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第17話「転生者」

 

 この世界の貴族は名前の間、地球でいうミドルネームの位置に言葉が入る。それは魔王国創成期に今の魔王を擁立した部族にのみ名乗ることが許された。最初期の部族メンバーの数名のみがそれを手に入れた。


 リトリカのハックというのもその一つだ。

 つまりはリトリカは貴族なのだ。しかしリトリカは次女であったしリトリカの父シノラスは権力争いなどには無頓着だった、ゆえに娘を政略結婚に使おうなどと考えず自由に育ててあげることにした。その結果、馴染み子になるような優秀な子に育った。


 馴染み子になるにあたって召使いを雇わなければいけなかった。ノブレスオブリージュというやつだ。


「だからこの人を雇ったの!」


 なんでこいつは自信満々なのだろうか?

 リリがこの人といって指差す先には日曜朝の8時にやっていそうなマスクマンがいた。これはカブトムシがモチーフなあれだがスッキリする前の鎧を一部パージしそうな見た目のほうだ。

 思わぬ地球要素についついぎょっとしてしまう。


「鎧の中から失礼します。リンと申します。ルースくんと話がしてみたかったんですよ」


 中から聞こえるのはどう考えても女性の声だ。

 鑑定で見ると


 名前:リン=アイハラ:ゴッフ族《人族》

 年齢:16歳

 レベル:18

 性別:女

 体力:78

 筋力:318

 魔力:225

 敏捷性:224

 精神力:346

 耐久:655

 抗力:198

 特殊:武装アームズの魔眼


 なかなかバランスがいい。名前が転生者すぎるだろう。

 まさかな…


「なんで俺と話をしたいと思ったんですか?」


 おそらく警戒が表に出ているだろうが気にしない。


「そんなに警戒しないの。リンさんはルースの『イタダキマス』だったっけ?それを見てなんか話があるらしいの。そうよね?」


「そうなんです。ぜひ二人でお話ししたいな〜って。この姿を見てなんか感想ありませんか?」


「たしかに俺も話したいな。リリ、いいか?」


 無言の肯定という感じでいつもの教室から出て行った。


 それを確認したリンさんが話し出す


「ルースくん、さんかな?は赤ちゃんに転生したんですか?日本人ですか?魔法は使えますか?使えるならどんな魔法ですか?私にも使えますか?あとこの鎧どうですか?かっこよくないですか?知ってますこれ?」


「落ち着いてくれ!一つずつ答えるから。俺は赤ちゃんに転生した日本人だ。でも転生前の記憶はいまいち覚えてない。魔法は使える。内容は詳しく説明はできんが使えるのはいっぱいだ。魔力があるからあんたも使えるはずだぞ。あとその鎧が何を示しているのかはわかるしかっこいいがなぜそれなのかという疑問はある。以上だ」


 なんとか一息で質問に答えることができた。


「俺の話をする前にあんたのことを教えてくれないか?」


「いいですね!異世界転生からの転生者同士の会話って!私は相原凛、日本人で15歳で死んじゃいました。死因は病気です。小さい頃から病気でずっと病院にいたせいで特撮とかネット小説とかそういうもので妄想するのが大好きだったんです!死んだときは悲しかったんですけど地帝?っておじさんが転生させてくれてここにいます。あ、鎧解除しますね」


 鎧を解除すると黒髪の幼い感じの女の子が出てきた。鎧は解除されると同時に空気中に溶けるようになくなっていった。


「いやー突然この世界に移されたときはびっくりしましたよ。突然森に放り出されたんですから!でも異世界転生とかは結構夢みてたんで対策はバッチリでした。チートじゃないのが残念なんですけどね。こういうのって成り上がりが大事ですよねっ。目指すは魔王の友達です!」


