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第四話 古の国でのカウントダウン 残り一時間四十分

 残り一時間四十分


「楽しくなってきたじゃないか。炎の断末魔、すべてを食らい尽くす怒り、この香り、絶望につつまれた暗黒の空。すばらしい。すばらしいよおおおおお」

 パプケウィッツは天を仰ぎ歓喜に震えた。

「さあ、宴をさらに盛り上げようか。なあ、君たち」

 パプケウィッツは自分を包囲するフードの男たちに向かって顔をめぐらせた。

 フードの男たちは音もなくパプケウィッツを囲うようにして立ちふさがっていたのだ。

「やはり、あなた様は危険なようですな。今すぐ町から出ていってもらいたい」

「冗談でしょ。これからさらに楽しくなるというのに。それとも君たちが祭りを盛り上げる道化で、ボクをもっと楽しませてくれるのかい?」

 パプケウィッツはケタケタと笑った。

「交渉決裂ですな。仕方ありません」

 パプケウィッツを囲むのは四人。その四人が一斉に右手を前に出した。

 腕の先に金属で出来た筒状の物が見える。その刹那、閃光が走った。

 パプケウィッツが両手を広げると、彼の身体を覆うように黒い霧状のもやが発生した。

 フードの男たちから発射されたのは、細い針だった。

 針は迷いもなくパプケウィッツを狙ったが、黒いもやに触れると失速して地面に転がった。

 フードの男たちは警戒心を高めた。

「何を驚いているんだい? これからじゃないか。さあ、今度はボクの番だよ」

 パプケウィッツはクックッと笑うと右腕を横にはらった。

 次の瞬間、黒い霧が紐のように伸び、パプケウィッツの右にいた男を巻き取ろうとした。

 しかし、紐が男の身体に触れることはなかった。フードの男は空気に溶けるようにして掻き消えたのだ。

 パプケウィッツは訝しんだ。

「あれええええ」

「どうしたのですかな? あまり楽しめてはいないようですが」

「そう、見えるかい? 違うよ。これはうれしいんだよ」

 パプケウィッツは残る三人の男に黒い紐を伸ばした。

 先ほどと同様、男たちは身体が薄くなって消えてしまった。

「こうでなくっちゃ……ね」

 パプケウィッツは辺りを見まわした。

 右往左往している町人の姿がちらほらあるだけで、フードの男たちの姿はどこにもない。

 突然、パプケウィッツの右肩にするどい衝撃が走った。

 ギイン! という音とともに金属の針が鎧にぶつかりはじき返される。

 パプケウィッツは右上空を見上げた。

「そこか」

 フードの男が二階建ての建物の屋根に立っていた。

 パプケウィッツはそこへ紐を投げる。

「無駄なことですよ。あなた様の攻撃は当たりません」

 云うが早いか、男は消えた。

 今度はパプケウィッツの背中に衝撃が走る。

「今度はそこか!」

 パプケウィッツの攻撃はむなしく空を切る。

「あなた様の鎧……邪魔ですね」

 いつのまにか、パプケウィッツの背後に回りこんでいたフードの男はゆっくりと云った。

「君たちは瞬間移動が出来るのかい?」

「ふふふ。そんなたいそうな能力は持っていません。私たちは皆この地で生まれ、一つの能力だけを磨いてきました。この能力をマスターすればマシアス王の下で働くことが出来ます。血の滲むような特訓のすえ、こうやって我々があるのです。この地にいるかぎり、我々は無敵。誰も王を脅かすことは出来ないのです」

「ふーん。じゃあ、ボクがその第一号になるとするよ」

「この……うつけものが!」

 男たちはパプケウィッツを囲んだ。

 そして、四人が同時に右手を上げた。


「少し、本気でいくよ」

 パプケウィッツは楽しそうに叫んだ。


つづく

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