第1話「魔族」
光が俺の目に差し込んでくる。俺の誕生だ。
まだぼんやりとしか見えないこの目では、俺を抱きかかえるこの存在が、誰なのかはさっぱりわからない。思い切り肺に空気を入れ、泣き出す準備をしなくては、安否を知らせる産声を精一杯あげるのだ。これまでの経験から言わしてもらうと、赤ちゃんの時は泣くに限る。
転生歴(笑)が短かった頃は泣くことを手間としか捉えてなかったが、教会関係者の家に生まれた時に、面倒で産まれてから丸3日一度たりとも泣かなかった。すると、神父であった父は、
「この子は魔族に取り憑かれている。一度も泣かないのがその証拠だ。」
と大変な目に遭った。すぐに泣くことでその場はなんとか収まったが二度と泣くことをめんどくさがらないと心に誓った。
とりあえず、ここでも健康なことを知らしめるためにも泣いておこう。
「おぎゃー。おぎゃー。」
よし、これで最初のミッションはクリアした、と言わんばかりに俺はドヤ顔を浮かべ、辺りを見回し状況確認に移る。
だんだんとはっきり見えるようになった目で一つでも多くのものを見ようとする。しかし、産まれたばかりのベッドに寝かされた赤ん坊である俺は動くこともままならず、仰向けのまま唯一見える天井を観察する。
うっすらとクリーム色のついた板張りの天井を見る限り、食べるものに困るレベルの貧乏でないことに安堵を覚える。過去に一文無しの戦士の家に生まれた時は、勇者を手伝うということを忘れるくらいに大変な生活を送った。今思えば楽しい生活ではあったが。
最低限の経済レベルを確認することができて一安心した俺は、より周りの景色を見るために赤ん坊の唯一の意思表示方法である「泣く」を選択する。
「おぎゃー。おぎゃー。」
すると、近づいてきたメイドらしき人が優しく俺を抱きかかえる。なかなかのものをお持ちだ。しかし、抱き上げた彼女の表情はどこか曇っている。
こんなに可愛らしい俺を抱いておきながらその表情はなんだ。メイドらしき人物が俺に声をかける。
「ーーーーーー。ーーーーー。」
あれ、この人は何を言っているのだろうか?人族の言葉でもない。獣人やエルフの言葉でもない。だが、聴いたことがあった。98回目の転生時に、魔族と平和解決するために、魔族の大臣がかけてきた言葉と似たような感じがする。あのときは、通訳を仲間のエルフに頼んでいたし、愚王からの催促で満足に会談をすることもできず、人族に裏切り者扱いをされて殺された。数多くの転生の中でもかなり嫌な部類に入る記憶だ。
だが、その経験のおかげで今こうして自分の置かれている状況がわかった。
俺は、「魔族」に転生したのだ。