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第16話「合格」

 



 端的に結果だけいうと馴染み子の試験に受かった。


 もちろんリリも。



 一日目武術の試験は女性の騎士団の人についつい本気を出してしまった。

 毎朝の父さんとの訓練のノリでやってしまったのだ。最近父さんには50倍は通じなくなり常時100倍でやっとこさまともに打ち合えるようになってしまった。


「フェルノー領のルース、前へ」


 なんか偉そうなおじさんに言われ小さな闘技場に降りる。俺の相手は騎士団の人はシエラリーオさんという女性のゴッフ族の方だった。ここでもっと冷静になるべきだったのだが、父さんとしか戦っていなかった俺は初めての父さん以外の相手に興奮してしまっていた。


「はい!よろしくお願いします」


 一方でシエラリーオは油断していた。

(なにこの子かわいい。オッドアイだし髪はうっすらと緑がかった金髪はつやつやしてお人形さんみたい)


 ルースはいつも通りの姿勢でいつも通り魔眼を発動させていた。


(かわいいのに構え方はしっかりしてるなー。練習してきたのかな?)


「時間は5分。はじめっ!」


 ルースはシエラリーオが構えた木剣にいつも通りの力で横薙ぎに打ち付ける。軽く構えてたシエラリーオの木剣は音もなく折れてしまう。


(あれっ?すごい踏み込みが速かったわ!っていうか私の木剣折れてる!?)


「やめっ!どうした?なんで木剣が折れるんだ?」


 いつのまにか魔王様が観覧席に来てかぶりつきまで降りてきて審判に指示を出している


「おい、刃を潰した剣を持ってこい」


「「はっ」」


 魔王様は楽しそうにこちらを見ている

 すぐさま試験官の控えメンバーたちが刃を潰した鉄剣を俺とシエラリーオさんに渡し魔王の後ろに控える。


「両者剣はもったな!もう一度始めっ!」


 ここで落ち着けばよかったのだが、もう俺は止まることを考えていなかった。50倍のまま戦い始めてしまった。


「ルースくん、私から行きますっ!」


 シエラリーオさんは上段から身長を生かし剣を振り下ろす。

 俺は余裕を持ってシエラリーオさんの剣を横から払いその勢いのまま首すじにあてる。


「えっ?あ、ああ降参です」

(どういうこと?私が剣を振り下ろしたのにいつのまにこんな状況になってるの?)


 シエラリーオさんはなにが起きたのかわからないという表情で審判に降参を告げた。

 これが武術のテストだった。魔王様はその様子を見て満足したようにクツクツと笑っていた。



 二日目は魔法の試験は逆に冷静になっていた。

 俺が目指すべき結果はリリの成績を越えず他の奴らには差をつけるようなレベルだ。


 前日のやりすぎを引きずっていた俺は完璧に仕事を成し遂げた。

 試験の朝リリに確認を取りに行った


「今日は何の魔法を使うんだ?」


「私は全力の【砂嵐サンドストーム】を撃つつもりだけど」


「そうか…俺はどうするかな……」


 態とらしく悩んだようにリリに話を振る


「うぅ……お願いだから私より弱いのにしてよ?爆発属性とかダメよ?」


「わかってるよ。【炎槍ファイアーランス】くらいにする予定だ。威力の調整は俺のがうまいんだから安心しろよ、『天魔殺し』さん」


 ぐぬぬと悔しそうな顔をしているがそこはじゃれあいだ。実際のところ俺の魔法陣は描く魔力量で威力が変わる。一方リリの無詠唱はあくまで詠唱をスキップできるだけで魔法の使用プロセス自体は普通の人と同じだ。


