表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/68

最終話 第四章 マシアス その1

第四章マシアス


    1

 一人の老人が右肩から血飛沫を撒きながら大地を朱に染めていた。

 老人は蒼白になりながら落ちていた右腕を拾い上げると、逃げるようにして後方に走り出した。ときおり振り返るラースの表情を見て僕は、ネクロマンサーを必死になって探している理由を理解した。

彼もまた、老いの恐怖にとらわれているだけの、人間だと……。

「総攻撃だ。あやつらを生きて返すな」

 呆けていた騎士たちに戦意が戻った。怒りの形相を僕たちに向ける。

 敵兵の志気が最高潮に達したとき、どこからともなく声がした。

「千剣」

 その刹那、大地から数千の剣が飛び出し、敵兵全員を貫いた。その中には、よぼよぼの爺さんの姿も含まれていた。

一瞬のうちにニールの大群は全滅。ひとり残らず大地に倒れ伏した。

いや、ひとりだけ、悠々と立っている人物がいる。その人物を見て、僕は叫ばずにはいられなかった。

「ハートネット!」

「よっ! 待たせたな」

 ハートネットが元は樹海だった場所に現れた。怪我もなくピンピンしている。やはり生きていた。悪運だけはこの世界で一番だろうな、という僕の予測は的中した。そして、ニール王の腕を切り裂いたのは、やっぱり彼だった。

 僕は彼の元へと駆け出し、手を握る。

「無事でよかった」

「ああ。俺もダメだと思ったが、どうやら彼のおかげで助かったよ」

 視線は世界樹を向いていた。

「彼?」

 誰もいない。

「ところで、ネクロマンサーとはもう会ったんだろ? 早く案内してくれよ」

 そう云ってハートネットは世界樹の元へ歩き出し、ローランドとサニエにあいさつを交わした。

「終わった終わった。これでこの旅もおしまいだ。さあ、早くネクロマンサーに頭を下げて来ようぜ。賞金は逃したが、それ以上のものを手に入れたから、良しとしようじゃないか」

 とりあえず、ハートネットには説明するより現実を見せたほうがよさそうだ。そう思い僕は歩を進めようと足を前に出す。

 そのとき、身体が硬直した。

 背後から異質な視線を感じたのだ。

 肌に絡みつくような気は、どこか崇高なニールのそれとは違い、純粋な悪意そのものだった。

「ノリエガ、逃げろー!」

 ローランドの声と同時に僕は訳もわからず駆け出した。何故か、そうしなければならないと思ったからだ。

 今まで僕の立っていた地面から響く爆音。

 恐怖のあまり振りかえることが出来ない。

 しかし、それでも、誰がそうしたのか僕にはわかっていた。

「待っていたぞ! マシアス」

 ローランドが吠える。

「ここは世界樹の根が張り過ぎていて亡霊騎士団でも手が出なかったんだ。それを見越していたのかな? まあそんなことは二の次だ。私が本当に危惧していたのは別にある。ローランド、君が生きていてよかったよ。ここへ来るまでそれだけが心配だった」

 ニール王をはるかに凌駕する存在、マシアスがついに姿を現した。


つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