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第18話「始動」


今、部屋には三人いる。


一人は俺、もう一人はリトリカ、後一人が誰なのかはわからないが同い年であることは確実だ。

この部屋は馴染み子と次期魔王であられるハティオ・ファン・ルノアが初顔合わせをする部屋だ。


時間よりだいぶ早く着いた俺たちは門番に話をつけ先に部屋に入ることを許された。

メイドとしてついてきたリンさんは従者の控え室へ通されたのでさっさと俺たちも部屋へと入った。


部屋の中には円卓が置かれており上座の椅子だけがやたら豪華なものだった。おそらくハティオが座る椅子なのだろう。

それぞれの椅子の前には名札が立ててありハティオの席を頂点に時計回りにネーヴェ・ガーヴィス、ノッカヴィス・トッドリー、俺、リリ、そして机に突っ伏している子だ。


ちょうど名札が見えない感じに突っ伏しているおかげで鑑定を使うとシルルビド・コート・ユリアスという名前らしい。


勇者時代の記憶を総動員してもシルルビドとハティオだけは覚えがない。


ハティオはあったことがないので当然だがこのシルルビドは俺の知る側近のメンバーではないのかもしれない。


しかし残るノッカヴィスは何度も煮え湯を飲まされてきた憎たらしい相手だ。


ノッカヴィスは天魔殺しのリトリカと同様に”不死身の剣豪”ノッカヴィスという二つ名で呼ばれていた。


素の剣術のみの時点で十分に強いのに、そこに超回復がつくのだ。

接近戦を避け魔法攻撃で倒そうとしても即座にダメージを回復しながら近づいてくるのだ。


そのあまりの恐怖にパーティーメンバーの一人は祖国に帰ってしまった。

今考えればおそらく魔眼の能力だったのだろう。


俺たち勇者パーティーの死因TOP2だったやつらがこの部屋に居るわけだ。


突っ伏してるシルルビドは動く気配が見えない。


「ねぇ、ルース。どうすればいいのかしら?」

「とりあえず座るか。寝ているようだし気にしないでおこう」

「そうね」


リリと円卓の周りに座る。

椅子を引いた音がしてしまったがシルルビドは起きない。


俺たちが座ってからすぐにネーヴェが、それから10分ほどしたらノッカヴィスが部屋に入ってきた。

ネーヴェは入ってきてこちらを一瞥すると軽く会釈をして椅子に座ったのに対しノッカヴィスは佩刀した両手剣を机の上に投げ出すと俺に声をかけてきた。


「シエラリーオに鉄剣で勝ったってのはお前か?」


「そうだけど何か?」


「シエラ姉はアタシの姉弟子なんだ。お前に負けたあの日からすっごい落ち込んでんだ。私もまだ勝ったことなかったのに…このあとアタシと勝負しろ!」


「嫌だ」


気合が入ってるのはいいがなんで俺が戦わなきゃならんのだ。それにシエラノーラさんとは打ち合っていないのだから具体的な理由は俺じゃないはずだ。


「なぜだっ!男なら勝負を受けろ!」


「ルース、受けてあげなさいよ」


なぜかリリが敵に回る。

突っ伏したままのシルルビドと姿勢を正したままのネーヴァは一切関わってこない。


「あいつのステータス、体術関係はルースと同じくらいじゃないちょっと鼻っ柱を折ってやりなさいよ」


裏切り者のリリが小さな声で言ってくる。

こいつはアホか。

これから仲間になる相手と一戦交えてまともな関係が築けるはずがない。むしろここで勝っても負けても遺恨を残す結果になるだろう。


「戦うのはこれからいくらでもチャンスがあるだろ?絶対今は戦わないぞ」


「腰抜けめっ!」


乱暴に腰掛けたノッカヴィスは腕を組み目を閉じる。

やりきれない怒りをなんとか抑えているんだろう。


静かになった部屋で馴染み子のメンバーを確認する。


魔王の席の左手側から宰相枠のネーヴェ・ガーウィス。

髪は鮮やかな萌黄色のボブカットでさっぱりと切りそろえられている。聡明な感じのする涼やかな顔立ちで体つきは年相応なものだった。能力的にはあのテストでも時間に余裕ができるほど頭脳は持っているが戦闘能力はほとんどない。かろうじて魔法を使えるかどうかっといったところだろう。宰相枠なら何も問題はないだろう。


