第5話「現状分析と多文化理解?」
俺は2歳になった。拙いが喋れるようになったし、それなりに歩けるようにもなった。母さんやユフィンに連れられて街を歩くこともできるようになった。それによって魔族についても色々とわかってきた。
まず、この世界の大陸は、魔王国や人族の国のある大きなドーナツ状の大陸と、そのドーナツの穴の部分にあるいくつかの小島しか発見されていないようだ。そのあたりは、例のエルフ語の探検家の本に書いてあることと相違なかった。
次にその大陸内の様子だが、大陸を時計の目盛りに当てはめて考えると1時から5時のあたりが魔族が住んでいる領土、反対に7時から11時のあたりが人族の住んでいる領土、そして12時のあたりにはエルフの住む大森林六時のあたりにはドラゴン達の住む山脈があるようだ。
人族の領土は俺がよく知っているように3つの国に分かれていて大森林に近い方から技術研究の盛んな国「テクラント共和国」農業の盛んな3つの中で最も大きい王国「バウラント王国」天帝ステラを祀る宗教によって成り立つ「リガオン教皇国」がある。この三国は元はバウラント王族の元に一つの国として存在していたが数代前の王の子が三つ子で、継承問題が起きたため、仕方なく三つの国に分けて統治され始めたのである。その結果、テクラントとリガオンは王制を廃止し、テクラントは貴族の中から首長を選ぶ議会制へ、リガオンは教皇を国家のリーダーとして据えることで独自の発展を続けている。
俺が勇者やその周りの人物に転生を繰り返していた頃は、たいていの場合バウラントの農民の子として生まれた。俺が生まれてくる年は、どの転生でも天帝歴661年で、その時期の王が本当に愚かとしか言えないようなやつなのだ。
名をオストルス=バウラント。国民のことなど一切考えておらず常に自分とその妻が享楽的に生きるためだけに行動するクズだった。自分と今代の魔王の名が同じというだけで魔王国に戦争をけしかけ、弟がその戦争で命を落とすと、国民に開戦理由はそっちのけで悲劇的な立場を演説し、勇者に魔王の討伐を命じるのだ。俺は勇者をやりながら「文句を言うなら名付け親に言え」と思っていたが。
それに比べ魔王国は平和だ。王族は継承については厳密な話し合いを繰り返し、継承順位を正確に決める。今代の魔王は子が一人しかいないらしく、王位継承者も決まっている。こんなことが起こるのもざらであり、魔族自身の寿命が長く死ぬことが少ないためである。
今の魔王はオストルス=フォン=ルノア。性格はとても穏やかで常に国民のことを考え、よく城下の街を視察に来ている。ユフィンに連れられ街を歩いている時に一度だけ見たことがあるが、ゴツかった。ものすごくゴツかった。父親のフースも猛将然とした偉丈夫だがそれすら上回る外見だった。俺が勇者として挑んでいた時は影しか見ることはできなかったが、おそらくオストルスの影ではなかったのでもうすぐしたら次代へと魔王の座を譲るのだろう。
つぎに魔族の生活様式だがほとんど人族と代わり映えするところはなかった。料理の時や水浴びをする時に魔法を使うあたりを除けば、文化レベルにも差がなかった。現代日本に比べれば低いレベルではあるが。
しかし、面白い慣習はあった。子供に関してである。生まれてから3歳の時に、近所の占い師によって能力の見分けをするのだ。人族に転生していた頃に、数度授かったことのある「鑑定の魔眼」を使うようだ。その時に大雑把なステータスや固有能力の有無を図るらしい。でも、あくまでそれは占いの類で、わざとレベルの低い「鑑定の魔眼」を使うらしい。そうすることで、将来を狭めないのが狙いらしい。
この話を聞いて自分に魔眼があるのか気になり、目に魔力を込めてみたが何も反応はなく、自分には魔眼を持たないのだと少し落ち込んだ。それならば魔法を使おうと母さんに教えを乞うたが「まだ早い」の一言で片付けられてしまった。
魔族の慣習はまだまだ続き3歳で適性がわかるとそれにあった訓練を10歳までの間に仕込むらしい。魔術の才覚のある子供は、王立魔術師学校へ、武道の才覚のある子供は親の伝のある道場へと送られる。職人や商人の子は、知り合いの店に奉公に行かせられたり、親の技術を一から教え込まれたりする。
そして、10歳になる頃には大半の子供は最低限のことができるようになる。そこで親たちは何かの挑戦をさせるのだ。それを「成人の試練」といい、自分の子供の背丈にあった試験のようなモノをさせる。内容も時期も親それぞれだが、必ず15歳までには何かを達成させるのだ。その経験が、人生を歩む上で大切だということを親たちはわかっているためあまり手加減はしない。だが、貴族の中には可愛い我が子のために、死にかけのドラゴンなどを連れてきて、止めだけ刺させたりすることもあるようだ。
ユフィンと母さんいわく、フースは自分から一本取ることを試練にするだろうと言っていた。オルノアの家系は武人の家系らしいのだ。見た目から呂布だの本多忠勝などと言っていた俺だったが、本当に強いらしい。
ある年、オークが大量発生し、周辺の伯爵領が大変なことになった。そこで魔王は民の安全のために虎の子の近衛隊すらも問題の派生した地域に送り魔王直轄領には治安維持のための守護隊十数名しか残していなかった。すると、オークの被害がなかった伯爵が魔王の座を奪うために直轄領に攻めてきたのだ。本来魔族はクーデターなどは起こさないのだが、その時は事情が違った。オークの大量発生への魔王の対応の悪さに端を発する正当な意義であったからだ。そのクーデター自体はその代の魔王自身の更迭で収まったが、オーク達は政治的な動きなどは全く関係なく混乱に乗じて200体近くが包囲を抜け直轄領へと迫っていたのであるクーデターに参加した兵も奇襲であったため寡兵であった。オークという魔物自体は4〜5体相手するのであれば十分に練度の高い兵士2〜3人でも勝てる程度だが、200という数は直轄領に残る兵士にすれば逃げるというほかない条件であった。
しかし、フースは違った。そのころまだ見習いの一人だったが、武名轟くオルノア家のものとして敵前逃亡など頭になかった。魔法の使える市民やクーデターを起こした者達を即座にまとめあげ防衛戦を築きあげた。そしてオークの大群が見え始めた時フースは守護隊の仲間に
「俺はヤツらの数を減らしてくる。後の指示は任せた。」
と言い残し一人馬を駆り大群へと突撃して行ったのだ。風魔法や肉体強化を使いばったばったとなぎ倒し、結果200体のオークを37体まで減らしてみせたのだ。
残りのオークは市民や守護隊の面々によって倒され街は無事であった。フースはその功績から守護隊の副長へと最年少就任。魔王軍の最強候補の一角へと一介の兵士ながら名を連ねているらしい。母さんが恋する乙女のような表情を浮かべながら語ってくれた。その事件の際、魔王国へと留学していた母さんはフースに惚れたらしい。
その話を聞いている時ユフィンがやけに嬉しそうだったので、不思議に思ったので聞いてみると、びっくりするような答えが返ってきた。
「私はフース様の奴隷ですから。ご主人様が褒められるのは嬉しいのですよ。」
えっ、奴隷!?