第四話 古の国でのカウントダウン 残り二十二時間
残り二十二時間
ハートネットは大剣ホッジが震えているのを左手に感じていた。それは喜びか、それとも恐怖か、ハートネット自身にもわからない。
魔剣、とまではいかないが、ホッジもそれなりに魔力を秘めている。ある人物から譲り受けたものなのだが、相性がよく、また、気持ちが通じ合っているような感覚をハートネットはおぼえていた。
彼は剣が導くほうへ道を選びながら進んだ。
さすがにこの時間になると道行く人々は姿を消し、代わりに酔いつぶれている連中が道端に身を伏せている。
町の中心から徐々に離れ、建物もまばらになり始めたとき、森の木が伐採されていて、その空間の中央に建てられている煉瓦造りの一軒家を発見した。
ハートネットはまっすぐその前まで進んだ。
建物の入り口に立つと大剣の振動はかなりのものだ。
確信した。
ここには、あいつがいる。
ハートネットは臆することなく扉を叩いた。
返事はない。
ハートネットは辺りに人がいないことを確認すると扉を蹴破った。つがいがはずれ、木製のドアは内側に倒れ落ちた。
ろうそくに照らされた居間が眼前に広がり、そこには二人の人物がいた。
一人は黒髪の女性で、衣服も髪の色と同じドレスだった。椅子の上で脚を組み、白い太ももが顔を覗かせている。
もう一人は中年の男性で、その両の眼は虚ろで虚空をさまよっている。
女性は湯気の立ちのぼるカップをテーブルに置くとハートネットを見つめた。その眼には禍禍しいものが宿っている。
女性はなめるようにハートネットの全身を見やると、おもむろに口を開いた。
「これワこれワ、千剣のハートネット殿が、こんなところへ何の用でしょう?」
「ふざけるな! お前が何故ここにいる」
女性は不適に笑った。
「あら、私がどこにいようと勝手ではないですこと?」
ハートネットは口惜しそうに正気を失った男を見つめた。
「今度は何をたくらんでいる」
「さあ、何のことでしょう。私はただバカンスに来ただけですわ」
「お前が現れた以上、余計な邪魔が入りそうだな」
「まあ、私の言葉を信じていないのね。かなしいわ」
ハートネットは踵を返した。
「いいか、これだけは云っておく。もしも俺たちの前に立ちはだかることがあれば、俺は躊躇することなくお前を斬る。それだけは忘れるな」
「怖いことを……わかりましたわ。でも、それまで、せいぜいあなたが死なないことね」
「……魔女め」
ハートネットはそれだけを云うと、大股に去って行った。
ホッジが喜んでいる。久しぶりの再会に歓喜している。
ハートネットが感じたのは、嫉妬だった。
つづく




