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第四話 古の国でのカウントダウン 残り十五分

 残り十五分


 ハートネットはその楽観的な態度から、人によく誤解されていた。

 彼の町は、元商業都市ペドロの最北にあった。

 辺境のその町は、めだった特産品がなく、人々は出稼ぎをする以外手はなかった。

 ある日、町に立ち寄った学者が、北の山中にめずらしい樹木が立っていることを知った。

 樹木の球根が難病の薬になるという。

 町の発展につながるということで、球根の採掘が始まった。

 しかし、いざ始めるとなると資金が足りないことに気づいた。

 そこで名乗り出たのがハートネットだった。

 ネクロマンサーを探し出し、採掘に必要な機材、球根を加工する装置を買えるだけの資金を手に入れる。

 そうかいそうかい、そりゃありがとう。

 町の人々は気持ちだけでいいよ、と軽くあしらった。

 しかし、ハートネットは真剣だった。

 孤児の彼を育ててくれた町に恩返しをしよう。ここで男を上げないでいつ上げる?

 そうやって今、ハートネットは、志半ばで死を垣間見ていた。


     ●


「四番!」

 ハートネットが叫ぶと同時に、地面から一本の(つるぎ)が伸びた。いや、生えたといったほうがいいだろう。

 はげしい衝撃音とともに、ハートネットの前に生えてきた剣が震えた。

 どうやらマシアスの攻撃をはじいたようだ。

「ほおう、おもしろい。お前の能力は任意の場所に剣を発生させるのか。千剣といわれているということは、かなりの数を操れるのかな?」

「察しがいいことで」

「だが、この私と出会ったことを後悔するがいい」

「やってみろ」

 一、ニ、三番! ハートネットが立て続けに叫んだ。同時に彼の前後左右を剣が囲った。

「無駄だ」

 次の瞬間、ハートネットの右肩に拳大の穴が開けられた。

 血しぶきが前後に吹き出す。

「偉大なる医術(トリック・ドクター)

 たまらず僕は気で出来た針と糸を飛ばす。それは瞬く間にハートネットの傷口を縫合した。

「お前、あの男と同じ能力か」

 そう云ってマシアスはグリニコを指差して、僕に云った。

「だったらどうだと云うんだ!」

 僕はマシアスをねめつけた。

「なら話しは早い。お前からやるまでだ」

 そう云って、マシアスは一歩前に踏み出した。

「お前の相手は俺だろ! それに余計なお世話だ。ノリエガは早くここから離れろ」

 ハートネットが叫んだ。

 五番、という言葉と同時にマシアスの足元から剣が伸びる。

「やはり、な」

 剣はマシアスを貫くことは出来なかった。

 マシアスはハートネットが叫ぶと同時に背後へ飛び去っていたのだ。

「お前の能力は、何処にでも剣を発生させられるという訳ではない。あらかじめ、その場所に仕込んでおく必要がある。だから、私が前に進むまでは、この剣を出すことは出来なかった。違うかな?」

 ハートネットは鎮痛な面持ちになった。

「お前の能力はおもしろい。だが、制約が大きすぎる」

 マシアスという男はただ強いだけではない。この冷静沈着な頭脳こそが、彼の最大の武器なのだ。そう僕は思った。

「俺はうぬぼれていた。いくら英雄と呼ばれようが、マシアスは人間だ。俺ひとりでも何とかなると、実はそう思っていた。しかし、とんでもない誤算だ。ノリエガ。早く逃げろ!」

 ハートネットが絶望の声を上げた。

 サニエが二本の剣を抜き、マシアスへ斬りかかる。

「私は加勢にまわる。ノリエガ、あなたは逃げなさい」

 僕は――。

 僕は……逃げない。

 彼らを見捨てて逃げるなんて出来ない。

 たとえこの場を去り、命を永らえようとも、人間としての誇りを失ってしまう。そんなことは出来ない。すみません、師匠。そして、カーメン。

 この世での再開は果たせないけど、許してくれるかい、カーメン?

 僕はすべての指先から針、糸、メス、注射器などを出し、前へと進み出た。


つづく

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