 矢継ぎ早に話しかけてくるが言いたいことはわかる。

 俺も昔はそんなことを考えていた気がする。準備も何も足りてなかったから何もできなかったが。


「教えてくれてありがとう。リリから聞いたかもしれないが俺はルース・オルノアだ。転生前の記憶があやふや転生前の記憶があやふやなんだ。そのことは他のみんなには伏せてるから黙っておいて欲しい。ところでリンさんはこれからどうするつもりなんだ?」


 目の前の転生者は目を閉じ考え込むような表情を取る。

 長考かと思ったら判断は一瞬だった


「私はとりあえずリトリカさんの召使になります。だってリトリカさんって魔王の側近になるんでしょう?なら私は魔王の友達への最短コースを狙いますよ!」


「そうか、長い付き合いになりそうだからよろしくお願いしますよ」


「はいっ!」



 もう一人の転生者はそういうとリリの元に話をつけにいくのだろうか部屋を出て行く。

 一応この人はなんか心配だしついて行って援護射撃くらいしてあげよう。

 まさか俺以外に地球からの転生者がいるとはな…



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 話し合いののちリンさんはリリのメイドとして働くことが決まった。家事一般の経験は全くないそうだがリリもそんなことは求めていないらしい。


「ところでどうしてルースの『イタダキマス』を見て私に話しかけてきたの?」


「それはですね、わた「それはな、リンさんが転生する前の世界に俺の『イタダキマス』と同じようなものがあったんだとさ」


「へぇ〜珍しいこともあるものね。ルースも実はその世界から来たのかもね」


 実はどころかその通りですよ。

 出身同じです。

 というかリンさんはついさっき俺が転生者だということは言わないって話をしてたのを忘れたのか?

 違う意味で危険だな…


「リンは本当に家事の経験がないの?その歳だったら家の手伝いくらいしてたんじゃないの?王女様だったとか?」


「違いますよ。私はあちらでは病気で寝たきりだったんです。お手伝いもしてみたかったんですができなかったんです。」


「変なこと聞いちゃってごめんね…」


「いえいえ、死んじゃいましたが充実した人生でしたよ、あはは」


 うそだ。そんなはずはない、と思うが軽やかに笑うその顔に陰りは見えない。


「明るい話題にしましょ!リンはそっちの世界の料理とか作れないの?」


「転生に期待してレシピなんかは完璧ですが実技に自信がありませんね。料理人の方に言えば作ってもらえますかね?」


 レシピさえわかれば俺の創造の魔眼の守備範囲だ。そう言う前にリリが声を上げる。


「レシピさえわかれば十分よ。ここにはモノづくりの天才がいるわ。どんな料理か話せば簡単に作ってくれるわよ!ねぇルース?」


 俺はリリの頬をつまみながら怒る。


「お前は俺を便利マシーンかなんかと勘違いしてねえか?あぁ?」


 それを気にもとめず黒髪転生者は希望を伝えてくる。


「やっぱり異世界転生して作ってあげるものといえば『プリン』ですよ!ルースさん作れますか?」


「ナンノコトカワカラナイナー『プリン』ッテナンダロー?」


 この鳥頭転生者は学習装置が故障してるのか?

