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第一話 笑顔を忘れた街で、謎はさらに深まる その8

    8

「ファイルーザ様! これ以上の前進は危険です」

「この地域の制圧は目前だ。このまま一気に押しきるぞ」

 敵兵を倒したファイルーザは、声を高らかに云った。敵軍を制圧して武勲をたてる。そうすれば認めてもらえる、そう父親に。ファイルーザは逃げる敵兵を追いかけた。

 しかし、それは部下の懸念したとおり、敵の罠だったのだ。

功をあせったファイルーザは敵兵に拘束された。


     ●


 ローランドの繰り出す攻撃はことごとく空をきる。レオノールの攻撃もまたしかり。

「こんなものか。さっきの威勢はどうした」

「ならもう少し本気をだすか」

 鞭の空気をきる音の間隔が短くなった。だが、当たらない。

「もう終わりかな?」

 ファイルーザがいつのまにかローランドの目先に立っていた。

「くっ」

無壁(むえき)女神(めがみしょう)掌」

 ファイルーザが攻撃を繰り出した。手のひらを前に突き出す。

 ローランドは大きな盾でふせぐ。が、彼の巨体はいとも簡単に吹き飛ばされた。

「わらわの前に、立ちはだかる壁なし」

 ファイルーザの身体は決して大きくない。どちらかというと、キャシャな方だ。しかも攻撃は素手だ。彼女のどこにそんな力があるのか。

 ローランドは、近くにある騎士の銅像に鞭をからませて、壁への衝突をふせいだ。

 今度はレオノールが剣を振りかざして、ファイルーザに踊りかかった。

 赤黒い剣。シャンデリアの光を反射して、妖しく光る。

 レオノールの攻撃が当たる直前、またしてもファイルーザの身体が消えた。次の瞬間には、レオノールの背後に立っていた。

「無壁、女神掌」

 レオノールは身体をひねった。直撃をかわすためだ。しかし、完全に避けることは出来ない。左腕に攻撃を食らい衣服がはじける。

「ノーモーションからのわらわの攻撃は防げまい。ほほほほ」

 レベルの違いに僕はどうすることも出来なかった。助けることも、戦うことも。

「まだだ」

 ローランドがゆっくりと前進した。

「まだ、俺は本気を出していない」

「ふん、強がりを」

 ローランドは再び鞭を振りまわした。しかし、当たらない。ローランドの攻撃は周りの銅像を破壊するのみだ。

「ほほほほ。それが本気だというのか? かすりもしないわ」

 ローランドはそれでも攻撃の手を緩めない。騎士の銅像が一つ残らず破壊される。

「無駄、無駄。ほほほほ」

 ふいにローランドが手を止めた。

「おや、あきらめたのかい? どうやらお前を買いかぶりすぎていたようだ」

 無傷のファイルーザ。恐るべきスピードで音速を超える攻撃をすべて避けきった。

「ローランドさん」

 もうどうすることも出来ないのか。女王は強すぎる。手も足もでない。ローランドの攻撃は当たらない。レオノールは左腕を負傷している。どうすればいいのだ。

「なさけない声を出すな」

「でも……」

 ローランドは僕に笑みを見せると、女王のほうへと向き直った。

「お前は初動作をゼロにして、他人の眼をあざむくようだが」

「だからどうした? わかったからといってどうにか出来るのか?」

「チンケなんだよ」

 女王の怒りがさらに増した。

「なんだとお?」

「周りをよく見てみろ」

 周り? 僕は見まわした。特に変わったようすなどない。ただ、銅像の残骸が散らばっているだけだ。

 しかしどうしたことか、女王は顔色を曇らせている。

「レオノール!」

 ローランドは叫ぶと同時に鞭を振った。

 レオノールはそれにならい、短剣を放つ。

 無駄だ。先ほどの攻撃で、それは証明されているはずだ。

 僕の予想通り、鞭は空を切った。だが、レオノールの攻撃は見事に的中した。

 どうして?

 ファイルーザは、左手で短剣を受け止めていた。

 指の間からボタボタと血が滴り落ちている。

「お前の動きは大地に足がついていて初めて効力を発揮する。つまり、障害物のある場所では無理だということだ。そこで俺は銅像を破壊した。あえて、道を残してな」

 そうか。ローランドはただ無意味に鞭を振っていた訳ではなかったのだ。

「ためしに飛んでみるか? そうすれば鞭のふた振り目にはおもしろいことになるぞ」

 女王の顔色が一瞬変わったが、すぐに人を見下したような微笑が戻った。

「やはり、お前たちを呼んだ甲斐があったようだな。こうでなくては」

「ウーフはどこにいる? 俺たちはお前の命を奪いにきたのではない。だが、これ以上邪魔をするようなら、容赦はしない」

 ファイルーザは口を押さえて高笑いした。

「ほほほほ。わらわに勝ったつもりでいるのか? もう一度攻撃するがよい。お遊びは終わりだ」

 ローランドの顔に怒りの表情が浮かんだ。

「レオノール!」

 再び叫ぶ。同時にレオノールが動く。

 だが、女王は動かない。迎え撃つ気か。

「見せてやる」

 女王が初めて構えを見せる。かまわずローランドとレオノールは攻撃を繰り出す。

「女神弾」

 女王が拳を前に突き出す、次の瞬間、白い光が前方に飛び出した。

 鞭がはじき返され、短剣も砕け散る。

 それだけではない。床に散乱している銅像の残骸をも吹き飛ばし、光弾はローランドを襲撃した。

「ぐお!」

 盾で防いだものの、彼の巨体ははじかれたように後退する。

「楽しかったぞ」

 女王はローランドの背後に移動していた。

「無壁、女神掌」

 直撃を食らうまいと前方に飛ぶが、僅かに遅れた。ローランドの身体が残骸の上にころがる。

「ローランドさん!」

 僕は駆け寄ると、彼の身体を起こした。

 外傷はない。ファイルーザの攻撃は気を操っている。体内……臓器に途方もないダメージを受けているのかもしれない。

「大丈夫だ」

 ローランドは冷や汗を浮かべながら立ち上がった。

 レオノールは床に倒れたまま動かない。彼女の瞳は、だが死んではいない。視線は女王ではなくローランドへとそそがれている。何を考えているのか、その表情から伺うことはできない。

「さて、そろそろ余興も終わりだ」

 ファイルーザは玉座の瓦礫をまさぐると、ベルを探し出した。

 チリーン、チリーン

 乾いた音が鳴る。まるで僕たちの冥福を祈るかのようだ。

 入り口の扉が勢いよく開いた。

 ぞろぞろと城の兵士たちがなだれ込んで来た。三十……四十人以上だ。

 兵士たちは壁際にならぶと、あっという間に僕たちを包囲した。

 僕はまっすぐ女王を見据えた。

「女王様、何故僕たちをウーフさんに会わせてくれないのですか? そうすれば、僕たちは街から出て行きます」

 女王はさげすむように僕を見返した。

「まだ解からないのか」

「え?」

「笑ったからだよ」


つづく

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