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第四話 古の国でのカウントダウン 残り一時間二十五分

 残り一時間二十五分


 怪しく光るパプケウィッツの大きな瞳が真っ直ぐ自分を捕らえている。

明らかに動揺を感じている。

「私たちは先を急いでいるの。これ以上の愚行をやめれば、あなたに危害は加えない。そこをどきなさい」

「私たち……?」

 パプケウィッツは首を傾げた。

 そこには大剣を背負った騎士、老人、そして、僕がいる。

「愚行をやめる? 冗談でしょ。これからが本番だというのに。ねえ、ノリエガ。久し振りだねえ。また僕と遊びたくなったのかい」

パプケウィッツは僕は知っている。僕も忘れない。

「僕も会いたかったよ、パプケウィッツ」

「何だ、その余裕は? 僕を止められると思っているのかい」

 パプケウィッツは首を傾げた。

「おや、デカイのと陰湿な女が見当たらないけど、どこかから僕を狙っているのかな?」

 そう云ってパプケウィッツは頭をめぐらせた。

そこで僕は追い打ちをかける。

「お前なんかを相手にはしていられないってさ」

「なにいい」

「そうじゃよ。おぬしごときはフードの男たちより楽じゃわい」

「おもしろいじゃないか、じじい」

 パプケウィッツはゴーゴリをねめつけた。

「ま、そういうことだボウヤ。わかったらそこをどきな」

 ハートネットが大剣を構えた。

「どいつもこいつもなめやがって。ボクを馬鹿にした代償は高くつくよ」

「なめられたのはこっちじゃわい。まずは、この邪魔くさい霧を何とかしないとな」

 ゴーゴリが前に出た。

「ゴーゴリさん、危ないですよ。この霧に触れると――」

 ゴーゴリはふり返ると、忠告してくれたサニエに対し、にやりとして見せた。

「触れなければいいんじゃろ? サニエ殿の風圧もすごいが、わしのもなかなかのもんじゃぞ」

 ゴーゴリは腰に下げていた袋から鞭を二本取り出した。

 彼の武器はローランドと同じ鞭だ。

「全盛期ほどの力はないが、まだまだ現役じゃぞい」

「貴様ら、なめるなー!」

 パプケウィッツの叫びと共に、さらに大量の霧が発生した。爆発濃霧。僕はそれを見てぞっとした。しかしそれとは対照的にゴーゴリの表情は明るい。

「見せてやろう。ゴーゴリ・クーパーの実力を」

 ゴーゴリの鞭が二本、空気を切った。

 音速の壁を破る彼の鞭は、パプケウィッツの周囲の地面をえぐる。しかしその瞬間は目視できない。地面がはぜるので、それと解かるのだ。

「なに? くそ」

 パプケウィッツが唸るのも無理はない。

 霧はパプケウィッツの身体を中心にして上空へ舞いあがった。

 ゴーゴリの鞭が気流を発生させているのだ。

「やるね、じじい」

 パプケウィッツは霧からゴーゴリへと視線を戻して云った。

「二本の鞭を操り、風の向きをコントロールする。これくらい出来て当然じゃ」

 確かにすごい。

 ローランドの鞭の扱いは精密さを持っていたが、ゴーゴリの場合は大胆さがある。同じように見えてまったく違う。

 ローランドが守りだとすればゴーゴリは攻めに特化している。

 しかし、この力を見てのパプケウィッツの余裕は何だ?

 まだ、彼には秘策があるというのか――。

「じゃあ、ボクも本気を出さないとね。さっきフードの男たちとやりあったんだけど、その時にも見せなかったのがあるんだ」

 パプケウィッツは霧を引っ込めた。

いつもの空間に戻る。

 どうやら、霧を出している間は思うように行動できないようだ。その証拠に、霧が引いた今、彼は身体をほぐすように手足を動かしている。

「本気でいくよ」

「おっと待った。お前と遊んでいる暇はないんだ。ここはさっさと通らせてもらうぜ」

 ハートネットが前に進み出た。

「どいつもこいつもボクを馬鹿にしやがって。後悔させてやる。もうこの町がどうなろうと知らない消えてなくなれ!」

 パプケウィッツからおぞましい気が流れ出した。

 今までに味わったことのない気が、身体中を這いずり回る。ちくちくと全身の肌を駆けまわり、心の臓を得たいの知れない腕にわしづかみにされたような感覚が襲った。

 パプケウィッツは腕を伸ばし、鎧の留め具をはずそうとした。

 僕の背筋に電流が走った。

 彼の鎧をはずしてはいけない。それだけは絶対に阻止しなくてはならない。

 何故そう思ったのかわからない。わからない……が、第六感がそう叫んでいる。

「やめろ、パプケウィッツ!」

 僕が叫ぶのと同時に、頭上から声が響いた。

「あなた様は我々の存在を忘れてしまったようですね。そのおごりが、命取りとなるのです。今までに、あなた様のように強い戦士と何度か対峙しました。しかし、強いからこそ、何処かに穴が出来るのです。我々は、この穴を、見逃すはずがありません。何故なら、穴なのですから」

 見上げると、建物の上にフードの男が立っていた。右腕がまっすぐパプケウィッツを捉えている。

「生きていたのか?」

「いいえ、死にましたよ。しかし、我々は騎士団です。四人だけではありません」

 フードをかぶった人間が、ざっと数えて十人ほど出現した。

 他の男たちは僕たちとパプケウィッツに右腕を向けている。

ターゲットはあくまでも、この町に害を与える者たち。

「マシアス王に仇なす者には、死あるのみです」

 云うと同時にフードの男たちの右腕が一斉に光った。


つづく

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