その隣は武術家枠のノッカヴィス・トッドリー。

いかにも活発な少女でくすんだ赤いぼさぼさ髪を左横に一つにまとめている。切れ長な瞳は獲物を見つけたら逃がさないっといった感じの凛々しさだ。ステータスは父さんを二周りくらいスケールダウンした値だ。俺と同じくらいの近接戦闘ステータスをもち近接戦闘の訓練を重ねているのであれば十分戦力になるだろう。


俺を挟んで反対側にはリリがいる。

初めて見た時と変わらないゆるくウェーブのかかった群青の髪は最初より伸びセミロングくらいの長さになっている。ステータスは言わずもがな、俺から体術をひいて魔術関連を少し低くした形だ。やはり体術は低い。おそらく荒事に関わることがないであろうネーヴェやシルルビドよりも低い値というのは驚きを通り越して悲しみすら感じる。


最後にずっと机に突っ伏している、シルルビド・コート・ユリアスだ。頭しか見えないので判断のしようがないが白よりの銀髪のショートカットだ。能力は概ねネーヴェに近いが精神力と抗力だけリリ並みに高かった。そして一番気になるのは種族がセイレーンということだ。


セイレーンというのは俺の知識が正しければ上半身は人間の女性で下半身は魚だったり鳥だったりして羽が生えていたり手が羽だったりするはずだが…

怪しまれないようにキョロキョロするが手が羽なわけではないし下半身が魚でも鳥でもないように見える。


この世界のセイレーンが俺の知っているものとは違うのかもしれない。

これが終わったら頭の中もファンタジーなファンタジー大好き転生者に聞いてみるか


俺はキョロキョロし、リリはそんな俺を見てどこから出ているのかわからない余裕を湛えた微笑みを浮かべている。

ネーヴェは姿勢を保ち続け、ノッカヴィスは目を瞑り怒りを抑えている。

シルルビドにいたっては未だに突っ伏して寝ている。


そんな五者五様の混沌とした部屋の中に重厚なノックが響く。


「ハティオ様の準備が終わられました。各々方ご用意よろしいですか?」


高齢ながらも腹の底に響く様なバリトンボイスが隣の部屋から聴こえる。

これにはシルルビドも起きたのか部屋にいる全員がしゃっきりと背筋を伸ばし、魔王の席の後ろの扉へ注目する。


横目でシルルビドの顔を確認するが寝ぼけているからか生来のものかじっとりと睨みつける様な目をしている。

顔自体の造形は悪くない、というかいいほうだ。

俗に言う三白眼で扉を見ているのでおそらくデフォルトなのだろう。


全員が真面目な表情をしてるおかげでわかるが、この部屋の顔面偏差値がとても高い。


「魔王様が御息女ハティオ・ファン・ルノア様ご出座である!」


口上とともに扉が開く。

戸を開けた老人とメイドの間に俺たちの魔王様がいらっしゃる。


ハティオ・ファン・ルノア


当代の魔王の一人娘であり、時期魔王が約束された存在がそこにいる。

勇者時代は影を踏むことすら叶わなかったその姿を初めて目にする。


腰まで伸びた金髪は緑がかった俺とは対照的に所々赤みがさしローズゴールドに近い。

この部屋にいた五人に比べるといささか幼く見える顔であるが流石は次期魔王と言うべきか。

穏やかに笑うその笑顔はどこか蠱惑的にすら感じる。

身長はおそらくリリよりは高く俺よりは低い。


人と会うと癖になっているステータス鑑定をしようとしたが見ることができない。

しかし、相手が強すぎて見ることの出来なかった天魔の時とは違う様に感じる。

観察を使うとその理由がわかった。


名前:陥穽の首飾り

特徴:クラスSの首飾り。魅了チャーム、鑑定阻害効果。


鑑定を阻害していたのはハティオの首元に輝く首飾りが原因の様だ。


原因はわかったが理由がわからない。

なぜ俺たちに対して隠す必要があるのだろうか。

同じことを試したのであろうリリはこちらを見て訳がわからないといった表情をしている。

もっともリリは原因もわからず混乱しているのだろうが。


ハティオは王族らしい動きで老執事の引いた椅子に座ると一呼吸二呼吸置いたのちに話し始める。


「こんにちは、みなさん。私がハティオ・ファン・ルノアです。まずはみなさんのお名前を聞きたいです。」


黙りこくっていた俺たちに対してホスト側からの声かけが入ったことで誰から行うのか迷いが生じる。

どの様に返事をしたものか逡巡しているとハティオのすぐ隣に座るネーヴェが深呼吸したのちに挨拶を始める。


「お初にお目にかかります、ハティオ様。私は宰相を務めさせていただいておりますパッセル・ガーウィスが娘、ネーヴェ・ガーウィスでございます。浅学非才の身ではありますがハティオ様のお力になれるよう尽力させていただく所存です」


