閑話 ある転生者の冒険
私の名前は相原凛。15歳、日本の中学生でした。
でしたというのは、私が死んでしまったからです。
私は子供の頃から病気でした。幼稚園をでた頃には入退院を繰り返し、小学校高学年になってからは歩くこともままならなくなってしまいました。
そのせいで私の趣味は偏ってしまいました。ベッドでも見ることの出来た特撮ものとネット小説にどハマりしてしまったのです。しかし、それらは治療に苦しむ私を救ってくれました。それらは私の想像力を掻き立ててくれました。夢の中では私の力になってくれたのです。
ある日の私はヒーローの仲間の一人です。俗に言う二号バイカーです。私は仲間たちと敵のボスを追い詰めるのですが敵の決死の攻撃で相討ちになってしまいます。すると仲間のみんなは私の死を悲しみ、それを原動力とし世界平和を成し遂げます。そこまで見ると夢から覚めてしまいますが私は満足です。
またある日の私は異世界に転生した女剣士です。魔王やドラゴンを相手に切った張ったの大立ち回りを演じ、壊滅に瀕した国を助けるのです。そして疲弊した国の内政に手をつけ見事富国へと変えて見せるのです。そういう夢で起きた日には私は冷静に問題点を考察します。そこで明らかになった問題点についての対処法を調べることで1日を過ごすのです。非常に有意義で楽しいのです。
定期検診の日、お母さんが悲しそうな顔で私の病室へやって来ました。なんと、お母さんが言うには私は余命一ヶ月だそうです。
驚かないのかって?もう慣れっこです。私が生きているのは偶然にすぎません。夢を見ることができるだけ幸せと言えるでしょう。お隣の部屋のお婆さんはうまく寝ることができず夢すら見ることができないのだそうです。
それに比べたら死ぬことは怖くありません。夢を見ている間は私は自由です。死ぬことが怖いと言ったら嘘になりますが、今より辛いことなんてそうないように感じられてしまうのです。
私は病気のせいでろくに友達もいません。お母さんやお父さんは優しくしてくれていますが目に見えて疲れてしまっています。私のことが気掛かりでよく眠れないのでしょう。夢の中では自由な私とは全く違いますね。
それからしばらく経ったある日の夢は妙にリアルでした。真っ白な部屋にガタイのいいおじさんが見えています。私の周りは砂のようなものに包まれ動くことすら叶いません。
おじさんの姿形を見る限り今日の夢は異世界もののようです。
「よう、小娘。残念だが今回のは夢ではないんだ。我輩は地帝ソーレ。残念ながらお前は死んでしまった。そこで異世界に転生させてやりたいんだがなんか希望はあるか?」
自分から異世界転生だっていう夢は珍しいです。希望ですか…
私の希望としてはやっぱり成り上がり系の物語ですよね!
主人公の能力は特殊なものでそれを駆使して上へ上へと成り上がって、王様の友人ポジションなんかになれればいいですね。
能力は……私の大好きな特撮ヒーロー的なのがいいです。あれと同じようなものを魔法で鎧のように装着するなんてのがかっこいいかもしれません。
「よーし、小娘。お前の理想はよーく伝わった。能力はお前の望むとおりにしよう。王の友人というのはお前の頑張りでどうにかするしかないが、ヒントだけはやろう。お前と同じ世界から今のところ一人だけこちらの世界に転生させた奴がいる。そいつを探せばお前の望みは叶うだろう。そいつはオッドアイのガキだ。こんなに教えるなんて大サービスだからな。あとはお前自身で頑張るがいいさ。」
おじさんが私の前に手をかざすと、私の体は砂の中に飲み込まれていくように意識を失った。
そして目が醒めると私は森の中にいた。おじさんが異世界転生させてくれたのかな?ほおをつねるとしっかり痛い。夢じゃない。私は現代日本とはお別れしたわけだ。
自分の足で歩く森はなかなかキツかった。これまでは病院内の談話室までしか歩けたことのない私には未曾有の大移動だ。能力の使い方がわからない。目覚めて1日を歩き通しで過ごしたが人にも動物にも出会うことはできなかった。
偶然見つけた洞穴らしきところに野宿する。いつも真っ白な病院のベッドとは寝心地こそ違えど自らの足で歩くことの楽しさを知った私を止めることのできる理由にはなり得なかった。
