俺の知る、人族のいう「奴隷」とは転生前に学んだ世界史の授業に出てくるような人が人として扱われないような者しか知らなかった。富裕のみが手に入れることのできる自身の手で弄ぶための人形か、ボロ雑巾のようになるまで働かせる労働力としての奴隷しか俺は知らなかったのだ。
そこから、魔族における「奴隷」という者を知らない、というより子供に対するユフィン先生の奴隷講座が始まった。
「奴隷には三種類います。私のように働き口を見つけるために奴隷商を頼った「1級奴隷」、親や親族、時には自分で身を売った「2級奴隷」、犯罪を犯したことでなってしまう「犯罪奴隷」の3つです。多くの場合、普通に生活している奴隷さんたちは1級か2級です。
1級は仕事先を辞める時に奴隷登録を解除することができますし、奴隷であることで仕事時間以外は雇い主の指示を受けることはありません。2級は、女性が多く、1級と違い生活のほとんどに雇い主のいうことを聞かなければいけませんが、住む場所や衣食を雇い主が提供する義務があります。犯罪奴隷には、自由はなく肉体労働を強いられますが自業自得なのでしかたないでしょう。ルース様、今の説明でわかりましたか?」
ユフィンは、諳んじるように奴隷について教えてくれた。
どうも俺の知ってる人族の奴隷とは全く違うもののようだ。
つまりは、1級は「派遣のアルバイト」、2級は、少し濁したが「衣食住のついた娼婦」犯罪奴隷は「都合のいい労働力」というところなのだろう。
つまりは、父さんは家政婦としてユフィンを雇ったのだろうか?
「ユフィンさんはいつから家で働いてるの?」
そう尋ねるとユフィンはニヨニヨとした顔で、
「私は、フース様が10歳の時に買っていただいたのです。」
「えっ!?10歳?」
つい素っ頓狂な声をあげてしまった俺は、母さんの方を見る。
母さんはいつも通りの美しい顔で微笑んでいた。
数秒の空白の後、母さんが優しく教えてくれた。
「オルノア家では10歳の誕生日に側仕えの奴隷を買うのですよ。女の人を養うだけの甲斐性を養うためだそうです。費用はもちろん自分で稼いでですが。ルースも大きくなったらね」
そんな家訓聞いたことないし、奴隷を買うことで甲斐性がてにはいるかっ。
そんな俺の心の中のツッコミ虚しくユフィンは嬉しそうに父さんとの出会いについて語り出した。
「フース様は、10歳の頃はまだ可愛らしい、いたずらっ子のような方でした。私は、故郷から出てきて職にありつくことができず、かといって冒険者になることもできず、商館の中で雇い主を待っていました。すると、商人頭が気まずそうな顔で私を呼びました。条件に合わない雇い主でも来たのかと応接室に行くと、可愛らしい子どもがまっていました。フース様は一言「俺が養ってやる」とまるで結婚の申し込みとも取れる発言をすると、どっしりと金貨の入った麻袋を出し、私を連れて行こうとするのです。まだ隷属の契約も済んでいないのに。その様子が可愛くて、だけどどこか男らしくて、ついつい買われてしまいました。うふふ。」
こんなに楽しそうに話すほど仲がいい関係の奴隷もいるのだなぁと思いながら自分の8年後に胸を膨らます。