第21話「改竄と給餌」
俺は頭を抱えている。
どうしてこうなった。
「リータス・グランフェクトです。竜人族の15歳女。崩撃の魔眼を持っています。英雄様の元で働かせていただけるなんて光栄です!」
あなた男でしたよね?
「妾はユオ。齢800を越える九尾の妖狐よ。まさか妾を召し抱えるのが子供とはまっこと面白きことよのう。主殿よろしく頼むぞ」
あなたただの魔獣でしたよね?
何が起きたらこうなるんですか?
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事件は奴隷商から洋館へと帰ってきた時に起きた。
ネーヴェの召使という人も館についていたので一度自己紹介をしようということになった。
最後の調理の気分で気持ち良く料理を作って夕食となった。
今日のメニューは山羊乳で作ったクリームシチューに白身魚の香味草ソテーにパン。
最後の料理のつもりだったので全力で創造を使った。
みんなうまいうまいと食べてくれて食後に自己紹介タイムと相成った。
まず、ハティ、そのあとに俺たち馴染み子が自己紹介。そしてその順に召使勢も自己紹介を始めた。
「私は、幼少の頃からハティオ様のメイドをさせていただいておりますノグレー・フィッツフォールと申します。よろしくお願いいたします」
ハティのメイド、ノグレーさんだ。
まさにクールビューティ。全ての家事をハイレベルにこなす王女の従者だ。
いつも初顔合わせと同じ順に座っているので次はネーヴェだ。
ネーヴェの後ろには
ラミアがいる。種族差別するつもりはないがさすがに下半身が蛇だと少し萎縮している。
そのラミアはヌルリとネーヴェに軽く巻きつくと自己紹介を始めた。
「私はレム。訳あって犯罪奴隷になってしまったこの子の親戚よ。王宮で上級貴族どもに犯されそうになったから半殺しにしちゃっただけなんだけどねぇ。パッセルがなんとか話をつけてくれてねーギリギリセーフでネーヴェちゃんに買ってもらったの。よろしくねぇ」
半殺しねぇ。ステータスの感じからよほどひどい余程酷い半殺しだろう。
レムさんは人間の部分には薄紫のシャツワンピースを着ている。歳の頃は20代後半といったところだろうか。妖艶な雰囲気を醸し出している。
次はヴィスの召使だ。
「ウチはミオルにゃ。こっちはカシル、ウチの妹にゃ。妹はこっちの言葉がまだうまくないから許してほしいにゃ。これからよろしくにゃ」
「カシル、テス。よろしくテスよ」
ヴィスの召使のミオルカシル姉妹は猫人族の里から売られてきたらしく俺とヴィス以外には警戒を解かないが時間が解決してくれるだろう。
ミオルは赤茶の髪色に同じ毛色の猫耳がピンと立っている。
カシルはミオルより淡いキャメル色の髪色で同じように猫耳が立っている。
ミオルがあざとい喋り方をし、カシルが胡散臭い外国人のような喋り方をするのはクロティルドの教育の賜物のようだ。
次に俺の召使の番だ。
「リータス・グランフェクトです。竜人族の15歳女。崩撃の魔眼を持っています。英雄様の元で働かせていただけるなんて光栄です!みなさんよろしくお願いします!」
え?何を仰ってるんでしょう。いつから女になったの?
よーし、パパ鑑定の魔眼使っちゃうぞ〜
名前:リータス・グランフェルト:竜人族
年齢:15歳
レベル:27
性別:女
体力:2470
筋力:2800
魔力:28
敏捷性:722
精神力:21
耐久:4730
抗力:198
特殊:崩撃の魔眼
あるぇ?
女だ。
天帝と地帝の寄越した鑑定能力のガバガバさに驚いた。
「すみません、英雄様。竜人族の秘伝の呪法でステータスを隠していたのです。騙した形になって申し訳ございません」
そんなにわかりやすい表情をしていたのだろうか。
こちらの考えがバレバレだ。
まあいいか
うんいいことにしよう。
だって隣の妖狐がいつのまにかムチムチケモ耳お姉さんになってることに比べれば性別詐称くらいなんてことない。
何がどうしたらそうなるの?
尻尾もふもふだしワケガワカラナイヨ
「妾はユオ。齢800を越える九尾の妖狐よ。まさか妾を召し抱えるのが子供とはまっこと面白きことよのう。主殿よろしく頼むぞ」
この部屋にいる全員が驚いてるが、一人だけ目を輝かす転生者もいた。
「私、リン・アイハラですっ。よろしくお願いしますねっ!ユオさんて本当に妖狐なんですか?」
「そうじゃ、妾は悠久の時を生きる妖狐よ。主殿の実力を見込んでその下につくことを決めたのじゃ。そなたはリンだったな、よろしく頼むぞ」
だれか説明してくれないかなぁ
信用してないけど鑑定してみよ
名前:ユオ:妖狐
年齢:812歳
レベル:382
性別:女
体力:1380
筋力:423
魔力:6540
敏捷性:1722
精神力:4821
耐久:730
抗力:8198
特殊:九尾の蒼勁
混迷の籠絡
さすが年の功か。
というか問題はそれよりガバガバ能力の魔眼の方だ。
そんな簡単にごまかせるものだとは思わなかった。
ユオの見た目は想像を裏切らない狐娘だ。
黄金色のロングヘアに九本の巨大な尻尾が神々しささえ感じてしまう。
同時にその尻尾のモフモフ具合も半端じゃない。
リンまで紹介が終わったと判断したのかシルーの召使のオディナさんが話し始める
「私はオディナです。昔、冒険者をしておりました。三年前からお世話させていただいおります。よろしくお願いします」
オディナさんはハーフエルフのお姉さんでシルーに比べると喋べるがそれでも寡黙な人だ。
個人的なイメージはメガネをかけているのも相まって司書さんにしか見えない。
夕食後の衝撃の自己紹介で負ったダメージから回復した俺は召使を雇ったことで解決することにする。
談話室で食後の歓談をしている全員に向けて話しかける。
「なぁみんな。食事を作るのは交代制にしよう」
現状俺、ノグレーさん、オディナさんで回していた食事当番のローテーション人数を増やしたい。
誰も反対の声を上げない。
これは反対意見なしってことは全会一致で賛成ってことだよな。
ここに食事当番ローテーション会議を始める!