 試験でも俺はきちんとリリをたてる形で遠慮した威力の魔法を撃った。




 三日目の歴史のテストは一問以外簡単だった。最後の一問だけ訳のわからない言語で書かれていた。その前の問題が古代言語で書かれていたからその類いなんだろう。


 一列前のエルフの女の子は俺なんかよりずっと早くテストを終え姿勢良く終了を待っていた。

 リトリカ同様見覚えのあるその顔は魔王の側近の一人だ

 名前こそわからないが数回にわたってこいつの罠にはまった記憶がある。罠にはまった勇者一行をわざわざ見にくる性格の悪い女という認識しかない。


 あまり良い思い出のない相手だがそれはそれ。今はまだただの子供だ。



 四日目の側近枠の試験は一番わからなかった。


 なぜならただご飯を食べるだけだったからだ。

 受験者は俺を含め6人。その中にはあの忌々しい女もいたがそれ以外は鑑定してもパッとしない、おそらくあまり本気ではない記念受験なのだろう。


 忌々しい女の名前はネーヴェ・ガーウィス。ステータスは優秀ではあるが俺やリリほど尖った長所はない。レーダーチャートで表せば綺麗な図形を描けそうだ。


 ご飯を食べるだけというこの試験は多分礼儀作法を見ているんだろう。見事に記念受験軍団は最初はあった緊張の糸が切れ思い思いの食べ方を始めてしまっている。


 俺はというと母さんの指導のおかげでそれなりの作法は身につけている。というか現代日本において眉をひそめられないレベルならこの世界では問題ない。唯一食べる前にいただきますと手を合わせてしまうのが癖として治らない問題だ。



 結果は合格


 その結果を報告しに魔術学校のエストーラさんの部屋に行った。


「なんとか受かりましたよ。エストーラさん」


「ルースくんが合格できない試験なら他のどの子も受からないよ。でも合格おめでとう」


 なんだかんだこれからのことなど話していると気になったことがあったので聞いてみる。芸術家枠のテストはないのかと。エストーラさん曰く、芸術家枠はテストをするまでもなく決まっているのが普通なのだと。



 後から部屋に入ってきた、試験に合格したであろうリリはなぜか自信ありげな表情でニヤニヤしていたのであえてスルーする


「ちょっと!私にも受かったのか聞きなさいよ!」


「顔を見ればわかるだろ」


「ああもう、むかつく!罰として私に杖を作りなさい!作れるんでしょ?」


 そう言うと親指大のパワーストーンみたいな石を二つと30センチ長の枝を出してきた。


 確かに作れるとは言ったけどこんな素人の作ったので良いのかよ?