 斜め45度でぶっ叩けば治るだろうか。


「あっ!あぁプリンというのはですね、こうプルプルしててトロッととろける美味しいデザートなんですよ。材料は最低限牛乳と卵と砂糖さえあれば作れます!」


 そこからはプリン講座が始まった。俺は正解がわかるので聞く必要はなかったがリリはリンさんの話す、いかにプリンが美味しいかについての演説に聞き入っていた。


 演説が終わるとリリは学校の食堂から言われた通りに牛乳、卵、砂糖、皿、スプーンを借りて部屋へと帰ってきた。

 あれだけ完璧につくり方を教わったのだから自分で作れるだろうに、持ってきたそれらを俺に差し出す。


「は?」


「作って」


「自分で作れよ」


「ルースが作れば一瞬じゃない!杖もだけどあの魔眼は便利すぎるわ」


 すでにリリにはまだ見ぬプリンへの食欲しか存在していない

 それにリリは最近丸くなったとはいえ生来のワガママな所は無くなったわけではなく、一度決めたら簡単には引かない頑固さも持ち合わせている。

 折れてやるか。俺もプリンは食べたいし


創造クリエート


 初めて食べ物を作るが無意識のうちに魔法を発動させあっという間に皿の上にはカラメルソースのかかったプリンが出来上がった。


「これがプリンなのね!」

「すごいですルースさん。コレですよ、コレを私は求めていたのです!」


 はしゃぐ女子連中の気はわからないでもない。

 俺だって転生人生初のプリンだ。

 気が遠くなるような昔に食べてぶりなのにもう口の中はプリンを欲している。


「それでは食べましょう。せーの」


「「「いただきます」」」


 反応は三者三様だった。


 俺は自分の能力の高さに感動していた。

 日本で食べたプリンと比べても遜色ないものだった。確かに何かが足りない感じがするものの素朴な味のプリンと言われればお店で出されてもお金を支払ってもいいとも思えた。


 リリは初めての美味しさに固まっていたのだろう

 まだ一口しか食べていないのにスプーンをくわえたまま動かない。


 リンさんは泣いている?

 ついつい二度見してしまったが泣いている。

 何が彼女を駆り立てるのだろう?


「リンさん?大丈夫?」


「あ、あれ?泣いちゃってます。どうしてでしょうね…美味しいです」


 確かに美味しいが泣くほどだろうか…

 しばらく待っていると二人とも再起動しプリンも完食してしまった。


「ルースは私達以外に料理を作っちゃダメよ!」

「私もその意見には賛成です!むしろ料理を教えてください」


「いや魔眼の能力だから俺は関係ないだろ!教えられるわけないし」


「ぐっ、またプリン作りなさいよ?」

「私もそれ食べたいです。よろしくお願いしますねルースさん」


 女の子を籠絡する手段は甘いものだなんて展開はありきたりだなんてリンさんは文句を言っていたがこちとらそんなつもりはない。


 だがさらに自分の持つ魔眼の便利さを再確認した。


 実は比翼の木杖を作った後にエストーラさんにも杖を作ってあげた。材料から俺とリリの杖に使ったものの数倍の値段がするものらしかった。使った魔石は水晶のような六角柱。詳しくは聞かずに作ると


 名前:倚天の宝杖

 特徴:クラスSのワンド。全魔法適性、魔力増幅、魔法精度up。


 って杖ができた。エストーラさんは宝物でも受け取るように喜んでくれた。正直リリと練習した後だったので気持ち的にはかなり適当だった。



 プリン騒動の熱も冷え自宅に帰ると見知らぬ少年がいた。


「ただいまー」


「お帰りなさい、ルース。この子が誰なのかって顔ね。この子はユギル、ユフィンの親戚の子で実家から実家からこっちに出てきたのはいいけど行くところがないらしいくてね。ユフィンを頼ってきたからうちでしばらく世話することにしたのよ。」


「わかった。よろしくな」


「よろしくお願いします」


 なんか他人行儀に感じてしまう。まあ仕方ないか

 実際には他人だしな……



 うちは貴族ではないので召使など雇う必要もない。

 しかし、10歳になればオルノア家のしきたりに従って奴隷を雇う必要がある。

 リンさんと話したせいか異世界転生もののテンプレについて考えてしまう。

 こういう場合は可愛い女性奴隷を買って奴隷らしからぬ扱いをして惚れられるまでがテンプレだ。


 しかし、俺の場合は話が違う。馴染み子に必要なのは戦闘力なのでどう考えても男性奴隷を雇うのが理にかなっているだろう。

 女性奴隷を雇うメリットが薄すぎる。


 ま、実際のところはその時にならないとわからないだろう。

 成るように成るさ



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