そうやって眠りにつくと、またあの白い世界へと誘われてしまったのです。
そこにはまたもおじさんが待っていました。
「おい、小娘!お前は想像力はあるようだが何故魔法を使わん。せっかくわしが与えた魔眼も無駄ではないか!武装と唱えるのだ。そうすればお前の望む形の鎧がお前を包むだろう。鎧を強くするのはお前の想像力だ。そして鎧を纏い今いる場所から北へと進め。そうすればこの世界唯一のお前と同郷の人物に合う手がかりを得るだろう!本来はここまではせんのだぞ。お前が転生できたのもここまで手をかけるのもその同郷の奴のおかげだからな。あったら礼を言っておけ!さらばだ!!」
そうしてまた砂の中に私の体は飲み込まれてしまいます。
目を覚ましまずやることは言われた通りに魔眼とやらを使いこなして見せましょう。想像力が力になると言ってましたから一番好きな仮面バイカーのあの方をイメージして呟きます。
「武装」
私の体を光が包み両手を見ると私の想像した通りの姿になっているではありませんか。感動のまま私はそこらの木を殴りつけます。私の胴回りをゆうに超える木はミシリと音を立て殴ったところから折れてしまいました。
ふふふ、成功です。
このバイカーのフォームはパワーと防御力が高い反面、機動力には劣ります。私を包むこの鎧は見事にその特徴を示しています。
やりました。
私はその興奮のまま色々なバイカーを想像し武装していきます。その度に私の体には思った通りの鎧が現れ、周囲の木は私の実験台として一本また一本と折れていきました。
あたりの木が病院のロビーくらいの広さに渡って伐採され尽くしたその先には疲れて立ち尽くす私が居ます。
もちろんこの疲れははしゃぎ過ぎて疲れただけで肉体的疲労は一切ありません。
さて、そろそろあのおじさんが言ってた通りに北へと向かいましょう。
私の異世界転生用の記憶が定かなら北を探すには木を見ればいいはずです。北側には光が当たらないはずなので苔が生しているでしょう。
倒していない木に近づいて確認するとやはり一方向だけ苔が生しています。現代日本の北と違う可能性もなきにしもあらずではありますが今は進むだけです。
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私的にはかなりの距離を歩いたところに集落らしきものを見つけることができました。転生二日目にして現地人との交流です。一日目から湧き水を飲んだ以外は何も口にしていないのでそろそろお腹も空きました。
ここで私は落ち着くべきでした。冷静になればすぐにわかることですが、言葉が通じるかわからない集団の中に奇怪な鎧をつけて入り込むことがどれだけ危険かを。さらにはその鎧が私の想像のもとに現れた如何に強力なものなのかを。
第一村人の時点で最悪の対面です。
後で聞くと、集落で栽培していた果樹をへし折りながら現れた奇怪な鎧が挨拶をしているという、友好の印か敵対の印かで言えば明らかに喧嘩をふっかけにいっていました。
幸いにも言葉が通じたことだけが救いでした。集落の皆さんの攻撃を受けてもビクともしない私の鎧がなければ私の旅はここで終わっていました。
異物排除の攻撃の雨あられがやんだ頃遂に首長が話しかけてくれました。
「貴方は敵ではないのか?敵でないなら右の手を上にかざしたまえ」
これも後で聞いたところここの集落において『敵意なし』を示すハンドサインなのだそうです。
「隣人よ、謂れのない罪を着せ攻撃したことは謝罪し責任者を罰しよう。どうかその素顔をお見せいただけないか?」
この言葉の時点で気付くべきなのですが私は何か偉大な存在に思われてしまっていたようです。そんなことはつゆ知らず私は劇中と同じ様にカッコよくポーズをとって鎧を消しました。
中から現れた私の姿は人族でした。傍目には集落の皆さんは人族に見えていましたが魔族だったようで、突然現れた人族の私を魔王討伐の刺客なのではとうかがっていたそうです。
まあ、その疑いはしばらく集落のお世話になる間に晴らすことができました。