とても同い年とは思えないしっかりとした挨拶をハティオはにこやかに見ている。


「貴女がパッセル殿の娘のネーヴェさんでしたか。その優秀さは聞いていますよ。あの難しい歴史のテストで満点を取るなんて素晴らしい実力です。ですが、砕けた口調で話してくれるとありがたいんですが…」


「申し訳ありません」


ハティオはさも気にしていないように微笑み返す。

陥穽の首飾りの効果だろうか。全員が魅了されている。

次の挨拶は自然とネーヴェの隣のノッカヴィスの番になった。


「アタシはノッカヴィス・トッドリー。親父はプルウィ・トッドリーで王宮武術師範をしてる。魔法や勉強はからっきしだが武術では負けねぇ。よろしく頼む」


かなりワイルドな挨拶だ

それでもハティオは気にしていない様子で返事をする。


「プルウィ殿の娘の武勇は聞き及んでいます。プルウィ殿は私の剣術の指導でお世話になっています。これからよろしくお願いしますね」


この順番だと俺が次か。

でも親の仕事いう意味あるのか?

父さんの仕事王宮に関係ないんだが……


「俺は守護隊長のフース・オルノアの息子のルースだ。えーっと、セールスポイントは魔法が得意なことぐらいか。よろしくお願いする」


「ふふっ、面白いことを言うんですね。近衛騎士団の騎士を一瞬で降参させ、魔法もかなりのレベルで使いこなし、歴史のテストは一問ミス。礼儀作法も問題なし。素晴らしい素養をお持ちです。よろしくお願いしますね」


馴染み子の試験については全て知っているのか。

そんな風に褒められると恥ずかしい。


「次は私ね。リトリカ・ハック・コフィーノよ。パパは王宮魔術師団長でママは王宮魔術学校の校長をしてるわ。よろしくお願いするわ」


「天魔殺しのリトリカさんですね。噂は聞いていますよ。あなたが私の友人になってくれると聞いて楽しみです。よろしくお願いしますね」


最後に三白眼ジト目が挨拶をする。


「シルルビド・コート・ユリアス……楽団長の娘……よろしく」


短っ!