「作れるけど俺が作って良いのか?もっと本職の人とかいるだろ?」


「あんたの作った杖っていつも使ってるアレでしょ?クラスBの杖なら十分よ」


 それを聞いたエストーラさんが話に割り込んでくる。


「あの杖ってルースくんが作ったの?クラスBを?ひとりで?」


「そうですけど、なんかおかしいですか?」


「おかしいわよ!魔道具ってのは職人芸の塊だからクラスB以上の魔道具を作れるのは一人前の証なのよ?それによほどのベテランにならない限り作れるのはクラスBなのよ!」


 熱く語り出したエストーラさんの話をまとめるとこうだ。

 魔道具はクラスがS〜Dまであり

 S:伝説級の強さ。所持するのはごく一部で、魔王や各部族の長だけ。誰が何のために作ったのかわからないものも多々ある。

 A:上級魔術師のステータスシンボル。ベテランの職人でも1年に一本できればいい方。魔導効率などに優れる。

 B:この辺りを使いこなせれば一人前、主に中堅魔術師が使う。クラスAよりは出回っている分性能はクラスAを下回る。職人が一人前かを示す指標になる。

 C:一番多く存在する。冒険者やなりたての魔術師が持つ。性能もそこそこ。

 D:粗悪品。子供の練習用や後のない冒険者が使う。職人見習いの練習で作られる一品


「だからクラスBなんて簡単にはつくれないのよ!わかったかしら?」


 エストーラさんの魔導具講座は情熱にあふれていた。リリが小声で教えてくれたが魔導具にこだわりがあるらしい。ちなみにエストーラさんの杖はクラスAのものだそうだ。


「それで作るの?作るところ見せてくれるかしら?」


「ねえルースお願いよ。作ってくれない?」


 エストーラさんとリリは期待の眼差しを俺に向ける


「はあ、作るのはいいけど、この石はどうやって使うんだ?」


 俺のその言葉に信じられないといった表情でエストーラさんが食ってかかる。


「魔石の使い方を知らないの?じゃあその杖は魔石なしでクラスB?材料は神木かなにか!?」


「庭の枝です」


「はあ?杖ってのは本来魔石と木の枝か鉱石を触媒としてそれらを組み合わせて作るものよ?木の枝はいくら加工しても杖にはならないのよ」


 そんなことを言われたって枝しかつかってないのだからなんと言いようもない


 そこからまたエストーラさんの杖講座が始まった。

 まず魔石と触媒の関係からだった。魔石の位置によって杖の性能は変わる、先端側に魔石が付いているものは発動する魔法の威力を上昇させ根元に魔石が付いているものは魔法の調整がしやすくなるらしい。


 また魔石には属性適性があるらしく、適性のある属性の魔法は性能がかなり上昇するらしい。


 またもひとしきり話をしたエストーラさんはリリの買ってきた魔石を見る。


 爆発属性と疾風属性の魔石だった。それぞれ地球のガーネットとマラカイトに似た石だった。杖は一本につき一個と言われているので不思議に思っているのは俺だけでなくエストーラさんもだった。


「なんで二個買ってきてるのよ?間違ったの?」


「違うわ、ママ。これはルースの分」


 とガーネットの方を俺に突きつける。


「早く作りなさいよ!私とあんたの分」


 ぐいっと木の枝と魔石を押し付ける。エストーラさんも期待したような瞳をこちらに向けている。


「私が思うにリリは先端型、ルースくんは根元魔石型がいいと思うわ」


 この人はすでに俺が作る前提で話を進めている。

 まあ新しい杖もいいかもな。


「はぁ……それじゃあ作るけど俺のと同じようなワンドでいいか?」


「うんっ!デザインはお揃いよ?」


 ペアルックの何がいいんだか?

 まあ同じ師匠に指示したわけだから問題ないかな。


「【創造クリエート】」


 俺は前回とは違い父さんからもらったナイフを使い木を削り魔石を包むよう石を配置し花とドラゴンのモチーフを彫り込んだワンドを作り上げる。仕組みはよくわからないが枝だったものはニスが塗りこまれたような深みのある色へと変わっていった。


「エ、S?クラスSって嘘でしょ?」


「さっすがルースね!この花のモチーフはエルフの楽園をイメージしてるの?こっちのドラゴンはあの話ね!なかなかいいじゃない!ドラゴンと花が共存してるし二本で対になってる感じがいいわ」


 満足していただいて何よりです。

 さてさて鑑定だ。


 名前:比翼の木杖

 特徴:クラスSのワンド。雄杖は全魔法適性、爆発・疾風属性特効。雌杖は全魔法適性、砂塵・疾風属性特効。


 強すぎない?これ。

 全魔法適性ってもはや適性じゃないよね

 その上特効って言葉自体初めて聞いたぞ


「ずるいわ、リリ!ルースくん私にも杖を作ってくれないかしら?材料は今買ってくるわ!」


 そう言うとエストーラさんは部屋から駆け出していった。

 こんなに速いエストーラさんの動きを見たのは初めてだった。




「さあ、ルース!練習場行くわよ!」


「はいはい、いきますよ」



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 さすがクラスSの杖は強かった。

 魔法陣を使っていた俺にはイマイチ違いは感じられなかったがリリの能力上昇具合は全く違った。これまでの2倍近い威力と範囲の魔法をポンポン連発していた。


「何この杖?楽しいわ!スイスイ魔法が出る!!」


「そりゃよかったよ」


 確かに魔法陣の発動が数倍速かった。

 それはいいとしてこいつはなんでこんなに一方的に撃ってきやがるんだ?


 そろそろ反撃させてもらうぞ!




 ってな感じで実験混じりの実戦をしている頃エストーラさんの悲痛な叫びが魔術学校にこだました。


「どこいったのよ〜!ルースく〜ん!!」

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