主催俺、司会進行俺、書記俺。
この会議で主流を得るのに大事なのはいかにハティの気持ちを持ってくるかが大事だ。いくらポンコツ魔王でもハティの影響力はかなりのものだ。
馴染み子メンバーの中で、ネーヴェ、ヴィスはハティに対して忠誠を誓っている。俺とリリは中立派と言った感じでどっちつかずだ。わからないのはシルーだけであまり喋らないゆえに考えが読めない。
大抵このメンツで話し合いになると流れはハティが議題提供をし、俺やリリが意見を述べ、それに対してハティが自分の意見を述べるとヴィスが手放しで同意しネーヴェが理論武装してハティの意見を強化する。結果ハティの意見が通る。
ハティはまともな意見しか言わないので俺とリリも反論されてもそう腹は立たない。
ちなみにシルーは六対四で一言も喋らないかウトウトしている。
今回の話し合いではハティの意見を「みんなでローテーション」の方向にさえ持っていければハティ信者の二人を確実にこちらに引き込めて過半数を味方につけることができる。
慎重に大胆に意見をうまく持っていかなければ…
「急にどうしたのよ?」
リリが味方になってくれればありがたいが此奴は俺の創造料理を一番楽しんでいるから、反対に回るかもしれない。
「私はいいと思いますよ、ルース。それぞれ召使と協力して料理を作るというのはどうでしょう?」
来たっ!大物が釣れそうだ。ハティが乗ってくれれば…
「ハティさんがそう言うなら私は問題ないと思いますよ。経験を積むという意味でも体験することは大事なんじゃないでしょうか?」
「アタシも異論はない」
よしっ信者たちが乗ってきた。
このまま押し切りたい
「待ちなさいよ、ルース。私はまずいご飯は食べたくないわ」
リーリーーー
この空気読めないちゃんめ。
「それなら料理が作れる人を確認してみましょう。ルース、ノグレー、オディナは確定として他の皆さんはいかがですか?」
大天使ハティ、ナイスカバーだ。
これでうまく面子が組めるなら俺の負担軽減だ
「家庭料理レベルなら大丈夫よ」
これはレムさん
「猫人族の料理なら作れるけど、王女様に食べさせることはできないにゃ」
「そうテス。失礼なるテスよ」
これはミオルとカシル
「申し訳ないです!私も竜人族の料理なら作れるのですが…」
これはリータス
「妾はできるぞ。児戯にも等しいわ」
これユオ
リンさんができないのは周知の事実で流された。
おや、リリペアだけじゃないか?
問題があるのは…
「これならリリの時だけ誰かがヘルプに入ればできるんじゃないか?猫人族の料理っていうのがどんなのかはわからないけど…」
「そうですね、猫人族の料理がどんなものか知りませんがなんとかなるのではないでしょうか?」
よしハティが乗り気だ。
これによりハティ信者たちも渋々だが首を縦に振っている。
その時予想外の人物が手を挙げた。
眠りのセイレーン、シルルビドだ。
「私…ルースの作ったのがいい……一番美味しい…」
ずっと黙って初めての発言がそれかよ!
「確かに今日のスープも美味しかったわね。さすがルースよね」
リーリーーー!また、お前は裏切るのか!
「今日の料理はご主人様が作られたんですか?とても美味しかったです!」
”英雄殿”という呼び方がこっぱずかしく変えるように言ったら”ご主人様”になったリータスも裏切ってくる。
ちなみに俺の趣味ではない
「おさかなソテーも美味しかったにゃ。猫人族にも負けない魚料理だったにゃ」
「美味しかったテス。とってもテス」
助けてやった猫耳にも裏切られた。
「うーん、確かにシルーの言うことも一理ありますね…いつも留守の作る料理は美味しいですね……」
「そうだよ、ハティ……考えて…」
いつも喋らないくせにこんな時だけしっかり意見しやがって!
ハティ信者たちは完全に料理人ルースといった視線でこちらを見ている。
あれ、墓穴掘ったかもしんないぞ、これ。
「では多数決を取ります。ルースくんに毎日作って欲しい人、挙手!」
俺、ノグレーさん、ユオを除き全員が手を挙げる。
「ノグレーはどう思うんですか?」
ノグレーさんは姿勢を正しハティに向き直る。
「ハティ様、料理というのは人のことを考えてやるものです。そのようなこともできずに良き王となれるのでしょうか?」
決着はこの一言でついた。
結果、席順でローテーションすることが決定した。