最短だよ

最低限の情報しか話さなかったよこの子。


「お久しぶりですシルー。今日からまた心機一転よろしくお願いしますね」


知り合いなのか親しげにハティオは返事をする。

まぁ名前からして貴族だし楽団長の娘ってことは楽器が出来るのだろう。そうなれば楽団の一員としてすでに王宮内で会ったことがあってもおかしくはない。


一通り全員の自己紹介が終わりハティオがまたも音頭をとる


「同い年なのですからぜひ愛称で呼んでいただきたいのです。だから私のことはハティと呼んでください。」


「わかりましたハティ様」


「ダメですネーヴェ。ハティと呼んでください」


堅物っぽいネーヴェはそう簡単に割り切れないようだ。

一方で他の面々は気にもしない


「わかったぜ、ハティ!アタシのことはヴィスでいいからよ。他の奴らもよろしくな」


「ハティ。これでいいんだな」


「私もリリでいいわ。ハティもみんなもよろしくね」


「ハティ…いつも通り……。みんな…シルーって…呼んで」


ハティは嬉しそうにニコニコと笑っている。

ネーヴェは目上の相手を愛称で呼び捨てすることに対する罪悪感と戦っているのかうっすらと顔が赤くなっている。


「ハティ、ちゃん。よろしくお願いします」

「ふふ、よろしくお願いしますね。あとのことはフロウル、頼みましたよ」


「はい、承知いたしました。それではみなさまがこれからお住みになるお部屋にご案内します。こちらへついてきてください。ちなみに私はフロウル・フタルと申します」


老執事然としたフロウルさんが最初に入ってきた扉へと案内する。部屋を出てしばらく歩いたところに転移陣が用意されていた。


転移した先には一軒の古い洋館があった。


赤茶けたレンガで造られた二階建ての館だ。向かって右には塔屋が左にはサンルームがみられる。

厳かな雰囲気だがポーチの屋根などは最近補修したのか所々真新しい石材が使われている。

それでも全体的に見てもそれなりに歴史を感じる建物だ。


中に案内されるとリンさんとシルーの従者であろう人がすでに中にいた。


「各々方にお部屋がございます。それぞれ一度お部屋をご確認ください。そして一時間後に食堂、一階のロビーの奥にお集まりいただきたい」


めいめい返事をするとそれぞれの部屋へと向かった。


部屋には持ってきた荷物がすべて入っていた。

一時間もあるとなるとだいぶ暇だ。

マッキーと話をする


「ハティをどう見る?」


「あの小娘は大したことないぞ。お前の足元にも及ばん小物だ」


天魔inマッキーは偉そうに意見を言う。


「どこらへんがだ?阻害の魔道具をつけていただろう」


「細かいのはわかんないけど、しょっぱい能力値だ。一応魔眼は持っているようだが…」


そうなのか。

なぜ鑑定阻害する魔道具をつけていたがわかった気がする

弱い自分を隠すためか。

理由としてはわかりやすいものだ。


「他の奴らについてはどう見た?」


「あのエルフの小娘以外は魔眼持ちだ。しかしどいつもお前ほどは強くはないな」


天魔のブリーフィングはある意味信用がおける。

戦闘能力を失った分探索能力は研ぎ澄まされている探索能力は研ぎ澄まされているため敵探知や直感による力量判断はかなりのものだ。


そんな感じで他のメンバーについて話をしているとリリがやってきた。


「ハティのステータスが見れなかった理由わかってるの?」

「鑑定阻害の魔道具を使ってた。クラスSの一品だぜ」


リリは納得がわからないといった表情をしている。


「ところでリンさんに質問なんだけど、セイレーンってどんな種族?」


「うーん、私が知っているのは歌の上手いハーピィ型かマーメイド型のものですかね。本来は人間型だったという話もあった気もしますがね…それよりエルフがいたって本当ですか?」


「そっちかよ!そんなこと言ったら俺はエルフのハーフだぞ」


「そうだったんですか!ズルいです、私もエルフが良かったです!」


俺もリリもやれやれといった表情だ。

唐突に天魔が意味深なことを言い出した。


「ルース、お前はしばらく後に力強きものと年を重ねし獣を仲間とするだろう。これは予言ではなく直感だ。信じるかどうかはお前次第だ」


「急にどうしたんだ?」


「頭の中に湧いてきた言葉を話しただけなんだ。私にもわからない、多分天帝か地帝だろう」


天魔は口調だけ苦々しく言ってのける


「なんで言ってのけられるんだ?断定できるのか?」


「天魔を操ることができるのはあやつらぐらいだ。という知識が私の中にある。それだけだ」


そんなもんなのか

力強きものと年を重ねた獣か

年を重ねし獣…亀くらいしか思いつかないな…



一時間が経ち食堂に6人が集まる。

ハティオは陥穽の首飾りをすでに外していた。

俺とリリは驚きのあまり顔を見合わせる。




 名前:ハティオ・ファン・ルノア:ゴッフ族

 年齢:5歳

 レベル:7

 性別:

 体力:30

 筋力:73

 魔力:282

 敏捷性:63

 精神力:238

 耐久:56

 抗力:344

 特殊:祝福の魔眼


顔を見合わせたのは弱いからだ。

それも圧倒的に弱いわけじゃない。

すごく中途半端に弱い、圧倒的に弱いわけじゃないからなんとも言えない。

確かにこのステータスを隠したくなる気持ちもわからないわけではない。


魔王のステータスとしては低すぎるが一般人よりはマシといった具合だ。

ここ最近で一番の驚きかもしれない。


フロウルが話し出す


「これからのことについてお話しいたします。これから5年間はここを拠点として修練に励んでいただきます。食事の用意から洗濯まで全て皆様の手でおこなっていただきます。武術の教師は騎士団所属のシエラリーオ殿、魔術の教師は王宮魔術団のクシント殿、教養を私が担当させていただきます。それに関してなのですが身の回りの世話をさせる召使を連れてらっしゃらない皆様は近いうちに雇っていただきたいのですが…」


つまりは…奴隷購入イベント!?





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