第四話 古の国でのカウントダウン 残り二十一時間三十分
残り二十一時間三十分
地下迷宮への入口までくると、僕は歩を止めて振り返った。相変わらずの仏頂面のローランドを見据える。
「どうして力を貸してあげないのですか?」
「……」
「あなたにはその力がある。それなのに見捨てるというのですか」
僕には彼の考えがわからない。
「あなたは卑怯者だ」
ローランドはゆっくりと、そして言葉を噛み締めるかのように言葉を発した。
「俺には守らなくてはならない信念がある。グリニコやサニエたちの国の奪還のように、俺には俺の信念がある。俺が人間として生きていけるのは、その信念を守っているからだ」
しかし、だからといって。
「俺はお前に、旅が終わるまで守ってやる、と云ったな。それはかならず守るつもりだ」
「じゃあ――」
「しかし、それがサニエたちを助けることにつながることはない」
僕はかっとなった。
つまりこういうことか? 背後から戦いを見守り、僕だけは助けるが、他は見捨てる。
「僕はもう、一人でもやっていけます。あなたのお守なんていらない。僕は新たな能力を手に入れました。誰にも負けない……能力を。僕は自分自身の手でラースを探し出し、村のみんな、それだけではなくてサニエさんたちも、助けます」
ローランドは哀しそうな表情をした。何故そんな顔をするのか、僕にはわからない。
「能力か……確かにそれは必要なことだ。だが、能力におぼれると道を見失う。人間として、それだけは避けなくてはならない。ノリエガ、忘れるな。自己の想いは能力をも上回るんだ」
「説教なんてまっぴらだ! 僕は自分の力を明日、証明してみせます。あなたは高みの見物でもしていてください」
ローランドはそれ以上何も云わなかった。
僕にも云うことはない。
明日、僕の能力で反乱軍の人たちを守ってみせる。師匠と二人なら可能なことだ。
そして、ローランドを見返してやる。
大小二つの影、ローランドとレオノールは、何も云わず遠ざかっていった。その光景を見ていると、なんだか自分が悪いことをしているような気がした。
間違ったことは云ってない。
なのになんだこれは、なんで僕がいやな気持ちになるんだ。
このもやもやした気持ちも、明日になれば晴れるはずだ。そして、ローランドも僕のことを認めるだろう。やってやる。誰も殺させやしない。
重かった足取りが、いくぶん軽くなった。
決戦は明日だ。今は作戦のことだけを考えよう。やってやる。見ていろ。やってやる。
つづく




