第四話 古の国でのカウントダウン 残り一時間三十分
残り一時間三十分
パプケウィッツの身体がブルブルと震え出した。
それは恐怖からくるのではない。何か、全身に力をためているような感じだった。
フードの男たちは異様な雰囲気に気づいた。異常な状況に置かれていると知った。
全身を虫に這いずり回られる感覚とでも云おうか。何とも形容しがたいものが彼らの全身を駆けずり回る。
「みんな! いったん引くぞ」
フードの男が云うより早いか、パプケウィッツは小さく呟いた。
「遅い、よ」
パプケウィッツの全身から黒い霧が湧き出した。彼を中心にして円形に広がる。
建造物の隙間を通り、障害物の裏側まで覆い尽くす。密閉されたところでなければ逃げられない。
また、パプケウィッツは漆黒の翼を羽ばたかせ、霧に勢いをつけている。
瞬く間に周囲は霧に覆われていく。
霧に触れた人々は崩れていく。
すべてが崩れていく。
阿鼻叫喚とは、まさにこのことだった。
女、子供、関係ない。霧に触れた生あるものはすべて破壊される。
「な、何だとー!」
どこからともなくフードの男の声が響いた。
「へえ。君たちの能力ってそういうことだったんだ。知ってしまえば、なあんだ、たいしたことないねえ」
パプケウィッツはがっかりしたようにつぶやいた。
「僕と出会ったのが失敗だった、ということだよ。さあああ、僕の実となり骨となるがいい。残らず、しゃぶりつくしてやる」
「それはこっちのセリフよ!」
パプケウィッツは声のした方を振りかえった。
そこには、霧が避けるようにして白い空間が浮かんでいた。
つづく