集落の皆さんと仲良くなって魚の取り方とか色々なことを教えていただきましたが、あくまで私の目標は魔王の友達、内政チート、そして正義のヒーローです。そこは譲れません。
それで魔王様がいるという魔王国直轄領への行き方を教えて貰ったのですが、何と案内をつけてくれるというのです。仲間ゲットです。
その案内というのはユギルちゃんという私と同じくらいの女の子でした。さっぱりと切りそろえたベリーショートが可憐な子です。
首長さん曰く
「ユギルの親戚が直轄領の近くの領でメイドをしてるらしいのだ。ユギルはそろそろ里を出て世の中を見るのもいいだろう。隣人殿はお強いので是非案内としてユギルを使ってやってはいただけないか。最悪の場合はその親戚を頼れば食いっぱぐれは無かろう」
とのことで同行者をゲットしました。もちろんユギルちゃんが直轄領までの案内をする代わりに私はボディーガードをするという約束で旅を始めました。
私の想像では、というより集落の皆さんのお話では直轄領は近いような言い方をしていましたがそんなことはありませんでした。集落のある場所は三日月型の魔族地域の先端部、一方で魔王国直轄領はちょうど真ん中くらいなのだそうで途中で少ない路銀も尽きかけ冒険者としてお金を稼がざるを得なくなりました。
でも、冒険者という響きに私は燃えました!だって夢にまで見た冒険者です!
初任務は薬草採集。
ありがちですが低ランクのうちは欠かせない任務です。ユギルちゃんと協力して集めまくりました。そんなことを繰り返しているうちに遂に討伐任務です。
初めての討伐任務はゴブリン五体。ユギルちゃんは一応狩りで使っていた弓があるそうで私が前衛、ユギルちゃんはほとんど参加せず偶に後衛として攻撃していました。
私の鎧は防御面ではかなりの強度を誇りそこらの魔物の攻撃ではかすり傷すら付きません。さらには魔法攻撃耐性もあるようで小さなワイバーンに火魔法を吹きかけられた時はびっくりしましたがノーダメージでした。
その一方で攻撃面はパワーは有るのですが私の戦闘技術の拙さがモロに出てしまって相手が小型の獲物であればあるほど梃子摺るという有様でした。
それもしばらくのちには解決し、冒険者として路銀を稼ぎつつ直轄領へと近付いていきました。
転生した日からちょうど一ヶ月半経とうかという頃、私は誕生日を迎えた次の日にやっと直轄領へと着きました。近くには魔術学校があると魔法を習いに行ってみたくもなりましたが、まずは目標を達成すべきとユギルちゃんに諭され同郷の転生者を探し始めることにしました。
しかし、いくら同郷と言っても一発で見分ける手段なんて無いし、聞き込みをしようにもその事実を隠していたらいつまで経っても見つからないということに気付きました。
ユギルちゃんと諦めムードのなか腰を据えて捜索するために、ユギルちゃんの親戚の家に向かうことに決めました。最後の記念ということで魔術学校近くの少しお高めの食堂に行くことにしました。
するとどうでしょう。食事をする前に手を合わせる女の子を見つけたのです。
あれはどう見てもいただきますしているようにしか見えません。
保護者らしい方と食事をしていたのですがついつい話しかけてしまいました。
「貴方は転生者ですか?『日本』から来たんですか?」
はたから見たら不審者もいいとこです。5歳くらいの子供に鎧をつけた謎の人物が急に話しかけているのですから。
その女の子は初めこそビクリとしましたが落ち着いた様子で
「人に聞く前に自分の状況を振り返りなさい!鎧くらいは外しなさいよ」
正論にもほどがあります。
私は武装を解除すると非礼を詫びお話をさせてもらえないかと冷静になって聞きました。もちろんなぜ話しかけたかの理由も含めて。
それを聞いた女の子は合点がいったように頷くと答えました。
「二人で話してもいいけどこの動作は、私の友達の癖でそれがうつっちゃったものよ。話すならそいつとにしなさい。間は取り持ってあげるから」
なんと優しい方でしょうか。
結局、私はこの女の子、名前をリトリカさんという方の元に泊めていただくことになりユギルちゃんは流石に悪いと遠慮し親戚の家に行ってみるとのことでした。
そこから私の運命の歯車は回り始めたのです。
もちろんいい方向にです!




