第一話 笑顔を忘れた街で、謎はさらに深まる その7
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「雑魚にはかまうな、ノリエガ」
「はい」
次から次へと襲ってくる兵士たちの攻撃を僕たちはかいくぐった。だけど何かが変だ。
「どうやら、誘導されているようだな」
そうか、兵士たちは射撃で攻撃をして来ない。僕たちの動きを止めるにしろ、殺すにしろ、遠隔攻撃のほうがつごうがいい。それなのに接近戦しか仕掛けてこない。そしてかならず兵士の姿のない通路が空いている。
何処かへ誘っているのだ。
兵士たちの追撃をかわしながら、やがて、巨大な扉が行く手をふさいだ。
ローランドが巨大な盾を前方にかかげ、そのまま扉に突進した。
金属どうしの衝撃音とともに扉が開くと、かなりの広さの部屋に出た。
床には赤い絨毯が敷かれ、左右の壁際には騎士の銅像が並んでいる。天井には豪華なシャンデリアが垂れ下がり、部屋の中央奥に玉座がある。玉座には赤茶色の毛皮が被せられ、その上に一人の女性が座していた。
「よく来たな。我の名はファイルーザ。この街をおさめているものだ」
人を威圧するような重い声。歳は四十を越えているだろうが、そうは見えない美しい顔立ちをしている。しかし、男が惚れるかというと、そうではない。美しいが何処か近寄りがたい。威厳に満ちていて、恐ろしさを感じてしまう。そんな女が声高に云った。
「お前たちの目的は何だ。このわらわを殺しに来たのか?」
僕は負けずに声を荒げた。
「僕たちは占い師ウーフに会いに来ただけだ。お前の行動や命に興味はない。ウーフは何処にいるんだ。大人しく従えば、僕たちはすぐに消える」
女王は妖艶な微笑を浮かべた。美しいが、それ以上に恐ろしい笑顔だった。
「ウーフ……そうか、お前たちはニール王の余興に参加しているのか」
「質問に答えろ」
「ほほほほ。威勢のいいぼうやだこと。確かに占い師はこの城にいるぞ。だが、会わせない、と云ったらどうする?」
「く!」
そのとき、ローランドが前に進み出た。
「強気なばばあだな。見たところお前を守る兵士はいないようだが、お前一人で俺たちを相手にするつもりか?」
女王は立ちあがって両手を広げた。赤いドレスがシャンデリアによってきらめく。
「ほほほほ。そうだ、と云ったらどうする」
「そうか。おもしろい」
ローランドが微笑を浮かべると同時に、彼の鞭が空気を切り裂いた。
●
エリシャは手紙を握り締め立ちあがった。
もう泣いてはいない。あの哀しい眼をした人のいうとおり、泣いてばかりでは何も始まらない。何も変わらない。ゆっくりと入り口に近づくと、そっと扉を押した。
音も抵抗もなく、扉は開いた。
どうやら鍵は掛けていなかったようだ。こんな女に何が出来る、そう云わんばかりに扉は簡単に開いた。
エリシャは外の様子をうかがった。シン、と静まりかえっている。
もう一度手紙を握り締めると、振り返って恩師に別れを告げ、勇気を振り絞って廊下へと足を踏み出した。
●
玉座が衝撃音とともに砕け散った。
しかし、それだけだ。女王は平然と隣に立っている。移動するところは見えなかった。いったい、いつの間に……どうやって移動したのか……そう感じているのはローランドも同じようだ。
「そこの赤い髪の男。今、笑顔を見せたな。このわらわの前で笑ったな」
とてつもない殺気だ。
「ノリエガ、お前は下がっていろ」
ローランドとレオノールがさらに前に出た。
「そうだ、と云ったらどうする? 女王様」
ローランドが再び微笑を浮かべた。
「おのれ! 笑うな~!」
つづく